第22話 黙っていた事
「啓くん」
不意に名前を呼ばれて、俺はギクリと肩を揺らす。
バタバタしていたこともあり、叔父さんには柊木さんの事はまだ学校の同級生としか説明していない。
いやでも、このタイミングで声をかけられると結構その……なんというか、恥ずかしいな……。
俺がギギギと顔を向けると、叔父さんは思うよりずっと真剣な表情で俺を見つめていた。
「聡史さん……?」
「啓くんは、今でも……、自分に巡力が多ければ、コンカーになりたいと思う?」
なんだ?
……どうして今、叔父さんはそんなことを確認するんだろう。
幼い頃は、よく分からないままコンカーに憧れていた。
『父さんと母さんがやってる、すごい人だけがなれる、人を助けるすごいお仕事』なんて漠然としたイメージしかなかった。
けど今は違う。
全部わかったなんて事は言えないが、コンカーがどんなに大変で苦しい思いをする仕事なのかも少しは分かったし、強い力はモンスターにも人にも狙われるって事も分かった。
それでも、自分に力があるなら、困っている人の助けになりたいと思う気持ちは変わらない。
「思うよ」
俺が頷くと叔父さんは一瞬息を詰めて、それから、妙に言い辛そうに口を開いた。
「……そう、だったんだね。ごめん。僕が勝手に、そんなはずないなんて、思い込んでたから……」
「……?」
「ううん、そうじゃない。本当は気づいてたんだ。そうじゃないかもって、思ってたのに、ずっと確かめないでいたから……」
どこか辿々しく言葉を繋ぐ叔父さんの様子に、俺は首を傾げる。
どうして叔父さんはそんなに動揺しているんだろうか。
俺がコンカーになりたいと言ったところで、俺の巡力はジャスト平均値だ。医療系の道を選びでもしない限り、コンカーにはなれるはずもない。
「ごめん啓くん……。僕がずっと、だまってたせいで……」
「だまってた……?」
何を……?
両親の行方だとか言うなら流石に問題だが、そうじゃないなら、叔父さんは一体何を俺にだまってたと言うんだろうか。
「……本当に、ごめん……」
俯いてしまった叔父さんの声が小さく滲んで消える。
まさか泣いてる……?
いや、泣くほどの隠し事ってなんだ!?
「本当の事を知ったら……啓くんまで、姉さん達みたいに、帰ってこなくなってしまうんじゃないかって……。そう思ったら、怖くなって……。僕のわがままで……」
なんだなんだ!?
「薙乃さん……?」
俺達の話を黙って聞いていた柊木さんも、叔父さんの様子に流石に心配になったようだ。
説明を求める柊木さんの視線に、俺にもわからんと首を振ってみせる。
「僕が、啓くんの自由を奪ってたんだ……。僕が臆病で……、啓くんにそばにいてほしいからって、……こんなの、許されるはずないのに……」
そんな許されないような事なのか?
あ。まさか両親か祖父母が残していた回復系ポーションがあって、それを使えば俺の足が戻るのに黙ってた……とか?
いやでも巡力の話だったよな……?
まるで届かない答えに、俺は考えるのを諦めた。
それよりも、目の前の聡史さんをなんとかする方が先だ。
「大丈夫だって。本当の事が何だか知らないけど、俺だって聡史さんを一人にしたくなんてないし、聡史さんが俺と一緒にいたくて何かを黙ってたって言うなら、それを責めたりなんかしないよ」
俺はそう言って、なるべく優しく笑ってみせる。
「ぅ……啓くん……啓くんごめんねぇぇぇぇぇ」
叔父さんは涙でべしょべしょになった顔をあげると、わあっと俺に抱きついてきた。
いやこれ悪化してないか?
振り返らなくても、周りの人達の視線を背中に集めているのがわかる。
「な、薙乃さん……」
反対側からの柊木さんの声に、俺にだってどうしたらいいかわかんねーよ! と思いながら振り返る。
しかし柊木さんが見ていたのは窓の外だった。




