第18話 勇気
スマホ画面に映る叔父の最終位置情報の取得時間は5分前、場所は現在ゲートに飲み込まれているはずの森江中央図書館と重なっている。
位置情報の再取得を試みるが、それ以降の位置情報は取得できない。
どうして……。
どうして俺の大事な人ばかり……。
柊木さんが俺のスマホを横から覗いて息をのむ。
「ご家族ですか?」
「……ああ、俺の最後の家族だ……」
「最後……?」
「俺にはもう叔父さんしか残ってない。父さんも母さんも、ダンジョンから戻らなかった」
答える自分の声が震えているのが分かった。
「だっ、大丈夫ですよっ、今コンカーさん達が……」
そこまで言って、柊木さんも気づいたらしい。
森江支局では待機中のコンカー達へ出動指示がほんの一時間前に出たはずだ。
森江中央図書館は森江のど真ん中にある。
だが、一番近いこの森江支局には今コンカーが残っていない。
4日前から森江支局のコンカーの半数は現在学校のゲートでダンジョン攻略中だ。
残っていた待機チームは全員、河川敷の出現型ゲートの対応に向かってしまった。
周辺地域に応援要請を出したとして、そこからコンカーが駆けつけるのにどれだけの時間がかかるだろう。
「聡史さん……」
叔父さんが消えた位置を示すスマホを握りしめる。
俺に、もっと巡力があれば。
すぐにでも、俺が叔父さんを助けに行くのに……。
「行きましょう薙乃さん!」
力強い声に顔を上げれば、柊木さんが真っ直ぐ俺を見つめていた。
「行くって……」
「図書館ですよ! まだゲートはできたばっかりなんですから、薙乃さんの叔父さんを探している時間はたっぷりあるはずです!」
「ゲートの中にはモンスターがいるんだぞ!?」
「う、それは、見つからないようにそーっと入って、すぐ出れば……」
「そんな無茶な……」
彼女の言っていることは無謀だって、分かってる。
分かってるけど……。
今まで、俺が帰りを待っていた人が、ダンジョンから戻ってくる事はなかった。
……これ以上、じっと帰りを待つだけなんて、できそうにない。
「私も一緒に行きますから!」
「え……? 柊木さんも……?」
俺のために、巡力を使ってくれるという事なのか……?
でも柊木さんは、あんな怖い目に遭ったばかりじゃないか。
やっと元気になったとこなんだろ……?
そんな子を、俺の都合で危険に晒すなんて事……。
「はいっ。私も薙乃さんの叔父さんを助けたいです!」
柊木さんが両拳を胸の前で握り締めて言った。
その手は小さく震えている。
彼女は危険を分かってないわけじゃない。
それでも行こうと言ってくれてるんだ。
「……っ、ありがとう。一緒に行こう」
俺はハンドリムを握って、強く漕ぎ出す。
「はいっ」
柊木さんも、力強く答えて駆け出した。
ああ……そうだ。
彼女はあの時も、エレベーターから、俺を守るために一人で飛び出す勇気を持っていた。
***
たどり着いた場所に、図書館は無かった。
「ま、まさか図書館は、丸ごと……?」
柊木さんの言葉の続きを俺が言う。
「飲み込まれたみたいだな……」
「あんな大きな建物全部ですか!?」
『ゲートが急速拡大しています。一刻も早く避難してください。繰り返します、図書館周辺に発生したゲートが急速拡大しています。一刻も早く避難してください』
向こうからアナウンスを繰り返しながら低速走行してくるのは、森江支局の避難誘導車だった。
俺たちは思わず近くの住宅の塀の内側に隠れる。
「……つ、つい隠れちゃいましたね」
「だな」
実際、俺たちを知ってる人に見つかれば、止められるのは間違いなかった。
「なんか悪いことしてる気分です……」
それはまあ、俺たちを保護したいと思う大人達からみれば、十分な悪事だろう。
車が通過したのを見計らって、俺たちはさらに図書館のあった方へと進む。
「……そろそろゲートの端が見える頃だな」
手元のスマホで災害用マップを確認する。
そこにはゲートの発生状況や、拡大予想図が描かれていた。
俺にはもう、俺の安否を心配するような人は残ってないが、柊木さんはそうじゃない。
やはり彼女を俺の事情に巻き込むのは間違いじゃないだろうか。
「あ、薙乃さんっ。ゲートがありましたよぉ、おおぉぉおおおおお!?」
迷う俺の気も知らずに、柊木さんは見つけたゲートの端にあっけなく飲み込まれた。
いや、急速拡大してるって言ってただろ!?
不用意に覗きに行くなよ!
「仕方ない。俺も行くか」
俺は姿勢保持用のベルトに触れて確認すると、大きく息を吸って、ハンドリムを漕いだ。




