第15話 ランダムゲート
地震か!?
「ひゃ……」
大きくよろけた柊木さんに腕を伸ばすもほんの少し届かない。
もう片腕でブレーキを外す間に、ボスが柊木さんの背中を支えた。
「状況確認!」
ボスの声に、白衣の人たちが一斉に動き出す。
そんな中で、斎賀さんだけがこちらに歩いてきた。
「今日のランゲ対応は僕らじゃないだろ?」
「つべこべ言うな、人命優先だ」
「ランゲって……またランダムゲートですか……?」
柊木さんが不安そうに言う。
ランダムゲートは県下だけで年間300ほど開いているはずだ。
それなら8つの市があるうちの県では、各市内で月3度以上は開いてもおかしくない。
……とはいえ、これは単純に割った数だ。
実際のところランダムゲートが発生するのは大抵が住宅密集地や都市部。
まあ、相手も人間の巡力を求めてやってくるとなれば、人の多いとこを狙うのは当然だろう。
最近では低巡力者優遇住宅とかいって売り出された超大型分譲マンションがネットで大炎上していたな。巡力差別だとかで。そもそもそんなとこ入居して、生まれてきた子の巡力が高かったら親はどうするつもりなんだろうか。
まあよっぽど巡力が高ければ、高巡力な子ども達だけが通う全寮制の学園なんかもあるにはあるが。
ともあれ、県下一のベッドタウンである森江市には、週に一度以上の頻度でランダムゲートが開いていた。
それでも森江市の火災発生件数は週平均4~5回なので、火事にくらべればずっと珍しいか。
ゲートに一生一度も出会わないって人だって、沢山いるんだろうしな……。
もうあれから4日経つ、次のゲートが開いたところでおかしくはない。
さっきの振動からして、ことが起きているのはこの辺りのようだな。
まだ時々、小さな揺れが伝わってくる。
「悪ぃけど、薙乃と柊木はしばらくここで待機だ」
「「はい」」と俺たちの声が重なる。
「ゲートは出現型、場所は笹川河川敷だよ!」
箕輪さんが、ノートPCから顔を上げて叫んだ。
河川敷か。確かこの建物は川沿いに立っていたな。
俺はさっき眺めた上空からの景色を頭に浮かべる。
あの距離でデカいモンスターが暴れれば振動が来てもおかしくないか。
「えー、なんでそんな近くに出るかなぁ」
「うるせぇ、剣離すなよ斎賀」
ボスはそんな言葉を残して俺たちの前から姿を消す。
斎賀さんの姿もないところを見れば、強制連行されたらしい。
出入り口の方を見れば、部屋に出入りする白衣の人達で扉は丁度開いていたようだ。
あそこで止まるなら姿が見えるかと思ったんだけどな。
『出現型ゲート発生。場所は笹川河川敷第三グラウンド。規模は中型。待機中のコンカーは直ちに出撃してください。周辺住民の避難にはD班とE班、医療班は……』と出動要請の放送が館内に流れ始める。
「出現型ってことは、こないだみたいにモンスターが出てきてるんでしょうか……」
柊木さんが心配そうに言う。
「そうだな。今回は結構大型のモンスターなんだろう。ここまで揺れてるくらいだし」
俺の言葉に、柊木さんは「ひぇぇ」と身をすくませた。
ゲートには大きく分けて出現型と待機型がある。
モンスターがこちらにゾロゾロ出てくるのが出現型で、出てこないのが待機型だ。
ゲートは拡大したり移動したりすることはあるが、最終的には時間とともに小さくなって、閉じる。
ゲートが開いてから閉じるまでの間に、中に入ってダンジョンを攻略するのがコンカー達の主な仕事だ。
出現型の場合はそれに加えてこっちに出てくるモンスターを倒す必要があるし、広範囲の待機型の場合は、中に迷い込んでしまった人を時間内に救助することも求められる。
ダンジョンを攻略すると、攻略報酬と呼ばれるアイテムが手に入る。それは大概この地球には存在しない高エネルギー結晶か万病に効く不思議なポーションの類で、コンカー協会の財源は主にこの二つを売却することによって賄われていた。
祖父の頃には攻略報酬も実に様々なものがあったらしいが、ここ数十年はエネルギー結晶とポーションのほぼ二種類だという話だ。
さっきは20人ほどが集まっていたこの部屋にも、今は俺たち以外に3人しか残っていない。
コンカーはいつだって人手不足だ。
そんな中で優秀なコンカーを失うのは痛手だとして、今では待機型のゲートに飲み込まれた人の救助はゲート消失予想時刻の半日前には切り上げようだとか、いや一日前にするべきだとか議論もされている。
俺の両親も、祖父も、コンカーだった。
困っている人がいたら放っておけない。そんな人達だった。
……結局、3人ともダンジョンから戻ってこないんだけどな……。
俺はダンジョンに入った事はないが、ずっと昔に母が「今日のゲートの中は天国みたいだったのよ、美しい景色がどこまでも続いててね……、ずっとここにいられたらいいなって思っちゃったわ」と話したことだけが、どうしても忘れられずにいる。
もちろん、母はすぐに「ああそんな顔しないで! 啓ちゃんが待ってるんだから、お母さんすぐ帰って来るわよ!」と笑顔で俺を抱きしめてくれたが。
ネットを検索すれば、ゲートから戻ってきた人のほとんどが、あそこは地獄だったと語っている。
それでも、ごく一部の人が語る美しい風景が、俺の心の底に引っ掛かりを残していた。




