第14話 解体
解体は、なるべく手早く、短時間で済ませたい。
長引くほど柊木さんに負担がかかるだろうから。
俺は、解体の最短手順を脳内でフローチャート状に整えると、俺のために目一杯準備してくれている柊木さんの巡力を受け取った。
こんなになみなみと注がれると、うっかりこぼしそうで怖いな。
俺は、集中する彼女をおどろかせないようになるべく優しくささやく。
「もう少し少なくていいよ。今の8割くらいで十分だ」
「ひ、ひゃいっ」
噛んだな。
途端に巡力が大きくブレる。俺は解体の手を止めて、落ち着くのを待った。
「返事もしなくていいから。大丈夫だよ、ゆっくり調整して」
彼女は、ゲーム中に声をかけられると返事ができないタイプに違いない。
「うん、このくらいで。ちょうどいいよ、ありがとう」
返事はないが、距離が近いからか彼女がほっとしたのが伝わる。
よし、解体再開だ。
前回と違って、作業状況を目視で確認できるからずいぶん楽だな。
まあ目の前には柊木さんが立っているわけだが、その左右から見えるだけでもかなり違う。
俺はエレベーターの部品を丁寧に床の上に並べながら、柊木さんの足場を確保しつつ、車椅子を元通りに戻した。
正確には元通りではなく、前からひっかかりが気になってたパーツの丸め処理やらブレーキワイヤーの調整もついでにさせてもらったが、まあ元通りの範疇だろう。
「終わったよ」
俺の言葉に、柊木さんがパッと離れる。
そういや、俺は朝から歯も顔も洗ってないな。臭っただろうか。
今更ながら、鏡も見ていない事が気になってきた。
寝癖や寝跡は残ってないだろうか。
それ以前に俺は着替えてもいないんだが……。
俺は自分の服装を改めて確認する。上はスウェット、下はジャージだから、部屋着としてはアリだろう。
ジャージは足の動かない俺でも履きやすい両足の脇がチャックで全開になるやつだが、一見ではわからないだろうしな。
そういや腹も減ってきたな……。
俺が腹をさすりながら顔を上げると、柊木さんはキラキラした瞳で周りを見回していた。
「わぁ……、すごいです薙乃さんっ、これ、こんなに全部元通りになるんですねっ!!」
今回の体勢だと彼女はずっと俯いていたので、なにがどうなってたかわからなかったよな。目も閉じてたみたいだしな。
金属質の床の上には、エレベーターのパーツや扉がずらりと並んでいる。
もちろん箱部分には、カメラもモニターもボタンも全て装着済みだ。
「これって全部エレベーターの部品なんですか?」
「大体はな。配線ケーブルは学校の廊下のを抜き取ってきたのもあるけど……」
これは……、パーツに戻したところで埋め込むには工事がいるよな。
工事費が俺に請求されるという事態は……ないとは思いたいが……。
「薙乃さんはすごいですねぇっ」
「すごいのは柊木さんだと思うよ? 柊木さんのおかげで車椅子も買い直さなくてよくなったし、助かったよ、ありがとう」
柊木さんは驚いた顔をして、慌てて首を振る。
「そ、そんなっ、私の方こそ、先日は……」
ポピン、と小さな音が鳴った途端、研究者達が叫びを上げた。
「うおおおおおお!!!」
「なんだこれ!!」
「すっっっげえ!!」
なるほど、やたらと外野が静かだったのは記録用に録画していたからか。
今のは録画の終了音だったんだろう。
「柊木、まだ巡力が漏れてるぞ。しっかり接続切っとけ」
不意に近くに現れたボスの言葉にも、そろそろ驚かなくなってきたな……。
「えっ、えっ、どこですか?」
柊木さんがキョロキョロと辺りを見回す。
柊木さんの腰の左側のあたりで、何か紐のようなものがキラリと光った。
「そこかな」
俺が指をさすと、ボスが眉を寄せる。
余計なことだったか? 自分で見つけられるようになれって話だったんだろうか。
「……なあ薙乃、お前、もっぺん巡力測って――」
ボスの言葉をかき消したのは、けたたましいサイレンの音と、それに続く揺れだった。




