第1話 窓際
小学校、掃除の時間、三階の四年生の教室、窓際まで一列に並べられた机。
俺は並んだ机の上に立たされていて、一歩先は、窓の外だった。
「あと一歩! あと一歩!」
手を叩きながらはやし立てる奴らはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
俺が飛び降りるわけないと思っているんだろうが、もしこれで俺が飛び降りたら、まずいことになんのはお前らだぞ?
小学生ってのは、なんでこう考えなしなんだろうな。
バカなことをする俺達を、クラスのやつらは遠巻きに眺めている。
廊下にも、足を止めてこちらを見ている子達が増えてきた。
こんなに沢山の人が、俺の置かれた状況に気づいてるのに。
誰一人、動こうとするやつはいない。
皆、俺とは関わり合いになりたくないらしい。
一昨年の夏休み、俺の父さんと母さんはダンジョンの中で消息を絶った。
俺を預かってくれてたおばあちゃんも、その年の冬には死んだ。
こんな幼稚ないじめが始まったのは、俺が児童養護施設に入ってしばらくしてからだった。
先生達に気遣われる俺が気に食わないのか、それとも親のいない奴ならいじめても誰にも何も言われないと思ってるのか。
胸に広がる喪失感に、俺は苛立つ。
せめて、誰か一人でも。
こいつらを止めようとしてくれなくていい。
担任を呼びに行くとか、隣のクラスの先生を呼ぶとか、してくれたっていいのにな。
俺は誰にも、何もしてないのに。
……いや、何もしてないからか?
何も悪いことはしてなかったけど、たいして良いこともしてなかったから。
だから俺は、助けるに値しない人間だってことなのか。
俺と同じクラスの人間だからって、友達ってわけでもない……って?
俺は、ゆっくり振り返って、クラスメイト達の顔をもう一度眺める。
その中には、こども園の頃によく遊んだ子や、1~2年生の頃よく話してたやつもいる。
けど、誰も彼もが俺と目が合いそうになると逃げるように顔を背けた。
……そうか。よくわかったよ……。
繰り返される「あと一歩!」の声が、じわりと現実感を失って遠くなる。
掃除の時間が終われば、先生が教室に戻ってくる。
あと少しの辛抱だと思っていたが、その『辛抱』をする理由が、俺にはもう見つからなかった。
「もういいか」
俺は、自嘲と共に、一歩を踏み出した。
俺の後ろで一斉に悲鳴や叫びが上がる。
ほんとバカだな。今更慌てたって遅いんだよ。
せいぜい先生と……親にしっかり叱られればいい。
俺には、そんな事すら羨ましいのにな。
じわりと、涙が滲む。
走馬灯なんてものは見られるだろうか。
あっちには両親がいるんだろうか。
そう思った時には、俺は地面にぶち当たっていた。
――そんな五年前の出来事を思い出したのは、廊下の端で囲まれる彼女の姿が、あの時の俺と重なったからだ。




