台風直撃コースの夜
どうやら台風が直撃するらしい。そうと知って、会社は早くに帰宅命令が出された。
せっかくだし、少しだけ飲んでから帰ろう。そう思ったのが運の尽きだった。
例にもれず電車はとまった。
しかたない。カプセルホテルでも、と探しても、どこも満員で入れない。
漫画喫茶も満員だし、ファミレスでなんとなくうとうとしていたら、うなじに水滴がぴちゃりと落ちた。
不審に思って見上げてみるも、水蒸気でも雨漏りでもない。
ならばなんだ?
目の前が急に薄暗くなる。
これはなんだ?
白黒の世界。
人々は皆、白黒に変わっている。
俺は?
自分の手を見る。
左手にはつけた覚えのない腕時計がはまっていた。
デジタル時計のそれが指しているその日は、この場所が水没したことを指していた。
俺は、過去に飛ばされてしまったのだろうか?
おわり