第6話.俺たちにフラグはない
「妹のカバンの中に、ヤバいブツが詰め込まれてる件について相談したいんだけど」
俺のクラスの窓側の最後列、つまり俺の後ろの席に座る幼馴染、赤﨑夏希に相談を持ちかけた。
年頃の女子のことは、同じ年頃の女子に聞くのがベストだろう。
「ちょっと、私が円香ちゃんの為に作ってあげた作品を、ヤバいブツ呼ばわりは失礼でしょ」
どうやら、相談相手を間違えたようだ。
お前があの呪物達の生みの親か。
可愛い顔して、何をやらかしてくれてんだ。
「そんなキモい顔しないでよ」
いや、最初から一切表情は変えていないが。
「可愛い幼馴染の為に、ストーカー7つ道具を提供してあげたり、あんたの部屋に隠しカメラを15、いや16か、を設置してあげただけじゃない」
「え、俺の部屋に隠しカメラ付いてんの?」
「そうよ。円香ちゃんの部屋のPCで、常時モニタリング可能よ。それに、過去5日分の映像を自動で高画質録画するように設定してあるわ」
PC操作に疎い円香の部屋に、やたら高スペックなPCと、これまた似つかわしくない株トレーダーみたいな複数モニターが設置されていた謎の答えが、今になって明かされた。
「いや~、カメラとか全然気づかなかったな。例えば何処に設置してあるんだ?」
驚きとか困惑を差し置いて、関心の感情が勝った。
「ん〜、机とか、ベッドとか、椅子の背もたれとか、天井照明とか、ティッシュケースとか。後は〜、そうそう、去年あんたに誕生日プレゼントという設定で渡したぬいぐるみの目も、特殊な小型カメラだよ」
「あのぬいぐるみもか···俺、お前からプレゼント貰えて、ちょっとトキめいていたんだけど···」
「はぁ?何で私が意味もなく、あんたみたいな妹をおかずにシコってるキモい童貞に好き好んでプレゼントを渡す必要があるのよ。冗談は顔だけにしてよね。」
客観的に見て、こちら側が冗談では済まない害を被っているように思われるのですが。
「あと、私のこと、女として意識しだすとか、キモ過ぎて吐きそうだから勘弁してよね」
夏希さん、僕は悲し過ぎて泣きそうです。
「···もしかして、私のこと、おかずにしてたりしないわよね···」
はぁ?
何言ってんだこいつ、バカか?
当然してるが?
幼馴染で、同じクラスで席も近い、顔も可愛くて、ポニーテールで、Dカップ。
更に尻デカの裏ドラまでのって、おかずレベル数え役満の女で致さない方が逆に御無礼だろ。
「もしそうだとしたら、警視のパパに言って、あんたに実刑喰らわせてやるからね」
俺よりも先に、お前が赤﨑警視に自首してくれ。
「それで、何でお前は円香に道具を提供したんだ?」
「円香ちゃんから、あんたをおかずにする為に協力して欲しいってお願いされたからだけど」
と、供述してますよ、赤﨑警視殿。
悪びれることのない、堂々とした態度。
「ほんと円香ちゃんも趣味が悪いよね〜。あれだけ可愛いと、一周回って感性が狂っちゃうのかなぁ?」
そう言う夏希も、十二分に可愛いけどな、と声に出しそうになったところを押し留める。
危うく私刑の実刑を喰らうところだった。
「あんたみたいな奴と違って、円香ちゃんのことは好きだし、それに、ギブアンドテイクってヤツだから」
「その犯罪的ギブに対して、円香からどんなテイクがあるんだ?」
「ん〜、まぁ、言っちゃっていいか」
いや、被害者として俺は聴く権利があるだろ。
「私、サッカー部の橘君のこと、好きじゃん?」
え、そうなの?
俺の知らないところで、俺の幼馴染が、学園屈指のイケメンに恋していた。
なんか、こういうの、寂しいよね···
「でも、橘君は、4月に入学して来た円香ちゃんに一目惚れして、この前告白したんだけど」
俺の知らないところで、俺の妹が、学園屈指のイケメンに恋されていた。
なんか、こういうの、複雑だよね···
「なんと円香ちゃん、もったいないことに、橘君のこと振っちゃったんだよね〜。ごめんなさい、私には、他に大好きな人がいるからって。」
大好きな人···つまり、俺か。
なんか、こういうの、誇らしいよね···
「つまり、円香ちゃんがあんたに夢中な限り、私にも橘君とワンチャンあるかもって算段なんだ」
とりあえず、橘君に、赤﨑夏希だけはやめておけと助言しておこう。
と思ったが、イケメンスポーツマンの利になるのもなんか釈然としなかったので、何も言わないでおくことにする。
そもそも、そんなスクールカースト最上位勢と俺に、接点などあるはずもなかった。
からころん、と彼女の机と俺の椅子の間に、何か電子チップのような、もしかしてGPSの発信機のようなものが落下した。
「円香ちゃんにお願いされてた、緑川さんに取り付けるGPSが落ちたから拾ってくれない?」
もしかしなくても、GPSだった。
物騒なヤツである。こいつが味方で良かった。
いや、こいつはあくまでも、円香の味方でしかないから、味方の味方でしかないのか。
「はいよ」
そう言って、座りながら床に落ちたチップに手を伸ばす。
自然と、視線が床に近づく形となる。
クイッと頭を少し上げ、後方の席からは見えにくいことをいいことに、座っている彼女の股間付近に視線を向ける。
み、見えたっ!
少しだけ開いた太ももの間から、レモン色の布地が、はっきりと目に飛び込んできた。
こいつバカだ。
さっきあれほど悪態ついていたのに、しっかりと俺に今晩のおかずを提供してるじゃないか。
「キモい視線感じるから一応言っておくけど、私が今履いてるの、見せパンだから」
こいつやっぱりバカだ。
男からすれば、生パンだろうが見せパンだろうが、なんなら水着だろうが、スカートの中に履いてたら関係ねーんだよ。スカートの中の布地が見えたら、それはもうパンツであり、おかずなんだよ。
今回の件に関して思うところは多々あったが、彼女をおかずに致した今日のこのティッシュ達と共に、自室のゴミ箱に捨て置こう。
警視のパパにバレない事を祈りつつ、俺は16門の監視カメラに囲まれながら、深い眠りについた。