第5話.とある学園のジャッジメント
昨日の話、あれって夢じゃないよな···
いや、もしかしたら、全部夢だったかもしれないなぁ。
目の前で、目玉焼きにソースをかけるという、夢の中でしかありえないような非日常の奇天烈な行いを目の当たりにし、そんなことを考える。
「私は、昔から目玉焼きにはソース派ですが、何か?」
「醤油派の負けです、ごめんなさい」
そういえば、そうだったな。
こいつは昔から、なにかにつけてソースをかける、生粋のソース党。
以前口論になった時に、ソースがあるのか問い詰めたら、ドヤ顔で冷蔵庫から持ってきたこともあったな。
今だって、納豆のパックにウスターソースを流し込んでいる。
きっかり30回かき混ぜ、アツアツのご飯にのせて、大口を開けてパクついた。
さすがに、ソース納豆は少数派ではないだろうか。
俺は食ったことないけど、味は如何程のものか。
「美味いのか、それ?」
「···醤油と間違えた」
そろそろ2人で通い慣れてきた通学路。
昨日までと変わり映えしない景色の中で、変わった点と言えば、友人Nがもう二度と現れないということと、妹との距離感。
これまでは、俺の少し先を歩き、スカートを揺らしながらパンチラを拝ませてくれていたが、今日は左腕に抱きついて並んで歩みを進めている。
分厚いブレザーに覆われていても主張の激しい巨乳の肉感を感じながら、校門の前に辿り着いた。
「あなた達、なんなのその通学スタイルは!不純異性交遊は辞めなさい!」
ビシッと、人差し指を突きつけられた。
この黒髪ロングで、円香に負けず劣らずのプロポーションを有する美少女は、確か風紀委員副委員長、だったか。
「異星交遊なんてしてませーん。お兄ちゃんを容姿で地球外生命体判定するの辞めてもらっていいですか」
「お、お兄ちゃん!?あなた達、兄妹なの?それにしては容姿の形態が違いすぎるけど」
「血の繋がった実の兄妹です。お兄ちゃんは、恵まれた容姿の両親から突如発生した突然変異体なだけですー。月とスッポンとか、玉虫とゴキブリとか、そんな酷い事言わないで!」
いや、そんな酷い事を言ってるのは主にお前だ。
もっとも、虫嫌いな俺からすれば、玉虫もゴキブリも大差ないが。
「そう、種違いを疑わざるおえないレベルだけど」
と、これまた失礼な物言いを遮るように、一陣の風が吹いた。
この通学路は、市内随一のパンチラの名所(俺調べ)。
風紀委員のスカートが捲れ、パンツが露わに、ならなかった。
パンツを履いていなかったわけではない。
スパッツを履いていたのだ。
ふぅ〜危ねえ。
パンツが見えてたら、おそらく制裁をくらうところだったぜー。
サンキュー、スパッツ。
バチンッ!
おもっクソ、ビンタされた。
そのスパッツの着用者に。
え、何で、パンツ見えてないのに!?
「あなた、私のスカートの中を、見たわね」
パンツ判定ではなく、スカートの中判定でアウトだったか。
どうせビンタされるならいっそ、委員長みたいに、黒のTバックでも拝ませてくれたら良かったのに。
「やめて、お兄ちゃんの顔がより酷い事になっちゃうでしょ」
「ふんっ、叩かれて少しはマシになったんじゃないかしら」
「どれどれ〜。あ、本当だ。確かにちょっとマシになったかも」
とりあえず、風紀委員の彼女のゴッドハンドに感謝しておこうと思う。
「あなた達ちょっと挙動が不審ね。怪しいものを所持していないか、荷物検査を実施させてもらおうかしら」
「怪しいものなんて持ってません。このカバンの中には、お兄ちゃん盗撮カメラとか、お兄ちゃん残置物回収セットとか、お兄ちゃんに取り付けた盗聴器とGPSの親機とか、そんな生活必需品しか入ってません!」
怪しさの塊でしかなかった。
そんなアイテムが必需な生活があってたまるか。
「あなた、いったい何を言ってるの···」
きーんこーんかーんこーん。
「あら、もうこんな時間。今日のところは見逃してあげる。次は覚悟しておきなさい」
違法薬物よりもよっぽどヤバいブツが収納されている妹の鞄から目を背けながら校舎へ向け歩いていると。
「お兄ちゃん、実は、あの人なの」
「何が?」
「性力の達人···風紀委員副委員長、緑川楓。彼女が、異常性癖者、つまり私たちのターゲットだよ。」
彼女にビンタされて、掌型に、まるで紅葉のように赤く色付いた頬を擦りながら、俺は深く溜息をついた。