第4話.君の細胞を食べたい
「んで、そのアニデイク細胞やらの話と、俺をおかずに致していた話は、どう繋がるんだ」
「アニデイク細胞発現の副作用で、性的欲求の衝動が高まって、尚且つ依存度も強くなるみたいなの」
簡単に言えば、薬物中毒の性的バージョンという感じか。
「それは”致していた”方の答えなだけで、”俺をおかずに”の答えにはなっていないように思えるが」
「そんなの、お兄ちゃんのことが好きだからに決まってるじゃん」
ドキッとした、不覚にも。
これまでも何度となく彼女の口から告げられてきたこの言葉の意味するところが、今この状況になってしまえば、特別な感情を擽ぐるに足り得るものとなって、俺を刺激する。
妹から兄に向けられた感情ではなく、おそらくは、いや、間違いなく、女から男に、雌から雄に向けられた、烈情。
それを自覚してか、心臓に少し痛みを感じる程に、全身に熱い血流が勢いよく巡り出す。
我が人生、ここまで興奮したことがかつてあっただろうか?
「童貞でブサイクで、頭も悪いし、運動もできない、内心で友達に毒を吐くほど性格も悪いし、おまけに足も臭い、そんなお兄ちゃんが大好きだからだよ」
円香ちゃん、お兄ちゃんのことが本当に好きなら、もう少しお手柔らかにお願いします。
「そういえば言い忘れてたけど、私の寿命、後5年ぐらいなんだよね」
···は?
こいつ今、今日の夕食はカレーだよって伝える位の軽い口調で、とんでもない事を言わなかったか。
「すまん、聞き間違えかもしれんから、もう一回言ってもらってもいいか?」
「童貞でブサイクで、頭も悪いし、運動もできない、内心で友達に毒を吐くほど性格も悪いし、おまけに足も臭いし、口も臭い」
「いや、ごめん、そこじゃなくて、その後その後」
「あ~、だから、私の寿命、後5年ぐらいなんだ〜」
想像し得る限り最も軽口で告げられた死の宣告に対し、俺はショックを受けた。
少なくとも、妹に口が臭いという事実を告げられるより、はるかにショックだった。
「アニデイク細胞の活性化が進行すると、21歳になったら死んじゃうらしいよ」
「···それ、マジの設定なのか?」
「こんな状況でつまんない嘘ついても仕方ないでしょ」
「嘘って言ってくれよ!妹の死を受け入れる事なんて、そんなの、できるわけねーだろ!」
俺の大切な妹が。
クソッ、1週間程度で考えたような、そんな馬鹿みたいな設定の犠牲になるなんて···
うなだれる俺に、円香がそっと身を寄せる。
「お兄ちゃん、大丈夫?おっぱい揉む?」
Tシャツをまくり、さらけ出した乳を俺に差し出しながら、優しく囁いてくる。
「今は、それどころじゃねーだろ!クソッ、何か、何か助かる方法はないのかっ!」
「あるよ」
へ?
「アニナエル抗体があれば、アニデイク細胞を破壊して、生き残ることができるの」
「アニナエル抗体···それが手に入れば、円香は助かるんだな」
「そう、だから私に協力して、一緒に性力の達人達を攻略して欲しいの」
「任せろ、可愛い妹の命の為だ、俺は何だってするぞ」
円香、お前の命が救われるなら、お兄ちゃんは何事にもこの身を捧げよう。
たとえ、刺しちがえることになろうとも、だ。
俺が、お兄ちゃんが、お前を、妹を救ってやる。
「お兄ちゃん、さっそくだけど、1つお願いがあるんだ···」
「何だ?俺はお前を救う為に、何をすればいい?」
「とりあえず、そろそろおっぱいを揉む手を止めてもらってもいいかな」
「それじゃあ、今日はこの辺でお開きとしましょうか」
そう言うと、彼女はベッドから軽い腰を上げた。
「さっきお兄ちゃんに邪魔された、お楽しみの続きもしたいしね」
と、傍らに置かれていた俺のパンツを手に取ろうとしたところで、ピタッと動きが止まる。
「お兄ちゃん、今履いてるそのパンツ、私にちょうだい」
「いや、これは、今日一日中履いてたから汚いと思いますよ?」
「だからだよ。その汚くて臭い脱ぎたてパンツを寄こせって言ってるんだよ」
こいつ、バレたからって一気に吹っ切れやがったな。
「嫌だ、なんか、恥ずかしい···」
「なんや女々しいやっちゃな〜。せや、ほいなら交換条件出しますわ」
何だその謎口調は。
キャラ崩壊もアニデイク細胞の副作用か、とツッコミを入れる間もなく。
スルッと、彼女は自ら着用していたパンツを脱ぎ、俺の眼前に掲げた。
「お兄ちゃんが脱ぎたてホヤホヤパンツをくれるなら、代わりにこの脱ぎたてホヤホヤ妹パンツをあげよう。どう、良い交換条件でしょ」
妹が退室した後、先程までとはうってかわって静かになった自室で、ベッドに仰向けに寝そべり、物思いにふける。
あまりにも色々な情報を一度に摂取したせいで、思考がパンクしそうだ。
少し、頭を休めよう。
いつもよりもクロッチが湿った妹のパンツを顔に乗せ、俺は目を閉じた。
第1章
兄をおかずに致す妹
青山円香編 完
Next Episode
第2章
野外露出風紀委員
緑川楓編
to be continued