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第62話.唾液入り餡掛けヤキソバ680円

【お知らせ】

R15版の連載ですが、書き溜めができるまで毎週金曜の週一連載となります。


次回更新日は9/12(金)となります。

にしても、まさかまさかの展開になったな。

憧れていた”看板娘”が、よもや特殊性癖を有する変態女だったとは……


「あの容姿で変態とは、人は見かけによりませんね。とんだ初見殺しです」

「春子、その点に関しては、お前の右に出るヤツはいねーよ」


「あ、ありがとうございます///」

「いや、照れるところではないが」


しかし朱里さん、いったいどんなお楽しみ性癖をお持ちなんだろうか?

”キモい童貞の筆下ろしが趣味”とかだったりしないかなぁ〜♡


「春子さん、このアホ、絶対またイヤらしいこと考えてるよ」

「確かに、内面のキモさが表情に(にじ)み出てますね」


いかんいかん、危うくまた美少女(アホ女)たちの浮気センサーに検知されるところだった。

ここは一度、気持ちを落ち着かせて冷静にならねば……


俺は、先程朱里さんが持ってきてくれたグラスを手に取り口を付け、グビグビと勢いよく喉を鳴らしながらその冷水を飲み込んでいく。


と、その時、俺たちのテーブル横の通路を通り過ぎていく朱里さんと目が合い、ニコッと可愛らしく微笑まれた。


ドキッ♡

あかん、あんな笑顔を向けられたら……惚れてまうやんか!

童貞はな、美人に微笑まれただけで恋に落ちる悲しい生き物なんですよ、ええ。


「ちょっと、お兄ちゃん!」

むむ、円香のヤツ、目ざとく浮気センサーで俺の恋心を検知しやがったか、と思ったが、彼女の意図するところは別にあった。


朱里さんを見つめる円香の瞳が、鮮やかな黄色へと変貌(へんぼう)している。

性癖暴露(メルト・ダウン)だと!?


コレが発動できるという事は、彼女は今現在”致している”最中だという事になる。


……

いやしかし、とてもそうは見えない。

どこからどう見たって、至って普通の美人で明るい”看板娘”に他ならない、ように見える。


今だって、他のお客さんが食べ終えた後のテーブルの片付けに勤しんでいる、ようにしか見えないのだが……


朱里さんのその後ろ姿を見つめながら、再びグラスに口をつけようとしたところで、円香から声をかけられる。

「お兄ちゃん、そのお水、それ以上飲まない方がいいかも」


「ん?なんで?」

「それ、彼女の唾液入りだから」


……え?






「円香、すまん、聞き間違いかもしれないからもう一回言ってもらってもいいか」

「そのお水、彼女の唾液入りだよ」


うん、聞き間違いではなかったな。


「唾液入りって、お前、なんだってそんな事になってんだよ」

「そんなの、彼女の性癖由縁に決まってるじゃん。それが、朱里さんの特殊性癖なんだよ」


店で提供する飲食物に、店員が自らの唾液を混入させる。

コレだけ聞けば、ひと昔前に話題になった”バイトテロ”の悪質な悪戯(いたずら)みたいだが……


「お前らのその水は問題ないのか?」

「うん、性癖暴露(メルト・ダウン)で識別した結果、対象はお兄ちゃんだけみたいだよ」


俺だけが特別?

いや、というより、女が対象外という事なのだろうか?


目の前のグラスを手に取り、残留している水を側面から眺める。

”唾液が混ざっている”という前情報を念頭において見てみても、さしあたって不審な状態には見えない。


ん〜、いや、水面の端に微かに泡立ちみたいなモノが有るような、無いような……ダメだ、やっぱり判別はできない。


「とりあえず、もうさっき口を付けちまったし、残りも飲んでみるか」

「うわっ、お兄ちゃんチャレンジャーだね〜」


まぁ、正直、あの朱里さんの唾液入りであれば、バイトテロどころか、童貞男子にとってはご褒美みたいなものである。

なんなら、彼女の唾液入りと思えば、なんの変哲もなかったこのお冷も、”聖水”にさえ思えてくるぐらいだ。


支払ってもいい、彼女の唾液混入ウォーターになら800円を……


「和哉君、なんで金額がそんなに具体的なんですか?」

「お兄ちゃん、元ネタが古すぎて春子さんに伝わってないよ」






覚悟をキメた俺は、正直少しドキドキしながら、その残りの水を口に含んでいく。

ゴクッ、ゴクッ。


その間、バレない程度に朱里さんへと目を向ける。

彼女は、ソワソワしながらチラチラとコチラの様子を伺っていた。


自分が唾液を混入させた水を飲む男の姿を確認している、その不審な挙動。

タネが分かっている俺からしてみれば、確かに違和感のある怪しい動きに見える。


あの様子じゃあ、ドッキリの仕掛け人には向いてないだろうな。

そんな不器用な彼女の動きがなんだか面白おかしくて、ふと笑みがこぼれてしまう。


ふっ。

「うわっ、見てよ春子さん、この男、唾液入りの水を飲んでニヤけてるよ、キモ〜い!」

「なんという不気味な顔……ほんと、救いようのない気持ち悪さですね」


なぁ、時々思うんだけど、お前ら、本当に俺の事好きなのか?






「お兄ちゃん、どう、お味の方は?」

「ん〜、ぶっちゃけ、唾液入りだからって特に味なんてわからんよなぁ。汗ならもうちょっとテイストに変化があるかもだが……」


「あ、お兄ちゃん、私、汗の話題NGなんで」

「あぁ、すまん、そういえばそうだったな」


歩夢との”あの一件”以来、”汗”が苦手になってしまったマイシスター。

7章になった今も、歩夢との共演はNGのままだ。


「あら、そういえば、この商店街には紫藤さんのご実家の和菓子屋さんがありましたね。帰りに寄って行きますか?」


「いやー!汗舐めクソ女いやー!!!」

頭を抱え、ブルブルと震える円香。

この拒絶反応、依然として相当なトラウマとなっているようだ。


……なぁ、歩夢、お前はいったいウチの妹に何をしたんだ?






「お待たせしました〜」

相変わらずの快活なテンションで料理を運んできた朱里さん。


「はい、コチラ、うな重(松)で〜す」

円香と春子の前に、立派なうな重が並び置かれる。


うわ〜、美味そ〜。

流石、3980円は伊達じゃねーな。


「美味しそ〜!ねぇ春子さん、どっちが早く食べられるか競争する?」

「望むところです!」


「おいおい、せっかくのうな重で、んなバカな事すんじゃねーよ。ちゃんと味わって食え」


「は〜い、コチラ、お兄さんの餡掛けヤキソバで〜す。うな重みたいに高級品じゃないけど、ウチが愛情たっぷり込めて作ったんやから、ちゃんと味わって食べてよ」

「コレ、朱里さんが作ったんですか?」


「そーよ、どう、美味しそうにできてるやろ!」


チラッと円香にアイコンタクトを送ると、コクリと(うなづ)き返してきた。

やはり、この餡掛けヤキソバにも唾液が混入されているようだ。


「ほら、お兄さん、ちょっと食べてみて、ウチの餡掛けの感想聞かせてよ」

「は、はい」


やけにグイグイとアプローチしてくるなぁ。

そんなに俺が”餡掛け”を食べる姿を見たいのだろうか。


麺の上の”餡掛け”に目を向ける。

ドロリと、美味そうなそのトロみの中に、朱里さんの唾液が……


ゴクリッ。

「じゃあ、頂きます」

「どーぞ」


ぱくっ。

「う、美味いっ!コレ、この餡掛け、めちゃくちゃ美味いじゃないですか!」

「ほんと?」


「はい、ヤベーぐらい美味いです!今まで食ってきた餡掛けの中で断トツ1番美味いです!」

「あはは、そんなに喜んでもらえたら、コッチまでめっちゃ嬉しなるやん。じゃあ、後はごゆっくり味わって食べてね♡残したらダメやよ」


そう言い残し、朱里さんは厨房の方へと戻っていった。


ふひひ、朱里さん、やっぱり可愛いなぁ〜♡

正直、あの人の唾液なら、いくらでも混入ウェルカムだぜ♡


「……春子さん、このキモ男のせいで興が冷めたからさ、気晴らしにデザートの早食い勝負でもしようか」

「ええ、いい案ですね、是非ともそうしましょう」


「勝った方がお兄ちゃんに1つ命令できるという事で」

「いいですね、承知しました」

「……え?」


そうして、スペシャルチョコレートパフェデラックス(1980円)を2つ追加オーダーされた結果、俺の財布は壊滅的な被害を受けた。


早食い勝負の結果は、当然春子の圧勝。

そんな彼女から受けた命令は……

「今度、焼肉をご馳走してください♡」


「……食べ放題でいいか」

「ダメです」


「……焼肉キ◯グか◯角でいいか」

「ダメです」 


「叙◯苑でお願いします」

「イヤです」


「叙◯苑でお願いします」

チラり。


「わかりました」

「童貞って哀しい生き物だねぇ……」

【お知らせ】

R15版の連載ですが、書き溜めができるまで毎週金曜の週一連載となります。


次回更新日は9/12(金)となります。


ノクターンノベルズにて同作のR18版も公開中なのでそちらも応援して頂けると有り難いです。


引き続き、宜しくお願い致します。

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