第61話.ワーニング!
春子とのエオンデートの翌日の放課後。
昨日の今日で早速ではあるが、春子からお食事のお誘いを受けた俺は、彼女と円香を引き連れて、知佳久野商店街を訪れていた。
「本当に妹を連れてくるとは、まったくこの童貞は……」
ジト目で俺に冷たい視線を向けてくる春子。
「ふふん、抜け駆けは許しませんよ、春子さん!」
そう言いながら、彼女を挑発するように俺の右腕にまとわりついてくる円香。
そんな”ステータス見た目全振り”のアホ2人と歩く事数分、俺たちは目的の店に辿り着いた。
俺が最近贔屓にしている個人経営のレストラン【アカサト】である。
【営業中】の札が掛かったドアを開け、俺たちは店内へと立ち入った。
『いらっしゃいませ〜、3名様ですね、お好きな席にどうぞ〜』
厨房の方から顔を覗かせた店員さんの声かけに従い、空いているテーブル席に腰を下ろす。
ちなみに俺は、厨房側が見えやすい今座っているこの席を、勝手に自分の指定席認定している。
既に10回は通っているのだ、多少の常連ヅラも許されるだろう。
「ほら、2人とも、メニューだ。今日は俺がご馳走してやるから好きなの選んでいいぞ」
対面のソファー席に並んで座る美少女2人にメニューを手渡す。
「やった!何にしようかな〜、やっぱ1番高いヤツにしようかな〜」
円香のヤツ、相変わらず兄の財布事情への配慮は一切ないようだ。
「それにしても、かなりのメニュー量ですね……個人経営のレストランでコレは凄いです」
メニュー表をパラパラとめくりながら感嘆の表情を浮かべる春子。
「流石、食べるのが好きなだけあって目の付け所が良いな春子。この店はな、和食,洋食,中華,フレンチ,定食,麺類,丼物,デザート、なんでもござれのレストランなんだよ」
「お兄ちゃんがたまに夕食いらないって言ってた日は、ココに食べに来てたんだね〜。もぅ、私も誘ってくれれば良かったのに〜」
「ふっ、男にはな、独りになりたい夜があるんだよ……」
「で、常連の和哉君のオススメはなんですか?」
「この店はなんでも美味いから、その時の気分で選んで良いと思うけど……」
とその時、若い女性店員が俺たちの席にお冷を運んできた。
『ご注文、お決まりでしたらお声がけください。って、ありゃ、お兄さん、いらっしゃい!いつも1人やけど、今日は可愛いガールフレンドちゃん達が一緒なんやね。君も中々隅に置けん男やったんやな〜』
「あ、いや、ははは///」
「ねぇ、春子さん、コイツ、怪しくないですか……」
「えぇ、そうね、かなり黒に近いですね……」
『こんな可愛い娘達と知り合いやったら、ウチの事を可愛いゆーてくれたんはお世辞やったんやな〜』
「いや、そんなことないですよ!朱里さんの大人の魅力に比べたら、コイツらみたいなガキ、乳臭い赤子も同然ですよ!」
「ち、乳臭い……」
「赤子……」
『またそんな分かりやすいお世辞ゆうて〜、アカンで、誰彼かまわずそんな事ゆーたら』
「朱里さんはほんとに素敵な人ですよ!お世辞じゃなくて、マジでそう思います!」
『はいはい、わかった、わかった。んで、注文は決まったん?』
「はい、俺は”餡掛けヤキソバ”で」
『お嬢さんたちは?』
「私は、うな重(松)で!」
「私も、同じものをお願いします」
『お〜、凄い、リッチやね〜』
うげっ!コイツら、1人3980円のメニューを……
『じゃあ、出来上がるまでちょっと待っとってな〜』
そう言って、彼女は厨房の方へと戻っていった。
いや〜、それにしても朱里さん、相変わらず可愛かったな〜♡
20歳にしてアレだけ年上の魅力ムンムンとは、なんとも末恐ろしいですぞ〜、でゅふふ♡
「お兄ちゃん、もしかしなくてもさ、あの”看板娘”目当てに、このお店に通ってたのかな?」
「和哉君、あなた、さっき私たちの事を”ガキ”呼ばわりしてましたよね……」
「あ〜、いや〜、それは〜、ははは……」
「春子さん」
「ええ、任せてください」
「「せーの!えい!」」
「ぐぇぇぇ!!!いってー!!!」
テーブルの下で、円香と春子のローファーの踵が、俺の両足のつま先にクリティカルヒットした。
「ぐおぉぉ……容赦ねーな、てめぇら……」
「ふん、浮気性のお兄ちゃんが悪いんだからね!」
「ええ、まったく、困った童貞野郎です」
この歳の男子、それも特に童貞は、年上のお姉さんに憧れを持っちまう生き物なんだよ。
例え、脈無しであってもだ。
「あぁ、お兄ちゃん、それとね」
「ん?」
「あの朱里さんって人、性力の達人だよ」
なに!?あのお姉様が、特殊性癖を持っているだと!?
にわかには信じがたいが……って、あれ?何かおかしくねーか?
「なぁ円香、確か性力の達人って”20歳未満”って設定じゃなかったか?朱里さんはもう既に20歳だぞ」
「あぁ、それなら大丈夫、さっき第3話の説明文の内容を”20歳未満”から”22歳未満”にちゃんと修正しておいたから」
円香ちゃん、改稿作業、お疲れ様でした。