第59話.その腹ペコ人形は恋をする(前編)
第7章.唾液バイトテロJD編開幕です!
引き続き応援宜しくお願い致します!
※R15版は、カクヨム,アルファポリスで公開停止となったので、なろうオンリーの連載となっております。
ノクターンノベルズにて、同作のR18完全版の連載を開始しました!
そちらの方も是非とも宜しくお願い致します。
円香とのドキドキ?毛呂温泉旅行から帰還したその翌日の月曜日、の放課後。
本日もテスト期間中のため、授業は午前中までである。
さて帰ろうかと思っていた矢先、春子からRINEで呼び出しを受けたので、俺は1人茶道部の部室を訪れていた。
春子のヤツ、いったい何のつもりだ?と疑問に思っていたのだが、部室の前に辿り着いて彼女のその意図が判明した。
部室の扉には、手書きで作成された1枚の張り紙が。
【第6章反省会会場はコチラです】
……面倒だし、無視して帰ろうかな。
「和哉君、お待ちしておりました」
「ぬわっ!?春子!?お前どっから湧いてきた!?」
「そんな人を温泉みたいに言わないでください」
「そんなポジティブなニュアンスで言ったつもりはないんだが」
「和哉君のことだから、この張り紙を見たら中には入らずにそのまま帰るだろうなと予想して、廊下の端で隠れて待機していました」
「準備が良いのか悪いのか分からんことをするな」
「まぁ、立ち話もなんですし、中にお入りください」
「……わかったよ」
こんな絶世の美少女の誘いを素直に嬉しいと思えないのは、俺が贅沢者なだけなのだろうか……
「どうぞ、お座りください」
「はぁ」
促されるまま、畳に腰を降ろす。
「和哉君、私が何のためにあなたをお呼びしたかお判りですか?」
「6章の反省会……だよな」
「そうです!」
コイツ、まさか自分を差し置いて絵美とイチャイチャしていた事にご立腹なのか?
「和哉君、貴方、6章で”ラブコメ”に現を抜かし過ぎです!」
「はい?」
「私たちは”コメディー”世界の住人なのですよ!それをあんなラブコメ展開にウエイトを割くなど言語道断です!」
コイツ、作品のコンセプトについて物申したかったのか……
んなもん、俺に言われましても。
「……で、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「私が貴方をコメディーの世界に引き戻してあげます!」
「どうやって?」
「この前言っていた”埋め合わせデート”に行きましょう!」
「ほえ?」
「早速ですけど、今日これから私と一緒にデートをしてもらいます!そこで貴方にはコメディーの感性を取り戻して頂こうかと思います。宜しいですね」
あぁ、お前とのデート回って、ラブコメじゃなくてコメディーの扱いなんだ……
というわけで反省会を早々に切り上げた俺たちは、エオンモールへとやって来た。
地方の高校生のデートなんて、専らエオンが定番なのである。
「私は、水族館や動物園も好きですけどね」
「へ〜、生き物が好きなんだな」
「はい、お寿司もジビエも大好物です♡」
「アレは生簀や牧場ではないぞ」
「もちろん冗談です」
「お前が言うとそうは聞こえないんだよな」
「光栄です」
「褒めてないからな」
「では和哉君、デートらしく手を繋ぎましょうか」
そう言って右手を差し出してきた春子。
その頬は薄っすらと赤くなっている。
「なぁ、春子、1ついいか?」
「なんでしょうか?」
「お前今、”ラブコメ”な顔をしていないか?」
「なっ!?///何を言っているのですか!///この作品の”コメディー”担当大臣であるこの私がそんなこと……///」
「でもなお嬢さん、顔が真っ赤だぜw」
「っっ///」
やっぱコイツは、紛れもなく変な女ではあるが、同時におもしれー女でもある。
そしてなにより、えらく可愛い女でもあるのだ。
「さぁ、からかっている暇があるならさっさと手を繋ぎなさい!///」
「え〜、どうしよっかな〜w」
いつも春子にはやられっぱなしなので、たまには仕返しをしてみるのも御愛嬌だろう。
「む〜。繋いでくれないなら、この自由な右手で例の”アレ”のスイッチをカチカチしますよ」
「は、春子ちゃん!”アレ”のスイッチを激しくしないで!」
「うるさいですね……」カチカチカチ
「わ、わかった!手を繋いでやるから”アレ”のスイッチは切っといてくれ」
「わかればいいのです」カチカチカチ
コイツ、まさかエオンデートにまで”アレ”を仕込んでくるとは、相変わらずアタマが沸いてやがる……
「じゃあ、ほれ」
俺は、春子の右手をギュッと握りしめた。
「あっ///」
少し遅れて、春子の方からも握り返してくる。
「……///」
先程よりも顔を真っ赤っ赤にして俯く彼女。
なぁ春子よ、コレって、今回も”ラブコメ回”じゃないか?
春子と手を繋いで通路を歩いていると、絵美の時がそうであったのと同様に、やはり周囲の客から多くの視線が向けられる事となっていた。
ざわ、ざわざわ……
「なにやら視線を感じますね……和哉君、あなた、指名手配でもされているのですか?」
「勝手に俺に前科を付けるな。……お前の面が良すぎるんだよ」
春子、お前は俺の隣を歩くにしては不釣り合いが過ぎるのだ。
『なんであんな男があんな可愛い娘を連れてんだ?』
『女の方はめっちゃ美人だけど、男の方がその分めちゃくちゃブサイクじゃんw』
『なんかヤバい関係なんじゃね?美人局的な?』
『レンタル彼女かもな。でもかわいそうだよな、仕事とはいえあんなブサイクの隣を歩くなんてw』
なんかこの感じ、すげーデジャヴだな……
まぁ確かに、俺と春子が不釣り合いなのは事実だから気にはしないが。
「周りがやけに騒がしいですね……ちょっと一言物申してもいいでしょうか?」
「え?」
「皆さん、私と彼はやましい関係などではありません!」
周囲の野次馬に対し、声を張り上げる春子。
ざわ、ざわざわ。
「お、おい春子、周りにアホなのがバレるぞ」
「私たちは、ただの”セフレ”です!やましい関係ではありません!」
!? !? !?
な、何を言っとるんだこのアホは!?
ざわ、ざわざわ。
『あの男があの娘と!?』
『羨ましい〜!!!』
『リア充爆発しろ!死ね!』
ま、まずい!
なんかよく分からん騒ぎが発生してしまった!
「おい春子!バカ言ってないで行くぞ!」
「え?は、はい」
彼女の手を強引に引き寄せ、急いでその場を跡にする。
ほんと、いったいなんだってんだこの女は……
売り場の外れの比較的静かな通路脇で一度足を止める。
「おい春子、お前どういうつもりだ!あんな理由のわからんことを言いやがって!知り合いに聞かれて変な誤解をされたらどうするつもりだ!」
「誤解?私たちはセフレじゃないんですか?」
……
「お前、セフレの意味をわかって言ってるのか?」
「当然です!”セーフティフレンド”の略ですよね!私と和哉君は健全な友人関係です!」
「あのな春子、セフレって言うのはな……」
ゴニョゴニョゴニョゴニョ。
「まぁ///そんな意味だったのですね///」
「というわけで、誤解されたらマズいというわけだ。わかってくれたか」
ボソッ。
「でも……私は誤解されても構いませんが///」
……とりあえず、聞こえなかったことにしてスルーしておこう。
「ほら、せっかくのデートなんだ、ボケっとしてないで行くぞ」
「は、はい」
「どこか行きたい店はあるのか?」
「え〜と、そうですね……」
「フードコートか?」
「え?凄い、よく分かりましたね」
「まぁ、お前とも15万字ぐらいの付き合いになるからな」
「ふふふ、じゃあエスコートをお願いします///」
俺は、セーフティフレンドである彼女の手を引きフードコートを目指して歩きだした。
握りしめたその手は、いつになくか細く繊細に思えて、春子が等身大の1人の女の子であることを今更ながら改めて実感し、胸が少しだけ熱くなっていた。
「春子、今日は何でもご馳走してやるぞ。遠慮なく言ってくれ」
「そうですか、では、クレープを食べたいのですが良いでしょうか?」
「もちろん」
俺たちは、フードコートの一角のクレープ屋へ向かった。
「俺は”チョコバナナ”にしようかな。春子はどうする?」
「私は”イチゴキャラメルホイップカスタード”にします」
可愛い女性店員に、2人のオーダーを告げる。
「和哉君、お子様の場合、追加トッピングが1種類無料らしいですよ」
「みたいだな」
俺たち高校生には関係無いと思うが。
「店員さん、彼はご覧の通り童貞野郎なのですが、”お子様”認定しては頂けませんか?」
『……ダメです』
「和哉君、残念でしたね……」
「残念なのはお前のアタマだ」
この可愛い店員さんに、俺が童貞であるという事実が無駄に伝わっただけじゃねーか。
『お2人の場合、コチラのカップル特典ならご利用できるかと思いますが、いかがなさいますか?』
示された表示には、【カップルのお2人にはホイップ増量特典があります!】との記載が。
「あ、いや、自分たちはカップルというわけではないので」
と言ったところで、太ももに激痛が走る。
「いててててて!いってー!春子、お前何しやがる!!!」
春子に、全力をもって太ももをつねられたのだ。
「うるさい童貞ですね……ほら、邪魔になるから受け取りカウンターへ移動しましょう」
そっぽを向いて、明らかに不機嫌な様子の彼女。
いったい何だってんだ……
「んだよ、そんなにホイップクリームを増量して欲しかったのか?」
ボソッ
「鈍感野郎……」
「え?」
「なんでもないですっ!///」
『お待たせ致しました』
店員さんから各々のクレープを受け取る。
「制服のまま放課後にクレープの買い食いなんて、まるで高校生のデートみたいですね///」
まぁ、みたいではなく、まんまその通りなんだが。
美味しそうなクレープを前に、春子の機嫌も回復したようでなによりだ。
「では、頂きます」
「頂きます」
ぱくっ。
「うん、クレープなんて久々に食ったが、中々に美味いもんだな」
ジーーー。
春子が、俺のクレープを穴が空きそうな程見つめている。
「……欲しいのか?」
「いえ、どんな味なのか凄く気になっているだけです」
「ひと口食べるか?」
「いいのですか?では遠慮せずにひと口だけ頂きます」
ぱくっ。
「ぬわー!!お前、チョコとバナナをひと口で全部もっていきやがったなー!!」
モグモグ。
「ひと口はひと口ですよ」
「んなデケーひと口があってたまるか!」
モグモグ
「あったのだから、仕方ないじゃないですか」
くっそ〜、なにが『ぱくっ』だ。
どう考えても今のは『バクッ!!!』だろうが。
モグモグ
「バナナとチョコの甘さが口いっぱいに広がって、とても美味ですね」
そりゃあ、アレだけの量だ。
比喩でもなんでもなく、物理的に口いっぱいだろうさ。
「あっ!」
「ど、どうした?」
「今のって、その、間接キスですね……///」
よくあの蛮行の後で、そんなに頬を赤らめる事ができるもんだ。
俺は呆れながら、侵略者に蹂躙された後の、辛うじて生クリームが残る破片に齧りつく。
「どうですか、お味は?」
「そりゃあ、生クリームの味だけど……」
「いえ、その……私との間接キスの味はどうでしょうか?///」
あぁ、そうか、通りで一口目よりも生クリームが美味く感じるわけだ。
「和哉君、次はタコ焼きを食べたいのですが」
「わかったよ」
俺たちは、”金だこ”の前へ移動する。
「何味にする?」
「”ネギだこ”にしましょうか」
「デートらしく、1舟を2人で仲良く分けるか」
「良いですね、デートらしくて///」
「ご馳走様でした。やはり、金だこは安定して美味しいですね」
「……なぁ春子」
「なんでしょうか?」
「問題だ。1舟8個入りのタコ焼きを2人で仲良く分けた場合、1人当たり何個になると思う?」
「8÷2で、4個になりますね」
「お前は今しがた何個食べた?」
「6個です」
「なんで俺たちの分配は2対6なんだよ!」
「さぁ、何故でしょう?世の中には不思議な事が沢山ありますね」
「不思議でも何でもねーよ!答えは単純かつ明快だ。俺が1個食べている間に、お前が3個食べていたからだ!」
「仲良く分けたら4対4ですが、ラブラブだと2対6になるみたいですね」
「勝手に変な法則を作るな!……しゃーない、もう1舟買うか」
「次は、”明太マヨ”にしましょう!」
「なんでお前がそんな前のめりなんだよ」
結局、2舟計16個の内、俺の腹に収まったのは4個だけだった。
どうやら、俺と春子は、よっぽどラブラブで相性抜群の2人のようである。
モグモグ。
「次はミスドにしましょうか」
「わかったよ」
コイツ、口の中にタコ焼きを含んだままで、よくドーナツを食べる気が湧いてくるもんだ。
俺たちは、ミセスドーナツの前へと移動した。
「デートらしく、コレを買って2人で仲良く分けませんか?」
春子が指差した先には、”ドーナツポップ(24個入)”が。
一口サイズの丸いドーナツ玉がカラフルにつまったソレは、今の俺からしてみれば、彼女からの果たし状にさえ見えた。
「よし、わかった、ソレにしよう」
購入したドーナツポップをテーブルの中央にセットし、ソレを挟むように俺たちは対面に座った。
「では、カップルのように仲良く頂きましょうか」
ふっ、そんなブラフに引っかかってなるものか。
今回の俺は、端から早食い勝負のつもりで覚悟をキメている。
今度こそ、お前より多く食ってやるぞ!
「オンユアマーク……」
こ、コイツ!世界陸上の”位置について”の合図を!?
そうだよな、当然お前だって本気ってことだよな!
面白え、やってやろうじゃねーか!
「セット……パンッ!」
春子の発声の合図に併せて、勢いよくドーナツ玉へと手を伸ばす。
負けられない戦いが、確かにココには在った……
「ご馳走様でした」
満足そうな笑顔で手を合わせる彼女。
それもそのはず、彼女の胃袋に吸い込まれていったドーナツ玉は計17個。
早食い勝負の結果は、7 対17 で俺の惨敗となった。
くそっ、覚悟の準備をしていたというのに。
ガンギマッた目でドーナツ玉をひたすら口内に収める彼女の姿は、大和撫子という代名詞を返上するに相応しい形相であった。
春子のあんな顔を茶道部の後輩ちゃん達が見たら、いったいなんと言うのだろうか。
ほんと、静かにしてりゃあ緑川に匹敵しうる美人なのにな……
「ふふふ、やっぱりゴールデンチョコレートが1番ですね♡」
ほんと、俺には釣り合わない、可愛い女だよ、コイツは。
次回第58話は、春子とのデート回後編です。