第56話.岐阜ミーベイベー
準備万端だった”えのき”の鎮まりを待った後、足湯から上がった俺たちは、毛呂大橋を渡って飛騨川を越え、咲夜が手配してくれた高級温泉旅館”御鷹威旅館”へとやってきた。
飛騨川を挟んで毛呂駅側が、今しがた俺たちが散策を楽しんでいた温泉街の中心部で、飲食店や中小規模の旅館が建ち並んでいる。
それに対して、対岸のこちら側は、比較的規模の大きい大型のホテルや旅館が山すそに連なるように建ち並んでいるのだが、その中でもこの御鷹威旅館は群を抜いてデカく、名前に恥じぬ貫禄を見せつけているようであった。
流石は咲夜が手配してくれただけのことはあるな、と感心しながら、俺たちはフロントロビーへと立ち入った。
「すみません、予約している青山ですけど〜」
『青山様ですね。はい、お待ちしおりました。黒峰のお嬢さんから”特に宜しく”と伺っております』
対応してくれたのは、いかにも”若女将”といった出で立ちの女性。
実年齢はおそらく40半ばぐらいだろうが、外見は30半ばぐらいに見える。
ひと昔前の表現を用いれば”美魔女”といったところであろうか。
『お部屋は最上階の、露天風呂付きの最上級客室となります。最上階のフロアは、この部屋を含めて2部屋だけとなっており、その2部屋も対角に離れております。なので、どれだげ”アンアンパンパン”とハメ倒しても、恥ずかしい声や音が他の方に漏れ聞こえる心配はございません。本能赴くまま、ケモノのように激しく、思う存分”お楽しみ”頂けたら幸いでございます』
「は、はぁ···」
咲夜のヤツ、なんか余計な事を吹き込みやがったな。
「私、声大きめだから、助かります···///」
···円香さん、君は何でそう頬を赤らめているんだ?
”そういうこと”なんて、起きるはずがないだろ。
···ないよな?
『青山様、”サイズ”はどうなさいますか?レギュラーとLが御座いますが?』
「サイズ?」
何のサイズだ?浴衣の話か?
「あ〜、じゃあ、とりあえずLで」
『かしこまりました。では、コチラがお部屋の鍵と”Lサイズ”になります。ごゆっくり、お二人で”お楽しみ”くださいませ』
手渡されたのは、新品未開封のZ◯NE(6ケ入り)だった。
咲夜のヤロー、相変わらずふざけやがって!
フロントでコンドームを手渡す高級旅館などあってたまるか!
「お兄ちゃん、何貰ったの?」
「な、なんでもねーよ」
俺は、サッとカバンの中にソレを隠し入れた。
『お客様、もし足りないようなことがあれば、是非お申し付けください。直ぐに追加をお持ちいたします』
「いえ、あの、お気遣い無く···」
ちなみに俺の1日の最高記録は13回だ。
もちろん、ソロプレイでだが。
エレベーターを使い最上階のフロアへ。
「この部屋か」
俺たちが宿泊する部屋は、露天風呂付き最上級一等客室の【334号室】である。
フロントで受け取った鍵を使い、中に入る。
「うおっ!?広っ!?」
「すごーい!流石最上級室だね!」
踏込,前室を越えると、俺の常識の範疇を超えた客室が広がっていた。
和室の客間が2部屋,洋室の客間が1部屋,既に布団が敷かれた和室の寝室が1部屋,ベッドが備え付けられた洋室の寝室が1部屋。
それに加え、通常仕様のバスルームとは別に、この部屋最大の目玉である”露天風呂”が付いているのだ。
大人が優に6人は入れるその露天風呂にはもちろん、”源泉”が使用されている。
なんとまぁ贅沢な部屋なんだろうか。
と、この部屋のその広さについて色々描写したものの···
「結局は、このスペースに落ち着くんだよな〜」
「だね〜。旅館に泊まる醍醐味といったらやっぱココだよね〜」
俺たち兄妹が現在くつろいでいるのは、窓際にある旅館特有の例の”謎スペース”である。
小さなテーブルを挟んで向かい合う2脚の椅子に、吸い込まれるように腰を降ろしたのだ。
ちなみにスマホで調べたところ、ココは”広縁”という名称らしい。
このスペースでくつろぐ為に、旅館に泊まるといっても過言ではないよな〜、と思いながら、窓の外に臨む飛騨川の流れを眺める。
···
なんと贅沢な時間だろうか。
今度改めて、咲夜にお礼しないとだな。
円香のヤツも、雰囲気にアテられてか、静かに毛呂の温泉街を眺めている。
コイツはほんと、黙ってさえいれば、文句無しの美少女だよなぁ···
一度口を開けば、”アレ”なのが露呈するが。
その、どこか物憂げな彼女の美しい横顔を見て、想う。
もし、俺たちが”兄妹じゃなかったら”と、想わずにはいられなかった···
もういっそのこと、全てを投げ捨ててしまえば···
「なぁ、円香···」
「な〜に」
「今、何を考えてたんだ」
「···牛串、3本セットでもよかったなぁ〜って」
「···そうか」
俺は、”気の迷い”を飲み込んで、しばらく2人で毛呂の街並みを眺めていた。
「じゃあ、そろそろ浴衣に着替えちゃおっかな!」
そういって立ち上がった円香は、広縁を出て和室へと入っていった。
「お兄ちゃん、私、今から浴衣に着替えるから、絶対に覗かないでよ!」
「あ、ああ」
ソロソロゆっくりと襖を閉めた彼女。
その部屋からは、服を脱ぎ着する衣類の擦れる音だけが聞こえてくる。
スルスル、スルスル。
···
静かになったな。着替え終わったのか?
バンッ。
行儀悪く勢いよく襖が開け放たれ、現れたのは、はだけた浴衣姿の妹。
浴衣の隙間からだらしなく覗く肌色が、なんともエロい···
「なんで覗いてこないのよ、お兄ちゃんのバカっ!」
「···はい?」
「こんな美少女が襖1枚の向こう側で着替えてんだよ、覗くなって言われても普通覗くでしょ!」
「は、はぁ···」
「覗くなと言われたら逆に覗く!これ、日本の常識でしょ!ツルの恩返しとか知らないの?」
「いや、アレは別にそういう意図の話ではないだろ」
「いい、覚えといてねお兄ちゃん。押すなと言われたら、押す。覗くなと言われたら、覗く。くっ殺せと言われたら、生かして犯す。わかった?」
「おい、最後変なの混じってなかったか?」
「はぁ〜、これじゃあ着替え途中のはだけた浴衣姿で覗かれるのを待ち構えてた私がバカみたいじゃん」
「みたいじゃなくて、実際バカだろ」
「じゃあ、テイク2行くよ!」
「え?」
「お兄ちゃん、私、今から浴衣に着替えるから、絶対に覗かないでよ!」
いや、既にもう着てるが。
部屋に入り、再び襖を閉めた彼女。
···付き合ってやるしかないか。
俺は、渋々ながら、そ~っと襖を開けた。
その隙間からは当然、はだけた浴衣姿の妹のカラダが···
「キャー!!!///お兄ちゃんのエッチ!///ヘンタイ!///スケベ!///妹の着替えを覗くなんてサイテー!///もうほんと信じらんない!///」
お前のそのリアクションこそ信じられんわ。
よくこんなクソみたいな茶番をそのテンションでこなせるな。
「出てけー!この覗き魔!!!」
「ギフッ!!!」
俺の顔面に、”覗かせ魔”の足裏がクリーンヒットし、後方へふっ飛ばされる。
こんな不条理な事が、この世で許されていいものなのだろうか?
「あ〜、スッキリした!やっぱ”様式美”というか、”ノルマ”はこなしとかないとね!」
「いてて、今どき暴力系ヒロインは流行らんぞ」
「大丈夫!私の支持層は、”平成の重力に魂を引かれたままの古い人間”だから!暴力系ヒロインでも受け入れてくれるよ♡」
平成の当時でも、暴力系はソコソコ不人気だったような気もするが···
「じゃあさ、逆に今はどんなヒロイン像がウケるの?」
「知らん、なぜなら作者自身の魂も”平成”に居座ったままだからな」
円香にならい、俺も浴衣に着替え終えた。
さて、これからどう過ごそうかな。
「お兄ちゃん、どうする?···さっそくだけど、部屋の露天風呂一緒に入る?///」
ドキッ!
コイツ、なんてメス顔で誘ってきやがるんだ!
···こんな女と一緒に温泉なんて、襲わない自信は無い···
「いや〜、せっかくだし、先に一般の大浴場の方に入ってこようかな〜」
”気の迷い”が悪化しないように、今は少しコイツと物理的に距離をとりたい。
「そっか···じゃあ、私もそうしようかな···」
2人で一緒に部屋を出て、別フロアの大浴場を目指して廊下を歩いていると。
「あ、カバンの中に、ウチから持ってきたシャンプーとコンディショナー忘れてきちゃった···お兄ちゃん···」
「取ってきて、だろ」
「うん!お願い♡」
1人部屋に戻り、ひどく慣れた手つきで円香のカバンを開け中身を漁る。
どんなシチュエーションであれ、女子のカバンを漁る行為に生じるこの”背徳感”は堪りませんなぁ〜でゅふふ♡
どれどれ、おそらくはトラベル用の簡易的な容器に入っているだろうけど、どれかぱっと見では分からんなぁ〜、コレか?
手に取ったケースには、アルファベットで記載が。
なになに、【AFTER PILL】とな···
あふたー···ぴる···
アフター、ピル···
アフターピル···
アフターピル、だとっ!?
【問題】
兄と2人で温泉旅行に行く際に、アフターピルを持っていく妹の心境を簡潔に答えよ
···”そういうこと”なのか···
いや、とりあえず、何も見なかったことにして、さっさと戻ろう。
そう、俺は何も見ていないのだ。
元あったようにそのケースをカバンへ戻し、お目当てのシャンプーとコンディショナーを回収して、俺は円香の下へと足早に戻った。
「ほらよ」
「おっつ〜、お兄ちゃん、あんがと♡」
コイツ、何時もと変わらぬ様子に見えるが、内心では俺と”そういうこと”をする気でいるんだよな···
い、いかん、なんかムラムラしてきたぞ···///
「?どしたのお兄ちゃん、私の顔見て赤くなって?」
「な、なんでもねーよ///」
「あは、もしかして、私の浴衣姿の色気に惚れ直したとかw?」
「ちげーよ、バカ///」
「照れんなって、ほれ、サービスしてあげるよ〜、チラり♡」
胸元をチラッと開き、谷間を見せつけてくる彼女。
普段なら全然耐えられるのだが、今の状況下ではマズい···
「バカやってないで、さっさと行くぞ!」
「あっ!ちょっと、待ってよお兄ちゃん!」
円香の数歩前方をキープしつつ、俺は逃げるように男湯の暖簾をくぐった。
かぽーん。
大浴場の内湯につかりながら、冷水を浸したタオルを頭に乗せ、クールダウンを試みる。
さっきはちょっと、ヤバかったな···
危うく”理性”が崩壊しかけたぞ。
この、普段は冷静沈着でクールでクレバーな俺ともあろう男が、らしくもない。
···と、冗談を言っていられる状況でもないよな。
円香がピルを持ってきていた件についてだが、あれは、向こうから俺に対してアクションを起こす為のモノではないと推察できる。
なぜなら、アイツから攻めてくるつもりがあるなら、今日という日を待たずして、とっくの遠に”行為”に至っているはずだからである。
その事実が物語るのは、アイツはああ見えて”誘い受け専門”だということである。
誘いはするが、自ら一線を越えてはこない。
一線を越えるとすれば、それは相手側から、つまりは”俺から”というわけだ。
つまりあのピルは、俺が一線を越えてきた時の為の”保険”なのだろう。
そして、そんな女が、そのような準備をしてきたということは、アイツは今日、俺を受け入れるつもりがあるというわけで···
後は、俺の行動次第だということだ···
俺がヤろうと思えば、アイツとヤれる、そんな状況···
ヤバい、意識したら、急に緊張してきたぞ···
”えのき”も元気になっちまったし、男湯でイキり立ててたらソッチの人たちにあらぬ誤解をされてしまう···
俺は、膨張した”えのき”を隠しながら、男湯を跡にしたのであった。
334号室の扉を開けると、円香の履物が既にあった。
どうやら、彼女の方が早く戻ってきていたようだ。
「ただいま~」
客間の襖を開けると、円香がテーブルに向かう形で座布団の上で正座をしていた。
俺が帰ってくるのを待っていたのだろうか?
「どうした?んな正座なんかして···」
と、そこで、俺はあるモノに気が付いた。
彼女が座る目の前のテーブルの上には、俺がフロントで受け取ったコンドームの箱が。
「ま、円香、それは!?」
「お兄ちゃんのカバンの中に入ってたんだけど···コレ、コンドームだよね///」
「あ、ああ」
「コレを持ってきてるってことはさ、お兄ちゃんも、その気だったってことだよね///」
いや、さっきフロントで手渡されたんだけど···
「そ、その気って、どういう意味だよ···」
「だから、その、したいんでしょ!///今日、私と、”エッチ”したいんでしょ!///」
俺は、否定する代わりに、ゴクリッ、と生唾を飲み込んだ。
「···い、いいよ///私も、お兄ちゃんと···///」
柄にもなく消え入りそうな、彼女のその”か細い声”を遮るように、俺は思わず彼女を畳へと押し倒した。
彼女は抵抗することなく、俺にされるがまま仰向けに倒れ込んだ。
はだけた浴衣から、ぷるんっとFカップが顔を出す。
「円香···」
「お兄ちゃん···」
倒した妹の上に覆いかぶさるように、その顔を覗き込む。
「···っ///」
照れて顔を真っ赤にしながら目を逸らすその表情は、今まで見てきた彼女のどの顔よりも魅力的に思えて、俺は、もう気持ちを抑え込むことができなかった。
右手を差し出し、彼女の左乳房を掴む。
むにゅっ。
「あっ///···お兄ちゃん、本当に今から”エッチ”するの?///」
返事の代わりに、続けて左手で右乳房を掴んだ。
「んあっ!♡···お、お兄ちゃん、その、するなら、ゴム···」
そう言われハッとなり、テーブルの上のコンドームの箱へ目を向ける。
上体を反らし、その箱へ手を伸ばそうとしたところで、彼女が再び口を開いた。
「あ、そうじゃなくて···///その···ゴムは、しなくていいから···///大丈夫だから···そのままで、いいよ///」
ゴクリッ···。
”旅の恥はかき捨て”と言う。
この毛呂の街は、俺たち兄妹の一夜の”恥”を、受け入れて、そして、かき消してくれるのだろうか···
「お兄ちゃん···いいよ、きて♡」
俺の下腹部が、人生最高潮の熱を帯びる。
今宵の俺は、もう誰にも止められない···。




