第52話.デートはライブ
これまで水金日の週3回更新でしたが、
金日の週2回更新へ変更します。
まだまだ物語は続いていくので、のんびりとお付き合い頂ければ幸いです。
ゲーム3本勝負は黄金井の勝ち越しで終わり、俺たちはゲーセンを跡にした。
「先輩、次は私、映画が見たいです!」
「おう、いいぞ。何を見るんだ?」
「えっと···あ、あれ!ミミ子の劇場版にしましょう!いいですか?」
「わかった。絵美もミミ子が好きなんだな」
「はい、私、アニメも漫画もゲームも基本何でも好きなので」
「じゃあ、丁度上映時間になるみたいだし、券買って中入るか」
「先輩、席は私が選んでいいですか?」
「ああ、俺は特にこだわりは無いから任せるよ」
そして、黄金井が選んだ席は、最後方の出入口側とは逆側の角の2席だった。
上映開始日から日が経っていることもあり、センターライン以外であれば幾らでも空席がある状態で、なんでわざわざそんな所を選ぶのだろうか?
もしかして映画通で、何かこだわりでもあるのだろうか。
本編開始前に、映画を見るにあたってのマナーに関する簡単な説明の動画が流れる。
『上映中は静かにしてね!』
『前の席を蹴らないでね!』
『NOモア映画泥棒!』
···良かった、全裸で映画を見ることに関しては指摘されなかったので、ボディペイントJKの鑑賞は黙認されたようだ。
続いて、本編の上映が始まる。
ふむ、しかし、これは···
『いくわよ、モモ子,ムム子!』
『ええ』『任せて!』
『三位一体、”花びら・ビッグ・ローリング・シュート”!!!』
『な、なんという舌技!とても耐えられん!ぐわぁー!!!』
···相変わらず、とんでもない内容だな、この作品。
そっと、俺の右手に黄金井の左手が添えられた。
正直なところ、イチャイチャ好きの黄金井のことだからと、この展開は予想していたが。
俺からは手を握り返したりはしなかったので、しばらくはその状態が継続していたが、不意に、彼女にその右手を引っ張られた。
俺の右手が導かれる。
彼女の”デニム”の”縫い目”へと···
「んっっっ///」
!? !? !?
コイツ、映画館でなんて事を!?
「っっっ///」
「んっぁ///」
「っっっ///」
「んぁっっ///っっ!ぁっっ!///っっ!んぁっ///」
···
火照った彼女のトロけた横顔を見る。
···ミミ子,ムム子,モモ子、さっきはお前たちのことを”とんでもない”とか思ってゴメンな。
スクリーンの中の君たちよりも、右隣の女の子の方がよっぽど”とんでもない”ヤツだよ···
「ふぅ、楽しかったですね、先輩///」
「あ、ああ///」
後半は全然映画どころではなかったけど。
「わ、私、ちょっとトイレで”整えて”きますね///」
「お、おう」
俺もクールダウンが必要だったし、ありがたい申し出だった。
黄金井がトイレへ向かった後、時間つぶしにカプセルトイコーナーを物色していると、聞き慣れた例のメロディーボイスが聞こえてきた。
「ハロ〜サティ♪できたての、ポップコーンはいかがかにゃ♪」
このメロディーを聞くと、つい春子のことを思い出してしまうなぁ···
とんだ呪いを付与されてしまったものだ。
いかんいかん、今は黄金井とのデート中。
他の女のことを考えてはマズい。
バレたらどんな制裁を受けることになるやら···
「和哉君?」
「ぬわー!!!は、春子!?」
噂をすればなんとやらというヤツか···
「ぐ、偶然だなぁ。何をしてるんだ?」
「私は、茶道部のみんなに誘われて一緒に···和哉君は?」
「いや〜、俺は愛しのマイシスターの円香ちゃんと一緒に〜」
「あら?和哉君、いつからあなたの妹は全裸ボディペイント女になったのかしら?」
···どうやら、黄金井と2人でいるところは目撃されていたようだ。
それに、ボディペイントに関しても見破られている。
流石は性力の達人といったところか···
「春子、頼む!ボディペイントの件はご内密にお願いしたい!周りにバレて騒ぎになるとマズいんだ!」
「ええ、その件に関しては別に構わないわ。私には関係無い事ですし、人の性癖に対してとやかく言うつもりもないです。”そんな事”よりも私が気にしているのはね、和哉君、私との初デートを差し置いて、あなたが何故他の女とデートしているのか、ということなのだけど···」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
春子ちゃんの背後に、燃え盛る炎が見える···
もしかして、その類の超能力者なのだろうか。
ともかく、もの凄くお怒りであることは確かなようだ。
「勘違いしないでね和哉君、私は怒っているわけではないの」
そ、そうなの?
「ただ、めちゃくちゃ、むちゃくちゃ、嫉妬しているだけよ」
それは、ニアリーイコールなのでは···
「わりぃ春子、これもアニナエル抗体を手に入れる為の作戦なんだよ、勘弁してくれ!」
「···じゃあ、後日、埋め合わせとして私ともデートしなさい」
「え?」
「それとも、他の女とはデートできても、私なんかとはデートしたくないのかしら?」
プイッと、そっぽを向く彼女。
「い、いえ、したいです!ぜひ春子様とデートさせてください!」
顔をコチラに向け、ニヤリと悪い笑みを浮かべる彼女。
「よろしい、じゃあ近いうちにデートをしましょう。とりあえずは、今回の件はそれで目をつぶってあげるわ」
···なんか、流れでデートに行く話になってしまった。
もしかして、上手いことハメられたのか、俺は。
まぁ、春子相手とはいえ、取って食われたりはしないだろうが···
「春子せんぱーい、次の店行きますよー!」
茶道部の後輩A子ちゃんが春子を呼びに来たようだ。
「じゃあ、私はもう行くわね」
「あ、ああ」
「春子先輩、こんな童貞野郎となんの話をしていたんですか?」
「デートに行く約束をしていたの」
「春子先輩がコイツとデート!?って流石に冗談ですよねwも〜春子先輩マジウケるw」
「いや、冗談ではないのだけど」
「はいはい、わかりましたから、みんな待ってるんで戻りますよ〜」
後輩A子ちゃんに引っ張られながら、春子は歩き去っていった。
そうだよな、周りから見たら、普通冗談だと思うよな。
春子みたいな美少女が、俺なんかとデートなんて。
なんせ当の本人の俺でさえ、まったくもって腑に落ちていないのだから。
「先輩、お待たせしました」
「お、おう」
黄金井が、なんともタイミングよく戻ってきた。
春子と鉢合わせなくて良かった。
いったいどんな修羅場になっていたことやら···
クンクン。
ジロリとこちらに疑いの目を向ける黄金井。
「···先輩、今しがた別の若い女と一緒にいませんでしたか?」
犬かおのれは。
「いや〜、気のせいじゃないか···」
「でも、確かに”大和撫子”の残り香を感じるのですが···」
嗅覚は鋭いが、情報のアップデートは遅れているようだな黄金井。
ヤツは既に、大和撫子と対極の存在に成り果てている。
「俺がそんな女と縁があるわけないだろ」
「ですよね〜、私とのデート中に、他の女に現をぬかすことなんて有り得ないですよね〜」
「あ、当たり前だろ、ははは···」
ふぅ〜、危ねえ〜。
モテるというのは、それはそれで大変なんだなぁ···
まさか俺がそう感じる日が来ようとは、人生どう転ぶかわからんもんだ。
偶然とはなぜか連続するもので、黄金井と2人で歩いていたら、次は緑川とばったり鉢合わせてしまった。
「み、緑川先輩!!!」
「うげっ!緑川···」
「ちょっと、なんであなたがそんなリアクションするのよ!相変わらず不愉快なヤツね」
なんでまた今日にかぎって、こうも変態女とエンカウントするんだ···
「はぁ~、面倒なヤツに会っちまったぜ···」
「な、なによ!それはこっちのセリフなんですけど!···って、なんであなたはボディペイントの女の子と一緒にいるのよ···」
やはり、性力の達人達にはこの”服”は通用しないようだ。
「ま、待ってください、緑川先輩ほどのお方が、なんでこんなヤツと親しげなんですかっ!?」
こんなヤツて。
「コイツとはちょっと、色々とあってね···」
「はは~ん、この感じ、私わかっちゃいました···この微妙な距離感は、”元カノ”ってヤツですね!」
「んなわけないじゃない!まだ付き合ってもないわよ!」
”まだ”って、別に今後付き合う予定もなかろうに。
「いやん、緑川先輩みたいな美人にこんな至近距離で怒鳴られたら、私、濡れちゃいます///」
「わかるわ〜、俺の”えのき”の先端もいつも濡れちまってよ〜」
「あなた達、人をダシにして好き勝手に悦に浸らないでよ···」
「俺と緑川の関係性といっても、単にコイツが例の変態女のひとりってだけの話なんだけどな」
「なっ!?あなた、その事は黙っておきなさいよ、バカ!」
「なんと!緑川先輩も変態だったんですね!憧れの緑川先輩と同じ変態なんて、私、光栄です!」
「そんな事で感極まるのはヤメてほしいのだけど···って、あなたは?」
「あ、すみません、名乗り遅れました。私、1年美術部の黄金井です」
「···なんで黄金井さんはボディペイントでエオンに来ているの?」
「それはな、コイツが女体を題材とした芸術を求めし変態だからだ!」
「です!」
「そ、そうなんだ···あなたも大変みたいね···」
「緑川、お前に絵美のことをそんな呆れ顔で見る資格はあるのかぁ?お前だってこの類の変態じゃねーか」
「う、うっさいわね!」
「緑川先輩と私って、類友なんですか!?嬉しー!!ちなみに先輩の性癖って何なんですか?」
「こいつはな、日中はただのムッツリスケベだが、夜な夜な野外露出にくり出す露出狂の変態なんだよ」
「夜な夜な野外露出···ガチめのド変態じゃないですか···緑川先輩ってそんなヤバい人だったんですね···」
「黄金井さん、現状のあなたにそんなドン引きされる筋合いはないけどね」
「筋合いはなくても、”スジ”なら”ココ”にありますけどね!なんつってw」
「青山君、黄金井さんってもしかして···」
「ああ、結構ウザいタイプのヤツだ」
「それにしても、このボディペイント、良く描けてるわね···」
黄金井の”服”に真剣な目を向ける緑川。
「いやん、そんなに緑川先輩に見つめられたら、私、ビショビショになってしまいますよ///美少女だけにw」
相変わらずのウザ可愛さを発揮する黄金井をスルーし、なおもマジマジと彼女のカラダを眺める緑川。
「この塗料、濡れても問題は無いのかしら」
「はい、完全防水なので、股間がヌレヌレのグチョグチョになっても無問題です!」
「なるほど、それはありがたい仕様ね···」
緑川のヤツ、なんだかんだいっても興味津々じゃねーか。
コイツはほんと、性に対してはとことん貪欲だな。
···もしかして、後々あるのかもしれない。
緑川楓の夜のボディペイント回が。
「それじゃあ、私はもう行くわね」
「はい、今日は緑川先輩とお話できて良かったです!」
「私も、黄金井さんとお知り合いになれて良かったわ」
黄金井の”服”に熱い視線を送りながらそう告げる緑川。
こやつ、どうやらボディペイントがかなりお気に召してしまったようだ。
歩き去る緑川の背中を見つめる黄金井。
「緑川さん、ほんと美人ですよね〜。いつか緑川さんをモデルに、裸婦画を描かせてもらえないかなぁ〜」
まぁ、そう思う気持ちは芸術に疎い俺でも共感できる。
あれほどの美人をモデルにしたいと思うのは、芸術家として至極自然な感情であろう。
「先輩、緑川さんを脅して無理矢理にでも服を引っ剥がしてヌードモデルにしたいんですけど、何か強請るネタ持ってたりしませんか?」
危険思想が過ぎる···
が、残念ながら、ネタはある。
けど、黙っておこう。
「緑川先輩のあの大きなおっぱいを生で拝んでみたいな〜きっと私なんかと違って、上品でお美しい”楽しみお乳”なんだろうなぁ〜」
黄金井、俺は君の夢を壊したくはないから。
しかしこうしてボディペイントスタイルでエオンモールを闊歩しているわけだが、男たちからエロい目を向けられることで黄金井が照れている素振りは見せるが、いかんせん彼女のスペルが10000に達しそうな感じではないような気がする。
ボディペイントで人前に出るだけでは、100点にはまだ足りていない。
いったい、不足しているピースとは何だというのだろうか?
金曜日ということもあり、夕方に差し掛かると、より客の数は増えた。
つまりは、黄金井に向けられる視線もより増えるということで。
「せ、先輩、なんかさっきよりも、更に見られている気がします///」
向けられる視線の数と熱量に比例するように、羞恥心が増している様子の黄金井。
恥じらいを感じつつも、その感覚に”感じている”ようだ。
コイツをイかせる為には、視線を集めることが重要なのだろうか?
なんとか注目を集めることができれば、ワンチャンあるかも···
「あ、先輩、何か抽選会をやってるみたいですよ。私たちも映画の半券で参加できそうですし、挑戦してみませんか?」
どうやら、何かしらのイベントの一環として催されているらしい。
まぁ、地方のエオンモールのイチイベントの賞品など、たかがしれてるだろうが···
掲示されているチラシに目を向ける。
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【大抽選会賞品】
3等:コンドーム1年分
2等:妹のアタマがまともになる薬
1等:高級温泉旅館ペア宿泊券
特賞:1千万円
本日、必ず全ての賞品が出ます!
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特賞1千万円!?
エオンさん、奮発し過ぎでは!?
コレを当てれば、黄金井に注目が集められるぞ!
「凄いですね、1千万円ですよ!って、先輩、目が既に”円”になってるじゃないですか!?お金に目が眩みすぎですよw」
違うぞ黄金井。
1千万円など、お前に快く譲ってやろう。
いや、たとえ1億であったとしても、俺にとっては論ずるに値しない。
これは円ではなく、円香の”円”だ。
俺が望むものはただ1つ。
”妹のアタマがまともになる薬”のみ!
俺にとってはそれ程までに、その薬には価値があるのだ。
神よ、あなたの気まぐれに賭けるぞ。
どうか、妹のアタマをまともにしてくれ!!!




