第50話.青春ドンカン野郎は美術部後輩の夢をみるか
咲夜が立ち去った後、既に時間もいい頃合いとなっていたため、俺たちも片付けて撤収することにした。
上手いことバレないようにタイミングを見計らい、人目を避け公衆トイレへと移動した黄金井は、カラダの塗料を拭き取り制服へと着替えた。
「お疲れ様、黄金井」
「先輩も、お疲れ様でした」
「何か掴めたか、銅像になってみて」
「その話よりも先に···ん///」
軽いお辞儀をするように、コチラに頭部を向ける彼女。
「?」
「ん///」
「?」
「アタマなでなでしてくれるって、さっき約束してたじゃないですかっ!」
「あ~、それか」
「察しが悪いですね先輩。これだから童貞は困ります···」
「ははは、ゴメンゴメン。では···」
なでなで。
「えへへ〜///」
···
「ん///」
「?」
「ん///」
「?」
「なんで2往復だけで終わりなんですか!もっと撫でてくださいよ!!!女の子にこんなおねだりさせるなんて、先輩ドSですか!!!」
「あ~、わりぃ、そういうことか」
「まったくも〜、”変態女マイスター”を名乗るなら、女心もちゃんと把握しなきゃダメですよ」
別にその肩書は、好きで襲名したわけではないけども。
「それでは、改めまして···」
なでなで、なでなで。
なでなで、なでなで。
「えへへ〜///」
なんかコイツといると、調子が狂うな···
この美少女は、どうも俺の心を搔き乱してくる。
···”恋”と呼ぶには余りにも青臭い、この想い。
人はこの感情に、”青春”と名前を付けたのかもしれない···
「先輩、次は、ん///」
「?」
両腕をガバっと左右に広げる黄金井。
「ん///」
「?」
「あーもう!鈍感にも程があるでしょっ!ハグですよ、ハグ!!!さっきあのクソビッチにもやってたんだから、私にもハグしてくださいよ!」
いや、あれに関しては咲夜の方から一方的に抱きついてきただけなんだが。
まぁ、いいか。
これぐらい、罰は当たるまい。
黄金井を、両腕で抱え込むようにそっと抱き寄せる。
ぎゅっ。
「···えへへへへ///」
円香が昨日出したクイズ···
彼女たち性力の達人が、なぜ俺を求めるのか。
その答えは、まだ分かってないけど···
それでも···
俺は、改めて、確かめるように黄金井を抱き寄せる。
「···先輩、あの、もっと強く抱きしめてもいいんですよ///」
「わりぃ、俺童貞だからさ、力加減がわからねぇんだよ、ははは」
「ふふ、ダサいですねw」
「うるせぇ」
「でも···優しいんですね···」
「···そんなんじゃねぇよ」
···決して、俺は優しい男などではない。
きっと、今日のこの時間は、そう、それこそ神様とやらの気まぐれみたいなもので···
だからこそ俺は、彼女を抱きしめるその両腕に、それ以上力を込めることはなかった。
いつの日か、この輪郭を、この体温を、忘れることができるように、と···
「ありがとうございました、先輩///」
俺から一歩二歩と距離をとり、ペコリと頭を下げた彼女。
「先輩、私、多分”答え”がわかりました···」
「そうか···何だ、その”答え”ってやつは?」
「今日、裸に塗料を塗って、人に見られた事を経て気づけました。私、自分のカラダに絵を描いて、それを人に見てもらいたいです!それが、私の求める”芸術”のカタチです!」
女体に絵を描く。
女体自体を、作品の本体とする。
確かにそうすれば、彼女の求める”女体成分”については必要十分であろう。
ただし、”作品”としては、それだけでは”不完全”だ。
”人に見てもらいたい”という彼女の思い。
人に見られてこそ、観測されてこそ初めて、芸術は”作品”として昇華されるのだ。
女体に絵を描き、人に見てもらう。
それが、彼女が自ら辿り着いた”黄金井絵美の芸術”の答えだった。
「というわけで、明日も午前の半日授業だし、午後から黄金井とエオンデートすることになった」
今日もまた、自室で風呂上がりの円香へ進捗を報告する。
時刻は20時半を過ぎたところ。
黄金井は今頃、明日に向け自宅で準備を進めている頃合いだろうか。
「へ〜、そこまで辿り着いたんだ。じゃあもうほとんど”正解”みたいなもんだよ」
腕を組んでふんぞり返る妹。
布地を押し上げる”突起”の輪郭が明確なことから、そのTシャツ越しの胸部は例のごとくノーブラであることが覗える。
「ん?逆に、”正解”じゃないのか?」
「ん〜とね、それだけじゃあ80点かな」
悪くない点数に思えるが、話の流れ的には100点じゃないとアニナエル抗体は排出されないのだろう。
「ここまできたんだ、もう答えを教えてくれてもいいんじゃないか」
「だーめ、黄金井さんの為にも、お兄ちゃんが頑張って考えなさい」
「···そりゃあ当然黄金井の為でもあるけどさ···俺は何よりお前の為に頑張ってんだぜ、円香」
「うわ~、お兄ちゃんがデレたー!!!コイツ、妹が可愛すぎるからってデレ過ぎでしょwどんだけ私のこと好きなんだよ、このシスコン野郎www」
うぜぇ。
黄金井と違って、ただひたすらにウザい。
「···でも、あんがとね、お兄ちゃん///」
前言撤回。
ウチの妹はひたすら可愛い。
「じゃあ、ここまで頑張ってくれたお兄ちゃんに、ご褒美でも見せてあげようかな///ちょっとまっててね♡」
そう言った円香は一度俺の部屋を跡にし、十数分後に舞い戻ってきた。
「お兄ちゃん、コレが私の思う”女体を題材とした芸術”だよ!」
全裸に、複数の単語が書かれていた。
『和哉専用』
『中出しOK』
『性奴隷』
『肉便器』
『便女』
『メス豚』
『ヤリマン』
『人間オナホール』
『ご自由にお使いください』
そして、太ももには”正”の字が、2個半。
「どう、お兄ちゃん、似合ってるでしょ♡」
兄の目の前で、ガニ股ダブルピースをキメちゃってる妹。
前言撤回の撤回。
ウチの妹はもう、ダメなのかもしれない···
そして、そんな妹の痴態に興奮している兄もまた、おそらくは手遅れなのだろう···
「···お前、それ、まさか油性マジックか?」
「も〜、そんなわけないじゃん」
ほっ、流石にそこまでバカじゃないか。
「コレ、全部タトゥー彫ったよ!」
「お前、一発限りのクソしょうもないギャグに、人生捧げてんじゃねーよ!!!」
「もう、冗談に決まってるじゃん、マジな反応ウケるんだけどw」
お前ならガチでやりかねんから怖いんだよなぁ···
「将来、太ももの”正”の字ぐらいならタトゥー彫ってもいいかも···ちなみにお兄ちゃんとしては、何の文字を彫って欲しい?」
「そもそも、母さんと父さんに貰った恵まれた容姿にわざわざ手を加えるな、もったいねーぞ」
「わかってるよwだから冗談だってばw例えばの話をしてるだけだよ」
「例えばねぇ···」
···それはもちろん、『和哉専用』
なんてことは、口が裂けても伝えないでおこう。
「円香、1つ書き忘れてるぞ」
俺は、机の上からペンを取り、一文を書き加えた。
『1回10円』
「ちょっとお兄ちゃん!10円は安すぎでしょっ!せめて100円にしてよ!これじゃあFA◯ZAのセール価格じゃん!」
拝啓、FA◯ZA様。
いつも10円セール楽しみにしております。
はぁ〜、前半は比較的しっとりとした、いい雰囲気のラブコメ展開だったはずなんだけどなぁ···
俺にもラブコメができるかと期待した矢先に”コレ”だもんなぁ···しょぼん。
円香が俺にそっと寄り添い、肩にポンと手を置いた。
「お兄ちゃん、ドンマイ!」
···俺は、なんでこんなヤツのことが好きなんだろう。
「私たちみたいな”コメディー”世界の住人には、しっとりした雰囲気は似合わないよ!湿っぽくていいのは、変態女たちの股間だけってね!なんつってw」
青山和哉は、時々自己を省みる。
ほんと、なんだって俺ってヤツは、こんなアホのことが、好きで好きでたまらないのだろうか···と。
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