第49話.幻聴代理人
翌日の木曜日の午後。
本日はテスト期間直前ということもあり、都合よく午前の半日で学校が終わったので、昼過ぎから”黄金井絵美銅像作戦”を開始する運びとなった。
昨日部室で準備を進めておいたおかげで、抜かりなく現地でのスタンバイは完了した。
ここ、穂渡宵公園の一角に、一体のイスに座った女性像が完成した。
それは当然、全裸に塗料を塗った黄金井絵美本人に他ならなかった。
ピロン♪
『先輩、どうですか?銅像に見えますか?』
彼女から発信されるメッセージは、左腕に装着したスマートウォッチに表示される。
「ああ、問題無い。完全に銅像だ、安心していいぞ」
触られでもしないかぎり、人間とバレることはないだろう。
それ程までに、タネを知っている俺の目から見ても、文句無しに銅像に擬態できていた。
「俺は少し離れた位置からモニタリングしてるから、人が近づいてきたらお前は目を閉じて”銅像”になりきるんだ。その後は俺がフォローする」
ピロン♪
『了解です(≧∇≦)b』
少し離れた位置のベンチに腰掛て待機していると、程なくして1人のお爺さんが通りがかり、そして、黄金井像の前で足を停めた。
ジーっと、黄金井を眺めている。
ピロン♪
『先輩、私、見られちゃってますよ///』
それじゃあ、フォローに入りますか。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
「どうですか、この銅像。ウチの生徒の作品なんですけど」
「これ、高校生が作ったのかい?素晴らしい腕前じゃのぅ」
ピロン♪
『褒められた!』
「まるで、本物の生きた人間をそのまま銅像にしたような、そんな生々しさがあるのぅ」
この老人、めちゃくちゃ良い目とカンをお持ちのようだ。
「しかもこの顔、若い頃のばぁさんにそっくりで、年甲斐もなくトキめいてしもうたわい」
「へ〜、奥様、凄い美人だったんですねぇ。男として羨ましいです」
ピロン♪
『キャー///先輩に美人って言われちゃった!!!///羨ましいなら、私たちもそうなっちゃいます?///なんつってw♡』
相変わらず、ウザ可愛いなコイツ。
「若い頃はのぉ、ばあさんとは、そりゃあもう色々な事をしとったのぉ」
「へ〜、どんな事をされてたんですか?」
旅行とか、ドライブとか、キャンプとか、そんな趣味の話かな?
「○○○を○○して○○○したり、○○○が○○で○○だったり、○○○で○○○を○○○した事もあったのぉ、グヘヘへ」
とんでもなく卑猥なプレイの話だった。
この爺さん、JKの目の前でなんちゅう話をしとるんじゃ···
ピロン♪
『···興味深いお話ですね///』
どうやら、お嫌いではないようだ。
しばらくの間、そのエロジジイと猥談で盛り上がった。
「おっと、つい長話を···若いの、付き合わせて悪かったのぉ」
「いえ、貴重なお話が聞けて良かったです」
ピロン♪
『勉強になりました///』
「じゃあな、若いの。この銅像のようないい女を捕まえるんじゃぞ」
そうして、エロジジイは歩き去った。
ピロン♪
『先輩は、私のこと、捕まえたいですか?///』
ここはノーコメントで···
ピロン♪
『銅像だけに、どーぞ捕まえてください///なんつってw』
凄いなコイツ、ウザさと可愛さが丁度半々で拮抗している。
しばらくして、犬の散歩をしている中学生と思われる女子が黄金井の前で足を停めた。
ジーっと、黄金井のカラダを眺めている。
ピロン♪
『お、女の子に見られてます///』
じゃあ、フォローに入りますか。
「こんにちは」
「こんにちは」
「わんわん!」
「可愛いワンちゃんですね」
「どうかな、ウチの学校の生徒の作品は」
「これ、お兄さんの学校の生徒さんの作品なんですか?凄い大作ですね」
ジーっと、真剣な眼差しを黄金井に向ける彼女。
バレてないよな···。
「私、こういう”芸術”ってものに少し興味がありまして···これはとても美しい仕上がりをしていると思います」
「ありがとう。その言葉、製作者に伝えておくよ」
ピロン♪
『えへへ、褒められちゃった』
「特にこの、腰周りの肉付きの生々しさなんて、本物の人間のようです」
そりゃあそうだ。だって本物の人間だからな。
「でも私、こういう作品を作れる人と比べたら、やっぱりセンスが”凡人”なのかもしれません···」
「なんでそう思うの?」
「だって私だったら、この腰の無駄な贅肉は付けてないと思うので」
ピロン♪
『無駄な···贅肉···(´・ω・`)』
「二の腕も、太ももも、もっと細くシャープな造形にしたくなります。コレはちょっと太いかなって」
ピロン♪
「二の腕、太もも、太い···(´・ω・`)」
「あえて細くない造形にする理由があるのかなぁ···」
ピロン♪
『私、ダイエットするっ!!!(´;ω;`)』
「お兄さんはどう思います、このカラダ?」
「俺は、これぐらい肉付きが良い方が好きだけどな〜」
ピロン♪
『私、ダイエットやめる!!!(≧∇≦)/』
コイツ、円香よりも単細胞かもしれない···
「ワンワン!」
「あ、マロミ、ダメよ!」
飼い主の静止を振り切り、黄金井像に近づくマロミちゃん。
ピロン♪
『ワンちゃん元気ですね(*^_^*)』
イスに腰掛ける黄金井像の左脚に向け、片足を上げるマロミちゃん。
それはまるで、犬が用を足す時のポーズの様で···
シャーーー。
てゆうか、そのまんまだった。
「ぬわー!!!」
「マ、マロミ!?ダメよ、そこでしちゃ!!!」
ピロン♪
『せ、先輩、この脚に当たる温水はもしかして···』
···それだけ”銅像”に近づけたということだ。
胸を張れ、黄金井。イヌに小便をひっかけられた時こそ胸を···
ピロン♪
『(´;ω;`)』
俺に謝罪の言葉を述べた後、その女の子とマロミ容疑者は再び散歩へと戻っていった。
「災難だったな、黄金井···」
ピロン♪
『動物のすることだから、仕方ないですよね(泣』
かぁー、かぁー、かぁー。
ボトッ。
黄金井の頭の上に、カラスの糞がベタッと落下した。
ピロン♪
『先輩、頭のコレって···』
「動物のすることだからな、仕方ないよな···ははは···」
ピロン♪
『(´;ω;`)』
正直、美少女が汚されるシチュエーションって、ちょっと興奮するんだよなぁ···
と思ったが、とりあえず黙っておいた。
「今ハンドタオルで拭いてやるからな···」
黄金井の頭に付着したカラスの糞を拭い取ってやる。
「よし、上手く拭き取れたぞ」
ピロン♪
『ありがとうございます···(´;ω;`)』
ピロン♪
『後から、頭ナデナデして慰めてください///』
まぁ、それぐらいならお安い御用ではあるが···
と、その時、急に背後からガバっと勢いよく抱きつかれた。
背中に、柔らかい弾力が押し付けられる。
なんだ!?円香か!?
「和くん、み〜つけたっ♡」
「さ、咲夜!?何でお前がココに!?」
ピロン♪
『誰ですか、その女···』
「和くんの居る場所が、あたしの居場所だもん♡だから、恋愛の神様が2人を引き寄せてくれたんだよ♡」
ピロン♪
『なんですか、その女···』
「2人を巡り合わせて頂きありがとうございます。人工衛星様」
「GPSじゃねーか!」
俺のプライバシーは何処へ···
「しかも和くん、あたしが仕掛けるまでもなく、最初からGPSの反応があったんだけど、コレって”運命”の力だよね♡」
違う、妹の犯行だ。
犯罪行為にロマンスの神を宿すな。
ピロン♪
『なんですか、その女···』
マズい、さっきから黄金井がbotみたいになってる···
「悪いが咲夜、俺は今取り込み中なんだ」
「ん?何、和くん、銅像の頭拭いてたの?」
「ま、まあな」
「えっ!?まさか···」
マズい!黄金井が人間だってバレたか!?
「和くん、この女の子の銅像に、ぶっかけちゃったの!?」
···はい?
「溜まってるからって、こんな銅像にぶっかけるなんて、和くんガチでヤバめの変態じゃん···」
「いや、違うんだけど···」
「こんな”ちんちくりん”な女をモデルにした銅像なんかに発情しなくても、あたしがいつでも”相手”してあげるのに♡」
ピロン♪
『ちんちくりん···ですって···(怒』
ヤバい!
「いや、この銅像は素晴らしいぞ!顔はすこぶる可愛いし、カラダもエッチだ!俺がぶっかけるのも致し方なしって感じだろ!」
「ふ〜ん、顔はまぁ整ってる方ではあるけど、あたしみたいに華がある感じじゃないし〜、乳もあたしより小さいし〜、そのくせお腹周りはあたしより太いじゃんw」
ピロン♪
『ピキピキピキピキ(怒』
「こんなチンケな”まがい物”じゃなくて、あたしの”お楽しみボディー”の方が和くんも好きっしょ♡」
ピロン♪
『そこんとこ、どうなんです···先輩···』
「あはは···俺はどんな女体だって大好きさ···」
「和くんさぁ〜、そんな銅像ほっといて、さっさとおっぱじめようよ♡」
「ほえ?」
「前に『覚悟決めといて』って言ってたでしょ。そこに丁度いい東屋があるからさ、ちょっと”休憩”していこうよ♡」
「東屋?」
咲夜が指差した方を見る。
「マジックミ◯ー号じゃねーか!!!」
運転席には、当然のように爺やさんが。
俺と目が合うと、ウインクを送ってきた。
こっち見んな、気色悪い。
「ほら、あたしの方は、もう”受け入れ態勢”OKだよ♡」
ガバっと、スカートをたくし上げる咲夜。
ぬおっ!?
例のごとく、”履いていない”状態だった。
「しまえ、しまえ、緑川でもあるまいし!」
「えへへ///もう我慢できなくって///ほら、早くイこうよ、和くん♡」
「あ~、いや〜、その〜」
ピロン♪
『楽しそうですね、先輩···』
チラッと、黄金井像へ目を向ける。
目が合った。
本来閉じておくべきはずの銅像の目は、ぱっちりと開かれていた。
突如現れた謎の痴女に抱きつかれる俺を見つめるその瞳に、ハイライトは無かった···
「も〜、つれないなぁ〜、ほら和くん、チュ〜♡」
咲夜の唇が迫ってくる···
マ、マズい···男として、抗い難し···
すまない、黄金井···
美少女JKの迫りくるキス顔には勝てなかったよ···
「人の目の前でぇ!人の男に手ぇ出してんじゃねぇぞっ!ゲロブス!!!」
ピタッ···
俺と唇が触れ合う直前で、咲夜の動きが止まった。
キョロキョロと辺りを見渡す彼女。
「今なんか、女性の声がしなかった?」
「そのうす汚ぇカラダを先輩からさっさと離せやボケ!無駄にでけぇその乳が目障りなんだよ!その気色わりぃきめぇ車に乗って失せろやクソビッチ!」
「ほら、なんか聞こえた!ねぇ、和くんも聞こえたよね!?」
「いや〜なにも聞こえなかったけどなぁ···幻聴じゃないか···」
「げ、幻聴?」
「疲れてるんだろ、咲夜。今日はもう帰って、早めに休んだらどうだ」
「で、でも···」
「せっかくドウテイと交わるなら、ベストコンディションの方がいいだろ、特に初めてなら尚更な」
「そ、そうかな···」
「俺も初めては、あんな特殊車両の中じゃなくて、ホテルのスイートルームみたいな雰囲気の良いところで迎えたいしな、また今度にしよう、な、そうしよう」
「う、うん、わかった。じゃあ、また次の機会にしようかな···」
流石の咲夜も気が引けたのか、そう言って素直に帰っていった。
走り去る特殊車両を見送った後、その銅像へ目を向ける。
あれから通知音は鳴っていない。
不気味な程、静かな銅像···
ココが、学園の敷地内じゃなくて良かった···
学園七不思議に、銅像の枠は2つもいらないからな。
ご愛読ありがとうございます。
画面下にある☆で、評価して頂けると嬉しいです。
※☆5じゃなくても構いません。
☆1でも、☆2でも、素直な評価を頂けたら嬉しいです。




