第40話.誘惑はディナーのあとで
「あ〜、食った食った、もうお腹いっぱいだ〜」
と言っても、当然、あの闇鍋を食したわけではない。
闇鍋の中から円香が投入した俺に関するモノを回収した後、その他の”残置物”については、メイドさん達にお願いして家庭菜園用の肥やしとしてリサイクルしてもらうことにした。
結局、その結果を見越していた咲夜が事前に手配していた寿司,ピザ,オードブルを食べ終えて一息ついている、というのが現在の状況である。
「黒峰さんが手配したというだけあって、どれも大変美味でした。ご馳走様でした」
春子のやつ、俺たちの中では1番細くてスレンダーだけど、その反面1番大食いなんだよな。
「春子さんて、よく食べるのにスレンダーで羨ましいな〜。何か運動とか努力してケアしてるんですか?」
以前からダイエットに苦戦している円香が、そんな女子トークを春子に投げかける。
「いえ、私、元々太らない体質だから、特に何もしてないのだけど···」
ピキピキ。
円香ちゃんのこめかみに、青筋が浮き出る。
ああ、コレが俗に言う、『私、太らない体質だから〜』地雷か。
「へ〜、食べた分が体に取り込まれないなんて羨ましい〜。取り込まれない分、さぞ”大量の大便”をなさるのでしょうね、オホホホホホ」
想定する限り、最悪のカウンターを繰り出す円香。
これにより、相手を、”食べても太らない体質の女”から、”食べた分だけ大量に便を出す体質の女”へイメージチェンジさせる魂胆であろう。
我が妹ながら、なんて性格の悪いヤツなんだ。
「ええ、私、毎日ブリブリ快便ですよ」
「···そうですか」
残念だったな、円香。
お前より春子の方が一枚上手だ。
「この前、私史上過去最高の”1本”記録を更新した際に撮った写真があるけれど、見たい?」
「···いえ、遠慮しておきます···」
いや、一枚下手かもしれない。
別にそういう話をしていたからというわけではないが、もよおしてきたな···
「すまん、俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」
立ち上がった俺を、円香がめちゃくちゃドン引きした顔で見てくる。
「···何だよ」
「お兄ちゃん、さすがに人様の家のトイレで致すのはどうかと思うよ···」
「普通に用を足すだけだ」
仮にそうであったとしても、鍋に兄のパンツやへその緒を投入する輩にドン引きされる筋合いなどない。
「ただいま〜、なっ!?」
用を足した俺が部屋に戻ると、みんなの様相が一変していた。
円香,春子,緑川の3人が、白目をむいて口から泡を吹き、ぶっ倒れていた。
「ど、どうしたんだ!?大丈夫かお前ら!」
まさか、さっきのトリカブトとかヤバいモノを誤飲したのか?
落ち着け、とりあえず俺がすべきことは···
ペラッ。
緑川のスカートをめくる。
紺色、ヨシ!
ペラッ。
春子のスカートをめくる。
白色、ヨシ!
ペラッ。
円香のスカートをめくる。
青色、ヨシ!
紺,白,青、指差し確認、ヨシ!
ふぅ。
「大丈夫かお前たちー!!!」
「和くんって、本当の緊急時でもスカートめくりしそうだよね···」
唯一健在の咲夜が、めちゃくちゃドン引きした顔を俺に向ける。
「おう咲夜、こいつら、いったいどうしちまったんだ?」
「あたしがね、ちょっとばかし睡眠薬を盛ったの」
「え?」
「和くんと2人きりでお話しする為に、みんなにはちょっとだけ眠ってもらったんだ♡」
「眠ってる?···白目むいて、泡吹いてピクピク痙攣してんだけど···」
「···命に別状はないよ(多分)」
今なにか、怪しいカッコ書きが付いてたような気がしたが···
「お前の目的は何だ?」
「···和くんはさ、気にならなかった?」
「気になってたよ、ずっと。だからさっき真っ先に確認したんだ」
「いや、彼女たちの今日のパンツの色の話じゃなくて」
露骨に呆れた表情の咲夜が話を続ける。
「和くんはさ、あたしがどんな”性癖”か、円カンから聞いてないよね。いや、正確には、円カンが話していないって事になるのかな」
ドウテイの動画作品を撮りたい,観たいという咲夜の望みを叶えた結果、アニナエル抗体が手に入ったわけだが、確かに今回は、咲夜の性癖について明言されていなかったような気がする。
アニメヲタクが動画を作る。
コレって確かに、”性癖”と言えるのか?
「和くん、ついてきて、答えを教えてあげるよ♡」
白目むいて泡を吹きながら、ピクピク微かに痙攣を繰り返す3人を放置するのは忍びなかったが、それでも、咲夜がこれ程の事をしでかした理由に対しての好奇心が勝った。
和室を跡にし、咲夜に連れ立って広々とした廊下を進む。
その間、前を歩く彼女は、不気味に感じるほど終始無言だった。
ピタッと、咲夜がとある扉の前で立ち止まった。
この豪邸の3階の1番奥の部屋、ここが目的地だったらしい。
咲夜がドアノブに触れると、ガチャリと解錠音が鳴った。
室内ドアでキーレスとは、なんとまぁハイカラな。
咲夜はドアノブから手を離し、一歩後退る。
「和くん、入って」
そう促され断る理由もなかったので、ドアを開き、室内へ入った。
暗い。
真っ暗で、何も見えない。
俺に続き部屋に入ってきた咲夜が、電気をつける。
ピカッと、室内が明るくなると同時に、ガチャリと、施錠音が俺の耳に届いた。
「な、何だよ、コレ···」
俺の目に飛び込んできたのは、”青山和哉”だった。
いや、違う、コレは”俺”じゃない、”ドウテイ”だ。
視界を覆い尽くす、ドウテイ,ドウテイ,ドウテイ···
壁も、天井も、棚も、机の上も、20畳位の部屋の全面が、おびただしい数のドウテイグッズで埋め尽くされていた。
アニメ未登場キャラのグッズが、公式でこんなに供給されているとは考えにくいので、おそらくは咲夜が自ら制作したであろう、自作グッズの数々。
その圧倒的物量を前に立ち尽くしている俺の横を抜け、咲夜が備え付けられているベッドの上に腰掛けた。
そして彼女は、そのベッドの上に置かれていたドウテイの等身大抱き枕を手に取り、抱きしめて、キスをした。
彼女は、俺に笑顔を向ける。
生後5ヶ月の赤子が父親に向けるような、そんな無邪気な笑顔。
「和くん、コレが答えだよ♡」
「答えって、お前、コレ、どういうことだよ」
「何も難しい話じゃないよ、”黒峰咲夜は2次元のキャラにガチ恋している”、それがあたしの特殊性癖だよ」
”絵”に対する次元を超えた”恋”。
確かに、非生産的性衝動という事において、お手本のような事例ではあるが···
「お前、ドウテイの事が、恋愛対象として好きなのか?」
「うん、好き、大好き。ライクじゃなくて、ラブの好き。彼はね、あたしの初恋の相手なの。小学生の時、ミミ子のマンガで見て以来、ずっと彼が1番好き。あたしはもう、彼以外ダメなの。彼じゃなきゃダメなの」
「ドウテイの、何がそんなにお前に刺さったんだ?」
「顔かな、一目惚れだった。一目見た瞬間に、あたしの中の”女”が産声をあげたわ」
「顔って、お前、それじゃあ···」
俺とドウテイの顔は瓜二つ。
それって、つまり···
「そうだよ、和くん、いや、ドウテイ♡あなたと2人きりになりたかった理由はね、あたしと”エッチ”して欲しいの♡」
「···え?」
「だから、あたしとエッチして欲しいの♡こんなこと、女の子に何度も言わせるもんじゃないよ、ドウテイ♡」
エッチって···そういうこと、だよな···
「どうしたの、ドウテイ、ボーっと突っ立ってないで、早くこっちおいで♡」
ベッドに腰掛けた状態の咲夜は、両足をM字に開き、俺に”見せつけて”きた。
ぐはっ!!!
そういえばコイツ、”履いてない”んだった!!!
「ほら、ドウテイ、”ここ”、君の好きに使っていいんだよ♡」
「だー、やめろやめろ、自分で開くな!閉じろ閉じろ!」
「もぅ〜、じれったいな〜」
ヒョイと、ベッドから立ち上がった咲夜は、歩み寄り、そして、俺に抱きついた。
ギュ〜っと、力強く抱きしめられる。
まるで、長年恋焦がれていた想い人に、やっと出会えた時に乙女がするような、そんな熱い抱擁。
「和くん、お願い、ドウテイとして、あたしを抱いて」
「···いや、それは···」
「もう、据え膳食わぬは男の恥だよ!ほら、おいで♡」
ベッドへ向け、手を引かれる。
決して、強い力ではなかったが、さっきまで固まっていた俺の両足は、自分でも驚くほど簡単に動き出した。
それは、俺自身の意思か。
男の性か。
ドウテイと同じ顔に生まれた者の運命か。
ドクンッと、俺の中で鈍い音が響いた。
それは、罪悪感か、男の目覚めか。
”大人になる”ということは、つまり、こういう事の積み重ねなのかもしれないと、まるで他人事のように、そんな考えが心を過った。
先程まで、咲夜が腰掛けていたベッドに仰向けに倒れ込む。
押し倒されたわけではない。
自らの意思で、仰向けになった。
緊張感は無く、不思議と冷静な自分に少し驚く。
ギシッギシッ。
咲夜の動きに併せ、スプリングが軋む。
彼女は、仰向けになっている俺の腰の上にまたがった。
必然、見下されるカタチとなる。
ブラウスに包まれたEカップの向こうに、咲夜の顔が見える。
「ドウテイ、どう、今の気分は?」
「···よく、分からないな···」
「今からあたし達、”エッチ”するんだよ♡ドウテイの”ココ”と、あたしの”ココ”が繋がって、”ひとつ”になるんだよ♡」
「本当にいいのかな、これで···俺は···」
こんなところまできて、まだ迷いが残っていた。
捨てきれていなかった、円香への”想い”が。
「ドウテイ、いや、和くん。分かってるよ、和くんの考えてること。大丈夫、円カンには黙っててあげる」
「え?」
「誰にも言わない、あたし達2人だけのヒミツ。今日、これから”行われること”は、”夢物語”なの。和くんとあたしがヤったとしても、みんなには黙ってればいいんだよ。和くんは今まで通り、シスコンのモテない童貞として、日々を過ごせばいいだけだよ」
「そんなこと···」
「だって、そうでしょ。童貞かどうかなんて、真実はともかくとして、その真偽は他人にわかる話じゃないでしょ。和くんが『俺は童貞だ』と主張すれば、和くんは童貞のままなんだよ」
今童貞を捨てたとしても、その真相を知る人間は、世界で唯一、咲夜ただひとり···
咲夜が黙っていれば、俺は”童貞”のまま、円香との関係も今まで通り···
「そんな、そんな都合のいい話···」
「いいの、あたしはソレで。”都合のいい女”でいいよ。和くんが望めば、和くんがドウテイとしてあたしを求めてくれるなら、好きにしていいよ、あたしのこと。この顔も、この口も、この腕も、この脚も、胸も、お尻も、もちろん”アソコ”も、全部、好きにしていいよ。和くんのお気に召すまま、好きに使っていいよ♡」
この美少女JKを、俺の好きにできる···
それは、男にとって、あまりにも魅力的な提案だった。
「その証拠に、ほら」
咲夜がスカートのポケットから、何かを取り出した。
···錠剤?
「これはね、”ピル”だよ。経口避妊薬。聞いたことはあるよね」
「避妊薬···」
「そう、あたし、今日の為に、和くんの為に、ピル飲んできたからさ···いいよ♡」
「いいって···」
咲夜が上体を俺に押し付け、耳元で囁く。
「だから···”生”でいいよ♡」
「え!?」
「”初めて”がゴム越しなんて味気ないでしょ。いいよ”生”で♡ピル飲んでるから、和くんは無責任に好きなように、好きなだけハメていいんだよ♡」
好きなように···好きなだけ···
「いいのかな···そんなこと···」
「オナホと一緒だよ。和くんは難しいこと考えずに、”黒峰咲夜”という名の和くん専用のオナホを使って気持ちよくなるだけ、それでいいでしょ」
咲夜をオナホの様に使う···
という、”夢物語”。
「和くんの”ココ”も、準備”満タン”みたいだし、もうヤっちゃおうよ♡大丈夫、最初はあたしが上になって動いてあげるから、和くんはただ気持ちよくなることだけ考えていればいいから、ね♡」
グラッと、脳が揺さぶられるような感覚に襲われる。
「あたしの”ココ”に、和くんの”カタチ”を刻み込んで♡」
なんか、意識がボーとしてきた···
まぶたが、とてつもなく、重い···
「って、あれっ!?和くん、どうしたの!?ねー、········」
咲夜の声が、遠のいていく···
「·········なんで?和くんのグラスには、”強制気絶剤”は入れてないのに·········」
もしかして、みんなの目を盗んで、間接キス目当てで緑川のグラスに口をつけた際に、そのヤバいブツの成分を少量接種していまい、その効果が今現れたってことなのか···
と、思い至ったところで、俺の意識は途切れた。
俺がそのギリギリの意識の中で、最後の瞬間に思い浮かべた顔は、目の前の美少女ではなく、最愛の妹の顔だった···
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