第36話.練乳でしょでしょ?
次の日の木曜日、撮影3日目。
今日の撮影担当は、ミミ子役の緑川だ。
どうやらこの世界はギャグ漫画時空の系譜らしく、俺の肘の痛みは、朝起きたらすっかり治まっていた。
「和くん、どうぞ〜」
その呼びかけに応じ、既にもう通い慣れた風紀委員室へと立ち入る。
ぬおっ!?
果たして、中には逆バニー姿の緑川が居た。
ここまで10万字以上お付き合い頂いている”紳士”の皆々様には、既にお馴染みで説明不要かとは思うが、あえてその出で立ちについて描写させて頂こう。
まず、バニーというだけあって、頭部には黒いウサ耳。
そして、ベースとなる裸に、胸にはハート型の黒いニップレスが、股間には同様にハート型の黒い前バリが張られている。
腕には、手首から肩,脇にかけての肌を覆い隠す黒いアームカバー。
首から胸元にかけては、申し訳程度の白い布地に、いくつかのお飾りであろうボタンと、赤いリボンタイがあしらわれている。
靴は、黒いハイヒール。
脚は、特殊な形状の40デニールぐらいと思われる黒タイツに包まれていた。
何が特殊な形状かというと、股関節のVラインに沿った形状となっているのだ。
Vラインより下側だけ、つまりは脚部だけを覆い隠す形状の黒タイツ。
背面側も前面と同じVラインを構成しているため、ケツと太ももの境目の膨らんでいる部分まではタイツで覆われているが、尻の割れ目に関しては丸見えの状態だった。
まぁ、長々と説明したが、要するに、バニー服の露出部と非露出部が逆転している服というわけだ。
今更説明する必要なんて本当にあったのか?
俺なんて、多分親の顔より見てるぞ。
そんな、今や変態的衣装の代名詞ともなったコスプレを、SSS級美少女の緑川が俺の目の前で着用しているのだ。
この現場に立ち会えた事実は、『俺は何の為に産まれて来たのか?』という問いに対しての1つの答えに違いないと、そう思えた。
「緑川、俺はお前の逆バニー姿を拝むために産まれて来たんだと思う」
「あらそう、見られて良かったわね」
ん?意外なリアクションだな···
「じゃあ、もう思い残すことはないでしょ。さっさと死になさい」
生憎だな緑川。
俺は昨日既に、2回息を引き取っている。
「なぁ、緑川」
「なによ、キモいわね」
「まだ何も言ってないだろ」
「あなたは存在自体がキモいのよ」
それならお前は、存在自体がR18だ。
「お前、さっきから何で、腕で乳を隠してるんだ?」
「べ、別にいいでしょ、なんだって···」
何故だ···
何故緑川は乳を隠す必要があるんだ?
分からない···
心当たりが全くないぞ···
「ニップレスから乳輪がはみ出している以外の理由···何故だ、何故緑川は乳を隠すんだっ!」
ボソッ。
「···それよ」
「え?」
ボソッ。
「はみ出してるから···」
「ほえ?」
「だから!乳輪がはみ出してるから恥ずかしいのよっ!わるい!」
顔を真っ赤にして、語気を荒げ叫ぶ緑川。
ぽかーん。
何言ってんだコイツ、頭ワいてんのか?
お前のそのデカ乳輪が、そのハート型のニップレスに隠れるわけないだろ。
「そもそも、このニップレスが小さ過ぎるのがいけないのよ!」
「でも緑ン、それ、春タンのビキニよりも、円カンのニップレスよりも、そこそこサイズ大きいんだけど」
「なっ!?」
「流石のあたしも、緑ンがそんな激エロドスケベデカ乳輪女だとは見抜けなかったな〜」
「だから”デカい”って言ってただろ」
「いやいや、まさかここまでデカいなんて思わないよ〜。この顔でこのデカ乳輪は、レギュレーション違反だと思うな〜」
「あなた達、さっきからデカいデカいうるさいわよ!···私のは、ちょっとだけ普通より大きいだけで、そこまでデカくなんか」
ガラッ。
「いや、楓さんの乳輪はクソデカいよ!」
「はい、緑川さんはクソデカ乳輪女です!」
「円香、桃瀬さん!?なんで急に現れたの!?」
「あぁ、俺が雇ってたんだ。”緑川の乳輪がデカいことを伝える屋さん”としてな。はい、2人とも、日当の千円だ」
「わーい、お兄ちゃん、ありがとう!春子さん、メクドナルド寄って帰ろ!」
「良いですね。私、ハッピーセットが欲しいです」
仕事を終えた2人は、仲よさげに一緒に部屋を跡にした。
「緑ンのデカ乳輪によって雇用が創生されてる···コレって、地方再生の足掛かりになったりして···」
「あなた達全員、私の乳輪をオモチャにし過ぎじゃない?」
結局、緑川のデカ乳輪に関しはどうしようもなかったので、メイク用のコンシーラーで上塗りして誤魔化すことで、本人をなんとか納得させ撮影が開始された。
「じゃあ、次はシーン3-1ね、ヨーイ、アクション!」
ミミ子が戦士ということもあって、今回の撮影は剣を使った戦闘が主軸だ。
「せいっ!」「やーっ!」
緑川の剣捌きがあまりにも見事で、センス皆無な俺との殺陣も、それなりのレベルに仕上がっていく。
キンッ!カキンッ!キンキンッ!
すげぇ、俺の構えた剣に、まるで吸い付くように緑川が剣を合わせてくる。
「ごめん咲夜さん、今のシーンもう1回やらせてもらえるかしら?」
「OK!」
根が真面目だからか、演技にも熱が入ってるな。
ただな緑川、お前が真面目に演技すればするほど、そのマヌケでスケベな格好とのギャップに看過され、俺の”ペニッシュ”も熱を帯びてくるんですよ···
「いいよ、いいよ、緑ン。次は、フォームチェンジのシーンだよ!ティンポ・ケースの中の性力物質をカブって変身するよ!」
「ティンポ・ケースって、腰のコレのことよね?」
「そう、その”地方の安いラブホの枕元に備え付けで置いてありそう”な薄いピンク色をしているソレのことだよ」
「中に何も入ってないんだけど···」
「えっ!?うそ!?ヤバい、あたし性力物質を入れてくるの忘れてたみたい···どうしよう、予備も持ってきてないし···」
「咲夜、俺に任せろ!」
「···和くん、お願いできる?3回分必要なんだけど···」
不安げに、上目遣いで尋ねてくる咲夜。
ふっ、俺を甘く見積もりやがって。
「あぁ、問題無い。ドロッドロの性力物質を用意してやるさ」
緑川の腰から取り外したティンポ・ケースを3つ受け取り、一度席を外す。
そして3分後、男子トイレから帰還した俺を、咲夜が温かく迎えてくれた。
「お帰りなさい、和くん」
「ほれ、きっちり3回分、これで撮影は大丈夫だろ」
「ありがと~!この量、この質をたった3分で用意できるなんて···流石は和くんだね!」
そこで”童貞だね”と言わないところに、咲夜のモテ要素を感じる。
「はい、緑ン、和くんが用意してくれたティンポ・ケースを腰に着けて撮影再開だよ!」
「これ、この中身の白濁した液体って、何なの?」
「それはね、”練乳”だよ」
あぁ、青山和哉印の、産地直送搾りたて生”練乳”だ。
「ミミ子はね、炎,水,雷の3種のフォームにチェンジすることができるんだけど、その為には性力物質をカブる必要があるの。んで、今からその”カブるシーン”をまとめて連続で撮っちゃいましょう!」
「フォームごとに、カブり方に決まりみたいなものはあるのかしら?」
「流石は緑ン、読みが良いね!各フォルムによって、性力物質をかける場所が違うから、1つずつ指示していくね!」
「まず最初は、炎フォルムへのチェンジね!緑ン、ティンポ・ケースの1つを手に持って」
「はい、これを何処にかければいいの?」
「炎フォルムはね〜、頭からカブるんだよ」
「え?この練乳を頭にって、髪の毛に直接かけるの?」
「うん、そうだよ」
「私、髪のコンディションには結構気を遣ってる方なんだけど···かけなきゃダメ?」
「おねが〜い」ウルウル
「はぁ〜、分かったわよ。分かったからスマホで印籠みたいにFA〇ZAのホーム画面を掲げるのはやめて」
「じゃあ、緑ン、どうぞ!」
右手に持ったティンポ・ケースを頭上に掲げ、開口部を下に向ける緑川。
彼女のつむじ付近に、ドロッと、”練乳”が糸を引きながら垂れた。
緑川ご自慢の髪が、俺の”練乳”で汚れている···
賢い彼女のその天才的な頭脳の上に、バカな俺の”練乳”が乗っている···
今まで味わったことの無いベクトルの興奮が、俺の心を侵食していく。
「うわっ、なんかコレ、イヤな感じね···もう拭き取ってもいいかしら」
露骨に不快そうな緑川。
「あ〜、わりぃ、タオルとか今無いんだよ」
「そこのティッシュでいいから取ってよ」
「いや〜、ティッシュだと、カピカピになって張り付くから逆効果というかなんというか···」
「?」
「とりあえず、俺に任せろ!」
そう言って、メイク道具置き場に置かれていたクシを掴み取った。
そして、そのクシを緑川の髪にあてがって、へばりついている”練乳”を髪に馴染ませるように動かす。
「ちょっと、何勝手なことしてんのよ!?」
「これで一時的に見えなくなるだろ。とりあえず今はこれで我慢してくれよ」
「あなたに髪をいじられるの、凄く不愉快なんだけど。屈辱的にさえ感じるわ」
「まぁ、家に帰って風呂入って洗い流せばチャラだし、勘弁してくれ」
クシで馴染ませる度、俺の”練乳”でゴワゴワ感が増していく髪を見て思う。
緑川、洗い流して俺の”練乳”の成分が完全にゼロになったとしても、今この瞬間、お前のご自慢の髪が俺の”練乳”にまみれていたという事実は、決して消えて無くなる事はないんだ。
「次は、水フォルムにチェンジする為に、緑ンのそのお美しい顔にかけてもらいます!」
「はぁ〜、どうせ私に拒否権は無いんでしょ、さっさとやって終わらせましょ」
そう言って緑川は、腰から外したティンポ・ケースを右手に持ってスタンバイする。
「はい、緑ン、どうぞ!」
目をつぶり、口を閉じ、顔を上に向けた緑川は、その顔面の上でティンポ・ケースをひっくり返した。
デローンと、零れ落ちる蜂蜜のように粘度の高い性力物質が、ゆっくりと緑川の顔に着地する。
あぁ、超絶美少女の緑川楓の顔が、青山和哉というブサイク童貞の”練乳”よって汚されていく···
たまんねぇ〜!
この征服感!支配感!全能感!
”緑川楓”の全てを、存在そのものを、俺という存在でマーキングしてやったかのような、得も言えぬ優越に酔いしれる。
デロンデロンのその白濁色の液体は、彼女の鼻付近に纏わりついた。
「うわっ、くっさ!!!何これ!?この練乳、腐ってんじゃないの!?」
そんなわけあるか。
鮮度の良さに関しては、俺が保証するぜ。
「緑ン、次が最後の雷フォルムへの変身だよ。その性力物質を、口の中に注ぎ込んで!」
なぬっ!?口に含むだと!?
「···やだ」
「お願い♡」
「臭いからやだ。絶対に不味いし」
「臭いし不味いとは思うけど、人体に悪影響は(多分)無いし、頑張って!」
「···そう言うなら、咲夜さんも付き合ってよ」
「ほえ?」
「咲夜さんが先に口に入れて実践してくれるなら、私も覚悟を決めてやるわ」
「ほれ、追加の性力物質だ」
そう言って、今しがた採取してきた”練乳”がドップリと入ったティンポ・ケースを咲夜に手渡す。
「あ、ありがとう、和くん」
まさか俺の人生、”練乳”を手渡して女子から感謝の言葉が返される日が来ようとは···
「じゃあ、緑ン、口にいれるから見ててね···」
そう言った咲夜は、顔を上に向けて、開いた口の上でそのティンポ・ケースをひっくり返した。
ドロリと、重力に導かれる”練乳”が、咲夜の口腔内にめがけてツーと垂れていく。
そして···
「グエッ!」
舌に俺の”練乳”が着地したと同時に、咲夜がザコキャラの断末魔みたいな声を上げた。
こいつ、マジでやりやがった···
緑川みたいに理由も分からず流されるままやってるわけじゃねぇ···
この性力物質が俺の”練乳”であることを認知した上で、それでもなお、自ら口に含みやがった!!!
「オエッ···ほら、見て緑ン、あたし、ちゃんと口に入れたよ」
少しえずきながら、”練乳”入りの口腔内を緑川に見せつける咲夜。
「わ、分かったわよ、言ったからには私もやるわ···」
「ほれ、ティッシュだ、コレに吐き出せ」
緑川から言質を取り、目的を果たしたであろう咲夜にティッシュを手渡してやる。
が、彼女はソレを受け取らなかった。
「見ててね、和くん」
俺に向け、口を大きく開く咲夜。
舌の上に、ベッタリと白いドロドロの”練乳”のカタマリが乗っているのが見えた。
かと思えば、彼女はおもむろに口を閉じ、そして···
ゴクリッ。
と、喉を鳴らした。
!? !? !?
「うえっ、喉に絡みついて、ゔゔ、思ってたよりも、飲みにくいものだね」
ケホケホと、軽く咳き込む咲夜。
「ほら、和くん」
んべーと、再び俺に向けて開かれた彼女の口腔内に、例の白濁色の液体は残っていなかった。
「へへへ、ごちそうさま、和くん♡」
彼女の笑顔とウインクの意図するところは、俺には全くもって分からなかった。
そんな俺の理解を超えた状況下で、1つだけ確かな事がある。
あの日のファミレスで、この女がヤバいヤツだと感じた俺の直感に、間違いは無かったようだぞ、円香···
「はい、次は緑ンの番だよ」
「分かってるわよ···」
緑川も、先程咲夜がそうやったのと同様に、口の中に性力物質を流し込んだ。
「ウエッ、やっぱり、不味いじゃない、オエッ」
うわ~、これはまたなんというか···
普段俺を邪険に扱い、悪態をつくその口の中が、俺の”練乳”で汚染されているかと思うと、背徳感がとめどなく湧き上がってきた。
彼女のその、苦虫を噛み潰したとき以上に歪んだ顔が、今は堪らなく愛おしく感じる。
「青臭いし、苦いし、なんかピリピリ舌を刺激してくるし、多分コレ、弱アルカリ性じゃないかしら」
すげぇ、正解だ緑川。
ちなみに、本物の練乳も、弱アルカリ性寄りらしいぞ。
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