第35話.デッドorライブアライブ
次の日の水曜日、撮影2日目。
今日の撮影担当は、ムム子役の円香だ。
「お兄ちゃん、入っていいよ〜」
呼びかけに応じ、風紀委員室のドアを開け中に入る。
「見て見てお兄ちゃん、この衣装、エロ可愛いでしょ!」
そう言った円香が身にまとっているのが、格闘家のムム子の戦闘服らしい。
ギリギリ乳輪が隠れるサイズの星型のニップレス。
股間には、肌に張り付いてる当て布、いや、あの張り付き具合からして”前バリ”の方が表現として正しいか。
くっきりと、”センターライン”が浮き出ちゃってるし···
あと、ちょっとだけ”ひじき”がチラチラしてやがる。
腕には、真っ赤なオープンフィンガーグローブ。
足は、潔くノーガードの裸足。
前髪は、普段の円香と違い左右に分けられ、いわゆる”オデコちゃん”状態。
頭部には、春子がネコ耳を付けていたのと同様に、垂れた形状の茶色いイヌ耳が装着されていた。
似合っていると素直に思ったが、それと同じぐらい、両親に見せられない姿だなとも思った。
「お兄ちゃんも、ドウテイの衣装似合ってんじゃん。流石は童貞日本代表だね!」
「全身肌色タイツに似合うもクソもあるか。こんなの、遠目で見たらただの全裸だ。あと、勝手に国を背負わせるな」
「でもお兄ちゃん、10月の第1日曜日に、フランスのパリで、世界屈指の童貞達と芝2400mを競うんでしょ?」
「お前、凱旋門賞についてヤバい勘違いしてない?」
「頑張ってね、日本総大将!」
確かに今週は、俺にとって”スペシャルウィーク”であることに間違いはないけども。
「それじゃあ、撮影始めていきますか!2人とも、OK?」
「いいぞ」「OKです」
「じゃあ、シーン1-1からね、ヨーイ、アクション!」
円香との撮影は、ドウテイに敗北し捕らえられたモモ子を、ムム子が1人で救出しに来た、という流れから始まる。
いくつかの言葉の応酬が交わされた後、相容れぬ2人は、拳を交えた闘いへと発展していくことになる。
「じゃあ、いよいよ佳境の戦闘シーンだね!シーン4-1、いくよ。ヨーイ、アクション!」
「ドウテイ、私のこの、光って唸る拳を受けてみなさい!とう!えい!でや!」
「ぐえ!ぐふ!どぉわ!」
円香の連撃が全てクリーンヒットし、耐えきれず膝をついてしまう。
「カットカット!もう、和くん、ほんとに受けてどうすんの!ここは、ムム子の攻撃を全て回避するシーンでしょ!」
「いや、アタマでは分かっているんだが···」
「もう1回撮るから準備して!はい、いくよ、ヨーイ、アクション!」
避けなきゃいけないのは分かっているんだが···
「とう!」
円香が右の拳を突き出す。
と同時に、ニップレスで乳首が隠されているだけの乳が、ぷるんっと弾む。
「グフッ!」
乳から目を逸らせなかった俺の顔面に、拳がクリーンヒット。
「えい!」
続けて繰り出された左ジャブに併せて、再び乳がぷるるんと揺れる。
「ギャンッ!」
当然、これも先程と同様に顔面にクリーンヒット。
「でや!」
左右のワン・ツーが繰り出される。
その動きに連動し、おっぱいもワン・ツーのリズムで踊る。
「アッザムッ!」
いいパンチを続けざまに喰らった俺は、耐えきれず床に倒れ込んだ。
「ちょっと、お兄ちゃん、大丈夫!?」
円香、君は本当に良いオモチをお持ちだ。
「次、ムム子の蹴り技のシーン行くよ。ヨーイ、アクション!」
「私の拳を容易く避けきるとは、流石はドウテイね」
いや、めちゃくちゃモロにクリーンヒットしてたけど···
完全に避けきるまで、結局5回もリテイクしてしまった。
「でも、私の脚技を見切ることができるかしら」
そう言った円香は、右脚を俺の顔めがけて大きく振り上げた。
「せいっ!」
いわゆる”上段蹴り”のそれを、武道の心得が無いにも関わらず美しいフォームで繰り出す円香。
仮に道着姿であれば、その所作の美麗さに見惚れていたかもしれない。
しかし、現状の彼女の姿は、星型ニップレス+前バリという痴女に他ならない出で立ちだ。
そう、”前バリ”の状態で上段蹴りを繰り出したのだ。
薄いその布地に浮き彫りとなった魅惑のセンターライン”乙女の刻印”。
両脚の間でより鮮明にくっきりはっきりと垣間見えたソレは、まるで俺にその存在を自らアピールしているかのようであった。
必然、俺はそのガバッと開かれた両脚の間から目を反らせるわけもなく。
「メコスジィッ!!!」
モロに、顔面に蹴りを喰らってしまった。
「ちょっ!?お兄ちゃん、何で避けないの!?
「はぁ~、和くんも男の子だから仕方ないか〜」
「?もしかして、私の蹴りのキレが良すぎるとか!実は格闘技の才能があったり···はしないか」
「いやいや、円カンいいスジしてるし、案外アクターとかの道もアリかもよ!」
「そ、そうですかね、えへへ」
あぁ、円香。
君の”スジ”は、とても素晴らしいものだよ。
「じゃあ、気を取り直してテイク2行くよ!ヨーイ、アクション!」
「せいやっ!」
再び、円香のキレのある上段蹴りが繰り出される。
そして俺は今回も、はなから顔を反らす気など毛頭無く、円香の前バリを凝視する。
くっきり,ぷっくりとした布越しの縦スジが目に飛び込んで来た、まさにその時であった。
ヒラリと、前バリが剥がれ、宙に舞い踊った。
おそらく、汗で粘着が弱くなっていたのであろう。
拝啓。
遠い宇宙に居る、お父さん,お母さん。
僕はこの青い惑星で、大切なものを見つけました···
桃源郷はね、この地球にあったんだよ!
「ナマアワビィッ!」
そして、円香の渾身の蹴りをモロに喰らった俺のカラダも宙に舞い、床に叩きつけられたと同時に、俺は息を引き取った···
···
カチッ。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!」
俺の身体に高圧電流が浴びせられ、強制的に蘇生させられた。
「ヨシ、蘇生成功!ストーカー7つ道具の1つ”お兄ちゃん蘇生スタンガン”が役に立ったよ!」
「円カン、大丈夫?和くんの骨格丸見えだったけど···」
夏希、君はなんて危険なものを発明してやがるんだ···
そしておそらく、そのネーミングは”お兄ちゃん気絶スタンガン”が正式名称だと予想する。
「いてて、くっそー、人が気持ちよく夢を見てたというのに···」
「どうせエッチな夢なんでしょ」
「いや、アワビを食べる夢なんだけど」
「お兄ちゃん、昔からアワビ好きだもんね」
「和くん、目が(ΦωΦ)になったままだから、元に戻してもらっていいかな」
「あぁ、わりぃ」
両手で自らの頬をバシバシと叩き正気に戻る。
ヨシ、撮影再開だ。
「じゃあ、私も剥がれた前バリを付け直して···あれ?前バリが無くなってる!?」
「あ、それならさっき、昨日の”塩大福ちゃん”が目にもとまらぬ早業で回収していったよ」
「塩大福ちゃん?」
「ま、円香、お前は気にしなくていいんだ」
歩夢、いよいよ本格的に妖怪じみてきたな、お前···
「前バリの替えはいくらでもあるし大丈夫だよ。さぁ、張り直して撮影再開よ!」
「次は5-1、寝技のシーンね。円香、予習はOK?」
「はい!モチのロンです!私、床上手なんですよ!」
コイツ、なんか勘違いしてないか?
「48手、マスター済みです!」
やっぱり、勘違いしてるなぁ。
「裏48手も練習中です!」
なにそれ?ちょっと気になるなぁ。
「じゃあ、”縦四方固め”からやってみて」
「ほえ?何ですか、それ?」
咲夜、妹がアホですまん。
「縦四方固め、ヨーイ、アクション!」
仰向けで床に寝そべる俺の胴を、覆いかぶさるような体勢の円香が、両太ももで挟み込み締めあげる。
そして、左脇で俺の頭部を抱え込むように上体が押し付けられ、ゼロ距離で密着するのだ。
ムチッムチッ、ムギュムギュ。
「なぁ、円香。俺、気づいちゃったんだけどさ、これがセッ◯スってヤツなんじゃないか?」
「お兄ちゃん、やっぱり私たち兄妹だね。ちょうど今同じこと考えてた。多分これがセ◯クスってヤツだよ!」
「いや、それは縦四方固めだよ···」
「次は、横四方固めよ!」
仰向けに寝そべる俺の体に対して、直角に抑え込む円香。
彼女の2つの”デカメロン”が俺の上半身いっぱいに押し付けられる。
むにむに、むにゅむにゅ。
そして、円香の左腕が俺の頭部を抑え込むように回され、右腕は俺の股の間に差し込まれる状態となり···
「うひっ!らっ、らめぇえぇ♡」
「ちょっとお兄ちゃん、変な声出さないでよ!」
「だって、お前の腕が、俺の”ペニッシュ”に当たって···」
「なに?もっと締め上げて欲しいの?えいっ!」
「あんっ///ちょっ///らめぇ!らめぇなのでしゅうぅ〜♡」
「円カンが床上手なのは本当みたいだね···」
「最後は、腕ひしぎ十字固めよ!」
これは皆さんご存知の、”関節技”と聞いて1番最初にイメージするアレである。
円香が、仰向けに寝転ぶ俺の腕を自らの太ももで挟み込み、肘間接を逆側に折ろうと力を加えるアレだ。
「お兄ちゃん、痛かったらギブって言ってね!」
「わかった」
と言っても、そう安々とギブなどしてたまるか。
少し汗ばんだムチムチの太ももの肉感を、腕全体で味わえるんだ。
ムチッムチッ、ミチッミチッ。
···ん?
この感じは···
締め上げられている腕に伝わってくるのは、”ひじき”と”あわび”の感触。
円香のヤツ、また前バリが剥がれたのか!?
クソっ、よりによってこんな時にかよ···
どちゃくそラッキーじゃねーか!!!
ミシ、ミシ
「お兄ちゃん、大丈夫?痛くない?」
「まだまだー!もっとこい!カモン!」
ミシミシ、ミシミシ
「ねー、流石にヤバいでしょ?もうギブしたら?」
「···ま、まだだ!まだイケる!もっと、もっとだ!!」
「じゃあ、一気にギア上げちゃうよ。そいやっ!」
ボキボキ、グキバキ
「ぐぎゃーーー!!!俺の肘関節があらぬ方向にー!!!」
「ここまで骨の悲鳴が聞こえたけど、大丈夫和くん!?」
咲夜の心配をよそに、肘に甚大なダメージを負った俺は、そのまま息を引き取った···
···
···
カチッ。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!」
「やった、骨が丸見えだね。どう、円カン?折れたりしてない?大丈夫そう?」
「う〜ん、見た感じ問題ありそうだけど···まぁ、いけるっしょ!」
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!」
「円カン、このスタンガンの説明書を見るに、『ご利用は1日1回まで』って書いてあるけど···」
「やっべ、そうだった!お兄ちゃんには黙ってて、咲夜さん!」
急いでスタンガンを止める円香。
ちゃんとしっかり聞こえてるんだが···
1日2回使われたらどうなるのだろうか···
いや、知らぬが仏か。
高圧電流のショックから回復し、イスに腰掛け負傷した肘を擦る。
「いててて、円香、お前も容赦ねーな」
俺の隣のイスに腰掛けた円香が、身を寄せるように、負傷した俺の肘にそっと手を添える。
ドキッ♡が1割。
ズキッ!が9割。
「お兄ちゃん、私が痛みが引く”おまじない”をかけてあげるね♡痛いの痛いの、飛んでけ〜♡どう、お兄ちゃん♡可愛い妹の愛情パワーで、もう痛いの大丈夫でしょ♡」
「んなわけあるか、痛いに決まってるだろ」
「ですよね〜」
痛む肘を擦りながら、ふと思う。
いつか、この肘の痛みさえも、懐かしく、愛おしく思うような日が来るんだろうか。
この人生で1度しかない17歳の6月を、俺は将来、どのように思い出すのだろうか。
円香、俺たちがいい大人になった頃に、2人で酒でも呑みながら、『そんな事もあったね』って、思い出話に花を咲かせよう。
だからその為にも、アニナエル抗体をかき集めて、俺は必ずアニデイク細胞の活性化を止め、お前の命を救ってみせるよ。
「お兄ちゃん、一応その設定忘れてなかったんだね」
ご愛読ありがとうございます。
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