第34話.ミステリック ソルト
撮影が一段落つき、3人で少し休憩してから帰ろうかと話をしていたら、急に風紀委員室のドアが開け放たれた。
円香が迎えに来たのかと思ったが、意外にもそこに居たのは歩夢だった。
「先輩、なんか面白そうなことをやってるって噂を聞いたので、先日のお礼も兼ねて、野次馬がてら差し入れのオヤツを持ってきましたよ!」
「よう、歩夢···って、あれ、この部屋、鍵掛けてたはずなんだけど···」
「あぁ、私、この学園内の全ての部屋の鍵を、ピッキングで開けることができるんですよ。言ってませんでしたか?」
聞いてない、そんな物騒な話。
とんだ生体マスターキーだ。
その能力が何に活かされてるかは、あえて詮索はしないでおこう。
「って、桃瀬先輩!?なんですかそのスケベ衣装は!?AVの撮影でもしてたんですか!?」
いや、違うけど···まぁ、端から見たらそう見えるよな。
「映画っていうか、アニメの実写版の撮影をしてたんだよ」
「アニメ···あー!よく見たら、モモ子の初期の方の戦闘服じゃないですか!いや〜懐かしいな〜小学生の頃見てましたよ」
AVの撮影と勘違いされるような衣装が、国民的アニメの戦闘服である事にヤバさを感じるのは俺だけか?
キョロキョロと室内を見渡す歩夢。
「あれ、円香ちゃんは居ないんですか?」
「あぁ、今日の撮影はお休みだ」
「ちっ、いねーのかよ、期待して損した〜」
何を期待していたかは分からんが、円香、今日不在で助かったな。
「んで、なんだ、差し入れを持ってきてくれたのか?」
「あ、はい、オヤツに和菓子を持ってきました。宜しければ皆さんで食べてください」
「撮影が終わってちょうど小腹が空いてるし、ありがたく頂こうか」
「ねぇ、可愛いお嬢さん、あたしも頂いていいのかしら?」
咲夜が、可愛く小首を傾げながら歩夢に質問する。
そのナチュラルな仕草から、天然のぶりっ子属性である事が伺える。
「はい、どなたか存じ上げませんが、美少女なら何だってOKです!」
相変わらず、ルッキズムの権化みたいなヤツだ。
「ちなみに、何の和菓子ですか?」
俺と同じく腹が減っているのか、ソワソワと少し前のめり気味の春子。
「塩大福です!」
「良いですね、私、大福は大好物です」
「あたしも〜、汗かいて疲れた後に、塩分と糖分の同時摂取は助かるね〜」
···”塩”大福、だと。
「なぁ、歩夢」
「?なんですか」
「これは、誰の塩大福だ?」
「これですか?これは、私のお手製の大福ですけど···あぁ、安心してください。私の家、和菓子屋なんですよ。知ってます?知佳久野商店街にある”紫藤和菓子本舗”って店。だから、私もちゃんとお店に並べれるレベルの和菓子は一通り作れて〜」
「歩夢、俺が確認したかったのはソコじゃない」
お前が地元で評判の良い和菓子屋の娘だったのは嬉しい誤算ではあるが。
「俺が確認したかったのは、”誰の塩”で作ったか、だ」
お前の事だ、使われている塩の産地は、この江口杉学園内の美少女の汗なんだろ。
「それは、企業秘密ですよ♡」
いや、誤魔化さず教えてくれよ。
無邪気に”塩”大福にパクつく春子と咲夜。
「あら、美味しい。これが紫藤さんの手作りとは、素晴らしい腕前ですね」
「うん、美味しい!程よい塩分と甘いあんこがカラダに染みわたる〜」
いいなぁ···
俺も何も知らない状態で味わいたかったなぁ···
知らぬが仏とはよく言ったものだ。
「ほれ、和くんもどうぞ。美味しいよ!」
咲夜から手渡された”塩”大福を見る。
あのルッキズムの具現化みたいな女が用意した”塩”だ。
おそらく、それなりの美少女の汗が原料であることに疑いはないが···
「なぁ、歩夢、教えてくれよ。いったい誰の”塩”なんだ?」
緑川と春子でないのであれば、水泳部の水上とか、生徒会長の橙坂あたりを希望したいところだが。
いや、あえてのギャル枠で、紅林なんてのもアリだなぁ。
「企業秘密です。先輩といえど、簡単には教えられません。橘先輩の〇〇と引き換えに、本人から直接採取させて頂けたんですから」
夏希、お前かよ!
春子といい歩夢といい、いったいどうやって橘君の〇〇を入手しているんだ···
まぁ、産地が分かったからいいか。
夏希、お前の”塩”なら、喜んで頂こう。
むしろ、なんか、興奮してきたな、デュフフ。
俺は、手に持った歩夢謹製の”夏希大福”にかぶりついた。
パクッ。
「うまっ!」
夏希、お前は汗塩の味なら、緑川や春子に勝るかもしれないぜ。
「ご馳走様でした」
大福を3個たいらげて満足そうな春子が、行儀良く手を合わせる。
「あの〜、桃瀬先輩、実はお願いが1つあるのですが〜」
ニタニタとイヤらしい笑みを浮べながら、歩夢がグイッと春子へ身を寄せる。
コイツのことだ、どうせろくでもない事を言うに違いない。
「なんでしょうか?」
「前からずっと夢だったんですけど、桃瀬先輩の汗ばんだ膝裏を、舐めさせてもらってもいいですか?」
俺の想像以上に、ろくでもないことだった。
人様の膝裏相手に、勝手にそんな夢をみるな。
まさか”歩夢”と名付けた両親も、愛娘がこんな夢に向かって歩いているとは想像もしてないだろう···
「私の膝裏ですか?いいですよ」
2つ返事で安請け合いする春子。
「今ちょうど汗ばんでますし、どうぞ」
そう言って、その膝裏を歩夢の方へ向けるようにして立ち上がる
「うひょ~、ラッキー!言ってみるもんやなぁ!この女チョロ過ぎんだろ!!!」
漏れてる、心の声丸聞こえだぞ歩夢。
「では、お言葉に甘えて···」
ペロペロペロペロペロペロペロペロ。
春子の左脚の膝裏を、微塵も遠慮を感じない舌さばきで舐める歩夢。
「あっ、そこっ、いいっ、この娘、テクニシャンですね///」
「うめー!大和撫子の天然膝裏の生汗たまんね〜!!!」
···はぁ~、見てられんな。
「おい、春子、歩夢!」
「?」「?」
「右脚の膝裏は、俺に譲ってくれないか?」
「お兄ちゃん!撮影終わったみたいだね、お疲れさま。一緒にか、え、ろ···」
「ま、円香!?」
俺は、急いで春子の膝裏を舐めていた舌の動きを止めた。
「咲夜さんから撮影が終わったと連絡を受けたので駆けつけてみたら···お兄様、いったい何をなさっているのですか?」
妹様、笑顔が怖いですわよ···
「いや、これは、誤解なんだ!」
「お兄様が春子さんの膝裏を舐めていたという事象のどこに、いったい何の誤解が生じるとおっしゃるのですか?」
「···不可抗力で」
「お兄様が春子さんの膝裏を舐める結果に繋がる”不可抗力”が存在するのなら、その奇天烈な現象について是非説明して頂きたいのですが」
「実は、かくかくしかじかで〜」
「そんな平仮名8文字で都合良く説明できるわけねーだろ、ボケ」
くそ、やはり俺には使いこなせなかったか
「じゃあ、あたし達はお先に失礼しま~す···和くん、バイバイ···」
「先輩、さようなら···」
あ、逃げやがったな、あいつら。
今生の別れみたいな顔しやがって。
春子、頼れるのはお前だけだ···
頼む、弁明してくれ!
伝われ、俺のアイコンタクト!!!
「和哉君、自ら舐めることを志願してきただけあって、情熱的な舌技、お見事でした///」
···引導を渡された。
終わった。
「春子さん、先に帰ってもらっていいかな?私はこのゴミカスともう少し”お話し”してから帰るので♡」
···
···
···ん?
ふと、目が覚めた。
···あれ、お決まりのパターンだと、あのままフェードアウトして次のエピソード、撮影2日目へ進むかと思っていたのだが···
アタマは覚醒してきたが、身動きは取れない。
俺の現状を一言で表すとすれば、”芋虫”といったところか。
縄で手足が縛られ、床に仰向けの状態で放置されている。
「うーううーうー」
口には強粘度のガムテープが貼られており、”音”は出せても”声”は出せない。
鼻が塞がれていない点に関しては、素直に感謝しておくべきだろうか···
「やっと起きましか、お兄様」
声のした方向へ視線を向ける。
辛うじて見える視界の端に、俺を縛りあげたであろう犯人が椅子に座っている姿が確認できた。
もちろん、それは愛しのマイシスター、プリティー美少女の円香ちゃんだ。
「今更媚びても遅いですよ」
···ダメだったか。
立ち上がり、近づき、俺の頭の先で歩みを止めた彼女。
生逆さパンモロを堪能できるアングルではあったが、今はその赤色のエチエチパンティーに集中していられるような状況ではないことは、流石の俺にも分かっていた。
「お兄様、そんなに女性の脚がお好きなら、私に言ってくだされば良かったのに···」
俺の場合、脚に限らず乳も尻も好きなので、しいて言うならば女体フェチなのだが。
「今から、お兄様が大好きな”女の子の足”を、堪能させてあげますわ♡」
円香さん、さっきからずっと目のハイライトが無いので凄く怖いですわよ···
右足のローファーを脱いだ円香は、その足裏を床に着けることなく、仰向けの俺の顔に乗せた。
踏みつけられたわけではないので、痛みは感じないのだが···
「どうですか、お兄様。湿度の高い梅雨真っ盛りの6月に、1日中ローファーの中で熟成された、JKのムレムレ紺ソックスの足裏の臭いは?」
少しツーンとした、ムワッとした臭いが、俺の鼻腔に襲いかかる。
グエッ。
あまりの濃厚な臭いに、むせ返りそうだ。
どれだけ面が良かろうが、臭いところは臭いのだという当たり前の事実を、鼻腔を介して脳に直接レクチャーされる。
「しかも今日は、20mシャトルランの測定があったので、通常よりも格別にムレムレだと思います。お兄様、ラッキーでしたね。日頃の行いの賜物でしょう」
なんて日だっ!
臭いを嗅ぎたくなくても、口が塞がれて鼻呼吸しかできない状況のため、生きる為には鼻から空気を取り込まざるおえない。
スー、スー、スー、スー。
まだ死にたくない俺は、酸素を得る為に、JKのムレムレ紺ソックスの臭いに犯される事を選択した。
「そういえばお兄様、先程はそのお口で女の子の脚を味わっていましたよね。嗅覚だけでなく、味覚でも私の足を味わいませんか?」
そう言って円香は、一度右足をローファーの中に収めると、逆に左足をローファーから抜き取り、着用されている紺ソックスをスルリと脱いだ。
そして、俺の口を塞いでいたガムテープを配慮なく力任せにビリっと剥がす。
「痛っ!まど、グボッ!」
『円香、てめぇー』と言うより早く、俺の開かれた口腔内に、今しがたまで左足に着用されていたムレムレ紺ソックスがねじ込まれた。
口いっぱいに、あの”蒸れた靴下特有の臭気”の風味が広がる。
「ゔーうぅーゔー」
「どうですか、お兄様。JKが1日中履いていたムレムレ紺ソックスのお味は」
「ゔーうぅーゔー」
「体をそんなにバタバタと動かして、余程美味しいのですね。喜んで頂けたようで私も嬉しいです」
「では、大好きなお兄様により喜んで頂く為に、”2つ穴同時攻め”と行きましょうか♡」
そう言って円香は、再び右足を俺の鼻めがけて突き出した。
先程は足裏攻めだったが、今度は足の親指と人差し指を鼻の穴にねじ込むように突き刺してきた。
い、息が、苦しい。
そして、さっきよりも、より臭いがキツい!
「足の臭いは、指と指の間の蒸れ具合によって増幅するようです。つまり、指と指の間が1番臭いという事ですね」
その1番臭い部分を俺の鼻に押し付けながら、そんな解説をする円香。
鼻も口も、円香の”ムレムレ紺ソックス”で飽和状態だ。
ぐおっ、圧倒的なまでの”臭い”の暴力。
ダメだ、このままでは···
びゅる!びゅるる!びゅる···
「···ん、この臭い···お兄ちゃん、まさか!?」
ありがとう、妹様よ。
お前のおかげで、新たな性癖が開拓できたよ。
”JKが1日中履いていたムレムレ紺ソックスの臭い”よ。
はじめまして。
そして、これからも末永く宜しく。




