第31話.マンデー インザ レイン
次の日の月曜日、雨が降りしきる放課後、風紀委員室に、俺,円香,緑川,春子の4人で集合した。
「何、話って?」
緑川が、こちらの様子を伺うようなトーンで話を切り出す。
「お前ら、”逆バニー戦士ミミ子”って知ってるか?」
俺の問いに、頷く2人。
どうやら、”名前を聞いたことはある”程度の知識らしい。
「知っているなら、とりあえずコレを見て欲しい」
俺はカバンから取り出した、ミミ子の原作漫画8巻を緑川へ,9巻を春子へ手渡した。
「今は内容はおいといて、敵の怪人”ドウテイ”の顔を見て欲しい」
「顔?······こ、これって!?」
「···どう見ても、和哉君ですね」
「どうして和哉君が漫画に出演されているのですか?」
「知らん、俺が聞きたいぐらいだ」
「有名人だったのですね。とりあえず、サインを頂いてもいいですか?」
春子のヤツ、相変わらずのアホっぷりだな。
ツッコミにかかるカロリーと、サインを書くカロリーを天秤に掛けた結果、俺はメモ紙に適当なサインを書いて手渡してやった。
「ありがとうございます。大切に部屋に飾っておきますね」
「···春子、代わりと言ってはなんだが、この紙にお前のサインを書いてもらってもいいか?」
「わかりました」
「ちょっとあなた、それって例の紙じゃないの!桃瀬さん、その紙、書かない方がいいわよ」
「何ですか、この紙は?」
「お前の”あたシコ許可証”だ。俺がお前をおかずにシコることを許可して欲しい」
「ええ、私は構いませんよ」
スラスラと、許可証に名前を書いてくれた。
よし、帰宅したら、緑川の”あたシコ許可証”の隣に飾っておこう。
「和哉君、重ねるようで悪いのですけど、私のこの紙に名前を書いてもらってもいいでしょうか?」
「いいけど、何の紙だ?」
「”俺しこ許可証”です。お互い様ということで」
いや、お前はシコれないだろ···。
「私、相撲は少し自信がありますよ。のこった、のこった!」
春子、それはシコじゃなくて四股だ。
「とりあえず円香、この2人に説明してもらっていいか」
「OK!今回はかくかくしかじかというわけで〜」
「というわけだから、動画撮影に協力してもらいたい」
「い、嫌よ!こんな痴女みたいな格好で撮影なんて!」
ぽかーん。
「な、なによ、その顔」
「いや、夜な夜な全裸徘徊している女が、他者を痴女呼ばわりしている場面に遭遇したらこんな表情にもなるさ、なぁ円香」
同じくぽかーん顔の円香も、俺に同意し頷いている。
「ともかく、こんな下品なスケベ衣装を着て撮影なんて嫌よ!ねぇ、桃瀬さんも分かってくれるでしょ」
「動画撮影···映画化···ハリウッド···アカデミー賞···」
「も、桃瀬さん?」
「私はやります。いえ、やらせてください!このチャンスをモノにして、アカデミー賞を狙います!」
「バカっ!こんな動画の行き着く先は、ハリウッドじゃなくてFA〇ZAよ、目を覚まして!」
「へ〜、緑川、F〇NZAとか知ってんだ」
ニチャア。
「っ!···と、とにかく!私はこんなエッチな格好はしません!破廉恥だわ!」
こいつ、日が出ている内はむっつりスケベだから、一筋縄ではいかないか。
どうしたものか···
「ね〜楓さん、お願いだよぉ、私の命が懸かってるんだよ」
「うぅ、そんなウルウルとした小型犬みたいな目で私を見ないで。円香の頼みとはいえ、この件は首を縦に振れないわ」
「へ〜、楓さん、そんなツレないこと言うんだ〜、ふ〜ん」
「な、何よ···」
「楓さんがYESと言ってくれないと、この映像がFA〇ZAに流出しちゃうかもなんだけど〜」
そう言って、円香は自分のカバンの中からある物を取り出し、俺たちの前に掲げた。
DVDのパッケージサイズのケースに、タイトルらしきものの記載があるので読み上げる。
「なになに、【真春の夜の淫夢 Hカップデカ乳輪風紀委員の、廃ビル屋上露出青春白書】とな」
「なっ!?円香、この前のアレ、撮影していたの!?」
「楓さん。この動画がFA〇ZAに10円で流出するのと、私たちに協力してミミ子の動画作成に付き合うの、どっちがいいかにゃ〜?」
円香、お前も容赦ねーな。
せめて、新作980円ぐらいの値はつけてやってくれ。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ···わかったわ、やってやろうじゃないの!やるからには、納得のいく作品に仕上げてやるわ!」
「えぇ、緑川さん。目指せ、アカデミー賞です!」
2人とも、期待しているぜ。
俺が保証する。
お前達なら、FA〇ZAの年間セールス1位も夢じゃない。
「では、話もまとまったところで、今回の監督にご登場願いましょう、どぅるるるるるるるる、どん!」
円香の下手くそな巻き舌ドラムロールの合図に併せて、風紀委員室のドアが開かれた。
「いえ〜い、キャストのみんな、超監督の黒峰咲夜で〜す!今回の撮影、協力ヨロシクね!」
現れたのは、俺好みの激細スリングショット水着(のようなコスプレ衣装)を着用した痴女だった。
股間を起点に両肩にかけて伸びるV字の布が、辛うじて股間と乳首を覆い隠してはいたが、それ以外の部分については肌色全開、ノーガードの丸見え状態だった。
咲夜、そのエグい食い込みのコスプレをする時は、もう少し下の毛の処理を丁寧にやった方がいいぞ。
「お前、その格好で廊下で待機してたのか···誰かに見られたりしなかったか?」
「う〜んとね、掃除道具を持った用務員のおじちゃんが通りがかったから『おつかれさまで〜す』って声を掛けたんだけど、前屈みになって早足で男子トイレに駆け込んで行っちゃった。トイレ掃除ヤル気満々の、仕事熱心な人だね〜」
今年で定年を迎える用務員の門倉さん。
男としての機能は、まだまだ現役のようだ。
「うわー!この2人が、ミミ子とモモ子役の娘!?円カン以上の超絶美人さんじゃん!!!」
痴女が変態2人を見て目を輝かせている。
「このヤバい人が、今回のターゲットの性力の達人なの?」
緑川が眉間にシワを寄せて、咲夜に冷ややかな視線を向ける。
「いやん、美人さんにそんな目で見られると、濡れちゃう♡」
その感性には禿げあがるほど同意だが、このままコイツのペースにのまれると話が進まないから気をつけねば。
まさかファミレスに2話丸々滞在するとは、こちらとしても想定外だったぞ。
「あたしは、音成の2年、黒峰咲夜です!咲夜って呼んでください」
変態2人にペコりと頭を下げる痴女。
俺の隣にいるその痴女は、スリングショット水着の構造状、横から見たら全裸と相違ない状態だ。
今ほど頭を下げた際、前屈みになったことで、胸に重なる部分の布地が浮いて乳首が垣間見えた瞬間を、俺は見逃さなかった。
俺でなきゃ見逃しちゃうね。
ニチャア。
「緑川先輩と桃瀬先輩ですね、ヨロシクです!あの〜、宜しければ愛称でお呼びしてもいいですか?」
「私は構わないけど」
「私は、むしろその方が嬉しいです」
「じゃあ、緑川先輩は、グリーンリバーだから、”グリリバ”とかどうですか?」
「ストップ、それはダメだ」
「え、和くん、何でダメなの?」
「ダメなものはダメだ。別のにしなさい」
声優ヲタクの女に見つかったら、小説のデータを全削除されかねない。
そんな危ない橋を、俺は渡りたくはない。
「それじゃあ、”緑ン”は?」
「それならOKだ」
「私も、何だっていいわ」
「じゃあ、緑ンで決定!桃瀬先輩は、”春タン”とかどうですか?」
「私の呼び方はそれでいいのだけど···黒峰さん、先程から1つ気になる事があるのですが···」
「なんですか?」
「あなた、先程から和哉君のことを”和くん”って呼んでませんか?」
「うん、あたしとダーリンの関係だと、それぐらい普通だよ」
「ダ、ダーリン···」
「おい咲夜、また話がややこしくなるような事を言うな!」
「もう、和くんもみんなの前だからって照れちゃって。あたしで童貞卒業したくせに♡」
は?何言ってんだコイツ?頭ワいてんのか?
「和哉君、あなた、私という者がありながら···それを差し置いて他の女で童貞を捨てるなど、許せません!」
頬を膨らませ、語気を強めて、俺に詰め寄る春子。
あれ?いつの間にか、春子とのフラグが立ってたりする?
「桃瀬さん、落ち着いて。こんなキモいヤツが、脱童貞できるわけないでしょ。私が保証する、こいつは生涯童貞よ」
クソっ、緑川のヤツ、17歳男子に向かって酷いことを言いやがる。
「そうだそうだ!お兄ちゃんは生涯童貞だ!」
円香、わざわざ追撃しないでくれ。
死体蹴りが過ぎるぞ。
「では、私に、和哉君が依然として童貞のままであることを証明してください」
「わかったよ、春子さん。次回、お兄ちゃんの童貞裁判を開廷します!」
こいつら、人の貞操をおもちゃにしやがって···
それはそれとして。
「なぁ円香。お前、春子のこと、前まで”桃瀬さん”って呼んでなかったか?なんで急に”春子さん”に変わったんだ?」
「楓さんと呼び方がカブってたら、今後書き分けが大変だと思って、”春子さん”に呼び方を変えてみたんだけど、ダメだったかな?」
偉いぞ円香。
流石はこの小説のメインヒロインだ。




