第30話.恥知らずのパープルパンツ
「咲夜、お前の望みは分かった。俺たちはその撮影に全面的に協力するよ」
「ほんと!?やった!ありがと!」
「ただし、交換条件がある。円香、説明を頼む」
「実は、かくかくしかじかで〜」
「なるほど、日曜日の朝っぱらからお盛んな兄妹ね···」
「お前がイカ臭くなった理由の説明じゃねーよ」
「了解!円カンへの体液提供の件、承りました!」
ビシッと、敬礼ポーズをキメる咲夜。
とりあえず、話がまとまって良かった、と思いたい。
「絶頂後の体液が欲しいなんて、あたしとしては好都合かも」
「というと?」
「あたしね、アニメとか映画を見て感動した後、もっと言えばイっちゃった後に、嬉ションしちゃうんだよ〜」
テヘヘと恥ずかしそうに、髪をイジりながら照れ笑いする咲夜。
え、こいつ、その粗相を俺たちに処理させようとしてる?
「つまり私たちは、咲夜さんがイっちゃうぐらいの完成度の動画を撮影して、上映後に撒き散らされた”レモンティー”をゲットしろってことですね!」
「”レモンティー”か···」
「和くん、あたしの”レモンティー”は流石にイヤかな?」
「いや、その逆だ。俄然ヤル気が湧いてきた」
「動画撮影となると、他にキャストが必要になるのよね〜。ドウテイ役はもちろん和くんとして、あたしは監督兼カメラマンだし、戦士のミミ子役,格闘家のムム子役,魔法使いのモモ子役の女性3名が必要なんだけど···」
と言った咲夜の目が円香に向けられる。
「ねぇ、円カン。前髪を左右に分けて、おデコを見せるようにしてみて」
「こうですか?」
「あ〜、良い!めっちゃ良い!これはムム子役に適任の逸材よ!おっぱいもあたしぐらい大きいし、文句無しだよ。ムム子役は円カンに決定!」
「あ、はい、私でよければ頑張ります!」
確かに、先程パネル展で見ていた格闘家のムム子のイメージを思い返せば、にわか勢の俺から見ても、円香は十分にハマり役だと思えた。
「あと美少女2人が必要なのよね〜。円カン程の可愛さを求めるなんて贅沢は言わないから、どこかに”黒髪ロングのHカップ”と”黒髪ロングの大和撫子”が落ちてたりしないかな〜」
「安心しろ、咲夜。その条件の2人なら、円香以上のルックスの人材を我らが江口杉学園は有している。」
「円カン以上が2人も!?うそっ、江口杉の選手層厚すぎじゃない!?なんてお楽しみエチエチ学園なの···あたし、転校しちゃおっかな」
「お前の為に女子校となった音成学院を、せめて無事卒業してやるのが筋ってもんじゃないか」
「も〜和くん、冗談に決まってるじゃん。マジな反応ウケるんですけどw」
お前の冗談は、冗談で済まなさそうな怖さがあるんだよ。
「というわけだから、さっそく明日の放課後、江口杉に来てもらいたい。その美少女2名と顔合わせをしよう。詳しい場所と時間帯については後からRIENで連絡する。だから咲夜、RINEを教えてもらっていいか」
「OK!」
咲夜が取り出したスマホの画面上のQRコードを読み取り、”友達”に追加する。
「和くん、とりあえず何か適当に送ってみて」
俺は、ひどく手慣れた指さばきで、ある文面を高速で入力し送信した。
ピロン。
「なになに、『今日何色のパンツ履いてるの?』って、和くんのエッチ〜。ちなみに今日は濃いめの紫だよ」
おお、聞いてみるもんだな。
緑川なんて、毎日送ってるのに既読すら付けないからな。
「お、お、お兄ちゃんが、女の子とRINE交換してる!?」
「いや、緑川とか春子ともしてるし、今更驚かんでも」
わなわなと震えながら、驚きを隠せないといった様子の円香。
「この驚きは、ミジンコの正面画像を初めて見たとき位の衝撃だよ」
なんだその微妙そうな衝撃度合いは。
まぁ、一応調べてみるか。
『ミジンコ 正面』で画像検索してみる。
「うわ〜、思いのほかキモいな」
「はぁ~、お兄ちゃんがどこの馬の骨かもわからん女に寝取られそうだよ···」
馬の骨て。
本人を目の前に、あんまりそういうこと言わないほうがいいぞ。
「ははは、円カンは手厳しいなぁ〜」
良かったな、咲夜が寛容なヤツで。
”黒峰”の権威の前では、俺たちなんて馬の骨どころかミジンコ以下だぞ。
「ほんと、モテないくせに、浮気性だから困りものだよ。穴があれば誰だっていいんかい、まったくもう」
人聞きの悪いことを言うな。
何でRINE交換しただけでここまで言われなきゃならんのだ。
「って、もうこんな時間なの!あと10分で、今回の会場限定のグッズ配布が始まっちゃうよ!整理券まだ残ってるかなぁ···。お兄ちゃん、咲夜さん、私もうお店出るね!」
そう言って、円香は足早に飛び出すように店から出ていった。
去り際、捨て台詞のように「お兄ちゃん、2人きりだからって、浮気しちゃダメだからね!」と釘を刺されてしまった。
といっても、俺も咲夜に明日の用件は伝えたし、後は円香が会計を俺に押し付けていった”デラックスぷりんアラモード”の支払いを済ませて解散するだけなのだが···
「円カンって、ほんと和くんのことが大好きなんだね〜」
「あぁ、それが俺の唯一の自慢だ」
「でも、浮気しちゃダメって言われたらさ〜、逆にちょっと味見したくなるよね〜」
そう言った咲夜は、ブラウスのボタンを上から1つ2つと外し、片手で胸元をグイッと広げ、自らの谷間とそれを形成する紫色のブラの上部を見せつけてきた。
「どう、和くん。あたしのおっぱい、エロいっしょ?」
「バカ、やめろ!他の客に見られたらどうする」
「今の時間帯、お客さんも減ったし、大丈夫だよ」
確かに彼女の言う通り、俺たちの席から見える範囲は全て空席だった。
「ほら、もっとよく見ていいんだぞ、童貞君♡」
立ち上がり、前かがみになった彼女の無防備な谷間に、目が奪われる。
「あ〜、もういいから、早くそのご自慢の乳を閉まってくれ」
3分程じっくり鑑賞させてもらった後、そう言ってブラウスのボタンを留め直させた。
「あたしのおっぱいが和くんのお気に召したようでなによりだよ」
「あ~、ごめん和くん、テーブルの下にカラコン落としちゃったから、拾ってもらっていい?」
「はいよ」
極上の谷間を見せてもらったんだ、これぐらい快く引き受けよう。
机の下に潜り、カラコンを探すが見当たらない。
「咲夜、どの辺に落としたか分かるか?」
「こっちの方なんだけど、ちょっと顔を上げてもらっていいかな?」
咲夜の足元から、顔を上げる。
なっ!?
大胆に開かれた脚の間、太ももの奥、網タイツ越しにパンツが丸見えの状態だった。
先程の本人の申告通り、深めの紫に黒の刺繍が映える、そんなスケベ全開のパンツだった。
見たらわかる、高いヤツやん!
円香が普段使いしている上下合わせて5000円程度の代物とは明らかに格が違う、この高級感。
”黒峰のご令嬢”に相応しい、ロイヤルパンティー。
「お、お前、パンツ見えてんぞ!」
「わざと見せてるに決まってるじゃん、ウケるw」
男にわざとパンツを見せつけて、いったい何がウケるというのだろうか。
「···で、カラコンはどこにあるんだ?」
「ん〜とね、ここの方にあると思うんだけど〜」
そう言って咲夜は、自らのそのパンツの中央付近を、人差し指でツンツンとタッチした。
「んなところに、あるわけねーだろ」
「確かめてみなきゃ、わかんなくない?」
···
「和くんは、確かめてみたくないの?」
俺の顔は、かがり火に引き寄せられる羽虫のように、本能的に咲夜の下腹部へと引き寄せられる。
その目的地が目前に迫ったところで、グバッと、咲夜に後頭部を捕まれ、彼女の股間に顔面を押し付けられた。
必然、彼女のパンツに飛び込むように顔を埋める形となる。
パ、パンツに、美少女JKの着用中生パンツに顔を埋めているっ!
辛うじて、鼻から空気を取り込む。
雌の匂いか下着の匂いか、香水の匂いかボディーソープの匂いか分からないが、とにかくリアルな黒峰咲夜という女の匂いが、雪崩のように鼻腔へ押し寄せる。
「ねぇ、和くん」
呼びかけに応じ、彼女の顔を見上げる。
「カラコンは見つかりそう?」
「···いや」
多分俺には、一生をかけてもそのカラコンは見つけられないだろう。
布越しの36.8℃で火傷する前に、テーブルの下から這い出した俺は、再び咲夜の対面の椅子に腰掛けた。
「どうでしたか和くん。あたしのパンツはお気に召しましたか?」
「お気に召すも召さないもないだろ、そんなもの」
「そんなこと言って〜、こっちの方は正直みたいだけど」
フミフミ
「ちょっ!?バカ、やめろっ!」
俺の固くなった”しめじ”を、対面から脚を伸ばした咲夜が、網タイツ越しの足裏で弄ぶ。
ツンツンとソフトタッチするような足さばきが、焦らされているようでもどかしい。
「和くんの”えのき”、デカくなってんじゃん」
「···俺は通常時でこのサイズなんだよ」
「ふ〜ん、起ってないなら、こんなことされても大丈夫だよね〜」
咲夜は、伸ばした両足の足裏で、器用にズボン越しの俺の”えのき”を挟み込んだ。
「うひっ!」
咲夜は、俺のリアクションを見てニヤリと笑みを浮かべると、両足を上下にズリ動かし始めた。
グイッグイッグイッグイッ
やべっ、これっ、気持ちよすぎるっ!
やけにテクニシャンな咲夜の足技の刺激に連動するように、腰が疼きケツが浮き上がる。
「ダメ、やめろ、これ以上されたら、もうっ!」
「了解で〜す。やめま〜す」
スッと、咲夜が脚を引っ込める。
え、やめちゃうの?
イってはいけないという理性と、イきたかったという本能が渦巻き、頭がクラクラする。
「どうしたの、和くん?そんなお預けをくらったワンちゃんみたいなカワイイ顔して」
もう、どうなってもいい···
他のことは、今はどうだっていい···
俺の心中は、ただただ”発射したい”、それだけだった。
「しょうがないな〜。童貞くん、こっちおいで」
ベンチシートの自分の隣の席をトントンと叩く咲夜に操られるように、俺はそこに腰を降ろした。
「和くん、何か期待してる?」
「言わなくても分かってるだろ、だから早く···」
「むふふ、がっついちゃって、かわい〜」
咲夜は、自分が飲んでいる途中のオレンジジュースが入っているグラスを持ち上げた。
「和くん、あたしは今から、このオレンジジュースを和くんのズボンに溢しちゃうかもしれません。そうなった場合、あたしはその後何をすればいいと思う?」
「ズボンが濡れたら、そりゃ、拭いてもらう必要があるな」
「そう、あたしが和くんのズボンを拭いてあげる。この手で、ゴシゴシゴシゴシって、和くんがスッキリするまで、手を動かしてあげるね」
グラスを持っていない方の手が、ズボン越しに俺の”えのき”にそっと添えられる。
期待値がピークに達した俺は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
すまん、円香···
浮気性の兄を許してくれ···
「あっ、手が滑っちゃった〜!」
ビシャーーーー。
ひどく棒読みな台詞と共に、頭上から突如として、バケツをひっくり返したかのような量の熱湯が降り注いだ。
「あちゃちゃちゃちゃちゃ!!!あっちー!!!」
「も〜、私ったら、ドジっ子なんだから〜、テヘッ」
熱さにうなされながら振り返ると、そこにはバケツを持った円香が立っていた。
「ま、円香!てめー、殺す気かっ!!」
「うん、殺す気だけど」
···目がマジだ。
「···どこから聞いてた?」
「お兄ちゃんの体に盗聴器が埋め込んであるから、最初からずっと聞いてたよ」
そういえば、GPSが体内に埋め込んであると言ってたな。
同様に、盗聴器も仕込まれていたらしい。
「咲夜さんから仕掛けてくる分には、まあ目を瞑るとしても、自分からおねだりしちゃったら、それはもう浮気だよね」
「···おっしゃる通りです」
「というわけで、店員さーん。金たわしと、スライサーと、ピーラーって、貸してもらえたりしますか〜?」
「···あの、円香さん、今からいったい何が始まるのでしょうか?」
「制裁♡」
···ダメだ、目がキマっている。
「咲夜!元はと言えばお前が、って居ないし!?」
テーブルの上には書き置きが1通。
「後はヨロシクね、和くん♡」
俺は、絶望の最中、ある事を思い出し、財布から1枚の紙を取り出した。
「あの〜、円香さん。これ、このお店で使用できる10%OFFクーポンなんですけど、適用して頂けませんか?」
「···いいよ。60分コースを、50分にしてあげるね」
約16%OFFが適用された。
何事も言ってみるもんだな。




