第28話.2.5次元の憂鬱
「···お兄ちゃん、男としてのスペックはゴミだけど、雄の機能だけは無駄に一丁前だよね」
結局あの後、更に追加で2回、合計5回の射出を受けきった妹が、ジト目で睨みをきかせてくる。
追加2回分の”練乳”を、腕なり脚なりお腹なりに塗りつけ、”兄の使用済みティッシュ”の擬人化と成り果てた妹の身体は、首から下の全面に俺の”練乳”が塗り込まれている状態だ。
今頃、そのパジャマの下は、それはもうカピカピになっていることであろう。
「これだけお盛んだと、将来お兄ちゃんの彼女になる人は大変だろうね」
まぁ、俺みたいなクソゴミスペックのシスコン童貞野郎に、彼女なんて一生できないだろうけどな。
「と思う和哉であった」
「勝手にモノローグを語るな。俺にだって、いつか彼女ができるかもしれないだろ」
「ははっ、お兄ちゃんに彼女とかできるわけないじゃん、ウケる」
ヤメて、そのシンプルなリアクションが1番ダメージデカいから。
いつもみたいに、『お兄ちゃんには私がいるでしょ♡』的なこと言ってくれよ。
「お兄ちゃんに彼女ができたら、私のへそで茶を沸かしてあげるよ」
みてろよ、円香。
へそフェチの読者に、”へそで茶を沸かす美少女JK”を拝ませてやる。
「そんなさえない童貞野郎のお兄ちゃんの無価値な日曜日に、可愛い妹が華を添えてあげましょう」
「何をするつもりだ?」
「この美少女JKがデートしてあげる」
「デート?どこに行くんだ?」
「ふっふっふっ、それはね···」
それは···
「エオンモールだよ!」
円香、地方のエオンモールに華はねえよ。
「エオンか···」
「なに、お兄ちゃん、こんなスーパー美少女JKからのデートのお誘いにノリ気じゃないとはこれいかに」
こちとら、日曜の朝から5発も抜いた後だからなぁ···
ぶっちゃけ、めんどくせーなー。
こんな1日中賢者タイム確定の日は、ベッドに寝転がってヨウツベのショート動画を目的もなく流し見るのが1番なのだが···
「そうだ、部屋の片付けをして、ある程度荷造りも進めておかないと」
「何、お兄ちゃん、私たち引っ越しでもするの?」
「いや〜、この作品がBANされたら、ノクターンノベルズの世界線に引っ越ししなきゃいけないだろ」
「お兄ちゃんも一応、内容的にマズいという自覚はあったんだね」
ピンポンパンポーン
『迷子予定のお知らせです。青山和哉君と妹の円香ちゃんが、今後突然迷子になった時は、読者の皆様には、ノクターンノベルズまで足を運んで頂き、引き続き完全版をご愛読頂ければ嬉しく思います。これからも、2人を宜しくお願い致します』
「この声は、母さん!?」
「宇宙ステーションからわざわざ···まさに天の声だね」
「わかったよ、お兄ちゃん。交換条件を出してあげる」
「なんだ?等身大の緑川のデカ乳輪缶バッジでもくれるのか?」
「···欲しいの、それ?」
「今年のクリスマス、サンタさんにお願いするつもりだ」
「その歳でサンタを信じている事に対しての驚きが霞むぐらい、キモが過ぎるよそれは」
はぁ~、と呆れながら溜息をつく円香。
溜息が多いのは、俺たち兄妹の共通の癖だ。
別に、”作者の語彙力が足りてない”とか、”作者が他の表現技法を知らない”とか、決してそういうわけではないのであるからして···
「お兄ちゃん、一緒にエオンデートしてくれたら、今回の章の最終話で、一緒にお風呂に入ってあげるよ」
まぁ、そういうことであれば、行ってやってもいいか。
「わかった、今日のエオンデートは承ろう。ただな円香、数日後に俺とお風呂に入る算段を立てる前に、とりあえず、今直ぐにでもシャワーを浴びてきてくれないか」
「やだっ、先にシャワー浴びてこいとか、お出かけ前に妹と”えっち”する気なの?やらし〜、ほんとお兄ちゃんスケベなんだから」
違う、お前の体臭がイカ臭いから、世に放たれる前に清めて来て欲しいだけなんだ。
バスと電車を乗り継ぎ、2つ隣の市の駅前にあるエオンモールには、9時のオープンちょっと前に辿り着いた。
「で、何で近場のジェスコじゃなくて、わざわざエオンまで来たんだ。新しい下着でも一緒に選んで欲しいのか?」
「そのプレイも悪くないけど、第7章あたりで別の女の子相手にするみたいだから、今回はおあずけかな」
お相手は誰だろう。
緑川だったらいいなぁ。
ブラの上部からはみ出す乳輪···でゅふふふ。
「今回のお目当てはコレよ!」
円香は、入り口付近にデカデカと掲示されているポスターを指差した。
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【逆バニー戦士ミミ子フェス】
会場限定グッズ販売,声優トークショー&握手会,歴代戦闘服勢揃いの等身大パネル博覧会、原作漫画原画展など豪華イベント盛り沢山! 会場:1F中央広場
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どうやら、円香はこのイベントがお目当てだったようだ。
”逆バニー戦士ミミ子”か。
毎週金曜、夕方18時30分から放送されている、今や国民的アニメと称される超人気作品。
タイトル通り、逆バニーの格好をしたミミ子と、同じくどう見ても痴女にしか見えない戦闘服(というか布切れや紐)を着用した仲間達が、世界の秩序を乱す怪人たちと闘う内容のアニメだ。
そんなドエロい格好で金曜夕方の電波をジャックしている彼女達の方が、怪人よりよっぽど社会秩序に悪影響を及ぼしているように思われるが、なぜかこの世界線の日本では市民権を得られているので不思議でならない。
そして、どうやら俺の妹も世間の例に漏れず、この作品のファンの一人だったらしい。
9時ちょうど、開け放たれた入り口の自動ドアめがけて、平常時よりも多いと思われる開店待ちの群衆が、雪崩のように押し寄せる。
俺と円香も、周りのおそらくミミ子ファンの老若男女に巻き込まれるかたちで入店し、その流れに乗りながらイベント会場を目指す。
「お兄ちゃん、なんか今日のエオン、やたらイカ臭くない?ガチヲタの人が多いからかな?」
違う、その臭いの発生源はお前だ。
だからシャワーを浴びてから出かけようと言ったのに拒否しやがって。
今現在この地球上で、イカの次にイカ臭いのは間違いなくお前だよ、円香。
「見て見てお兄ちゃん、ミミ子達の歴代戦闘服姿の等身大パネル展だよ」
円香が指差したエリアには、どう見ても痴女にしか見えない装束を身に着けたドスケベボディーの女達の等身大パネルがズラーと並べられていた。
その数、ざっと100体といったところか。
逆バニーガール衣装をはじめ、ほぼ紐で構成されたマイクロビキニもどき,なぜか胸部と下腹部のみ布が無いチャイナドレスもどき,突起やスジが丸わかりの全身タイツもどきなど、とても国民的アニメのキャラの衣装とは思えないエグい格好をした女のパネルが立ち並ぶ様は圧巻だった。
その内の1つ、”ミミ子1stフォルム”と書かれた逆バニーガール衣装のパネルに目が留まる。
「なあ円香、どうしてこの女は、腰に使用済みの男性用避妊具を装着しているんだ?」
「ちょっと、お兄ちゃん、変な事言わないでよ。それは、ミミ子達のエネルギーの源”性力物質”をストックしておくための装飾具”ティンポ・ケース”だよ。ミミ子達は、その中に入っている性力物質を被ることで、他の色んな戦闘服姿に変身するんだよ」
「でも、先端にぷくっとした突起のある薄ピンクの棒状のゴム製品の中に、白濁色の液体が入っていたら、お前は何だと思う?」
「コンドー···ティンポ・ケース」
そうだよな、これは使用済みコンドームだよな、どう見ても。
なんとか取り繕おうとした円香の努力に免じてこれ以上言及するのは辞めておこう。
円香と並んで歩き、パネル展示の見学を再開する。
これだけのスケベ衣装が揃い踏みだと、作品のファンでなくても見ていて興味を持つようになっていた。
お、俺好みのスリングショット水着もどき!食い込みエグっ!
いや〜、この劇場版の戦闘服のニップレスサイズじゃ、緑川の乳輪は隠しきれねーぞw
あの、お尻に装着しているトランペットのような楽器は、おならで奏でたりする用なのか?
などなど、存外このイベントを楽しんでいる自分に軽く呆れつつも、隣でキャッキャッとはしゃぐ妹の笑顔を見れただけで、このイベントに脚を運んだ甲斐は十分あったと言えよう。
そんな中、俺には1つだけ気になる事があった。
いや、妹の体臭も気になるので、正確には2つなのだが、今は隣のアホの件は置いておくとして。
周囲から、なぜか視線を感じるのだ。
自意識過剰とか被害妄想とかの類ではなく、明らかな視線。
ざわ···ざわざわ···ざわ···
流石にこれは、おかしいよなぁ···
「なぁ、円香。なんかさっきから、周りから視線を感じるんだが···」
「視線を感じるなんて、私ぐらいのハイパー美少女にとっては日常茶飯事だよ。可愛すぎるのも罪だよね〜」
ドヤ顔で、”あっは~ん”とか”うっふ~ん”みたいなセクシーポーズもどきの謎の踊りを俺に見せつけてくる。
やめとけ、周りにバカなことがバレるぞ。
確かに、円香は身内贔屓を差し引いても十分可愛いとは思うが、緑川や春子ならともかく、ここまで周囲をざわつかせる程だろうか?
なんか、そんな雰囲気ではないんだよなぁ···
「おい、あのクオリティー、ヤバくね?」
「すげー!再現度高すぎだろ!」
「俺、写真撮っていいか聞いてこようかな」
ざわ···ざわざわ···ざわ···
何だ、何が起きているんだ···
「あのっ!すみませんっ!」
俺の前に、1人の女性が現れた。
歳は、俺たちと同じく高校生ぐらいだと思われる。
「うわっ!すごっ!マジ再現度ヤバっ!」
やたらとハイテンションの彼女は、俺の顔を間近で覗き込むと、感情の昂りが抑えられないのか、俺の肩に両手を置き、ブンブンと前後左右に揺さぶってきた。
「や、やめっ、く、くるし」
「あ、すみません!初対面の方にいきなり失礼しました。あまりにもコスプレのクオリティが高かったので、感動してしまってつい」
コスプレ?何を言ってるんだこの女は?
俺の服の袖を引っ張っぱる円香が、俺にしか聞こえないぐらいの小声で呟く。
「お兄ちゃん、この人、性力の達人だよ」
うん、なんとなく分かるようになってきたよ、俺も。
「自己紹介もまだでしたね。あたし、音成学院2年、黒峰咲夜という者です」
ペコリと頭を軽く下げた彼女は、顔を上げると、キラキラと目を輝かせてグイッと前のめりに俺に詰め寄ってきた。
「あたし、あなたのコスプレに、一目惚れしちゃいました!!!あたしの動画作成に、協力してください!」
こちとら、産まれてこの方、ノーメイクのドすっぴんなんだが···




