第24話.あなたの汗だけを見つめてる
そして、本番の土曜日がやってきた。
俺と円香は、体育倉庫に隠れ練習の様子を伺う。
歩夢、ここからはお前の物語だ。
うまくやれよ。
「みんな、練習開始前にちょっと集合してもらっていいかな」
そう呼びかけた歩夢のもとに、部員達が集まる。
「今日所用で不在の岡部先生から、練習メニューについて事前に説明を受けてきたので、みんなに伝えますね」
そう言った歩夢は、円香が夏えもんに頼んで用意してもらったある服をみんなの前に掲げた。
「今日は、この通気性,吸水性皆無の、ピチピチのレザースーツとロングブーツを着用して練習してもらいます」
「え〜、何それ?絶対に暑いじゃん」
「レザースーツでバスケとか、意味わかんない」
「想像しただけで、汗ヤバそうなんですけど」
「みんな、不満はあると思うけど、岡部先生も考えがあっての練習メニューだと思うから、今日はとりあえずやってみようよ」
「まぁ、歩夢がそう言うなら···」
「みんな、一度部室に戻って着替えてから練習開始ね」
「てか、岡部のヤツ、いつの間にこんなの用意したの?」
口々に不満を呟きつつも、部員達は各自の番号が刻印されたレザースーツとロングブーツを抱えて部室へ移動した。
暫くした後、レザースーツとロングブーツを着用した部員達が戻ってきた。
「あつ〜い、既にもうムレムレなんですけど〜」
「みんなサイズピッタリなのが、なんかキモいね」
湿度の高い6月に全身レザースーツとか、罰ゲーム以外のなにものでもないが、歩夢の人望もあってか上手く着用させることができたようだ。
そうして、部員達は練習を開始した。
JK達が全身ピチピチのレザースーツでバスケに勤しむ姿は、その種のマニア達からすれば垂涎の光景だろう。
俺としては、乳揺れ要素が減るので少し寂しい気もするが、その反面、強調されているヒップラインを堪能させてもらうとしよう。
「汗かいて水分補給したい人は、この熱めのショウガ湯を飲んでこまめに給水してね」
それは、俺たちとの打ち合わせにはなかった、歩夢独自の発汗を促す為の取り組みだった。
歩夢のヤツ、可愛い顔して、思いのほか強欲みたいだな。
自分の性的欲求を満たす為なら手段を選ばないタイプだと言っていた円香の言葉に、偽りはなかったようだ。
「歩夢、冷えたスポドリとかないの?コレだと、体の芯から熱くなって、尚更汗が出そうなんだけど」
「ゴメンね、ショウガ湯トレーニングも岡部先生からの言いつけだから。今日だけは我慢して頑張って!」
彼女のその笑顔の裏に、いったいどれ程の狂気が潜んでいるのか、俺は考えたくなかった。
「それにしても暑いね、お兄ちゃん」
「だな、俺も汗だくだよ」
体育倉庫の中にも、熱気と湿気が充満している。
円香の顔と首筋に、汗がダマになっているのが見てとれた。
円香がジャージの襟元を摘んでパタパタと仰ぐたび、若いメスの汗の匂いが鼻をくすぐった。
「にしても、マジであちーな!顔から滴った汗が零れて床が濡れてきたぞ」
「それは大変!お兄ちゃんの汗で汚れるなんて、床さんが可哀想だよ」
そんなことを言われる、和哉君の方が可哀想だ。
「ここは、妹が責任を持って、愚兄の汗の対処をしなきゃだね」
そう言って、俺のアゴを掴み、自分の方へ顔を向かせた円香は、キスをするように顔を近づけてきて···
ペロン、と舌で俺の頬をつたう汗の雫を舐めあげた。
「ちょっ!?おまえ!?なにを!?」
「しー、大きい声出したら見つかっちゃうよ」
円香の右手の掌で、口を覆われた。
「お兄ちゃんは静かにしてて。私がキレイにしてあげるから。わかった?」
そう耳もとで囁かれた俺は、コクコクと頷くしかなかった。
「よろしい」
そう囁いた円香は、はむっ、と俺の左耳に唇で甘噛みした。
アニメとかで、脳に電流が走る演出があるが、まさにその通りになった。
自分の全身の神経全てが、左耳に集約される。
甘噛みに続き、円香の長く厚めのネットリとした舌が、俺の耳の形に沿ってレロレロと動きまわる。
耳の外郭から内側まで、余す所なく、なめ上げられる。
マジかよ、耳舐めって、こんなに気持ちいいの?
舌の感触と熱、時折漏れる吐息が、ダイレクトに俺の快楽中枢を刺激する。
俺の耳は、音を聞き取る器官である前に、もはやただの高感度の性感帯に成り果てていた。
耳が溶けて無くなるのではないかと錯覚してしまうほど、円香は執拗に舌を這わせ続けた。
「次はこっちかな」
そう言って俺の背後に回った円香は、首筋のうなじの部分に滴る汗に吸いついた。
「うひゃっ!?」
思わず声が出た。
円香の柔らかい唇が肌に触れる度、快楽の矢で撃ち抜かれているようだった。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅぱっ。
「えへへ、しょっぱーい」
首筋が円香の唾液で塗り尽くされた頃には、俺の意識はもう正常なそれではなくなっていた。
白昼夢とは、このような感覚のことを言うのかなと、そんな事を考えていた。
首を舐め終えた円香は、そのまま背後で一度しゃがみ込んだかと思うと、俺の背中とジャージの間に潜り込むように顔を突っ込んできた。
俺は、抵抗する気力も理性もぶっ飛んでしまっていたので、もうされるがまま、彼女を受け入れる。
尾てい骨から肩甲骨にかけて、下から上に、舌をツーっと這わせる。
次いで、上から下に、今度は舌をレロレロと左右に振りつつ、背中を舐め上げる。
続き、口を小さなОの字型に開き、ズズズと軽く肌を吸い上げつつ、下から上へ上昇する。
この3つのパターンの口技を、円香は俺の反応を伺いつつランダムに繰り返した。
もう俺たち2人には、会話は必要なくなっていた。
円香は、一心不乱に、背中が唾液塗れになった後も、執拗にそれを繰り返した。
···どれぐらい経っただろうか。
最早自分の感覚など、なんのアテにもならない自覚はあった。
背中に感じる刺激の変化に、なけなしの意識を向ける。
チュッ チュッ チュッ チュッ チュッ
俺の背中のいたるところに、キスを繰り返す円香。
少し唇で噛みつくような、そんな熱いキスを繰り返す。
何度も、何度も、何度も。
彼女から伝わるその烈情の片鱗が、俺にはあまりにも気持ちよくて···
なのに、なぜか、少しだけ、痛みが伴っているようにも感じた。
俺の背中とジャージの間から抜け出した円香が、俺の耳元に口を近づける。
「次の場所でラストかな〜。お兄ちゃん、カラダの中で、1番汗が溜まる場所って、どこか分かる?」
俺自身、今身を持って体感しているので、答えは分かりきっているが···
「いや、分からないな」
と答えた。
「それはね···」
それは···
「お尻の割れ目だよ」




