第18話.ぶるぶる時間(タイム) ※春子 視点回
桃瀬春子視点の女性キャラ主役回です。
授業が終わり、茶道部へ出向く前に、旧校舎の1番奥にある女子トイレへ向かう。
その女子トイレの4つ並んだ個室の1番奥へ入る。
それが私の日課。
わざわざ好き好んで旧校舎の1番奥の不便なトイレを利用しているのは私ぐらいなもので、この時間、ここは私の特等席だ。
といっても、本来の用途で使用しているわけではない。
ただお花を摘むだけであれば、私だって新校舎の新しいトイレを使用する。
ここに私が来る目的は1つ。
私は自分の中に、”アレ”を入れるために、ここに来ている。
カバンの中から”ソレ”を取り出す。
毎日交換しながらローテで使用しているので、今日私を楽しませてくれるのは、2日ぶりに3号君だ。
スイッチを入れ、起動する。
ウィンウィンぐにゅぐにゅグイングインぶるんぶるん。
あぁ、何度見ても、相変わらずのエグくて美しい動きね。
気持ちの昂りに呼応してか、使い慣れたはずの”コレ”が、まるで新品のようにいつもより輝いて見えるわ。
赤﨑さん、あなたは天才よ。
私を快楽の渦に突き落としてくれる女神だわ。
それにしても、今日の風紀委員の緑川さん達による抜き打ちの持ち物検査には驚かされた。
カバンの中に忍ばせていた、この3号君が、あわや発見されるところだったけど、見つかることなく無事にパスすることができて良かった。
緑川さん、才色兼備で私も憧れる存在だけど、案外ツメが甘いのね。
まぁ、おかげでこうして今日も楽しめるわけだし、感謝しておきましょう。
少し抜けてるところもある方が、人として好感も持てるしね。
あのスタイルだし、男子達から言わせれば、”抜けるところしかない”のかもしれないけれど。
緑川さんにも、弱点とかあるのかしら?
例えば、暗い夜道が怖くて一人で歩けないとかだったら、ギャップがあって可愛らしいのに。
その緑川さんに並び立つと称してもらっている私には、明確で致命的な弱点がある。
成績があまり良くないというのも、その根本原因を辿れば、その弱点に結びつく。
私は、性的な快楽に依存している。
もっと言ってしまえば、”アレ”による刺激に、陶酔している。
もはや、ある種の信仰に近い感情かもしれない。
今だってこうして、その快楽に全てを委ねたくて仕方がないの。
右手に持った”ソレ”を、慣れた手つきで”セット”する。
ぬぅぅっぷ。
全体が収まったら、スイッチを入れ起動させる。
ぶるぶるヴィンヴィンぐにっぐにっヌポッヌポッ
つつつつつ〜〜!!!
きた!きたきた、きた!!!
これ、これ、これよ!これなのよ!!!
この刺激だけが、私を満たしてくれる!
勉学?恋愛?なにそれ?
青春とか、腹の足しにもならないわ。
進路?将来?知らないわよ。
未来の事なんて、今はどうだっていいの。
私は、桃瀬春子は、この快楽に溺れるためだけに、今日も生きている!
この刺激があるから、私は生きていけるの!!!
お父さん、お母さん、私を産んでくれてありがとう。
私は今、”女”として、”性”を謳歌しています。
無意識下で首がガクッと上を向き、キマってしまった目で、見慣れた天井を仰ぐ。
声が漏れぬよう、下唇を噛み締め、鼻の穴を無様にかっぴらいて息を荒げている私は、茶道部の皆が慕う”私”とは違う生き物のようだ。
でも、私にとっては、今の私こそが本当の私。
理性をつなぎとめるため、ブサイクないきみ顔で快楽にギリギリ抗っているメス豚が、本当の桃瀬春子。
そろそろ部活が始まる時間だ。
下半身から崩れ落ちぬよう、震える脚に力をこめて立ち上がる。
ぷぅ〜ぶっぶぴぃっ。
”大和撫子”のお尻からひり出されたとは思えぬ下品な音が、トイレ内の空気を揺らす。
はぁーはぁー、ふぅーふぅー。
呼吸を整え、猫かぶった偽りの”私”に擬態し、茶道部を目指す。
その間も、”アレ”は容赦なく私を刺激し続ける。
ブルブルぐにゅっぐにゅっぎゅんぎゅんグイッグイッ
この快楽に耐えながら、素知らぬ顔で皆に立ち振る舞うことが、更なる私の快感の呼び水となる。
皆が清廉潔白だと勘違いしている、まさにその目の前で、汚れた欲望に染めあがる自分自身の醜悪さが、またとないスパイスになるのよ。
そして、おおよそ決まっている部活開始時間よりちょっと早いタイミングで、部室のドアを開いた。
中には、いつものように、私を慕ってくれている可愛い後輩ちゃん達が待って、いなかった。
中にいたのは、和哉君、青山和哉君ただ一人。
どうしたのかしら?
「あら、どうかしたの?和哉君おひとり?他の人は?」
そう問いかけながら、部室のドアを閉めた。
「待ってたぜ、桃瀬」
したり顔でそう言った彼は、手に持っていた何やらスイッチらしきものを動かした。
と、同時に。
つつつつつつ!?つつつつつ!?!?
な、な、な、何!?この強烈な刺激は!?
「か、か、かぁずや君、あなた、な、何を···」
「お前が使用しているブツの稼働レベルをイジらせてもらった」
「な、何を言ってるの」
何で彼が、私の”アレ”の事を知っているの?
「緑川に頼んで、持ち物検査の際に、こっそりと今回の作戦の為の特別仕様のブツに入れ替えてもらったのさ」
「さくせん?とくべつしよう?」
ダメだ、頭が回らない。
腰から崩れ落ちそうになりながら、すんでのところで持ちこたえ、声を絞り出す。
「ああ、お前を絶頂へ誘う為の作戦だ」
絶頂へ?そんな作戦なんて無くても、私は毎日絶頂を迎えているのに?
「こんなパワープレイを作戦というのもどうかとは思うが、お前は緑川の入れ替え工作に気づかなかった時点で、もう詰んでたんだ」
何?どういうこと?私は緑川さんに嵌められたの?
彼女を抜けてると評価していた私が、間抜けだったと言うの?
「ちなみに、お前が普段愛用している”ソレ”のレベルが3だとして、特注品の現在のレベルは4だ」
1段階上がるだけで、これ程の刺激なの?
「そして、レベルのマックスは、6だ」
6!?
信じられない。
この刺激以上が、まだ2段階も残されているの?
”階”どころか、”界”が変わってしまいそうだ。
「焦らすのも悪いし、5、いってみようか」
5?えっ、待って!?今この男、5にするって言った?
「えっ、いや、ちょっ」
私がなんとか絞り出した声にならなかった音をかき消すように、無慈悲にカチッとスイッチが動かされる。
つつつつつ!?!?!?つつつつつ!!!???
”快楽”というハンマーで、脳天をかち割られているような、そんな暴力的な刺激が頭に響く。
何度も、何度も、何度も。
こちらの意思など一切お構い無しで、容赦なく叩きつけられる。
「どうだ桃瀬、気持ちいいか?」
「ふぁい、きもぢいぃですぅぅ!うひっ、おほっ」
ヤバっ、私今、人生で最もブサイクな顔を和哉君に晒してる
「らめぇえ!ぎもぢ、きもぢょすぎて、イっィ゙ぐぅ!イくぅ!」
ダメ、これ以上は、ダメ。
もうダメ、もうムリ。
ここが私の限界、リミット。
止めて、この機械を、止めて。
でなきゃ私は、もう取り返しがつかなくなる。
もう、戻れなくなっちゃう。
「そのスイッチを···」
止めてください!もう限界なの!!
「その、スイッチを···」
早く切って!早く私を解放して!!
「その、スイッチを···早く」
跪き、腰を折り、両手の掌と額を床に擦り付け、目の前の男に対して深く頭を下げる。
「6に···してください···」
この日、私は、理性を捨てることを自ら選択し、快楽に敗北した。
次回、
第3章 バイブレーション茶道部 桃瀬春子 編
最終回です。




