第15話.イけ!イけ!マニアック
「桃瀬先輩は、部活中ずっと、入れっぱなしです」
「入れっぱなし?」
「そう。スイッチを入れると動く”アレ”が、ずっと入れっぱなしです」
ま、まじか
今まさにずっと観察していた大和撫子が、そんなプレイに興じていたとは。
クソ、この愚妹が。
最初に教えてくれていれば、もっと楽しめたというのに。
「でも待てよ。その入れていた”アレ”の音なんて、全然聞こえなかったぞ」
俺がAVで得た知識では、結構な駆動音がするモノだったと思うが。
「そこが不思議で、私も耳を澄ませてたけど、全然音がしてないんだよ。私の愛用品とは大違い」
お前も似たようなモノを使っているのか。
「桃瀬さんがこのプレイの為に手配した、特注品だったりして。いいな〜私も欲しい〜」
「特注品···俺に心当たりがある」
「誰?」
「お前もよく知ってるヤツだよ」
おそらく、警視の娘だ。
次の日の昼休み、円香に俺の教室に来てもらい、容疑者へ尋問を開始する。
「夏希、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「臭いから、口を開くな、童貞よ」
この学園の女子の間で、川柳ブームでも来ているのだろうか?
「春子、桃瀬春子についてなんだが」
「何であんたみたいなキモいヤツが、春子の名前口に出してんの?やめてあげな、可哀想だから」
「夏希ちゃん、桃瀬さんについて、聞きたいことがあるんだけど〜」
「可愛い円香ちゃんの為なら、何でも答えてあげるよ」
夏希さん、円香へ向けるその可愛らしい笑顔の、ほんの一欠片だけでも、俺に恵んで頂くことはできませんか?
「桃瀬から、何か怪しいモノを作って欲しいと頼まれたことはなかったか?」
「怪しいものなんて作ってないわよ」
くそっ、アテが外れたか。
「私が作ったのは、無音で、うねうねと活きの良い爬虫類みたいに無作為に動く、成人男性の中指よりちょっと長いぐらいの、棒状で充電式の小型電子機器だけよ」
「いや、それだろ!」
やっぱビンゴじゃねーか!
「失礼ね、そんな変なモノじゃないわよ。予備に作った分が丁度ロッカーにあるから、見せてあげる」
そう言って、夏希は後方のロッカーから、そのブツを持ってきた。
「これよ」
「いやいやいや、その色,その形状の時点で余裕でアウトだろ!」
「電源を入れたらどうなるの?」
隣の円香が、爛々とした目を輝かせて、ごくりと生唾を飲み込みながら質問する。
「こんな感じよ。ほれ」
うにょうにょぶにぶにうねうねぐにぐにぐいんぐいん
うおっ!?
全年齢版ではとてもお見せできないエグい動きをしている。
驚くべきは、その驚異的R18挙動に対し、駆動音が全くもって無音だということ。
夏えもんの技術力、恐るべし。
「お前、なんて卑猥なモノを作ってるんだ!」
「いいなぁ〜。私の既製品よりも、動きがエグいうえに無音だなんて〜」
隣の円香は、ガンギマった目で、ヨダレを垂らしながら、はぁーはぁーと息を荒げている。
「私はただ、春子のオーダー通りに、何かよくわからない棒状で蠢くモノを作成してあげただけよ」
何かよくわからない状態で、蠢くモノを作成するな。
「夏希ちゃん!私にも作って!」
「いいよ。同じもので良い?」
「う〜んと、お兄ちゃんのブツと同じサイズがいいから〜、長さは8cmでいいかな」
「馬鹿言うな、もっと大きいわ!その〜16cmだ!」
「だそうです、夏希ちゃん」
「16cmね、メモメモっと」
くそ、謀られた。
「あ〜、でも、お兄ちゃんこういう時見栄はりそうだから、多分16cmも盛ってると思うから〜」
くそ、バレたか。
「今度、直径も含めて採寸するから、改めてお願いするね」
「OK」
え、測られる!?
俺の隣で、何かとんでもない取り引きが行われたような気がする。
「うひひ、待ち遠し過ぎるよ〜!じゃあ、私教室に戻るねー!」
上機嫌の円香は、鼻歌交じりに帰っていった。
「お前、こんなモノ、どうやって作ってるんだ」
大人の玩具界隈の歴史が動きそうな、先程見せられた呪物を指差して尋ねる。
「こんなの、時間とお金があれば作れるものよ」
「時間は、青春を持て余した高校生だから分かるとして、お金の原資はどこから出てるんだ?」
まさか、警視ではない別のパパがいるとか···
いや、全年齢版だからそれはないか。
「私、結構お小遣い多くもらってるからね」
赤﨑警視も、自分の公務の対価の行き着く先がコレだとは思うまい。
「とはいえ、円香の時みたいに、ギブアンドテイクなんだろ」
「もちろん。春子は1番の上客よ」
「そのR18的ギブに対して、いったいどんなテイクを貰ってるんだ?」
「橘君の、〇〇だけど」
···
「それを貰っちゃったら、オーダー通り良いものを提供したくなるってものよ」
桃瀬がどうやって〇〇を手に入れたかは分からないが、橘君のそれを手にした者は、この学園内で神にも悪魔にもなれる、どうやらそういうことらしい。
「で、円香が言ってたサイズって、何のサイズなの?」
「サイズ?」
「ほら、あんたが16cmとかって言ってたやつよ」
本当は、13cmぐらいだが。
「俺と円香が踏み込めない、越えられない一線の厚みだよ」
兄と妹が、越えてはいけない距離。
「ちなみに夏希さん、僕と君との距離は、最短で0.01mmまで縮めることができるけど、どうですか?」
俺は紳士だから、0.00mmにはしない。
「?何の0.01mmか分からないけど、4万km足りてないわよ」
「何の距離ですか?」
「地球一周よ」
青山和哉と赤﨑夏希の現在の最短距離、
39999999m。