第12話.今にも落ちてきそうな星の下で
第2章 緑川楓編 最終回です。
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「やったか、どうだ円香!」
「性力10800、OK!アニナエル抗体の放出条件を満たしてるよ!」
緑川の絶頂条件の肝は”背徳感”だった。
根が真面目な女だったので、友達からの信頼への裏切り行為が、そのトリガーとして狙い通り作用したようだ。
その上、学年成績万年2位のお前が、唯一格上と言える成績1位の委員長を裏切るのだから、その背徳感は格別であっただろう。
タイミングを見計らい、事前に取り決めてあった台本通り、委員長から緑川へ電話をしてもらったのだ。
円香が用意した台本はありきたりな内容だったが、委員長の演技力の高さが功を奏し、無事、緑川を絶頂へ誘えたようだ。
野外露出中に全裸で絶頂する女子を拝めるとは、なんという役得、なんという僥倖。
「で、どうやって肝心の体液を手に入れるんだ?」
「それって、お兄ちゃんが考えてくれてたんじゃないの?」
「いや、何も考えてないな。なんなら、絶頂と同時にビシャーっと噴き出してくるのかと期待してたんだけど」
「いや、どこから何が噴き出すのよ!?」
「え、そりゃ〜お前」「あーダメダメ、言わないで。それ以上はバンされちゃうから」
これ以上は、R18向けの完全版の公開に期待しよう。
「しかたない、大切な妹の為に、一肌脱ぐか」
「人肌脱ぐ···やっぱりその醜すぎる容姿は偽りの姿だったの?」
「違うわ!まぁ、まかせとけって」
先程からペタンと座りこんでいる緑川の背後へ回りこんだ。
放心状態のためか、全然こちらには気付いていないようだ。
妹よ、よく見ておけ。
こういう時は、正攻法が1番なんだよ。
「あの〜」
「え?」
緑川が虚ろな目をして振り返る。
「絶頂した直後に、むふっ、こんなお願いを、でゅふ、するのも、その、イヤらしい話なんですけどね、むふっ、その、緑川さんの、でゅふふ、体液を、私に頂けたりしませんかね、でゅふふ」
「キャー!変態が出たー!!」
叫ぶやいなや、階段の方へ駆け出す緑川。
くそ、シンプルにお願い作戦失敗か。
「お兄ちゃんのクソキモお願い作戦大失敗だね」
「緑川を捕獲しないと」
「あー、緑川さん、服を着ないで裸で階段に向かってるよ!」
「なに!それはマズいんじゃないか」
「あの勢いだと、全裸で街に飛び出してもおかしくないよ」
緑川としては、露出がしたいのであって、不特定多数の男に裸を見せたいわけではないだろう。
警察沙汰になるのも御免だ。
俺が犯人扱いされてしまう。
「いや、実際犯人みたいなものでしょ」
「お兄ちゃん、急いで追いかけよう!」
「おうよ」
2人で階段に辿り着いた頃には、緑川の足音が少し遠退いていた。
今頃は12階ぐらいだろうか。
「お兄ちゃん、この状況、わかってる?」
「何が?」
「全裸のHカップ女が、階段を駆け下りてるんだよ。見たくないの、乳揺れ!」
「見たい···見たい!円香、俺、乳揺れが見たい!!」
「見たいなら行け!自ら掴み取れ!」
「はい、行きます!イかせてください!」
「あ、掴み取れと言っても、乳は掴んじゃダメだからねー」
円香が後方で何か言ったような気がしたが、駆け出した俺の耳には届かなかった。
9階に辿り着いたが、まだ緑川を捕らえられていない。
くそっ、動け俺の体!Hカップの乳揺れが見たくないのか!
内なる自身の声が聞こえる。
(乳揺れを見るために、力が欲しいか?)
欲しい、力が欲しい。
乳揺れを見るために、あと、ついでに妹の命を救うために。
頼む、俺よ。
童貞が日頃溜め込んでいる、性的鬱憤を、今この場で爆発させてくれ!!
「うおー!おっぱいー!!!」
「凄い、これが、お兄ちゃんの、童貞の魂の咆哮!」
円香が俺に追いついたようだ。
「これからが本番だ、円香、俺について来い!」
2人で駆け下りて行く。
速度を上げた俺に、円香が必死で食らいついてくる。
「お兄ちゃんのスピードがどんどん上がっていく。これが、童貞に秘められた力なの」
そして遂に、5階から4階へ続く踊り場で、緑川に追いついた。
「いやー!変態が来たー!」
「やった!捕まえて、お兄ちゃん!」
「バカ言うな、妹よ!捕まえたら、乳揺れが、見れんだろうがー!」
そう言って、俺は緑川を追い抜いた。
「何やってるの、お兄ちゃん!って、お兄ちゃんが緑川さんの前で、まるで逆再生動画の撮影のように、後ろ向きで階段を駆け下りてる!」
「うおー!乳揺れー!」
「緑川さんと自分の距離を調整する事で、階段の高低差を利用し、お兄ちゃんの目線の高さと、緑川さんのHカップの高さが同じになってる!」
ばいんばいん、ばいんばいん。
弾む、揺れる。揺れる、弾む。
眼前いっぱいに広がる乳揺れ。
「うひょーたまんねー!」
「いやー!変態に乳を凝視されてるー!」
緑川は、着地した軸足に力を入れ、くるっと回転すると、階段を駆け上がりだした。
「お兄ちゃん、ナイス!これで挟み撃ちにできるよ!」
「待てやデカ乳!このくだり、まだ終わらせないぜ!」
と、階段を駆け上がった俺の足が止まった。
緑川が、そこに、踊り場に留まっていたからだ。
壁に、顔面を正面からぶつけている状態だった。
「緑川さん!?大丈夫!?」
追いついた円香も驚いている。
壁尻ならぬ、”壁にぶつかって気絶中尻”を眺めているわけにもいかなかったので、仰向けに寝かせ、俺のジャケットを掛けてやり、回復するのを待った。
少しの間、緑川を円香に任せ、俺は席を外す。
この前貰った、ポケットティッシュの出番がやってきた。
俺がスッキリしてから戻ると、緑川が意識を取り戻していた。
鼻血が出ていたので、ティッシュを提供してやりたかったが、残念ながら俺のポケットには、”使用済み”のものしかなかった。
円香が何やら”ろ紙”のようなものを取り出し、拭いてあげている。
なるほど、これで体液ゲットというわけか。
そういえば、それが本来の目的だったような気もする。
色々説明もしたかったし、緑川の衣類もそのまま放置されているので、とりあえず3人で屋上へ戻ることにした。
もちろん、殿は俺だ。
「実は、かくかくしかじかでー」
「なるほど、青山さんも大変なのね」
「私のことは、円香でいいですよ、緑川さん」
「じゃあ私も、楓でいいわよ」
どうやら、変態同士ウマがあったらしい。
「円香、私のこの性癖のこと、他の人には黙ってて欲しいの」
「もちろん、誰にも言わないよ。その代わりって言ったら悪いけど···」
「私ももちろん、今後円香に協力するわ」
「え、それってつまり···今後緑川を絶頂させまくって、体液を絞り取り続けるってこと!?」
「いや、それはできないよ。1人の性力の達人から抗体を摂取して効果があるのは最初の1回だけなの」
「なるほど、じゃあ今後緑川には、他の性力の達人を攻略する際に手伝ってもらうってことか。そういうことなら、この紙にサインしてもらってもいいか?」
「え?わ、わかったわ。サインすればいいのね」
スラスラと紙に名前を書き終える。
「はい、書いたわよ。何も誓約書なんてなくったって、ちゃんと円香に協力するのに」
「ふっ、俺がいつ、この紙がそんなくだらないモノだと言った?これを見よ!」
バッと、”勝訴”のように、緑川に向け、掲げる。
「読み上げな、お前自身の口で」
「なになに、あたシコ許可証?あたし、緑川楓は、青山和哉のおかずとして、シコられることを、ここに許可しますぅ!?
ちょっと、何よ、これっ!!バカじゃないの!」
「バカはお前だ!文面も読まずにサインしたお前の負けだ!」
やったぜ!これは今日から青山家の家宝だ。
額に入れて俺の部屋に飾っておこう。
ビリッ。
不意を突かれ取り上げられた家宝が、破り捨てられた。
青山家の女に。
「楓さん、今日はもう遅いから、先に帰って大丈夫ですよ。私は、少しこの男と話をしてから帰るので」
「そ、そう。わかったわ。じゃあね、円香、また明日。」
ただならぬ殺気を感じてか、緑川は言われるまま帰っていった。
「あの、円香さん···」
ボコっ!
殴られた、グーで。
「この浮気者がー!!!」
「快楽昇天」
円香はそう言って、緑川の血液を含んだろ紙を左手で握りつぶした。
「どうだ?うまくいったのか?」
「うん、大丈夫!これで楓さんのアニナエル抗体は摂取できたよ!」
「そうか、とりあえず、今回の件はこれで一件落着か。」
「あ、流れ星!」
円香の声を受け、殴られてクレーターだらけになった顔を上げた。
夜空に瞬く星が、1つ、一筋の光となり、堕ちて消えた。
「お兄ちゃん、願い事、3つ言わなきゃ!」
言うにしてももう遅いし、1つの願いを3回唱えるルールじゃなかったか?
でも、どうせ聞き届けてもらえるなら、1つよりも3つがいいのは確かだ。
俺は、心の中で願いを唱える。
1つめは、今消えた光が、両親の滞在している宇宙ステーションで無いことを願う。
2つめは、円香がアニデイク細胞の呪縛から、無事解放されることを願う。
3つめは、―――――
「ん?お兄ちゃん、何か言った?」
「いや、何でもないよ」
俺たちは、運命に抗い、堕ちていく。
付き合うよ、円香。
どこまでも、一緒に堕ちていこう。
たとえ、その先に、俺たち2人の、ハッピーエンドが待ち構えていなくても。
「円香、今夜は月が綺麗だな」
「そうだね、今夜も月が綺麗だね、お兄ちゃん」
2人だけの、暗闇の世界。
俺たちは、しばらくの間、並んで月を眺めていた。
第2章
野外露出風紀委員
緑川楓編 完
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バイブレーション茶道部
桃瀬春子編
to be continued