第11話.夜は短し脱げよ乙女 ※楓 視点回
緑川楓 視点の、女性キャラ主役回です。
次回、第2章 緑川楓編最終回の更新は、
本日17:10を予定しています!
「ばいばーい」と手を振る友達に手を振り替えし、私は、自宅とは異なる方向へ自転車を漕ぎ出した。
塾が終わり、茜色だった空も夜の色に変わっている、そんな時間。
私は、この空の下、自らの裸を曝け出したいが為に、今自転車を漕いでいる。
さっき別れた友達は、私がそんな奇行に興じているとは、思いもしていないだろう。
私は今、露出をしたいという衝動に支配されている。
目的の廃ビルに到着し、裏路地に自転車を隠し駐める。
そして、誰の所有かも分からない、廃ビルへ足を踏み入れる。
迷惑駐輪に、不法侵入。
我ながら、風紀委員である前に人としてどうかと思う。
これから、裸になりたいが為に、14階建ての廃ビルの階段を息を切らしながら上る私は、どうかしている。
屋上に辿り着いた私の息は荒い。
「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」
これは、階段を足早に上ってきたから、という理由だけではなく。
私は、とても、興奮していたのだ。
いつもの定位置で制服を脱ぐ。
もちろん、物陰に隠れたりはしない。
堂々と、自宅で行うそれとなんら変わらぬ挙動で、紫色のブラを外した。
私ほどのサイズともなると、女子高生らしい可愛いデザインなど皆無で、花柄の刺繍の入った、いかにも大人の女性向けといったものしか選択肢がない。
お前の身体はもう、少女ではなく女なのだと、突きつけられているように感じる。
ローファー,紺ソックス,パンツと脱ぎ進め、遂に全裸となった私は、上ってきた階段と反対側の、繁華街の中心部が臨める場所に立った。
胸も、お尻も、あそこも丸見えの、仁王立ちスタイル。
遮るものが何も無いため、眼下の街のその喧騒が、ダイレクトに肌に伝わる。
あの灯り1つ1つに、誰かしらの人生が投影されているかと思うと、今こうしている自分が、この街を形作る1部に過ぎないと実感する。
一際歪な色をしたホテルが目に留まる。
おそらく、ラブホテルというものであろう。
数部屋にポツポツと明かりが灯っている。
あの性行為をする事を目的とした建物の1室で、お互いに好きだと錯覚している他人に、裸を晒し股を開く女と、今こうして星空の下で裸を晒している自分に、いったいどれほどの差があるというのだろうか?
夜風が吹く。
火照った身体には心地よい。
自慢の黒髪が、風になびいた。
なびいたのは、黒髪だけだった。
顔より下の毛は、全て永久脱毛している。
露出に興じる、乙女の嗜みだ。
仕事終わりの時間帯ということもあってか、街にはスーツを着たサラリーマンが多く見受けられる。
そこの、疲れたように下を見て歩くおじさん。
たまには、星空でも眺めるように、上を向いて歩いてみてもいいんじゃないかしら。
そうしたら、何か良いことあるかもしれないわよ。
例えば、Hカップ女子の、100万ドルより価値のあるヌードが見えたりね。
サラリーマン達、社会のレールの上をひた走る人達を見て、ふと自己を省みる。
私は、あの時から、普通のレールから外れてしまったのだと。
高1の春、学校からの帰り道。
私は、出会った、犯罪者に。
その男は、人殺しでも強盗でも放火魔でもなく。
露出狂の変態だった。
私の前に現れた男は、羽織っていた季節外れのコートをガバっと開き、その下の醜い裸体を見せつけてきたのだ。
そして、その男は直ぐに立ち去ったが、私は暫く呆然と立ち尽くしていた。
自分の心の中の気付きに、驚いていた。
その変態が行っていた”露出”という行為自体に不思議と嫌悪感は無く、むしろ興味を唆られている自分がいた。
その日の深夜、自宅をこっそり抜け出した私は、近所にある少し大きめの公園に来ていた。
着用していた衣類は、白いワンピース、のみ。
辺りに人の気配は無い。
ガバっと、自らワンピースを捲り上げた私は、その下の裸体を曝け出した。
直ぐに恥ずかしさを感じた私は、捲り上げていたワンピースを元に戻した。
身体を晒していた時間は、僅か5秒ぐらいだった。
しかし、私は、その僅かな時間で十分理解できた。
私は、緑川楓は、露出行為に快楽を感じる変態であると。
それからというもの、若さを持て余していた私は、隙あらば夜な夜な色々な所で露出を行ってきた。
ある時は、私が振った幼馴染の男子の家の横で裸になっていた。
(ほら、君が惚れた女が、今君の家のすぐ横で全裸を晒してるわよ)
(そのカーテンを開ければ私の裸を拝める、人生最初で最後のボーナスタイムなのよ)
と内心煽りながらの露出は、酷く快感を覚えるものだった。
またある時は、小雨が降る夜、全裸に透明なレインコートを羽織り、住宅街を散歩したこともあった。
帰宅途中のサラリーマンや飼い犬の散歩,趣味のランニングをしている男性とすれ違う際に、あえて、「こんばんは」と声を掛けスリルを味わっていた。
「こんばんは···?」と不思議そうに過ぎ去るその歩みを止めて目を凝らせば、若い女の裸をお目にかかることができたかもしれないのに、もったいない。
またある時は、JKリフレなる店の裏路地で裸を晒していた。
その店の入り口に吸い込まれていくおじさん達が、滑稽でしかたなかった。
その入り口を通り越し、横の路地を進んだ先に、偽物のコスプレJKではなく、現役のHカップJKが無料で裸を晒しているというのに。
プルルル プルルル
過去の行いを懐かしんでいたら、スマホが鳴った。
画面を見る。
望美、白河望美からの着信だ。
この時間にかかってくるのは珍しい。
なんだろう、勉強の相談だろうか。
「もしもし、どうしたの」
私は、いつもと変わらぬ声色で電話に応じた。
「なに、急に声を聞きたくなったって、なにそれ」
まさかその相手が全裸露出中とは思いもしていないだろう。
「え、ビデオ通話をしたいって、ほんとどうしたのよ、変な望美」
野外露出中に友達とビデオ通話。
これは初体験だ。
「いいわよ」
顔だけが映るアングルに、インカメラを調整する。
「どうしたの望美、大切な話?」
それから、望美の真面目な相談が始まった。
勉強の話、受験の話、進路や将来の話。
そして、彼女の口から初めて恋愛について相談を受けた。
凄くピュアで、今の御時世逆に高校生らしくない程までに純粋なその恋の話を真剣に語ってくれる彼女。
その彼女には、友達である望美には失礼極まりないが、私は性的快楽の昂りに酔いしれていた。
望美の清廉さと、今露出プレイに興じている己の卑猥さとのギャップから来る背徳感に、私は興奮を抑えられないでいた。
あぁ、ゴメンね、望美。
あなたが信頼を寄せて恋の話を語ってくれている相手は、
緑川楓は今、外で胸もお尻もあそこも丸出しにしている変態の露出狂なのよ。
ごめんなさい、望美。
私はあなたとは違う、汚れた女なの。
あなたの真剣な相談をダシに快楽に酔いしれる痴女よ。
夜風では冷ましきれないほどの身体の熱気。
蕩けた脳には、彼女の声はもう、意味を成してないただの音となって響くのみ。
ごめん、ごめんね。
もうっ、限界!溢れる!イ゙くっ!
ビクンっ!ビクビクっ!
ピロン、と望美とのビデオ通話が終わった音が鳴ったと同時に、快楽の頂きに達して力の抜けた私は、その場にペタンと座り込んだ。
次回
第2章 野外露出風紀委員 緑川楓 編
最終回です!