第10話.宇宙よりも近い場所
ストーカー7つ道具の双眼鏡を使い、緑川が廃ビルの外階段を屋上まで上りきったのを確認してから、俺たちも同じように階段を上り始めた。
隣の西横インビルの青白い照明に照らされることで、外階段の視界は驚くほどクリアな環境だった。
14階建て、ざっと高さ40mの緑川の夜の秘密基地。
俺は、円香を先導する気概を持って、階段を上り始めた。
が、7階から8階に差し掛かる踊り場で、俺は力尽き足を止めた。
「はぁー、はぁー、疲れた、足痛い、もう歩けない、助けて円えもん」
「だらしないな〜、それでも男か」
自分でも情けないと自覚はしているが、体力には自信が無いと自負している。
屋上まで辿り着ける気力も残っていない。
精も根も尽きるとは、まさにこの事だ。
ヘロヘロの兄を後目に、円香が俺を追い越し、8階に向け
数段上ったところで立ち止まった。
そして、自らが着用しているブラウンのロングスカートのお尻側、つまり、俺に見える側だけをガバっとたくし上げた。
秘部を覆い隠す目的に関しては非常に頼りない、水色のシースルーパンツに包まれた、桃尻が露となる。
「お兄ちゃん、目の前のパンツを追いかけながらなら、まだ頑張って上れるでしょ」
円香、俺は、君のシースルー越しに見えるお尻の割れ目にかけて誓おう。
君の命を救うために、もう歩みを止めることはないと。
「って、もう屋上に着いたのか!?」
お尻を眺めていたら、あっという間に到着してしまった。
もっと堪能していたかったので、20行分ぐらい、空白スペースを開けてもらっても構わなかったのだが。
「お兄ちゃん、あれ見て!」
「いや、何も見えんが」
「お兄ちゃんが私のロングスカートに潜り込んでるからでしょ」
いそいそとスカートから這い出し、円香の指した物を見る。
綺麗に畳まれた制服一式と、その上に、ライムグリーンのブラジャーとパンツの下着セットが並び置かれていた。
無造作という感じは一切無く、明らかに本人の意思でそこに脱ぎ置かれている。
まるで、俺への貢ぎ物のようにさえ思えた。
「いや、その解釈はおかしいでしょ」
人の心を勝手に読むな。
それにしても、このブラ、サイズデカくね?
円香が所持する全てのブラのサイズ,色,形状,装飾を把握する俺だからこその気付き。
このブラの持ち主は、推定G、いやHカップか。
どれどれ、答え合わせをしてみましょうか。
手に持ち上げたブラは、ほのかに人肌の温もりを残している。
脱がれてから、そう時間は経っていない事が伺える。
サイズタグを見る。
Hカップ、やはりか。
「お兄ちゃん、あっち見て!」
「いや、何も見えんが」
「おのれが人様のブラをアイマスクにしとるからだろうが!」
目を覆い隠していたブラと、頭に被っていたパンツを、元あったように制服の上に渋々戻した。
苛立ちを隠さず舌打ちする円香の指差す方を見ると。
俺達が上ってきた側の対面の位置に、少女が1人、こちらに背を向ける形で仁王立ちしていた。
先程堪能させてもらったライムグリーンの下着の持ち主であることは、一目瞭然だった。
隣のホテルの照明で青白く光る廃ビルの屋上で。
全裸で、街を見下ろす、少女。
緑川楓。
あの露出女が、俺達のターゲットだ。
俺達から彼女までの距離は、およそ30mといったところか。
双眼鏡を覗き込む。
円香に負けず劣らず、いや、見る人によっては、こちらが上と評しても反論できぬ程、性欲を掻き立てられるエロい尻を曝け出している。
全裸で仁王立ちをしているので、残念ながら俺達から見えていない側では、胸もあそこも同様に曝け出していることになる。
駅前の繁華街の賑わっているエリアを、星空の下、廃ビルの屋上から、全裸で見つめる彼女の心中は、俺には想像できない。
ただ、これだけはわかる。
彼女の裸は、この夜の街で1番、価値のあるものに思えた。
「ちょっと意外だな〜」
「何が?」
「距離が離れていて後ろ姿とはいえ、お尻丸出しの全裸の美少女を目の当たりにしている割に、結構冷静だなと思って」
「いや、エロいよ、エロいんだけどさ」
「やっぱ、可愛い妹の命が懸かってると思うと身が引き締まる?」
「完全な全裸よりも、紺ソックスと制服のリボンは脱がない方がよりエロかったのにな〜と思って」
惜しいよなぁ〜
「期待した私が馬鹿でした」
ロングスカートに潜ったり、ブラをアイマスクにしてる奴に期待するお前が悪い。
「それより、お前の能力を使わないと」
「そうだった、緑川さんのお尻を眺めてる場合じゃないよ」
お尻、もとい緑川を見つめる円香の瞳が、色付いたイチョウの葉のような鮮やかな黄色に変化する。
「性癖暴露」
おー、超能力者っぽい。
「って、緑川さん、こっちに向かって歩き始めたよ!ヤバい、お兄ちゃん隠れて!」
「わ、わかった!」
とりあえず、最も手頃な場所に身を隠した。
「だから、ロングスカートの中に入るのはヤメて!」
お約束になりつつあったくだりの後、かつて貯水タンクだったであろう何かの裏に身を隠し、緑川の様子を伺う。
置かれていた衣類に向けて歩いているところを見るに、俺達に気付いたわけではなさそうだ。
···ていうか、乳、でっっか。
本当にHカップで収まりがきくのかと疑いたくなる程の、圧倒的ボリューム感。
円香と比べても、明らかに格上の巨乳だった。
俺の視線の熱量を感じてか、円香がムッと露骨に不満気な顔をした。
その乳の本体のサイズと同等に、もう1点目を惹かれるものがあった。
乳輪、でっっっか。
鮮やかな、それはそれは鮮やかなピンクの、下品なデカ乳輪だった。
あいつ、あんな綺麗系の整った顔して、なんて破壊力のあるドエロいものをお持ちなんだ。
「ドスケベお楽しみボディーで風紀委員とか、あいつふざけているのか」
「いや、風紀委員がドスケベボディーなのは、この界隈ではむしろ様式美でしょ」
ライムグリーンの下着と制服を着用した彼女は、紺ソックスとローファーを履き終えると、まるで何事もなかったかのように、屋上を後にした。
「見えたか、妹よ」
「うん、ばっちり見えたよ」
「やっぱりあの乳輪、ブラからちょっとはみ出してたな!」
「いや、何の話!?性癖暴露の能力で、緑川さんの絶頂条件が見えた話だよ」
「その話って、下品なデカ乳輪の話よりも重要?」
「重要だよ!」
「緑川さんの絶頂条件を達成する為には、ある人の協力が必要だよ」
「ある人···まさか、あの友人Nが遂に再登場!?」
「···誰、それ?」
「···いや、忘れてくれ」
「明日、天気も良いみたいだし、早速決行ね!」
「明日もあの階段を上るのか···」
「またお尻見せながら上ってあげるから、頑張ってよ」
我が妹は、話の分かる女のようだ。
「ネクスト 円香ズ ヒント!次回は、緑川さん視点の彼女の主役回です。過去のアラレもない露出プレイの回想描写もあるらしいよ!」
今回の俺達は、どうやら緑川の前座だったらしい。
それは、ヒントではなく次回予告だと内心ツッコミつつ、俺はブックマークの設定をしておいた。
明日、3月30日。
12:10 緑川楓回公開
17:10 緑川楓編最終回
公開予定です。