第7話.ご注文は黒のTバックですか?
朝、目玉焼きにソースをかける妹の口から、
「お兄ちゃん、昨日の夜、夏希ちゃんをおかずにシコってたでしょ」
と告げられた。
「いや···はい、そうですが、何か問題ありますか?」
否定して難を逃れようと試みたい処ではあったが、16門の監視カメラの事を思い出し開き直る。
「私以外をおかずにするなんて···こんな身近に、全身性器の、お兄ちゃん専用オナペットが居るのに」
妹よ、不本意ではあるが、お兄ちゃん専用は、無理があると思うぞ。
同じ学園に通う男子からすれば、、Fカップで、顔も抜群に可愛くて、アニメキャラみたいなクビレと、ぷりぷりむちむちなお尻と太ももを有しつつ、常にスカート丈短めな君は、毎晩のおかず選定の最有力候補だろう。
おかずドラフト第一位指名、ヘビロテ酷使確定だ。
モチのロン、その学園に通う男子というカテゴリーに、俺自身も内包されているわけだが。
この点に関して言えば、ブサイクもイケメンも、青山和哉も橘君も対等、言わば同志だ。
「カメラで見てて、最初の内は、まーた可愛い妹の事想像しながらアホみたいにシコってるよこの猿って、思ってたんだけど」
お前、大好きなお兄ちゃんを猿呼ばわりかよ。
「最後のクライマックスの瞬間、その猿の口から”夏希っ”て鳴き声が漏れたわけよ」
うわっ、昨日の俺、キモっ。
「私をおかずにシコってるお兄ちゃんをおかずに致してたと思っていたのに、最後の最後で、お兄ちゃんのおかずが夏希ちゃんだった事が発覚する···これって呪術トリックてやつでしょ」
「呪術じゃなくて、叙述だ」
そもそも、こちら側としてはそんなトリックを仕掛けてたつもりは毛頭ない。
毒舌でルッキズムの申し子でも、顔が可愛くてDカップな幼馴染のパンモロは、脳内鮮度が落ちる前におかずにしてなんぼなのだ。
「円香さん、1つお願いがあるんだが」
「なーに?浮気者」
「赤﨑警視···じゃなくて、夏希本人には黙っててくれないか」
兄が高校生にして前科持ちになるのは、妹としても不本意であろう。
「いいよ、黙っててあげる。でもその代わりに、今晩は私をおかずにしてよね」
そんなの、言われなくてもこちらは端からそのつもりだ。
なんなら、昨晩だって、1回戦目のおかずはお前だったからな。
「で、緑川楓にどうやってGPSを付けるんだ。」
「そこなんだよね〜、中々隙を見せないのよあの人」
女子高生にGPSを取り付ける算段を相談するヤバい兄妹がいた。
「因みに、お前が付けた俺のGPSって何処にあるんだ。可能であれば早々に取り外して欲しいんだが」
カバンの中や、クツや制服を検めても、それらしきものは見つからなかった。
どれだけ巧妙な処に設置したのか、興味があった。
「お兄ちゃんのGPSは体内への埋め込み式だから、取り外すにはオペが必要になるけど」
埋め込み式!?オペ!?
「はっはっはっ!円香ちゃんの冗談は相変わらず面白いな〜、お兄ちゃん、一瞬本気にしちゃったよ」
「冗談?いや、マジの話だけど···今はそんな事より緑川さんの話が重要だから」
兄の体内にGPSが埋め込まれている異常事態を”そんな事”で済ますな。
と思ったが、妹の命が懸かったアニナエル抗体を手に入れる事に比べれば、確かに論ずるに値しないと思い話を戻す。
「実は俺に1つ策がある」
「流石お兄ちゃん!で、どうするの?」
「ヒントは、黒のTバックだ」
「私が履けばいいの?」
下着のオーダーができるなら、俺は水色のシースルーを所望する。
「委員長、おはよー」
「おはよう、青山君」
クラスメイトの女子がただ普通に挨拶を交わしてくれるだけで、これ程までに感動するとは。
良かった、委員長は昨今蔓延るルッキズムに侵食されていないようだ。
挨拶から始まる恋、なんてのも、有りか。
委員長に、白河望美に、恋、しちゃおっかな。
「ふふっ、どうしたの変顔なんかして。お笑い好きの私を笑わせてくれるの?ありがとう。」
もちろん、最初から一切表情は変えていない。
悪気がないからこそ、その言葉のナイフが心に刺さる。
白河さん、君の笑顔が見れて、僕は幸せです。
しかし今日は、それでめでたしとはいかないのだ。
これから彼女のその可愛い顔を、曇らせていくことになるのだから。
「黒のTバック···」
彼女にだけ聞こえる程度の音量で、ボソッと呟いた。
「あなた、見たのね」
頬を赤らめて、こちらの出方を探るように見てくる。
「ふっ、この目にしかと焼き付けてあるぜ」
残念ながら、俺は見てない。
見たのは円香だ。
本当に、残念でしかたない。
「この事実、他の奴には知られたくないよなぁ。知られたら、白河さんの真面目キャラが崩壊して、むっつりドスケベ委員長のレッテルが貼られるぜ」
そして、学園のズリネタランキングが大きく変動することになるだろう。
いや、委員長のルックスとスタイルなら、現段階でもランキング最上位勢か。
「···何がお望み?」
「流石聡明な委員長、話が早いな」
ニチャアと、笑みを浮かべる。
「このキーホルダーを、緑川楓のカバンに仕込んできてくれないか?」
夏えもんお手製、GPS内蔵キーホルダーを委員長へ手渡した。
「これを、楓のカバンに?」
下の名前で呼ぶということは、そこそこ交流があるようだ。
流石委員長、容姿端麗,成績優秀でありながら、僻まれることもなく女子からもモテモテなその人柄は伊達じゃないようだ。
唯一の欠点といえば、俺に弱みを握られたことか。
「プレゼントなら、あなたから直接手渡した方がいいんじゃない?」
はぁ~、と溜息をついた。
聡明な委員長ともあろう者が、そんな読み違えをするとは。
これはプレゼントではないし、何より俺は緑川楓に好意を寄せているわけではない。
ただ、過去に数回おかずにしたことがある、それだけの関係だ。