プロローグ1.青山家の朝は遅い
「おい、さっさと起きて着替えて飯食え、遅刻するぞ」
(円香)と書かれたネームプレートが付いたドアを開け、その向こうにあるベッドから掛け布団を剥ぐ。
それが、中学3年生の時から、つまりは3年前からの、俺の朝の日課である。
兄妹である以前に男と女なのだから、最初のうちこそ躊躇してしまうこともあったが、しかし、慣れとは恐ろしいもので、始めて2週間を過ぎた頃には、単なる日常の一部となっていた。
顔を洗うように、寝癖を直すように、兄は妹を起こす。
何百回と経験してきたその既視感を覚えながら、慣れた手つきで目標を掴み翻した。
俺の腕の振りに合わせて、女の子特有の甘い香りが目の前に広がる。
そして、いつものように、彼女は眩しそうに顔を歪め寝返りをうつのだ。
おいおい、そんなに眉間にシワを寄せてしまっては、せっかくの恵まれた顔が台無しだぞ。
とはいえ、それでも画になってしまうのだから、我が妹ながら大した美少女ではあるのだが。
ドット柄の土の下に隠れていたのは、惰眠を貪るダンゴムシ。
差し込む朝日に照らされて、その上下紺色のシックなパジャマが色づいた。
「うぅ···あと5分だけ寝かせて···」
昔から、相も変わらぬ寝相の悪さである。
いったい、寝ている最中に何があったらこんな酷い惨状になるのだろうか。
一般的なその悪さを”小学校の運動会”と例えるなら、彼女のそれはさしずめ”妖怪大戦争”か。
掛け布団だけは何故か常に整っているところが、これまた可笑しな話である。
目視でその可愛らしいおへそが確認できるので、少なくとも雷神様の仕業ではないようだ。
しかし、それにしてもだ···
身に纏うその衣類が、本来の役目を果たしきれていないではないか。
アッチからも、コッチからも、色々な肌色が顔を覗かせている。
「そんなだらしない格好してたら、その無駄にでかい乳が見えちまうぞ」
外れた第2ボタンの向こう側で、豊満な双丘が窮屈そうに顔を覗かせている。
今にも芽吹きそうな、布地を押し上げるその頂上の突起の輪郭が、彼女が”寝る時はノーブラ派”である事を証明してくれる。
角度さえ合えば、ピンク色を直に拝めるであろう、そんな体勢。
「おっぱいみててもいいから、あとちょっとねかせてよぉ・・・zzz」
仰向けになりつつ3つ目4つ目のボタンを自ら外し、更にその谷間が顕著となった。
俺が兄だからって、流石に無防備にも程があるだろう。
世の中には、妹の身体に欲情するような最低な兄がいるそうだから気をつけろ。
まぁ、ここにも1人、その最低な兄が存在しているわけだが。
そりゃあ、朝こいつを起こすことには慣れたさ、いやもう飽きたといってしまってもいい。
だけど、だけどさ。
このおっぱいだけは、このFカップだけには、勝てる気がしないんです、まったくもって。
超えられない壁、いや、山か。
たかが脂肪の塊だとしても、細胞の集合体にすぎないとしても。
正直、たまりません。
いや、実際は色々と溜まってしまうわけだが。
「・・・そんなもの見せなくていいから目を覚ませ」
正面から彼女の両肩を両手で掴み、前後左右に身体を揺する。
その動きにワンテンポ遅れて連動し、かろうじて衣服に包まれた乳房が弾んだ。
別に、乳揺れが見たくてやってるわけじゃない。
他にも理由がある・・・と信じたい、自分を。
右に揺らし、たゆん。
左に揺らし、たゆん。
前後に揺すり、たゆんたゆん。
それをしばらく繰り返す。
彼女のスマホの目覚ましアラームのスムーズを黙らせつつ、10分程度乳揺れを堪能したところで、兄は妹を起こす使命を思い出した。
「そろそろ起きろ〜」
「やだやだ眠いよぅ〜zzz」
「起きなくていいからおっぱい見せろ〜」
「欲望がだだ漏れだよ〜zzz」
「おっぱい・・・じゃなかった、起きろ〜」
「(お)しか合ってないよ〜zzz」
「お前が起きないから、乳揺れが治まらないぞ〜」
「いや、それはお兄ちゃんが揺らしてるからでしょ・・・zzz」
たゆんたゆんたゆんたゆん。
ボタンの外れたパジャマと身体を繋ぐ唯一の箇所、つまり彼女の肩を何度も揺すった結果。
ついに、ズレて、開いて、現れた。
チラッとではなく、モロに。
文字通り、一糸纏わぬ状態の、眼前に広がるFの丘。
そのツヤ、そのハリ。
それはそれは見事な、生乳だった。
そして、無意識に、俺の頭は垂れた。
彼女に気を遣って、目を反らしたかったわけじゃない。
感謝、この世の何か大いなるモノに感謝していた。
このような奇跡の積み重ねから、人類は神を創造したのかもしれない。
爆乳を曝け出したまま、意に介さず二度寝をかます彼女に、そっと布団を掛けてやる。
頭を上げず前かがみのまま、今しがた目に焼き付けた女神の裸体の鮮度を保ちつつ、足早に自室へと戻った。
それからおよそ3分後。
今度は迷いなく、惑わされることなく、容赦なく彼女を叩き起こした。
それはまるで、生まれ変わった賢者のようで。
煩悩に支配されていた愚兄はもういない。
青山家朝の陣、戦果報告。
失ったもの:自室のティッシュ5枚
得られたもの:虚無感と、独特の疲労感と気怠さ
守りきったもの:妹の貞操
以上。