第六話 『眠りから目覚める式神(モノ)』
〜前回の仮面ライダーラグナロクは〜
遂にイザナギメンバーの一人である氷室希愛が仮面ライダーフレイヤの力を継承。そして一人で戦うラグナロクのもとに参戦し見事にデビュー戦を果たした。さあさあこの先一体どうなる?
「さてと、じゃあとりあえず山菜採りでもするか!」
「炎堂ゆっくり歩いてよね。希愛はあまり山に慣れてないから」
「大丈夫だよシズク。体力はあるから」
「・・・」
(今現在、俺たちは山に居る。黒名倉山という山に。そう、我が黒瀬家がある山に。なぜこの山で今、山菜採りが始まっているかというと少し前に遡る必要がある)
〜十分程前〜
“ピーンポーン”
インターホンが鳴ったのでドアを開けるとそこには炎堂、水崎、氷室が居た。
「「「おはようございまーす!」」」
「お前ら、朝から元気すぎだろ、」
「あらあら、皆んないらっしゃい。久しぶりね」
眠そうな顔をしている黒瀬の後ろから笑顔で母が出て来た。
「それでそちらに居るのが氷室さん?初めまして、廻くんの母の菫です」
「初めまして氷室希愛です」
氷室が挨拶をすると菫は「さあ入って入って」と言い3人にお茶を出した。
「廻くんに友達が増えて嬉しいわ。ところで急にウチのほうで遊ぼうなんてどうしたの?」
「氷室がまだ黒瀬の家に行ったことがないなって話になったので、じゃあ黒瀬家がある山で遊ぶついでに行こうって事になったんです」
「なるほどねえ。あ、そう言えばシズクちゃん、レモンパイあるわよ」
「いただきます!」
(姐さん・シズク、食い気味だ(な)。)
ーー
水崎がレモンパイを味わっているなか炎堂は菫と話をしているので黒瀬と氷室は家の周りを歩きながら今後のことについて話をしていた。
「氷室、無事にライダーになった訳だしアポロンは返しておくよ」
「うん、ありがとう。でも必要な時には言ってね。いつでも貸すから」
「ああ、その気持ちは有難いんだが氷室が使った方が力を引き出せるから借りる事はないだろうな」
「そんな暗いこと言わないでよ。そもそも力を顕現出来るだけでも凄いんだからね」
「そうなのか?そういや俺あんまり知らずに使ってたな」
氷室が言うにはメインとなるチャーム以外はその家に伝わる者がその家に伝わるチャームしか基本的には使えないという。使えたとしても顕現させるのはとても難しく実を言うと望月は黒瀬がヘルメースを使えるかどうかは賭けだったという。
「そうなのか、俺って結構ヤバいことしてたんだな」
「そうなんだよ、だから自信持って」
「ああ」
「おーい、黒瀬ー」
後ろから黒瀬を呼ぶ声が聞こえて振り返ると炎堂と水崎がコチラに来ていた。
「どうしたんだ?」
「なんか4人で出来る事はないかなと菫さんと話していたらな山菜採りはどうかなという結論になったから誘いに来たんだ」
「・・・氷室は、やってみたいか?山菜採り」
「気になるから、やってみたいかな?」
「・・・じゃあやるか」
〜〜〜
(その結果俺たちは今現在、この山で山菜採りをしている)
「お、黒瀬!キノコがあったぞ!これ食えるのか⁉︎」
「おー、痺れる程に、そして幻が見えるぐらいに美味しいだろうな」
「本当か!楽しみだなあそれは」
炎堂は嬉しそうにキノコを空に翳して眺めていた。それを水崎は逆に心配そうに近づいてキノコを見ると一瞬で顔を青ざめさせた。
「ちょっと黒瀬それツキヨタケじゃんか⁉︎幻覚痙攣起こるから止めなさいよ⁉︎」
「黒瀬くんって炎堂くんの相手をする時はかなり適当だよね、」
「気のせいだ、氷室」
その後しばらく4人で山菜を集めて昼ご飯にした。炎堂は毒キノコのみを当てて水崎にめちゃくちゃ笑われた。
「アンタのそれはもはや才能。毒キノコ収集家になれるんじゃない?」
「水崎、さすがの俺でも泣くぞ?」
珍しく炎堂が落ち込み気味なので水崎は頭を撫でていた。その様子を黒瀬と氷室、そして菫までもが微笑ましく眺めていた。そんな中、黒瀬と氷室のスマホに一件のメッセージがヴァルハラから届いた。
“じゃしんがでたぞ。おまえらのいるところからせいなんに6きろめーとるだ”
「炎堂、姐さん。俺ら望月先輩から呼び出しが来たから少し学校に行ってくる。多分すぐ戻れるからゆっくりしていってくれ。行こう、氷室」
「うん。菫さんお邪魔しました」
「いってらっしゃい二人とも」
黒瀬は家を出てすぐにブロードを開き氷室と一緒に麓まで降りた。
「ヴァルハラには漢字と予測変換を教えとくべきだな。読みにくい」
「てか、いつの間にスマホ買ってたんだね。望月先輩があげたのかな?」
「だろうな。西南に6kmか、急ぐぞ」
二人はバイクに乗り邪神のいる所まで向かった。現場ではすでに邪神が暴れていた。
☆ ☆ ☆
「ウヴォオオオオオ‼︎‼︎」
暴れていたのはグレンデルと呼ばれる巨人であり見た目は猿のように毛で覆われていて大きさ的には5mほどはあるようだ。グレンデルは無作為に建物などを殴り、辺りには崩れたコンクリートが散らばっていた。人々は叫び、そして逃げ回っていた。
「「「キャアアァァ⁉︎‼︎」」」
なかには家族連れも居て、子供に走るスピードを合わせている為か逃げ遅れていた。
「花那ちゃんもう少し急いで」
「まま、もう疲れたよ〜」
子供のほうはまだ小さいからか逃げるのに疲れてしまいその場で足を止めてしまった。
その母親と娘をグレンデルは見逃すはずがなかった。一歩一歩近づいていき右腕を上げて振り下ろした。
“ドガンッ!”
「・・・まま、大丈夫?」
「花那?なんで?」
母親と娘は潰されておらずグレンデルから10mほど離れたところに居た。
「大丈夫ですか?」
声を掛けられてようやく誰かがいると気づくと助けてくれたのは黒瀬だった。どうやら黒瀬が母親を担ぎ、娘の方を氷室が助けていた。
「お二人は早くここから離れてください。いくよ黒瀬くん」
「ああ」
“ラグナロク、フレイヤ。ローディング”
「「変身」」
“仮面ライダーラグナロク、フレイヤ”
「相手はグレンデルみたいだな。昨日のファスティトに比べれば刃は通りやすそうだ」
「逆に私が使う氷はすぐに壊されそうだね」
二人はお互いの見た感じの考察を交わしてラグナロクは左にフレイヤは右に走った。グレンデルは最初にラグナロクに目を付けて右の拳を放った。
「くっ、重いな。だが止められない程じゃあない」
ラグナロクはダーインスレイヴで受け止めた。それを見てフレイヤはグレンデルの背中に真っ直ぐレーヴァテインを斬り込んだ。だが深くは入らず手応えは無かった。
「黒瀬くん!今度は私が攻撃を受け止めるから隙を見つけて攻撃して!」
「了解」
(グレンデル、性格はかなり残忍で確かフロースガールという王がヘオロット宮を建てて連夜祝宴で騒いだせいで、宮の近くに住処があったコイツの恨みを買い毎日一人ずつ城の人間を食い殺されたんだよな。って、神話の内容思い出してる時じゃないな)
「どうやって倒すかな」
フレイヤがグレンデルの拳を受け止めたのでラグナロクは後ろに回り神力を込めた一撃を振った。数は少ないとはいえそれなりの敵と戦ってきたラグナロク、どれ程の神力を込めれば相手にダメージを負わせることが出来るかぐらいの直感力は備わっていた。
「グオオオオ⁉︎」
グレンデルは初めての経験なのか、傷を負ったことに困惑して更に暴れた。
「これ以上壊されたら面倒だ。氷室!拘束出来るか?」
「やってみるしかないね」
フレイヤは右手を下から上に振り上げてグレンデルを足から首元まで凍り付かせた。その上からラグナロクは自分の神力で覆い氷の強度を上げた。
「黒瀬くんどうする?」
「正直コイツを殺るには単純なパワーというよりデカいフィジカルでゴリ押すのが良いと思うな」
「えー、そんなのあるかなあ?」
「無くてもそれしか方法がなあ、」
ラグナロクとフレイヤは何か倒す方法がないかとその場で模索しているとグレンデルが氷を破り姿を消した。
「あ、逃げられたな」
「まあでもずっとここに拘束しておく訳にはいかなかったし、しょうがないね」
「家で炎堂たちが待ってるし帰るか」
「うん」
二人は変身を解除してブロードで家の前まで帰った。
☆ ☆ ☆
「お、黒瀬おかえり」
「希愛おかえり〜」
「廻くん、希愛ちゃん。おかえり」
「ただいま母さん」
「あ、えっと、ただいま?です」
氷室は困惑した顔で言った。
「ねえ黒瀬、帰って来たところでアレなんだけど話っていうのは何なの?それにいつから生徒会の望月先輩と知り合いになったの?」
「ああ、実はその用っていうのが望月先輩絡みなんだ。実は望月先輩が暫くの間、生徒会業務のほうに行けなくなる事が多くなるかもって言うから誰かあと二人ほど勧誘して欲しいって頼まれたんだ」
「二人もってことは黒瀬と氷室はもう入ってるのか?」
「私と黒瀬くんは庶務だよ。シズクには会計、炎堂くんには書記を務めて欲しいの」
黒瀬と氷室は空いている所に座りながら話を始めた。
「ふーん。で、2人はいつ望月先輩と関わりを持ったの?」
水崎の鋭い質問に二人は「いやそれは、」などと狼狽えた。
「まあまあ細かいことは良いじゃないか。俺はOKだぞ」
「先輩からの頼みを断るのは申し訳ないし私も良いわよ。部活は最低でも1時間やれれば充分だからね。足りなければ家とかで、相手は炎堂を巻き込めば良いし」
「おう。いつでも参加するぞ」
炎堂と水崎が生徒会への加入にOKしてくれたので黒瀬と氷室は一安心した。その後、菫が4人に先ほど採った山菜でお昼を作ってくれたので楽しく日頃の学校での様子などについて話しながら過ごした。
ーー
「それじゃあ菫さん。今日はありがとうございました」
「また遊びに来ますね」
「黒瀬くん、また明日学校でね」
「おう、また明日な。気をつけて帰れよ」
黒瀬と菫は3人を見送り家の中に戻った。
「久しぶりに皆んなに会えて楽しかったわ。希愛ちゃんも良い子で可愛かったし」
「母さん。先輩から電話しても良いか?って連絡来たから俺少し部屋に行くね」
「あら、そうなの?じゃあ電話が終わったら夕飯作るの手伝ってくれる?」
「了解」
望月から電話が掛かってきたのは実は急ではなく昼間の戦いについて黒瀬は直ぐに情報を伝えていて何か分かったら連絡をください、と言っておいたのだ。
「先輩、何か分かりましたか?」
「ああ、黒瀬くんが言っていた通りグレンデルを倒すにはやはり一気に叩くほうが良いと思うよ。これまでのような一撃必殺というよりかは君の言う通り大きな力で殺るのが一番だろうね」
「やっぱりそうですよね。でもそんな都合の良いものって、」
「大丈夫だよ。ラグナロクに有るのかは知らないけど我々にはちょっとしたモノがあるんだ」
「ちょっとしたモノ?何ですかそれは?」
「当然俺はまだライダーじゃないから今は氷室しか使えないモノだね。俺から伝えとくよ」
望月はそうハッキリとは言わず電話を切った。
「相変わらず理解出来ない人だなあ。ヴァルハラいるか?」
「呼んだか?」
「電話の内容は聞いてたと思うんだが、望月先輩の言ってたモノって何か分かるか?」
「うーむ、恐らくだが式神のことではないか?」
黒瀬が「式神?お前か?」と言っているかのような顔をしたのでヴァルハラは否定した。
「我も式神に近いような存在ではあるが違うぞ。かつて初代が所有していたモノがあるのじゃよ。八咫烏がな」
「八咫烏がラグナロクの使役する式神なのか、どこにあるんだ?」
「さあな。今はどこにあるのかは我も知らん」
「そうか、八咫烏、八咫烏、。・・・っ、まさかな」
黒瀬は一瞬何かに気づいたような顔をしたが勘違いだろうと忘れた。
「まあ今回は氷室がどうにかしてくれるだろうし気にしなくていいだろ」
「他力本願か?」
「どこで覚えたんだ?」
黒瀬は一階に降りて母と夕飯を作り一緒に食べて寝る準備をし一日を終えた。
☆ ☆ ☆
〜次の日 月曜日 昼休み〜
「というわけで、今日から生徒会の書記を務めさせて頂く炎堂武尊です。よろしくお願いします!」
炎堂の大きい声に耳を塞ぐ涼風と笑顔な望月。
「えーと、生徒会の会計を務めます水崎シズクです。よろしくお願いします」
マトモな奴だ、と安心する涼風と笑顔な望月。
「話は聞いたと思うけど俺が暫くの間、生徒会業務に参加出来る機会が少なくなりそうなんだよ。だから本当にありがとう。詳しい仕事内容は颯に聞けば分かるから。じゃ、あとは頼んだよ」
「はい。分かりました」
望月は涼風にあとを任せて生徒会室を出た。涼風は言われた通り書記と会計と庶務の詳しい仕事内容を4人に説明をした。説明を受けた4人は教室に戻った。
「いや〜まさか生徒会に誘われるとはなあ」
「それも驚きだけど私は黒瀬が生徒会に入ってるのが驚きだね。あの黒瀬が人の手伝いをするようになるとか、成長したねー。嬉しいよ私は」
「そりゃどうも」
少々呆れ顔で答える黒瀬の耳元で氷室が囁いた。
「シズクは相変わらずだね」
「そうだな。俺のことを心配してくれてるのは嬉しいけどたまには自分のことを最優先にして欲しいよ。姐さんは自分のことなんて二の次だから」
「シズクは優しいからね」
「ああ。ま、炎堂は放って置いても死ななさそうだから良いんだけどな」
「・・・黒瀬くんってやっぱり炎堂くんのことは適当だよね?」
「いや、適当じゃなくて“適当”なんだよ」
適当:対応がいい加減で、その場しのぎである様子×適当:度合がちょうどよいこと。○
「なるほど、日本語の難しさを体現してるね」
炎堂と水崎の生徒会への加入を無事終えたので、4人はそのまま午後の授業をこなし、部活へと行くはず、なのだが、。
「えエェェェ!二人とも今日の部活は休むのォォォ⁉︎」
「水崎落ち着け。周りがビックリしてるから。すいません」
いきなりの報告に驚きを隠せない水崎の叫び声に炎堂は周りに頭を下げた。
「ごめんシズク、今日は色々とあって、」
「うん希愛はまだ分かるよ。でも黒瀬、アンタまでもが休むのは理解出来ない」
黒瀬は俺への態度が変わりすぎだろ、と思いながら答えた。
「今日はうちの家業を手伝わなきゃいけないんだよ。だからもう帰んの」
「家業?ああ神社の手伝いか。分かった、なら急げ。水崎は俺が相手をするから」
黒瀬と氷室が「頼む」「お願い」と言うと炎堂は水崎を引っ張りながら体育館に行った。
「ああああァァ!希愛ァァ!」
「氷室に会ってから姐さんのキャラ崩壊がスゲェな」
「まあ私は嬉しいけどね。ここまで私のことを好きでいてくれて」
氷室は水崎たちの行った体育館のほうを微笑ましい顔で見ながら言った。
「……氷室、望月先輩から聞いたと思うが、」
「分かってるよ。家の従者たちに急いで探すように伝えてある」
「流石だな。俺も目星を付けてる場所がある。見つかったら直ぐに行く」
「了解。待ってるからね。私が倒してるかもだけど」
黒瀬と氷室は校門の前で分かれてお互いの家に急いだ。氷室は自身の家に伝わる式神のチャームは見つかり次第届けて貰うように家に連絡をしながらバイクを出して現場に、黒瀬は自身の式神を探しに。そんな中、すでに学校から北東7kmの場所でグレンデルが暴れていた。
「ウヴォオオオオオ‼︎」
「「「きゃあアァァ⁉︎⁉︎」」」
昨日と同じように建物などを破壊して市民に危害を加えていた。それが視界の範囲内に入ると現場の状況を察してバイクのスピードを上げた。
「もう暴れてるし、急がないと」
〜黒瀬家〜
「母さん、ただいま、」
「あら廻くん、おかえり。今日は部活じゃないの?」
「部活だったんだけど、母さんに聞きたいことがあって、」
「聞きたいこと?なに?」
黒瀬はゆっくりと息を整えて聞いた。
「うちが祀ってる天照大御神って八咫烏と関係あったよな?」
「ええ、あるわよ。それがどうかした?」
「八咫烏に関するモノはなにかあったりするのか知りたくてさ」
菫は少し思い出すかのような仕草を取った。
☆ ☆ ☆
「グオォォォ‼︎」
「キャーーー‼︎」
グレンデルが目の前で叫ぶ一般人に自身で壊した壁の塊を投げつけた。
「⁉︎ 危ない。ハアッ!」
その塊に向けてなんとか間に合った氷室が氷の斬撃を放ち壊した。そして直ぐにバイクを止めて避難を呼びかけた。
「ここは危険なので早く逃げてください」
「すいません、ありがとうございます」
「大丈夫ですよ。急いで」
避難したのを確認してドライバーを出した。
“フレイヤ、ローディング”
「変身」
“仮面ライダーフレイヤ、レーヴァテイン”
「今度こそ絶対に倒す」
フレイヤは昨日と同じようにグレンデルを凍らせて動きを封じた。当然、前回よりもさらに硬く、強固に。
「昨日は途中で逃げられたからね。前よりも硬くしといたよ。まずは右腕を」
「グオオオオ⁉︎」
フレイヤはまず、グレンデルの右腕から斬り落とすと同時に切り口を凍らせて再生を出来ないようにした。そして直ぐに戻り左腕を目掛けて飛び上がった。
「次は左腕」
「グヌヌヌ、させん!ヌアッ!」
「嘘⁉︎危なっ⁉︎」
グレンデルは氷を破り左腕を後ろにいるフレイヤに振った。フレイヤはギリギリのところをなんとか避けたので無事であった。
「いま、喋った?まさかとは思うけど、成長⁉︎」
☆ ☆ ☆
「あ、もしかしてアレかな。スノードームみたいな形のやつ。中に八咫烏の銅像があるの」
「それって、今どこにあるか分かる?」
「確か神社の隣にある蔵のどこかにあったと思うけど、鍵持ってくるわね」
黒瀬は母から蔵の鍵を受け取り、もう少し上にある神社へと走って行った。
「この蔵か、あまりちゃんと中を確認したことはなかったからな」
「この中に無ければもう探すアテはないな」
「テメェも手伝えよな」
黒瀬はヴァルハラに釘を刺してから戸を開けた。
「ゴホッゴホッ、煙いな。ヴァルハラ、なんか感じないのか?」
「うーむ、長いときが経っているからか力が弱まっているのだろう。これと言ってはなんの気配も無いわ。これは気合いで探す他ないな」
「はー、マジか。氷室、大丈夫かなあ。急ぐぞ」
☆ ☆ ☆
「ハァハァハァ、知性が付いてきてる」
(いや、理性のほうが正しいかな?ちゃんと狙いを定めて来て隙が無くなってきてる)
「どうした?もう限界なのか?」
「なわけ、ないでしょ。まだ全然余裕だし」
「その威勢、いつまで保つかな」
グレンデルは雄叫びを上げて右拳をフレイヤに放った。
「くっ、」
フレイヤは身体をなんとか動かして右に避けた。
「少しでも良いから凍っててくれない?」
“アポロン、ローディング”
「変身」
“仮面ライダーフレイヤ WITHアポロン”
“ガイダンスタイム”
「ほんの少しで良いからさ」
“フレイヤサークレッド”
「ヌオオオ⁉︎なに⁉︎やっ、破れん」
「当たり前だよ。これまでの氷とは訳が違うからね、」
フレイヤは矢を放つとその場に片膝を付いた。
(少し、神力を使いすぎたかな、頭がクラクラする…)
変身が解けてその場に完全に倒れてしまうと思った矢先、誰かが氷室を支えた。
「わるい、遅れた。でも大丈夫だ、あとは任せろ」
「黒瀬くん?」
「コイツを見つけるのにかなり手こずった。まさかあんな所にあるとはな、」
〜〜〜〜〜
「クソが〜本当にあるのかよ、この蔵の何処かに〜」
「今は貴様の母を信じるしかあるまい。・・・ん?おい黒瀬よ」
「ああ?どうした?」
「ワシらさっきからずっとここら辺を探しておるがコレは何じゃ?」
ヴァルハラが指差した床を見るとそこには謎の扉があった。
「・・・まさか、ここか?」
気になったので開けると中は暗く何も見えなかった。
「ヴァルハラ、そこの懐中電灯で照らしてくれ」
中が見えたのでハシゴを下ろして降りると一つの祠があった。そこには二人が目的としていたモノがあった。
「まさかの地下とはな、灯台下暗しとか言うやつか」
「少し違う気もするが、そんな事は今はどうでも良い。俺は直ぐに氷室のもとに向かう。ヴァルハラはここの片付けをしといてくれ」
「はっ?おい黒瀬‼︎ 本気か?これを?全部?」
残されたヴァルハラは結局一人でお片付け中である。
〜〜〜〜〜
「そっか、見つかったんだね八咫烏」
「ああ。てか氷室、お前の所の式神はどうしたんだ?」
「それが、家のは蔵が多すぎてなかなか見つからないんだよね」
「マジか、それ早く言えよな。それなら俺は見つけるのをヴァルハラに任せたのに」
「へへへ、ごめん」
氷室は疲れた顔を上げながら謝った。
「まあ良いよ。お前は休んでろ」
黒瀬はブロードで氷室を離れた所に移した。そして氷室の集中力が切れたからか氷の強度が下がりグレンデルは拘束を破壊した。
「グレンデル、前のようにはいかないぞ。今回で確実にお前を倒す」
“ラグナロク、ローディング”
「変身」
“仮面ライダーラグナロク。ダーインスレイヴ”
「えっと、確かコイツに挿せば良いんだっけか?」
“八咫烏”
ラグナロクは八咫烏チャームを起動してダーインスレイヴに装填した。
“マジカルフィースト”(魔宴)
そしてチャームを回して式神を召喚した。
“召喚、八咫烏”
「な、なんだコイツは」
グレンデルは目の前に現れたデカい八咫烏を見て困惑していた。
「さあ八咫烏、お前の強さを見せてくれ」
「ガアァァァァ‼︎」
八咫烏は三千年振りに空に向かって鳴いた。
「ふん、烏一匹を出したからといって勝てると思うな!」
「八咫烏、頼むぞ」
ラグナロクからの指示を受けた八咫烏はまるで喜んでいるかのような様子を 見せてグレンデルに突撃した。
「ガアアアア!」
「ぐっ⁉︎なんだこのパワーは、」
「すげえな、」
(あのグレンデルの巨体をも圧倒するパワー、これが式神。体当たりだけでもダメージはかなりある感じだな)
三千年の空きがあったとはいえ巨人のグレンデルを追い込む八咫烏。ラグナロクはグレンデルが限界に来ているのを察知し、指示を出した。
「八咫烏!お前は上空に行け。俺がコイツの手足を削いだらお前が一気に決めろ」
「ガアァ!」
八咫烏は言われた通りに上空に飛んだ。
“ヘルメース、ローディング”
「変身」
“仮面ライダーラグナロク。WITHヘルメース”
“フューネラルタイム、ヘルメースクライシス”
「ハアッ!」
ラグナロクは神力を込めたダーインスレイヴで四肢を斬り裂き背中から倒れるグレンデルを蹴り付けスピードにより増加したパワーを使って力強い蹴りでグレンデルを空中に放った。
「最期は頼むぞ。グレンデル、お前はもう散りどきだ」
ラグナロクはダーインスレイヴにある八咫烏チャームを起動した。
“エクソシスムタイム、ヤタガラススラウター”
「ガアアァァ‼︎」
紫色のオーラに包まれた八咫烏はクチバシから突撃し、グレンデルの腹に穴を開けた。
「グオオァァアア⁉︎⁉︎まさか、バカな、バカなアアァァ‼︎」
グレンデルは現状を理解できないまま空中で爆散した。
「お疲れさま、八咫烏。ゆっくり休めよ」
ラグナロクが剣からチャームを外すと八咫烏は砂が風で吹かれるように消えた。本人もそれと同時にラグナロクチャームを外して変身解除をした。
「さてと、氷室!大丈夫か?傷とかは?」
「大丈夫だよ。自分で治療したから、傷跡とかも残ってないし、」
「そうか、よかった。とりあえずイザナギまで行こう。」
黒瀬は不落ノ八咫烏を出し自身の後ろに氷室を乗せて走り出した。
「イザナギに着いたら報告書を直ぐに書いて家まで送るから案内してくれ」
「うん分かった。でも大丈夫かな?黒瀬くん知ってると思うけど、イザナギの人たちはラグナロクの存在を恐れてる人と嫌悪している人が殆どだから、」
「何かあったら、って思うのか?大丈夫だよ。その時は受けて立つから」
「出来れば平和的に解決して欲しいんだけど、」
氷室が珍しく呆れ顔で見てきたので黒瀬は少し笑っていた。
「はは、分かってるよ。そんな自ら敵を増やすような事はしないよ」
「なら良いんだけど、」
(そんな事になったら、当主になった私が止めれば良いかな)
氷室はそう考えながら黒瀬の腰もとに巻いている自身の腕をさらに強く抱いた。
☆ ☆ ☆
「よし着いた。歩けるか?」
「うーん、まだちょっと疲れてるから先に行ってて。追いかけるから」
「そうか、なら運んでくよ。ほら」
黒瀬は氷室に背中を見せながら小さくなった。
「えっと、黒瀬くん?ブロードで行けば良いと、思うん、だけど、」
「・・・確かに。疲れてると頭回らないな」
「うん。サッサと終わらせて帰ろうか」
黒瀬は「だな」と言いながらブロードを開いた。
「えっと、報告書はどれを使えば良いんだ?」
「そこにあるパソコンを使って。どう書くかは見れば分かると思う」
「あー、なるほどな。これは時間掛かるな、結構書く事多いわ。氷室寝てて良いぞ、」
氷室は既にテーブルにうつ伏せになって眠っていた。
「早いな。まあそうだよな。今日はかなり頑張ってくれたし」
(言われた通りサッサと終わらせて氷室を家に送って行くか)
☆ ☆ ☆
「・・・んっ、んんー。ってアレ?ここは?」
「目が覚めましたか?」
「え、お母さん?黒瀬くんは、」
氷室は目が覚めて辺りを見渡すが黒瀬の姿は見えず完全に自分家に居るようだった。
「ラグナロクの少年なら既に帰りましたよ。貴女が眠ってしまったので起こさぬようにここまで送ってくれました。疲れてるみたいだから充分に休ませてくださいと言ってね」
「・・・ごめんなさい。あとでちゃんとお礼を言います」
「謝る必要なんてありませんよ。フレイヤとなってまだ日が経っていない中、グレンデルとあそこまで渡り合えるなら上出来です。コレをあげましょう」
千鶴は上半身を起こしている氷室に何かを投げた。
「これは、まさか、」
「氷室家に伝わる式神です。先ほどラグナロクの少年が見つけてくれました」
「黒瀬くんが?あれだけ見つからなかったのに、どうやって、」
「見えたみたいですよ。式神が何処に居るのかが」
「そんなことが、」
(式神が居る場所が見える⁉︎そんな事が出来るなら黒瀬くんはもっと早く来れていたはず。と言う事は、八咫烏を手に入れてからその力が発現したということ)
「・・・何を考えているのかは知らないけど、今は休みなさい」
千鶴はそう言って部屋を出た。
「はあ、」
(あの少年、異常な程の量の神力を保持していた。今はまだ成長している最中のようだし、我々の味方ではあるようだけれど、)
「いずれは敵となるか味方であり続けるか、どちらかしらね」
千鶴はそう一言呟きどこかに歩いて行った。
☆ ☆ ☆
「ふわあ、眠いな。帰ったら少し寝るか、ん?ああ、そう言えば、」
黒瀬は何かを思い出したかのように家に急いだ。一方そのころヴァルハラは言われた通りに蔵の片付けに勤しんでいた。
「ハァハァハァ、黒瀬め、一向に帰って来ぬな」
黒瀬に対する愚痴をぶつぶつと呟きながら作業を続けるヴァルハラ。すると家の方向から声が聞こえた。
「ヴァルハラー、片付けは終わったか?」
「む、黒瀬貴様、ちゃんと倒したんだろうな?」
「神力の消滅は感じたろ?八咫烏のお陰で勝てたよ」
「そうか。それはさて置き何かご褒美は、」
「ほらよ。手作りだけど食うか?」
なんと黒瀬は自身の手作りであるどら焼きをヴァルハラにあげた。
「お前の手作り、まさか毒が、」
「な訳ねえだろ、ぶった斬るぞ。要らねえなら返せ」
「いや貰おう」
ヴァルハラはどら焼きを一つ掴み大きく口を開けてかぶり付いた。
「む、美味いな。もしかして黒瀬は料理が得意なのか?」
「まあ時々母さんのを手伝うからな。母さんが夕飯を作って俺がデザート、って感じだな」
「なるほどな、ご馳走様でした。で、八咫烏はどうだったんだ?」
「かなりの強さだったな。あのグレンデルの腹に穴を開けるほどだった」
「そうか、。ところで黒瀬よ、お前氷室家に行って式神のいる所が見えたらしいな」
ヴァルハラはなんだか少し曇った声で言った。
「見えたけど、それがどうした?」
「・・・いや、何でもない。ただ神力の操作や察知が上達したと思ってな」
「そりゃあそうだろ、ここまで鍛えられればな。ほら帰るぞ」
黒瀬とヴァルハラは蔵の鍵を閉めて家に帰り今日もまた無事に一日を終えた。
ーーーーーーーーーー
次回予告
式神という新たな相棒を手にした黒瀬と氷室。勢いに乗る二人だが、親友の炎堂と水崎の2人が何だか変?そして今回は学園を突然邪神ガルグイユが襲ってくる⁉︎その対抗策として氷室家に伝わる式神が動き出す
次回:美しき白獣
仮面ライダーラグナロク第六話『眠りから目覚める式神』は如何でしたか?どうも柊叶です。今回は仮面ライダー達にとって非常に便利な戦闘アイテムの登場回という事で式神を出させて頂きましたが、仮面ライダー好きの僕にとって、なぜ式神にしたかと言うとですね、式神なら大きさを変えられれば高頻度で登場させられるんじゃないかな、と思ったからです。なのでこれからもそれなりに登場させてあげられればなと思います。
それでは次回、『美しき白獣』でお会いしましょう
柊叶