第5話 『冰麗の巫女 フレイヤ』
〜前回の仮面ライダーラグナロクは〜
氷室の歓迎会も兼ねて休日に遊園地に遊びに行った4人。すると其処で迷子の女の子に出会う。父親を探している最中、殺戮の神エリスと対峙する黒瀬。最終的には斃したものの、斃せた理由には何かがありそうだが…。
今現在、黒瀬と炎堂の眼の前に泣き崩れている水崎がいる。
「黒瀬、どうしたらいいと思う?」
「いや、どうしようもないだろ」
「だよなあ。ほら水崎、早く起きろ。授業始まっちまうぞ」
机にうつ伏せになっている水崎の肩を炎堂は軽く揺すった。
「無理。今日はもう1日やる気出ない」
「はあ〜〜、まさか水崎にとって氷室がもうそこまで大事な存在になっていたとはなあ」
「大事な存在ってのは理解するけどよ、」
(ここまでなるものなのか?)
あの姐さんがと驚いたが、黒瀬はこの前の遊園地での水崎を思い出した。
~~~
『マジで希愛って天使…、令和のマザーテレサ?歩くマイナスイオン…』
〜〜〜
その他諸々を思い出した黒瀬は結論を出した。
「重症だったな…」
「何処に行くんだ?」
半ば諦めた黒瀬は教室を出て行こうとすると炎堂に止められた。
「1つ用事があってな。姐さんのことは頼んだ」
「そうか、了解…。って、授業は⁉︎」
炎堂の質問を無視してまで黒瀬が向かったのは生徒会室だった。ドアの前に立ち3回ノックをした。中から「どうぞ」と返事がきた。
「失礼します」
「ああ、黒瀬くんか。何か用?」
「氷室が休みなのが気になったので鳴上先輩なら何か知っているんじゃないかと思ったしだいです」
「あれ?氷室から連絡は来てないのかい?」
来ていませんの意味を込めて黒瀬は首を横に振った。
「そっか、まあ別に口止めされている訳じゃないから良いかな」
鳴上は席から立ち上がりソファの方に移ると右側を勧めてきた。黒瀬は軽く頭を下げてから隣に座った。
「氷室は今日ね、試験を受けているんだよ」
「試験って、仮面ライダーのですか?」
「そうだよ」
数瞬間沈黙が続き、気まずくなったので黒瀬は質問をした。
「あの、仮面ライダーの試験っていうのは具体的に何をするんですか?」
「えーと、まあ試験体制はまず実技なんだよ。素の状態での身体能力を測ったり、神力の操作の実力を見たりとか色々あるんだけど」
鳴上は一呼吸置いてから「中でも一番キツイのが、」と死んだ顔を作った。
「現当主とその他重役での多数決なんだよね」
「あ、ああーー、なるほど」
黒瀬は察した。多数決ということは当然ながら反対票もある。つまり今後自分が当主になった際の付き合いが面倒くさくなるということに。
「もしかして先輩の親は…反対が多かった感じですか?」
「そりゃあね。特にウチの親は事情が少し特殊でね、俺には叔父さんがいるんだよ」
「あっ、」
黒瀬はまた察した。
「さすがは察しが良いね。そう一票差で父さんが叔父さんに勝ったんだよ。再審すればと思わなかったのかな?」
「この令和の世でも派閥争いっていうのはあるもんなんですね」
「従兄弟とは仲良く出来てるからまだ良いけどねえー。だから氷室が心配だよ」
水筒の水を飲みながら鳴上はため息を吐いた。
「氷室は親戚同士の争いじゃなくて、重役が付いて来るかどうかですもんね」
「そう、だから俺よりも面倒だよ」
「従兄弟さんはライダーになりたい訳じゃないんですか?」
「寧ろ引き受けてくれて有難いって言ってたよ。俺は青春を謳歌するだってさ」
☆ ☆ ☆
「………」
コートのど真ん中で佇む水崎。
「黒瀬、どうにかしてくれないか?」
「姐さんのやる気スイッチは何処にあるか知らないんだよなあ」
「やる気スイッチなんて今の子には通じないんだろうなあ〜」
「俺ら世代が知ってるのも中々にレアだけどな」
ラケットのガットの張り具合を確認しながら答える黒瀬に炎堂は呆れた。
「お前、水崎が今日1日あんな状態なのに心配じゃないのか?」
「心配はしないな、死ぬ訳じゃないし。復活させる方法はあるし」
「やっぱやる気スイッチの在処知ってんじゃねえか」
はよ押して来い、と炎堂に物理的に背中を押され、渋々黒瀬は処置を行った。
「姐さん、今日部活頑張ったらレモンパイを奢るけど、」
「よし、行こうか。土曜日ね。炎堂!早く打つよ!」
(乗せやすいな…)
コートへと見送る黒瀬の後ろから炎堂は歩いてきた。
「何をしたんだ?」
「物で釣っただけなんだが、食いつきが凄かったな」
「なるほど、好物で釣ったのか。それは思いつかなかったな」
その後、調子を取り戻した水崎に2人はボコボコにされた。
「よっしゃアアァァァァ!!」
「なんか調子を取り戻した水崎強くないか?」
「今日1日、碌に頭を使ってないから余力が有り余っているんだろうな」
2人は床に片膝を突いていた。先に炎堂が立ち上がり水崎にもう一戦しようと話していた。
「巻き込まれない内に逃げるかな」
素早く立ち上がり音をたてずに黒瀬は体育館と校舎を繋ぐ外の通路に出て途中にある水道で頭に水を浴びた。するとその場に涼風がやって来た。
「よくこのほぼ冬の時期に水を浴びれるな」
「ほぼ冬でも窓を閉め切るバドミントンをやってると熱が溜まるんだよ」
なるほど、と涼風は素直に納得していた。
「そういや氷室って今日試験なんだろ?」
「そうみたいだな、それがどうかしたか?」
「お前はいつ試験なのかなと思ってな?」
タオルで髪を拭きながら尋ねると涼風は少し不機嫌そうに答えた。
「俺はまだ試験を受けれるほどの実力には至っていない、謂わば修行中の身だ」
「なるほど、」
(コレは触れちゃあいけないやつだな)
話題を変えようとすると、先に涼風が話を振った。
「お前は、一体何のために戦っているんだ?」
不意を突かれたため少し戸惑っていると涼風は続けて言った。
「何故お前は命の危険を冒してまで邪神と戦うんだ?」
黒瀬は右手を下唇に軽く触れさせ考える素振りをした。
「…正直なところ、俺自身も戦う意味がよく分からないな」
「はっ?」
「最初力を受け継ぐ時は自分の為だった。でもテュールやイカロス、エリスとの戦いの中で、何かが変わった気がするんだ。それが戦う意味なのか、また違う感情なのか、それがまだ分からないんだよな」
涼風は右手で髪を掻きながら、
「そんなあやふやな状態で戦っていたら、貴様はいつか死ぬぞ!」
精々気を付けるんだな!と言い残し涼風は校舎のほうに戻って行った。
「…ツンデレ、ってやつか?心配はしてくれるんだな」
☆ ☆ ☆
「また明日な」
「黒瀬、土曜日だからね!忘れないでよ!」
「はいはい分かってるよ」
部活が終わり、いつも通り校門の前で別れる3人。水崎はレモンパイの約束を反故されぬようにと念を押してから炎堂と共に帰って行った。
「さて、帰るかな」
今日は復活した水崎に一段と練習に付き合わされた為か、かなり疲れていた。
「やっぱバイクで帰るかな、いや学校から少し離れたらにするか」
5分ほど歩き辺りを見渡してから黒瀬は転移之渦を展開しバイクを出した。
「今日は邪神が出てこなくて良い日だなあ」
そんな独り言を呟いていると見事にフラグを秒で回収した。
「あーー、そういう感じか」
その場にいたのはアスピドケロンというクラーケンのような姿の邪神だった。見た目はタコのようなイカのようなどちらとも言えない見た目だった。足の数は8本。身体にもヌメヌメした液体が付いていた。
「ファスティトカロンか」
(長いからファスティトで良いかな)
「わざわざ辺りに人が居ないタイミングで来てくれるとはな、有難いよ」
「お主のためではないぞ、昼間は熱いから夕方どきにしただけだ」
次の瞬間ファスティトは触手を1本、黒瀬の方に振り落とした。
「危なっ⁉︎」
直ぐに黒瀬は右に転がりながら避け、ドライバーを装着した。
「全く、せっかちな奴だ。変身!」
“仮面ライダーラグナロク”
「この柔らかそうな触手に刃が通るとは思えねえなあ」
ラグナロクは半信半疑ながらファスティトに挑んだ。ファスティトは最初と同じでその場からは動かず触手を縦横斜めに振りまくった。ラグナロクはそれらを交わしながら進んだ。
(いくら触手が強くとも間合いに入ってしまえばお前を守るものは一つもないだろ)
ファスティトの身体まであと一つという所に迫った。
(貰った)
「ふむ、まあそう来るよなあ」
自身の間合いに迫るラグナロクに対して一切の焦りをファスティトは見せなかった。その理由は次の瞬間、直ぐに分かった。ファスティトは自身の身体から新たに触手を生やしラグナロクに攻撃を与え後ろに飛ばした。
「そんなことも、出来るのか」
(予想通り剣は触手には通らなかった。となれば当然斬るという選択肢は消すしかない)
「よし、凍らしてみるか」
“アポロン、ローディング、仮面ライダーラグナロクWITHアポロン”
「ほおーアポロンの力か。これは厄介…かもな」
ファスティトはアスラを十数体ほど召喚した。
「一気に片付ける」
アポロンの専用武器であるアルテミスに終焉之宝珠を装填した。
“導軌ノ刻、終焉ノ聖刃”
アルテミスから放たれた氷の矢は怪しげな雰囲気を漂わせる黒紫の煙を纏っており全てのアスラを包み込んだのち、爆散した。
(やっぱりラグナロクの力は全てを消す力ってのは間違いないんだな)
そう改めて自分の受け継いだ力の強さをラグナロクは感じていた。そしてアルテミスを右手に持ち再度ファスティトに挑んだ。当然また触手を振り落とすのでラグナロクは氷の矢を放った。すると見事に矢は触手を射り落とした。
「よし、このまま全ぶ…。とはいかないか」
触手を射り落としたのは良いものの、なんとファスティトは瞬時に触手を再生した。
「その様子ではお主の手札は尽きたようだな。なら終わらせてやろう」
ファスティトは数本の触手を横に重ねてラグナロクに向けて放った。ラグナロクは避け切れず壁に打ち付けられた。
「……ぐあっ、」
衝撃が強すぎた為か頭が回らず神力の操作もままならなくなり変身が解除された。
「ふむ、どうせなら捕食でもしてやろうかの」
ファスティトは一本の触手で黒瀬を絡め取った。そのまま腹の口元で取り込もうとすると突然その触手に衝撃が走り切り落とされた。
「なっ⁉︎一体なにが⁉︎」
辺りを見渡すと右側に人影が見えた。
「誰だ貴様は?」
「わるいねーファスティトカロン。まあ再生出来るから良いでしょ?」
その場に現れたのは鳴上雷牙だった。
「先の斬撃。さては雷の使い手か」
「ご名答。申し訳ないが黒瀬廻は渡せないよ」
「ふん、仮面ライダーでもない貴様に何が出来ると言うんだ。いくら触手を切り落とせても貴様ではトドメなぞ刺せまい」
ファスティトは鳴上を散々煽り散らかし全ての触手を振り上げた。しかしその触手は全て振り落とすことは出来なかった。
「なっ…何故だ⁉︎何故身体が動かない⁉︎」
ファスティトは悔し紛れに鳴上を見た。鳴上は余裕そうにゆっくりと黒瀬のもとに歩み寄りながら話し始めた。
「確かに俺は仮面ライダーではないから君たち邪神にトドメを刺すことは出来ない。でもね、仮面ライダーをサポートするだけの実力は持ち合わせているんだよ。今君に身動きを取れなくさせるぐらいにはね」
「……っ、」
「じゃあね」
鳴上は電気を帯びた鏡のような転移之渦を展開し黒瀬を抱えてその場を去った。
「うおっ⁉︎……覚えておれよ、」
☆ ☆ ☆
「ここ…は…」
黒瀬はホールの隅にある簡易ベッドの上で目を覚ました。
「目が覚めたかい、黒瀬くん」
「先輩?」
黒瀬は辺りを見渡して今はイザナギに居るのだと理解した。戦いの後、自分に何があったのかを訊こうとすると、先に鳴上が話を始めた。
「今回の敵はファスティトカロンのようだね。ダーインスレイヴの刃が通らず嘸かし苦戦を強いられたことだろうね」
「全部お見通しってことですか。それだけ知っているということは俺を助けたのは先輩ですね?」
「ご名答。寝起き早々によく頭が回るね。流石だよ」
「俺としてはファスティトの下から俺を連れて逃げ切った先輩のほうが流石と思いますけどね。どうやったんですか?」
「知りたいかい?」
返事を分かっている上で鳴上は訊いてきた。黒瀬は「勿論」と返した。
「じゃあ教えてあげよう。ええと、どう伝えようかなあ」
少し考えるような素振りをする鳴上。するとその場に怒り口調で涼風が入って来た。
「鳴上さん!アンタまだ残っていたんですね!仕事熱心なのは良い事ですが、自分の体にもう少し気を使ってください!今日はもう帰りますよ!」
入って来て早々に鳴上の両肩を掴みなが鳴上の心体を心配する涼風を無視して鳴上はよく来た!と言わんばかりの笑顔を見せた。
「ナイスタイミングだ颯!ちょっと俺に殴り掛かってくれ!」
黒瀬と涼風は「は?」という顔をした。しかし涼風は鳴上の言葉には従順。直ぐに殴り掛かった。すると涼風の身体は鳴上の手前で止まった。
「これをやったんだけど、見て分かる?」
「いえ、全く」
「じゃあヒント。俺は雷の使い手なんだよ」
黒瀬は頭の中で雷というワードを繰り返し再生した。
「雷、電気、静電気、痺れる…。筋肉硬直ですか?」
「ご名答!相手の筋肉に微力の電気を流すことでコレが可能なんだよ」
鳴上は楽しそうに話していた。おそらく出来るようになるまで、かなりの歳月を費やしたのだろう。
「な、鳴上さん。いつ解くんですか?」
「あ、ごめんごめん。そうだ黒瀬くん、人間が気絶するのって脳にショックが流れるからっていうのは何となく分かるよね?」
「ええ、まあ何となく」
鳴上はなにやら意地の悪そうな顔をした。
「だからこういう事も出来るんだよ」
そう言うと左人差し指を涼風の眉間に当てた。
「ぐあっ…」
「おっと。ね?」
直後、涼風は足から崩れ落ち、それを鳴上は受け止めた。
「気絶させたんですか?」
「うん、覚えておくと結構便利だから是非実戦で使ってみてね」
詳しいことを全て話すと鳴上は深刻な顔で忠告をした。
「そうだ黒瀬くん、言っておくことがあるんだ」
「何ですか?」
「邪神から高威力な攻撃を喰らったととしても、気を失うのはなんとか避けて欲しい。仮面ライダーの装甲は神力で形創られているのは意識的に分かるだろ?だから気を失ってしまうと神力が上手くドライバーにある宝珠に流れ込まなくなるんだ。つまり強制的に変身が解除されてしまう。それは戦いの場ではあまりにも危険すぎる」
その言葉を聞いて黒瀬は朧げに先の戦いを思い出した。
「…そうですね。次は一撃も喰らいませんよ。先輩が良い事を教えてくれたので」
「そっか、それもそうだ」
黒瀬は一礼をしてからホールを出た。鳴上はその背中を嬉しそうに、少し悔しそうな表情で見送った。
「俺がもう仮面ライダーなら、君だけに負担を背負わせたりしないのになあ」
鳴上は心の中で氷室にエールを送った。
(頑張れよ、氷室)
☆ ☆ ☆
〜次の日、土曜日〜
「なんで、なんで今日、希愛は来れないの?」
「家庭の事情だってさ。今朝LiNEが来た」
と言うのは嘘であまりにも合格したとかの連絡がないので黒瀬は鳴上に電話をしていた。
《合格かどうかってそんなに時間が掛かるものなんですか?》
《うーん、氷室の家は先代が強すぎたっていうのもあるのかなあ、先代は氷室の母親なんだけど怪我で引退したんだ。比較対象が強すぎるが故に意見が膠着しているんじゃないかなあ。あと今家に居ないようだしね》
(なんて姐さんには言えないよなあ、てか)
「なんでバスケットコートに今居るんだ?」
疑問を炎堂にぶつけると、さぞ当たり前かのように答えた。
「なんでって、水崎がご褒美のレモンパイを食べる前に極限までお腹を空かせたいんだって言ったからだよ」
「そうか、頑張れよ」
「俺が疲れたら次は黒瀬の番だからな」
嫌だ、と言いたかったが水崎に嘘をついてしまった分、黒瀬はお詫びに渋々受け入れた。
「分かったよ、じゃあ先頼む」
「おう、準備運動はしとけよ〜」
今此処に玉帝学園、運動部門のキングとクイーンのバスケ対決が開幕した。
「水崎との1on1はいつ振りだっけかなあ」
「言うてそこまででしょ。さあ始めるよ」
(2人のバスケにおける実力には然程差はない。ただ炎堂は性格的に攻めて攻めまくるタイプで水崎は相手の動きを見て柔軟に対応するタイプ。その点だけを踏まえてどちらが勝つかを考えれば、それは水崎だ。でも炎堂の圧倒的フィジカルの強さに完璧に対応出来るかと言われればそう言う訳でもない。実力はやはり五分五分と言ったところ)
数分、ボールの奪い合いが続くと周りにギャラリーが増えてきた。
「スゲェ、あの炎堂武尊さんと水崎シズクさんが1on1で勝負してる!」
(近所の中学生に、休日の散歩を楽しむ夫婦などと色々と集まってきたな)
「ははっ!人がスゲェ集まってんな」
「炎堂、油断禁物」
ギャラリーたちに一瞬目を向けた炎堂の隙を突き水崎は炎堂の右側から抜きゴールを決めた。当然辺りからは歓声が上がった。
「いやあーやっちまったなー。よし、黒瀬交代な」
黒瀬は当然のように首を左右に振った。
「いやいやこんなにも人がいる中でバスケ出来るわけないだろ」
「大丈夫だ黒瀬。ゾーンに入れば周りなんか気にならなくなるさ」
ゾーン状態は簡単には入れねえよ、とツッコむと水崎が、
「大丈夫よ黒瀬、一瞬で終わらせて楽にしてあげるから」
少々煽り口調で言われると黒瀬は、
「別に負ける気では挑まないからな?」
「お、やる気になった」
「相変わらず煽りに弱いなあ。じゃあ俺がボールを上げたら開始な」
黒瀬がコートの中に立つとギャラリーたちはザワつき始めた。
「誰だあの子は?」
一人の大人が言うと隣の中学生が思い出したように言った。
「あっ、確か去年のバドミントンの冬の大会で炎堂武尊さんに勝った人だ」
~~~
「よし準備は出来たなあ。おりゃ」
ボールが上がると黒瀬のが身長が高いため先にボールを手にした。
(さあどう来るどう来る〜。どんな手で来られても私が確実に止めて、)
頭の中でありとあらゆるパターンを水崎は考えていた。
「わるいな姐さん、全部ハズレだ」
黒瀬はボールをゴールに向かって放ると次に水崎の左側から抜けて走り出した。そして跳ね返って来たボールを右手で掴みダンクを決めた。
「アンタって本当に予想外のことしてくれるよね。流石だわ」
「姐さんほどじゃないさ。周りからは歓声は上がんないし」
「予想外過ぎて皆んな呆然としてんのよ」
2人の下に炎堂は飲み物を持って来た。
「一瞬だったなあ。でも水分はちゃんと摂れよなあ」
「「ありがと」」
水崎は先ほど一回飲んだので一口にしキャップを閉めると直ぐに再戦を要求した。
「黒瀬、もう一戦よ」
「いや面倒くさいから嫌だ。もうサッサと食べに行かね?」
「えーじゃあ、あと2回!炎堂と黒瀬合わせてあと2回!」
「んーー、じゃあそれで。先に俺やるわ。〆は炎堂頼む」
ペットボトルを炎堂に渡し2回戦目が始まった。結果は黒瀬の勝ちだった。炎堂との対戦はギリギリなんとか水崎が勝った。
「よし、じゃあ行くか」
「はあああー、黒瀬に負けたのが悔しすぎる。てかアンタ、あんなにバスケ上手かったの?」
「偶然だよ偶然」
3人は学園の近くにあるスイーツ店「シャルモン」にやって来た。
「いらっしゃいませ。おや?3人とも久しぶりだね。テイクアウトかい?」
「いえ、今回は店内で食べていきます」
「そうか、じゃあ空いている席に適当に座ってくれ」
店内を見渡すと相変わらず繁盛していた為、3人は外の席に座ることにした。
「好きなのを好きなだけ頼んでくれて構わないからな。炎堂も」
「マジで?よし炎堂、トレーを3枚ほど持って着いて来て」
炎堂の左袖を掴み水崎は足早にと店内に戻った。その様子を確認した黒瀬は椅子に座った。そしてスマホを開きLiNEを見た。
「氷室から連絡は無しか。まだ会議が続いてるのか?」
☆ ☆ ☆
「長い、長すぎる。なんでお母さん今居ないのお〜」
氷室は今現在、自分の部屋のど真ん中に正座で座っていた。
「いったいどんな話題だったら1日も話せんのよ」
(この間にも黒瀬くんが1人で戦っているかもしれないのに…)
「ラグナロクの力が動いた感じはしないから大丈夫かもだけど」
☆ ☆ ☆
「……ご馳走様でした」
黒瀬はチョコレートタルトを1つ食べるとフォークを置いた。
「黒瀬もう良いのか?」
「まだ食べなさいよ。アンタの奢りなんだから」
「俺は和菓子派だからな…」
頼んだ珈琲を一口飲むと黒瀬は椅子から立ち上がった。
「ん?何処に行くんだ?」
「母さんから家の手伝いをして欲しいって連絡があったんだ。わるいけど先に帰る」
「そっか、頑張れよ。ケーキご馳走様。ほら水崎も」
「ご馳走様でーす」
財布と携帯を持ち黒瀬は家の方に走って行った。
「なぜ途中で抜けたんじゃ?連絡など来ておらんだろう」
「ヴァルハラ、お前どっから湧いたんだ?」
「人を虫のように言うな!普通に飛んで来たのだよ。お主らが美味しそうにスイーツを食べておったからな」
ヴァルハラは少し不機嫌そうに言った。
「悪かったなそりゃあ。じゃあお前も食べてこいよ、ほら五千円」
「おお、良いのか。あ、そう言えばお主に言っておくことがあったわ。我実はなお主の通う学園の教師になったのだよ」
「は?」
黒瀬は脳内でスペースキャットが浮かび上がった。
「実は此処に来る途中、鳴上雷牙という男に出会って人型になった事について色々と訊かれたのだよ。そしたらな」
《へー人型にー。じゃあこの際だからウチの教師になりません?ヴァルハラさんが教師として居てくれれば授業中とかに邪神が出ても呼び出しとして抜け出せると思うんですよ》
「てなわけじゃ」
「地味に便利で何も言えない…」
少し悔しそうにしていると、黒瀬とヴァルハラの脳内に1つの刺激が走った。
「この気配は、ファスティトか。少し遠いな」
「バイクで行けば直ぐじゃろ。頑張ってこい。我はスイーツを食べてくる」
「……クソ教師」
「聞こえたぞ!!」
転移之渦から不落ノ八咫烏を呼び出し黒瀬は現場に向かった。
☆ ☆ ☆
「出てこいラグナロク!」
現場ではファスティトが暴れていた。建物の幾つかは崩れ落ちていた。
「派手に暴れすぎだろ、それに昨日と性格変わりすぎ」
「お前だけか、雷の使い手はどうした?」
「知らん。あの人は仕事で忙しいからな」
バイクから降りながらドライバーを装着し、冰矢之宝珠を起動した。
「変身」
“仮面ライダーラグナロクWITHアポロン”
「掛かって来い」
「お言葉に甘えて、斃させてもらう」
ラグナロクはアルテミスから氷の矢を撃ちながらファスティトに挑んだ。
☆ ☆ ☆
「ああ〜もうっ!長すぎ!」
未だに合否が決まらないことに氷室は痺れを切らしていた。すると突然、部屋の戸が開いた。戸を開けたのは、
「え、お母さん⁉︎なんで此処に?」
氷室希愛の母親である氷室千鶴だった。
「そんな事は良いからちゃんと座りなさい」
氷室は上座を千鶴に譲り、正座をした。
「貴女を正式に第123代目の氷室家当主として認めることになりました。そしてこれは今日から貴女の物です」
千鶴は目の前に1つの木箱を出した。開けると中にはドライバーと宝珠があった。
「これが、善神の使うドライバー」
「ラグナロクが今現在、戦っているようですね。早く行って来なさい」
「はい!」
氷室は外に出て転移之渦を展開しバイクを呼び出した。
「今日から宜しくね。冰上ノ獣牙」
バイクに跨りヘルメットを着けて氷室は現場に向かった。その頃、氷室邸では…。
「千鶴様、本当によろしかったのですか?」
「何がですか?」
「希愛様の実力は全盛期の貴女様より遙かに劣っています。果たしてファスティトカロンに勝てるかどうか…」
「問題ありません。あの子はとても強い子ですから」
☆ ☆ ☆
「ハァハァハァ。再生が早すぎる」
「そろそろ限界のようだな。また気絶させて、今度こそ捕食してくれる」
触手を振り上げ脳天にぶつけようと振り下げたその時、氷の刃が飛んだ。
「グアっ⁉︎なんだ⁉︎」
「氷の刃…。まさか!」
ラグナロクは後ろを見ると其処には氷室が来ていた。
「お待たせ黒瀬くん。かなり時間掛かっちゃった」
「ふっ、随分と長い会議だったなあ。あと任せて良いか?」
「うん」
氷室はラグナロクの隣に移動した。
“運命之帯”
「宜しくね、フレイヤ」
“フレイヤ、ローディング”
左の手のひらに冰麗之宝珠を置き右手で起動し、ドライバーに装填した。
「変身」
“An icy shrine maiden wearing a pure white robe”(純白の衣を見に纏う冰麗の巫女)
“仮面ライダーフレイヤ”
「これが氷室の家の、フレイヤの姿」
見た目は変身音の通り純白の羽衣を羽織っており、白をメインとした姿の所々に水色の配色がかけられていた。
「さあ、行くよ」
フレイヤは臆することなくファスティトに挑んだ。
「ふん、初陣の者に負ける気などせんわ!行け!アスラども!」
フレイヤは襲いかかって来るアスラ達を徒手空拳(手に何も持っていない意)で次々と薙ぎ倒した。
「うーん、数が多いなあ」
ドライバーの右にあるスイッチを起動し時空之巻物を開いた。
“レーヴァテイン”
「レーヴァテインか、確か世界樹の頂に座している雄鶏ヴィゾーヴニルを殺すことの出来る剣だよな」
「流石黒瀬くん!よく知ってるね!」
アスラと戦うフレイヤを見てラグナロクは奮起した。囲まれるフレイヤの背後に割って入った。
「コイツらの相手は引き受ける。氷室はファスティトを」
「分かった。ありがとう」
フレイヤは目の前にいるアスラを掻い潜り前に進んだ。
「貴様に我は斃せんぞ!」
全ての触手を放つがフレイヤは1ミリも焦る様子はなかった。
「残念だけど、貴方の強みは私には一切通用しないから」
剣を左手に持ち直し右手を前に突き出した瞬間強大な冷気が放たれ、全ての触手が凍りついた。フレイヤは氷の塊に剣を一振りし粉砕した。
「な、なに⁉︎」
「いくら貴方でも黒瀬くんとの戦いで疲弊しているなら、再生にも時間が掛かるでしょう?」
フレイヤは剣を地面に突き刺し、チャームを押した。
“加護ノ刻”
「私が看取ってあげる」
チャームを右手で回しフレイヤは天高く飛んだ。
“冰麗ノ洗礼”
「はっーー‼︎‼︎」
「クソッ、クソがアァァーー‼︎‼︎」
ファスティトを完全に貫くとその身体は凍りついており、フレイヤが指パッチンをした瞬間に弾け飛んだ。
「綺麗なライダーキックだなあ。俺のは爆散だからなあ」
ラグナロクは変身解除をしながら羨ましそうに見ていた。すると後ろからヴァルハラがやって来た。
「我慢せい。お主のその技の形は変わらんのだからな」
「スイーツ食べながら喋んな」
ヴァルハラをその場に置き去りにし黒瀬は氷室の下に駆け寄った。
「お疲れ氷室。来てくれて助かった」
「いやいや黒瀬くんがファスティトを疲弊させてなかったら分からなかったよ。私からもありがとう」
「この後はどうするんだ?」
「私はイザナギに行くかな。受け継いだ事とファスティトの事を報告しに」
「そうか。俺は行かなくて大丈夫か?」
「うん、だから今日はゆっくり休んで。じゃ、行って来るね」
氷室は氷で創られたような鏡の転移之渦を展開しイザナギに向かった。
「休んで、か。うん、休もう」
黒瀬も転移之渦で帰ろうとするとヴァルハラが走って来た。
「待て黒瀬、我も一緒に」
「お前は飛んで帰って来いよ」
「ついでじゃ、ついで」
「……クソ教師」
「聞こえとるぞ!」
ーーーーーーーーーー
【仮面ライダーフレイヤに関する現在公開可能な情報】
『冰麗之宝珠』
身長195㎝ 体重93㎏ パンチ力8t キック力30t ジャンプ力40m(ひとっ飛び)走力2.8秒(100m)
必殺技 冰麗ノ洗礼
ーーーーーーーーーー
次回予告
遂に氷室希愛が仮面ライダーフレイヤとして登場。新たな戦力が加わったと思った矢先、巨大な邪神が現れる!!ラグナロクは斃す為に新たな力を手に入れようと何やら自分の家に?その力は何かを召喚する物のようだが?
第6話:眠りから目覚める式神
仮面ライダーラグナロク第5話はいかがでしたか?どうも柊叶です。遂に本作、仮面ライダーラグナロクに2号ライダーが登場しましたが、氷の仮面ライダーって格好いいですね。これからも各々の属性を活かした演出を描ければと思っています。次回はなにやら式神が登場するようなので楽しみにして頂ければ幸いです。また第6話でお会いしましょう。
柊叶




