第36話 『絶対悪 再臨/最狂、その頂点へ』
〜前回の仮面ライダーラグナロクは〜
黒瀬は永倉と共に過去へ飛び、自らの手で奪った鳴上雷牙の魂を「完全錬成」で現代に繋ぎ止めた。「責任」という名の執念が奇跡を呼び、再誕した仮面ライダーインドラが、蹂躙される戦場を神速で駆け抜ける。
夕暮れの街角、氷室の「仲直りしよ」という純粋な言葉が、凍っていた黒瀬の心を溶かし、イザナギの絆は再び一つに重なった。
だが、和解の余韻に浸る間もなく、奪われた72,000の魂が、現世に最悪の兆しを刻み始める。
止まっていた運命の歯車が、世界の終わりへと一気に加速する――。
4時限目終了のチャイムが鳴り、静まり返っていた3年の教室に喧騒が戻る。
「……はぁ、マジで意味わかんねえ。なんで数学にアルファベットが出てくんだよ」
炎堂が教科書を放り出し、盛大に伸びをした。隣の席の黒瀬は、ノートを閉じながら淡々と答える。
「そこは複素数平面の基本だ。公式を丸暗記しようとするから理屈が通らなくなる。このZの軌跡を……」
「ちょ、ストップ! 黒瀬、お前の説明は分かりやすいけど、次元が違いすぎて逆に脳が焼けるんだわ!」
炎堂が頭を抱える横で、涼風と水崎がクスクスと笑う。そんな中、教室の女子生徒たちが色めき立ち、入り口の方をチラチラと見始めた。
「ねえ、見て。……黒瀬くん、なんか最近雰囲気変わったと思わない?」
「わかる。前はもっと近寄りがたい感じだったけど、今はなんか……大人の余裕っていうか、すごく格好いい……」
そんな微かな囁き声を、黒瀬は聞こえないふりで受け流す。すると、教室の戸がガラリと開き、ここには居ないはずの者が入ってくる。
「……廻。会いに来たよ」
永倉月夜だった。
場違いな他校の制服を着た少年の登場に、教室がざわめき立つ。永倉は周囲の困惑など意に介さず、一直線に黒瀬のデスクへと歩み寄った。
「月夜か。……勝手に入ってきたらダメだろ。応龍学園の授業はどうした」
「いいじゃんか、これくらい。廻の顔を見ないと、午後の授業を乗り切れる気がしないのー」
永倉は黒瀬のデスクに両手を突くと、心酔しきった瞳で至近距離から黒瀬を見つめる。その光景を、先ほど黒瀬の話をしていた女子生徒たちが、頬を染めながら「あの子、誰?」「黒瀬くんと仲良いのかな……」と遠巻きに眺めていた。
その瞬間だった。
黒瀬を見つめていた永倉の瞳から、温度が完全に消えた。彼は顔の角度はそのままに、視線だけを鋭く、話をしていた女子たちへと突き刺した。
「(――黙って、そこの『雑音』。廻を汚らわしい目で見ないでくれるかな)」
声には出さない。だが、その瞳に宿ったのは、文字通り相手を射殺さんばかりの、剥き出しの殺意と独占欲。
まるで猛獣に睨まれたかのように、女子生徒たちは真っ青になり、震えながら視線を逸らして後ずさった。
「……おい、月夜。あんまり怖がらせるな」
「ん?何のこと? 僕はただ、外の景色が綺麗だと思っただけだよ」
「窓があるのは真逆だぞ」
黒瀬に窘められた瞬間、永倉の顔には再び春のような微笑みが戻る。そんな二人のやり取りに、教室に戻ってきた氷室が声を上げる。
「な、なんで永倉くんが此処にいるの!?」
「何でって、廻を補充しに来たに決まってるでしょ?」
永倉は黒瀬の後ろに回り抱き締める。氷室は辞めさせようとするが、後ろにいた涼風に「まあまあ」と宥め、水崎は「2人は本当に仲良しよね」と呑気に笑う。炎堂は「まったく、普通はダメなんだからな」と永倉にツッコミを入れる。
永倉に背後から抱きしめられ、黒瀬は困ったように息を吐きながらも、その温もりを拒絶しなかった。
呆れる炎堂、宥める涼風、赤くなって怒る氷室、そして微笑む水崎。教室の一角にだけ、他人が入り込めない完成された世界があった。
☆ ☆ ☆
放課後。
夕闇が迫る街を抜け、黒瀬たちは拠点であるイザナギのメインホールへと集まっていた。そこには、既に「卒業組」の面々が揃い、かつてないほど活気に満ちた光景が広がっている。
「お、ようやく来たね。みんな制服のまま来たんだ、青春だね〜。瑞々しくて良いじゃんか!」
鳴上がソファから身を乗り出し、後輩たちを愛おしそうに眺めながら手を振った。
「鳴上、少し静かにして」
その隣で天智が鳴上の健康状態をチェックしながら、いつもの調子で呆れ顔を見せる。
「久しぶりの学校はどうだったかな?」
朝日奈が優しく、けれどどこか感慨深げに黒瀬へ問う。
「……まぁ、悪くはなかったです。鳴上先輩は、大学の方はどうでしたか?」
「色々大変だったけど、そこら辺は煌成たちがサポートしてくれたし問題はなかったよ。……あ、でもレポートの提出期限が明後日まだなのは驚いたな」
鳴上が悪戯っぽく笑う。
炎堂が「マジっすか、生き返って直ぐにそれは大変っすね」と笑い、草壁が「本当にね、だから明日は雷牙のレポートを手伝わなきゃなのよ」と溜め息をつく。
イザナギのメインホールに流れる、穏やかな笑い声。
「ところで皆んな、ちゃんと親御さんには明日の予定は確認して来てくれたかい?」
朝日奈からの問いに全員は「はい」と頷く。
「了解。じゃあ明日はよろしくね」
☆ ☆ ☆
翌日。
かつての戦いで傷跡が残る街の一角。
そこでは、玉帝学園や応龍学園の生徒たちがボランティアとして集まり、瓦礫の撤去や清掃作業に汗を流していた。
「ほら、炎堂! ぼーっとしないで、そこの瓦礫運んで!」
「分かってるって、水崎!……ったく、俺はお前たちみたいに器用じゃないんだよ」
炎堂を除く3年ズは神力の量を器用に調整して、重い瓦礫でも難なく運んでいたが、炎堂は神力を込めすぎたりして、瓦礫を小石に変えていた。
「あはは、炎堂くん。それじゃ清掃っていうより解体工事だよ」
「……炎堂。神力は流すんじゃない。表面を薄く覆うように固定しろ。そうすれば強度は保てる」
氷室が苦笑し、涼風が淡々とアドバイスを送る。
「なるほど……? こうか?」
炎堂は涼風のアドバイス通りに、必死に意識を集中させてみる。
「こうか? これでいいのか!? 黒瀬ぇぇ!?」
「俺を頼るな。あと、集中が切れてるぞ」
「え? ぎゃあああああ!!」
案の定、集中が切れた瞬間に神力の制御が乱れ、積み上げようとした瓦礫が派手に崩落する。
「炎堂うるさい!」
「あだっ!?」
水崎に怒られつつ、頭を思い切りぶっ叩かれる。
「はいはい喧嘩はするな、お前ら」
「水崎も落ち着きなさい」
朝日奈と草壁が二人の間に割って入り、騒ぎを宥める。そんな賑やかな光景を、鳴上は眩しそうに、微笑ましそうに眺めていた。彼はそっと黒瀬のもとに歩み寄り、穏やかな声で一言、告げる。
「黒瀬くん。……俺のこと復活させてくれて、ありがとうね」
その言葉に、黒瀬の手が止まる。
「別に、俺は俺の責任を償っただけです。謝罪の責務はあれど、感謝される理由は……」
己の犯した罪に、今なお苛まれる黒瀬。
そんな後輩の頑なさを溶かすように、鳴上はそっと右手を黒瀬の頭の上に置いた。
「なんですか……?」
「別に〜。ただ、俺は黒瀬くんには感謝してるってことを知って欲しくてさ」
黒瀬が「相変わらず分からない人だな」といった顔で鳴上を見上げていると、ふと、黒瀬の視線が鳴上の背後へと向けられる。
「あ、手離した方がいいですよ」
「え?」
鳴上が首を傾げた瞬間、背後に音もなく現れた永倉が、黒鎌アダマスの刃を鳴上の首元にチラつかせていた。
「……廻から手を離せ」
「あー、ごめんね」
鳴上が苦笑しながら手を退けると、永倉はアダマスを消し、当然のように黒瀬の隣を奪い返した。
そんな「いつも通り」のやり取りに、周囲からはまた小さな笑いが漏れる。だが、その笑い声を切り裂くように、空の色が「反転」した。
金属を擦り合わせたような悍ましい高周波が街に響き渡り、ボランティアの生徒たちが悲鳴を上げて耳を塞ぐ。
黒瀬がいち早く顔を上げると、雲一つなかった青空が、まるでガラスが割れるようにひび割れ、そこからどろりとした、どす黒い深紫の神力が溢れ出していた。
「な、なんだ……空が……!?」
炎堂が呆然と見上げる中、その「裂け目」から無数の影が降り注ぐ。それは、これまでの戦いで幾度となく戦ってきた雑魚敵――アスラ。だが、以前のような野獣じみた暴走ではない。
数千、数万という単位のアスラが、まるで訓練された軍隊のように整列し、空中から一斉に急降下を開始したのだ。
「……数が多いわね。これだけの数を一気に送り込んでくるなんて」
草壁は表向きは冷静さを保っているが、その顔には冷や汗をかいていた。
アスラたちは地面に着地するや否や、一糸乱れぬ動きで周囲を展開し、ボランティアの拠点である学校や避難所を包囲。手に持った異形の兵装を突き出し、静かに、だが確実に獲物を追い詰めていく。
「(……クク、無価値な再生の時間は終わりだ)」
空の裂け目から、地の底を這うような低い声が響くと同時に何体か、これまで斃してきた邪神たちも降りて来る。
「あいつら、また蘇ったのか。それにまた超強化を施されていやがる」
涼風は落ち着いて邪神の神力を見極める。
「アスラの数は多いし、これまでに比べて邪神一体を相手するのも大変だと思うけど、」
氷室が状況を分析するように言葉を繋ぐと、その隣で黒瀬が静かに、だが揺るぎない決意を口にした。
「ああ、これぐらいで負けるようじゃアフリマンはおろか、幹部すら斃せないだろうな」
ボランティアに参加していた他の生徒たちが恐怖で逃げ惑う中、天智もまた、震える生徒たちを誘導しながら、鋭い眼差しで空の穴を見つめていた。
「それじゃあ、いきますか」
鳴上の声を合図に、9人が一斉にドライバーを腰に装着した。
『ラグナロク』『フレイヤ』『アドラヌス』『ナーイアス』『ルドラ』『インドラ』『ヨルズ』『アラマズド』『エレボス』
9つの光がボランティア拠点を眩く照らし出す。
「「「「「変身!!」」」」」
重なり合う9人の叫びと共に、色とりどりの神力の奔流が爆ぜる。白銀のラグナロクを筆頭に、並び立つ9人の仮面ライダー。
「行くぞ……!」
ラグナロクが地を蹴り、それに続くように8人のライダーが突撃する。
超強化を施された邪神といえど、絆を深め、己の罪と向き合い乗り越えてきた今の彼らの敵ではない。
「ハァッ!!」
アドラヌスが赤蓮の炎を拳に纏わせ、再臨した邪神の顔面に重い一撃を叩き込む。怯んだ隙を逃さず、ナーイアスが鋭い水の刃で脚部を斬り裂き、敵の姿勢を崩していく。
「行くよ、颯!」
「はい、鳴上さん!」
ルドラが巻き起こす疾風に、インドラの激しい稲妻が乗る。風に乗って加速した雷鳴の刃が、アスラの軍勢を次々と感電させ、その動きを完全に封殺していった。
「美土里、足元を固めるぞ」
「ええ。逃がさないわよ」
ヨルズが大地を隆起させて邪神の動きを完全に封じ込めると、そこへアラマズドが上空から光の槍を雨のように降らせる。最古参らしく、一切の無駄がない盤石の連携だ。
「……廻、来るよ」
「分かっている。……氷室、合わせろ!」
「了解! まとめて凍らせてあげる!」
フレイヤが固有能力“心体凍結”を発動。絶対零度の吹雪が周囲のアスラを芯から凍てつかせ、完全な沈黙を強いた。動きを止めた敵の核へ向け、3人が同時に地を蹴る。
ラグナロクの魔剣、エレボスの黒鎌、そしてフレイヤの冰剣。三色の閃光が交差し、凍りついた敵を粉々に粉砕した。
他、四方の戦区でもライダーたちが敵を追い詰め、ついにその時が訪れる。
“祓魔ノ刻、導軌ノ刻”
“終焉・暗黒}ノ一閃”
“冰麗・疾風・火炎・流水・雷鳴・大地・光輝}ノ聖刃
アドラヌスが灼拳を叩きつけ、爆発的な火柱でアスラの群れを焼き払い、ナーイアスが放つ水弓の豪雨が敵の核を正確に射抜いていく。
ルドラが風錫を振るえば巨大な竜巻が戦場を呑み込み、インドラの雷杵から放たれた極太の雷鳴がその暴風を伝って連鎖爆発を起こす。
さらに、ヨルズの大槌が大地ごと敵を粉砕し、アラマズドの光槍が逃げ惑う邪神の胸を容赦なく貫いた。
九つの専用武器から放たれた神力の奔流。
数万のアスラ軍勢は、悲鳴を上げる暇もなく光の中に溶け、ボランティア拠点を埋め尽くしていた闇は一瞬で浄化された。
だが、安堵の息を吐く間もなく、爆炎と光の粒子の向こう側から、ゆらりと、禍々しい神威を維持した四つの影が歩み寄ってきた。
「……流石に、これだけで終わらせてはくれないか」
ラグナロクは魔剣の柄を握り直す。その掌には、ジリジリとした熱い汗が滲んでいた。
そこに立っていたのは、数万のアスラを盾にして必殺技の直撃を免れた四体の邪神――戦神アレス、知戦神アテナ、増殖する血の種子ラクタヴィージャ、そして山のような巨躯を誇るギガース。
フォシュタークによって全盛期を遥かに超える力を得た彼らの瞳には、かつての自我はなく、ただアフリマンの殺意を代行する「死の装置」としての冷徹さだけが宿っている。
「煌成、指示を」
「ああ、美土里と炎堂くんはギガースを頼む。あの巨躯を押し返せるのは、君たちの火力と質量だけだ!」
アラマズドの指示が飛ぶ。アドラヌスは即座に己の権能『情熱調整』を、敵ではなく自分たち自身へと向けた。
これまでは敵の戦意を削ぐために使われていたその力が、今はアドラヌス自身、そして隣に立つヨルズの闘志を沸騰させるために注ぎ込まれる。精神が焼き切れるほどの昂揚感が、二人の神力を爆発的に増幅させた。
アドラヌスの全身から噴き出す紅蓮の炎が、山のようなギガースの巨軀焼き払う。そこへヨルズが追い打ちをかけるように、右手を大地へかざした。『重力可侵』。ヨルズの意思一つで、ギガースの周囲だけが数万倍の重力圏へと変貌する。自身の重さに耐えきれず地面にめり込む巨人の喉元へ、炎堂が全力の灼拳を叩き込んだ。
「氷室、水崎。2人はラクタヴィージャだ。奴の血は撒き散らさせない。細胞ごと破壊し、凍結させろ!」
ナーイアスは、『躱避如水』によってラクタヴィージャが投げてくるサーベルを、まるで水面を滑るように全て受け流す。物理法則を無視したその動きで懐へ滑り込み、水弓から放たれた激流が敵の体内組織を内側から破裂させた。
そこへすかさずフレイヤが冰剣を突き立てる。『心体凍結』の権能が、破裂した細胞一つ一つの活動を、そして「増殖せよ」という生存本能の思考すらも、一瞬で絶対零度の檻の中に封じ込めた。
「雷牙、涼風。アレスはお前たちのスピードで攪乱するんだ!」
「了解、煌成! ……行くよ、颯!」
「はい、鳴上さん。……ついていきます!」
戦神アレスが血塗られた大剣を振り回し、暴風のごとき連撃を繰り出す。だが、ルドラがヒュドラフォームになると同時に錫杖を振るい、静かに死を振り撒いた。
『病原旋風』。風に混じった目に見えぬ病原体がアレスの傷口から侵入し、神の神経を内部から腐食させる。
アレスが苦悶の声を上げた瞬間、インドラがその背後で雷を纏った。『雷電転移』。インドラの姿が、一瞬にして未来の座標へと消失する。数秒先の世界へ先回りしたインドラは、アレスが苦し紛れに放とうとした反撃の軌道上に待ち構え、雷杵をその脳天へと叩きつけた。
「黒瀬くん、永倉。アテナの『盾』は俺が崩す。その隙にトドメを!」
朝日奈は『天啓未来』によって、アテナが盾を動かす数秒後の光景を脳内に捉えた。アテナの知略を上回る未来予知。放たれた光槍が、盾のわずかな隙間を射抜く。
さらにエレボスが影を爆発させた。『深淵暗底』。回避を企てたアテナの足元が底なしの深淵へと変貌し、決して逃がさぬ絶対の拘束がその身を闇に沈める。
「……見えたぞ。お前の防壁の綻び」
ラグナロクは『絶対攻略』によって、アテナが必死に再構築する神力術式の脆弱点を立体的に看破していた。
そのまま自身の内に秘めた虚無の神力を瞬時に練り上げ、盾の干渉を無効化する「虚無の楔」を魔剣の表面に生成した。虚無の刃が、絶対の防御を誇ったアテナの神盾を紙のように切り裂く。
ーーー
「流石にしぶといな」
「超強化を何度も得ているんです。それはそうでしょ。でも、超強化を得てるのは邪神たちだけじゃない」
ラグナロクの言葉を聴き、インドラを除く全員が頷く。
「ん?何か対策があるの?」
「あ、鳴上さんは持っていないんでしたっけ?」
そういえば、とラグナロクは時空之巻物を開き、覚醒之聖堂を取り出し、手渡す。
ラグナロクを除く全員が超強化を自身に施す。
「「「「「変身」」」」」
“WITHフォシュターク”
邪神たちが、本能的に後ずさる。先ほどまで彼らを死の淵から引き戻していたアフリマンの神力供給を、上書きして塗り潰すほどの膨大な神力が戦場を支配していた。
「お待たせ。……第二ラウンドを始めようか」
ラグナロクの静かな宣言と共に、九人が爆発的な初速で地を蹴った。
まず動いたのは、ギガースに対峙するアドラヌスとヨルズだ。強化された『情熱調整』によって、精神の沸騰は既に臨界点を超えている。アドラヌスの放つ拳は、もはや火炎ではなく「太陽の表面温度」に匹敵する超高熱を帯びていた。
ラクタヴィージャの増殖も、もはや通用しない。
ナーイアスが放つ激流は「水」という概念を超え、あらゆる分子構造を解体する極小の刃となって邪神を切り刻む。そこへフレイヤの凍気が重なり、ラクタヴィージャの血の一滴一滴までが、再生の余地なく宇宙の塵へと変えられていった。
インドラが放つ雷鳴は、もはや音を置き去りにした。雷電転移の精度は「未来」を確定させる域に達し、戦神アレスが剣を振るう前に、その四肢を雷撃が貫く。ルドラの毒風もまた、アレスの神体構造そのものを書き換える「神殺しの病」となって、その肉体を内側から崩壊させた。
そして、知戦神アテナ。
アテナが展開する多層次元防壁を、アラマズドの槍が、エレボスの闇が、そしてラグナロクの魔剣が同時に捉える。
全ての戦場で終わりの合図が訪れる。
“加護ノ刻”
「俺の更なる成長の為の糧となれ」「土に還りなさい」「私が、看取ってあげる」「貴方の罪、洗い流してあげる」「痛いのは風が吹くように一瞬だ」「迅速に祓うよ」「この世に光を灯すのは俺だ」
“葬送ノ刻”
「闇に沈め」
「……華々しく、散れ」
全員が空高く飛び、邪神にライダーキックを放つ。
“焔火・岩石・雪華・激浪・突風・霹靂・閃光}ノ洗礼”
“漆黒・終焉)ノ滅波”
九つの色が空で弾け、邪神たちは再生の余地なく概念ごと消滅した。戦場を覆っていた重苦しい霧が晴れ、ようやく静寂が戻る。
「……はぁ、はぁ……。やった、わね」
ナーイアスが荒い息をつきながらも、勝利の確信に表情を緩める。アラマズドは周囲を見渡し、冷静に次の指示を出した。
「まだ終わっていない。……残っている一般の人たちを、安全な場所まで運ぶぞ。動ける者は――」
その言葉が、最後まで紡がれることはなかった。
――ッ!!
心臓を冷たい手で直接握られたような、悍おぞましい神力がその場に満ちる。誰よりも早くその「異質」に反応したのは、ラグナロクだった。
「伏せろッ!!」
ラグナロクは絶叫すると同時に、両隣にいたエレボスとフレイヤの肩を力任せに掴み、地面へと押し伏せた。直後、音すらも切り裂くような、深紫の断層が空間を走った。それは衝撃波ですらない。ただ彼が「空間を横に引いた」だけで、世界そのものが二つに裂かれたかのような不可視の斬撃。
「が、はッ……!?」
反応が遅れた六人――アドラヌス、ナーイアス、ルドラ、インドラ、ヨルズ、アラマズドが、その不可視の刃に薙ぎ払われ、地面へと叩きつけられた。
超強化の装甲が、まるでガラス細工のように火花を散らして砕け散る。六人は呻き声を上げる間もなく、強制的に変身を解除され、その場に折り重なるようにして伏した。
「……な、んだ……これ……」
炎堂が地面に手をつき、荒い息を吐きながら顔を上げようとする。だが、全身の筋肉が激しく痙攣し、膝に力が入らない。
砂塵が舞う十数メートル先、崩れた瓦礫の頂に、いつの間にか一人の邪神が立っていた。
見た目は、人間に近い。だが、そこから放たれる気配は、先ほどまでの邪神たちとは根源的に異なる「純然たる悪」そのものだった。
その男は、九人のライダーなど最初から存在しないかのように、己の白い掌を無機質に見つめ、独り言を漏らす。
「(……見た目はあの時のままだが。力はまだまだ復元し切れていないな。一割といったところか)」
他のライダーたちは正体には気づいていなかったが、ラグナロクだけは絶対攻略により分析していた。
「……アイツが…アフリマンか」
間髪入れず、ラグナロクはフレイヤとエレボスに指示を出す。
「月夜、氷室! 全員を担いで今すぐイザナギに運べ!!」
「でも、廻……!」
「いいから行け!!」
反論を許さない気迫。ラグナロクは二人を振り返ることなく、視線を一点、アフリマンへと固定する。
今、ここで自分まで撤退の準備に入れば、その背中を突かれて全滅する。それがラグナロクの導き出した唯一の生存戦略だった。永倉と氷室は唇を噛み、倒れ伏した六人の元へと駆け寄る。
アフリマンは、その様子を退屈そうに一瞥した。その視線は天智たちの居る、動くのすらやっとな一般人に向けられた。ラグナロクはそれに気が付き煽りながら真逆の方に歩き出す。
「暇なら俺と戦うか?アフリマン」
「(安い挑発だな、そうまでして人間を守りたいのか)」
アフリマンの言葉には嘲笑すら混じらない。
彼はラグナロクの言葉を聞き終えるよりも早く、迷うことのない冷徹な動作で、左手を天智たちのいる方向へと向けた。その掌から放たれた深紫の光弾。一撃で地形を消し飛ばす死の礫が、逃げ遅れた人々と、彼らを庇う天智を容赦なく狙い撃つ。
「……っ、クソが」
ラグナロクは即座に転移之渦を起動。空間を飛び越えるようにして光弾の射線上へと滑り込んだ。
――ドガァァァァァァァァァァンッ!!
「はっ!!黒瀬くん!!」
「廻!!」
氷室と永倉の悲痛な叫びが響き渡る。
だが、爆炎と土煙が晴れたその場所に立っていたのは、光弾の直撃をその身で受け止め、依然として白銀の装甲を輝かせるミデンフォームのラグナロクだった。何事もなかったかのように、彼はそこに立っていた。
「………ここは一旦退くぞ」
ラグナロクは転移之渦で、一般人ごと玉帝学園の校庭に避難させる。アフリマンは学園の方に目線を送る。
「逃げた上に、直ぐに結界を張ったか。まあ、いつまで保つかな」
☆ ☆ ☆
倒れたイザナギの面々は、転送と同時に治療室へと運び込まれ、氷室による必死の蘇生措置を受けていた。学園の校庭に逃げ延びた避難民たちへは、天智が代表として現状の説明と誘導を行い、混乱を最小限に抑えるべく奔走していた。
「……皆さん、大丈夫です。ここは結界で守られています。どうか、落ち着いて体育館へ移動してください」
天智は努めて冷静に、震える声を隠して一人一人に声をかけ続けた。全員を体育館へ案内し終え、ようやく役目を果たした彼女が、氷室以外の2人の姿を探してメインホールへと戻ってきた、その時だった。
「廻!廻、起きてよ!!」
静まり返ったホールに、永倉の、今までに聞いたこともないような悲痛な叫びが響き渡っていた。
「……え?」
天智の視線の先。
そこには、既に変身が解除され、無残にボロボロになった制服姿で床に横たわる黒瀬の姿があった。全身の至る所から血が噴き出し、床には瞬く間に巨大な血溜まりが広がっていく。ミデンフォームが肩代わりしていた「街一つを消滅させる神力」の返済は、さすがの黒瀬の肉体でも耐えられる限界を、余裕で超えていた。
天智は言葉を失い、その場に釘付けになった。
つい先ほどまで、自分たちの盾となって「ここは一旦退くぞ」と冷静に告げた少年。その彼が今、声も出せず、呼吸すら止まっているかのように静まり返っている。
永倉が黒瀬の肩を掴み、必死に揺さぶり続けているが、その身体は嫌に冷たくなり始めていた。学園の外壁に張られた結界が、アフリマンの一撃を受けて激しく火花を散らす音が遠くで聞こえる。
(……死んじゃう。このままじゃ、黒瀬が……)
血溜まりの中に伏し、ピクリとも動かない黒瀬の元へ、遥か彼方、黒瀬の自宅の方角から、空を切り裂くような高周波が響き渡った。飛来したのは、ケーキを片手に持ったヴァルハラだった。
「ヴァルハラさん…?どうして此処に…?」
永倉の問いにヴァルハラは呆れながら答える。
「此奴の身に何かあったら、我には直ぐに分かるのだよ。此奴にラグナロクの力を届けたのは我だからな。……ほれ」
刹那、凄まじい密度の修復光が黒瀬の全身を包み込む。
「――が、はッ!? ぐ、あああああああッ!!」
死んでいたはずの黒瀬が、弾かれたように跳ね起きた。だが、その声は蘇生の喜びではない。バキバキと音を立てて強引に接合される骨と筋肉の激痛に、黒瀬は顔を歪めて叫ぶ。
「……ヴァルハラ……てめえ、痛えだろうが! 骨を無理やり治すな!」
「なんだと!? 我がわざわざスイーツタイムを抜けて治しに来てやったというのに!!」
「何がスイーツタイムだ!」
頭を押さえながら、黒瀬はフラふらつきつつも立ち上がった。その周りには、氷室による応急処置を終え、辛うじて立ち上がった炎堂、鳴上、朝日奈たち「イザナギ」の面々が、満身創痍の姿で集まっていた。
「全員、無事だったのか」
「なんとかね、氷室のおかげだ」
鳴上が肩で息をしながら答える。だが、再会を喜ぶ暇はなかった。
直後、学園全体を覆っていた白銀の結界が、アフリマンが放つ不気味な圧力に押され、ガラスが軋むような悲鳴を上げた。至る所に亀裂が走り、今にも崩壊せんとしている。
「まずいぞ、これは……」
朝日奈が焦燥を露わにする。草壁がその横で、冷静に、だが切迫した声で現状を告げた。
「私と煌成と雷牙は兎も角、炎堂や水崎はほぼ限界だし。このまま結界が割れれば、一瞬で潰されかねないわ」
「え?」
「……え?」
自分たちを「戦力」として真っ先に数えた草壁に、朝日奈と鳴上が思わず間抜けな声を上げて彼女を見た。そんな二人を無視して、議論は加速する。
「黒瀬くん、もう一度結界を張り直すのは……」
氷室が提案するが、即座に涼風が首を振った。
「いや、そんな事をすればアイツらは脅しとばかりに、街の方に被害を及ぼす危険がある」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
炎堂が苛立ちを地面に叩きつける。水崎も苦しげに胸を押さえながら声を絞り出した。
「斃すのは無理でも、せめて……追い返せばいいんじゃない……!?」
重苦しい沈黙が流れかけたその時、永倉が真っ直ぐに黒瀬を見つめた。
「…廻……何か、攻略の術はないかな?」
その声には、一切の疑いがなかった。自分たちに策がなくても、黒瀬廻なら、この男なら必ず何かを見つけ出している。そんな絶対的な信頼が、その一言に込められていた。
全員の視線が、黒瀬に集中する。
黒瀬は、結界の向こう側で悠然と待つ絶対悪を射抜き、静かに口を開いた。
「……そんなもの、寝てる間に見つけたよ」
その一言に、先ほどまで悲壮感に暮れていた全員の顔に、パッと光が差し込んだような笑顔が戻る。
黒瀬は全員で囲んでいる円卓の上に、自身の持つ『終焉之宝珠』をはじめ『破壊、消滅、絶無』そして永倉に持たせてある『虐殺』を置いた。
「このラグナロクの力の一つひとつを特化させた宝珠の力に超強化を施し、再び一つにする。それが…俺の見つけた答えだ」
その提案に、真っ先に反応したのは永倉だった。彼は円卓の上に並べられた五つの宝珠を見つめ、それから黒瀬の顔を真っ直ぐに見つめる。
「……でも、錬成にはそれなりの時間が必要なんでしょ? 廻」
永倉の声は、確信に満ちていた。これだけの宝珠を強引に一つにまとめる。それがどれほどの負担か、そしてどれほどの「隙」を生むか、黒瀬に心酔する彼だからこそ、その危うさを誰よりも早く察知していた。
「……ああ。一瞬じゃ無理だ。俺の全神力を注ぎ込んで、術式を組み直さなきゃならない」
その時、校舎を揺らす不気味な衝撃音が響く。外では、アフリマンが完全に結界を食い破り、その冷徹な歩みで一般人の居る体育館に近づいていた。
「なら、決まりだね。……ここは僕たちが食い止める。一秒でも長く、あいつを一歩もここへは通さない」
永倉は迷わず踵を返した。その背中に躊躇はない。それに続くように、朝日奈、鳴上、草壁、涼風、そしてボロボロの身体を無理やり引きずる炎堂と水崎も武器を構える。
「黒瀬くん、信じてるよ」
氷室が最後に短く告げ、天智だけを残して、イザナギの面々は正面玄関へと駆け出していった。
「ああ、必ず成功させる。天智さんは念の為に体育館に行ってくれ」
「分かった…」
全員が出て行ったのを確認した後、黒瀬は円卓に両手をかざし、渾身の神力を解放し、完全錬成を発動する。
白銀の奔流が五つの宝珠を包み込み、ホール内に暴風が吹き荒れる。だが、特化された五つの力は互いに猛烈に反発し合い、黒瀬の腕を、肉体を、内側から引き裂かんと暴れ狂う。
「一筋縄じゃ、いかないよな」
一発では噛み合わない。
外からは、永倉たちの絶叫と、アフリマンの圧倒的な力の前に仲間たちが次々と叩き伏せられていく、凄絶な戦闘音が聞こえてくる。
(……まだだ。まだ、一つにならない……ッ! もっとだ、もっと命を、俺の全てを注ぎ込め!!)
黒瀬の視界が赤く染まる。全身の毛穴から血が噴き出し、白銀の神力が臨界を超えてホールの床を溶かしていく。
☆ ☆ ☆
校庭は、地獄の様相を呈していた。
アフリマンの圧倒的な神威の前に、イザナギの面々はことごとく打ち倒されている。朝日奈の神具はひび割れ、涼風と草壁は武器を杖代わりに、震える足で辛うじて立ち上がっているのが精一杯だった。
最も長く盾となり続けた永倉は、片膝を突き、荒い息を吐きながらも、その視線だけは正面の絶対悪を睨みつけ、決して逸らさない。
「(……滑稽だな。塵がどれほど集まろうと、圧倒的な力の前には無力だというのに)」
アフリマンが退屈そうに指先を向けた、その時。
ガラン、と背後のメインホールから、瓦礫を蹴る音が響いた。一同の視線が、壊れた玄関へと向けられる。
もうもうと立ち込める白煙を切り裂き、一人の少年が姿を現した。
制服は裂け、顔には一筋の鮮血が流れている。だが、その姿に悲壮感など微塵もなかった。一歩、また一歩と歩みを進めるごとに、その足元から白銀の雷光が弾け、周囲の瓦礫を塵へと変えていく。かつてのそれとは比較にならないほど濃密な、もはや「暴力」とすら呼べる圧倒的な神気を纏い、黒瀬廻がそこに立っていた。
「……廻……!」
永倉が声を絞り出す。その瞳には、確信に満ちた熱い色が灯った。
アフリマンは、ようやく現れた「主賓」を冷淡な目で見つめる。
「今さら何をしに来た? 仲間と共に、無様に命を散らしに来たか」
「……違うな」
黒瀬はアフリマンの正面まで、何ら臆することなく歩み寄る。そして、静かに、だが地鳴りのような響きを孕んだ声で告げた。
「お前を……葬りに来た」
黒瀬は右手を真っ直ぐに突き出した。
その手には五つの宝珠をその力ごと練り合わせ、極限まで高められた神力によって、この世の何よりも眩い白銀に輝く究極の結晶。
黒瀬は、アフリマンの正面まで何ら臆することなく歩み寄ると、静かに腰にドライバーを据えた。
“宿命之帯”
装着音と共に実体化したドライバーを前に、黒瀬は右手に握った白銀の宝珠を親指で弾く。
“クレイジェスト”
起動音と共に、宝珠から溢れ出した白銀の極光が、黒瀬の右手に填められた指輪を包み込む。かつて氷室から贈られた操力之指輪は、限界を超えた神力の変質に伴い、より鋭利で攻撃的なデザインの最狂之指輪へとその姿を変えた。
黒瀬は迷うことなく、その結晶をドライバーのスロットへと叩き込む。
“ローディング”
重厚な充填音が響き、黒瀬の周囲の地面が神圧でメキメキと沈み込んでいく。アフリマンの背後にあった漆黒の雲が、黒瀬から放たれる白銀の波動に押され、急速にその色を失っていく。
黒瀬は、顔に流れる鮮血を拭うこともせず、ただ静かに、絶対悪を見据えて言い放った。
「変身」
“Beyond all life and death, the craziest god swallows the world into white silver.”(生と死の全てを超え、最狂の神は世界を白銀へと飲み込む。)仮面ライダーラグナロク WITH クレイジェスト”
轟音と共に放たれた白銀の神力が、嵐のように吹き荒れる。その光の奔流が収束していく中心、ラグナロクの手には、いつの間にか一振りの「刀」が握られていた。
『万路終焉・夜叉鴉』
その鞘は、光すらも吸い込むような深い漆黒。まるで鴉の羽を幾重にも塗り重ねたかのような、艶やかさと不気味さを併せ持つ濡羽色に染まっている。
ラグナロクが柄に手をかけ、ゆっくりと引き抜くと、中から現れたのは凍てつくような銀の刀身。だが、それはただの銀ではない。刃文には、夜叉の爪痕を思わせる鋭い波紋が走り、神力の励起に合わせて、刀身の奥底から赤紫の不気味な光が脈動している。
「(日本刀か。そんなモノでこの私を斃せるのか?)」
アフリマンの嘲笑が響く。
ラグナロクは無言のまま、漆黒の鞘を無造作に放り捨てた。ガラン、と乾いた音を立てて転がる鞘。それは、この戦いを納刀の瞬間まで終わらせるつもりはないという、退路を断った殺意の証明だった。
右手の最狂之指輪を一度だけ、銀色に輝く『夜叉鴉』の鍔に滑らせた。
次の瞬間にはラグナロクはアフリマンの左後ろに立っていた。アフリマンの首筋には一つの斬り傷があった。アフリマンはその傷を手で拭き取ると同時に修復する。
「ほう…。なかなかのスピードに斬れ味だな」
余裕を崩さぬ絶対悪。だが、ラグナロクは無言のまま右手の最狂之指輪をドライバーの右スイッチへと翳した。すると“ラグナロク”と名が聴こえ、ラグナロクはスイッチを押すと、まずはこれだ、と言わんばかりに時空之巻物から引き抜かれたのは、魔剣ダーインスレイヴだった。
夜叉鴉との二刀流による、目にも留まらぬ高速連撃。ダーインスレイヴの重い斬撃がアフリマンの障壁を叩き割り、夜叉鴉の鋭い刃がその内側を刻む。
「(……貴様の剣など、今更――)」
「なら、次はこれだ」
ラグナロクは手首を返し、指輪の表面、つまり装飾側を一度、スイッチに翳した。リストが一つ進み“フレイヤ”と聴こえる。スイッチを押すと冰剣レーヴァテインが時空之巻物から引き抜かれる。氷室は思わず「私の武器!?」と叫ぶ。
至近距離から突き立てられた極寒の刃が、アフリマンの脇腹を深く凍てつかせ、動きを封じた。
「(……なっ、小娘の武器だと!?)」
「驚くのはまだ早い」
ラグナロクはさらに攻勢を強める。
今度は、掌をスイッチに向けるようにして指輪の「裏側、つまりリング側を一度、二度と素早く翳した。リストが『フレイヤ』から『ラグナロク』、そして最後尾の『エレボス』へと瞬時に逆送される。
漆黒の神力を纏う黒鎌・アダマスが具現化する。ラグナロクは溜めを作る間もなく、その重厚な闇の刃を横一文字に薙ぎ払った。凍りついた肉体と闇の刃が衝突し、逃げ場のない衝撃がアフリマンを粉砕する。
「ぐ、ぁ、がぁぁぁぁぁッ!!」
絶対悪の悲鳴。アフリマンは氷の礫を撒き散らしながら、校庭の地面を無様に転がされた。最狂のラグナロクの前では既に一割の力では充分では無くなっており、余裕は微塵もなく、土塗れになりながらもがくその姿は、一柱の神としての尊厳を完全に失っていた。
ラグナロクは召喚したアダマスを無造作に霧散させると、右手の夜叉鴉の柄を強く握り直した。
「これで終わりだ」
ドライバーにある最狂之宝珠を夜叉鴉の柄頭に装填する。
“祓魔ノ刻”
ラグナロクは神力で再実体化した漆黒の鞘に『夜叉鴉』を静かに納め、腰を深く落とし、居合の構えを取った。
アフリマンは怒りに身を任せてラグナロクに襲い掛かるが、圧倒的にラグナロクのが速かった。ドンッ!! と地面を蹴る衝撃音が響いた瞬間、ラグナロクの姿が消失した。
すれ違いざまの一閃。
白銀の閃光がアフリマンの胴体を水平に両断し、ラグナロクはそのまま数メートル先で着地する。
「……終わりだ…華々しく、散るといい」
“最狂ノ一閃”
直後、背後でアフリマンが絶叫と共に白銀の爆炎となって爆散した。その猛烈な爆発の光に照らされながら、ラグナロクは右手の夜叉鴉を手の中で鮮やかに数回ほど回転させると、最後に鋭く一振りして、刃に付着した「絶対悪の残滓」を払い落とした。
静寂。
ラグナロクは流れるような所作で、銀の刃を漆黒の鞘へと滑らせる。
――カチリ。
納刀の音が響くと同時に、荒れ狂っていた神圧が嘘のように収まり、校庭に静かな夜の闇が戻ってきた。
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【仮面ライダーラグナロクに関する現在公開可能な情報】
『最狂之宝珠』
身長205cm 体重99kg パンチ力100t キック力130t ジャンプ力100m(ひとっ飛び)走力0.8秒(100m)
必殺技 最狂ノ一閃
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次回予告
最狂の神と化したラグナロクの猛威により、絶対悪の一割は霧散した。
だが、一時的な平穏の裏で、戦士たちは己の無力という牙にその身を焼かれる。強大すぎる白銀の背を見つめる氷室希愛と水崎シズクは、今、自らの魂に問いかける。覚醒を急ぐイザナギの面々に、完全復活を企む邪神たちの魔手が伸びる。極寒の戦場、流した涙が結晶する時、二人の女神は日ノ本の古き神話へと至る。
第37話:イザナギの決意/冰水の共鳴
仮面ライダーラグナロク第36話『絶対悪 再臨/最狂、その頂点へ』を読んで頂きありがとうございます。柊 叶です。遂に!遂にラグナロクを最強フォームにする事が出来ました!!!イェーイ(小林克也)!それに最強フォーム専用武器までも『万路終焉・夜叉鴉』これは皆さんお気づきかもですが、八咫烏と掛けています。
かなり…感慨深いです。前にも書きましたが、本当にあっという間です。書き始めたら本当に一瞬で、ついこの間、中間フォームのデストロイ出せたー!とか言ってた気がします(笑)
そして、次回予告的には本作の高嶺の花たちに、何かが起きそうですね。楽しみにしていてください。また次回お会いしましょう。
柊 叶




