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第29話 『無月の夜/終焉の墜落』

~前回の仮面ライダーラグナロク~

 策略家ファフニールの策にまり永倉月夜が自身のエレボスの力を暴走させてしまう。この事に気が付いているのは黒瀬廻ただ1人、黒瀬は1人で永倉を救うのか?それともイザナギと共に救うのか?さあ、いったいどうなる!!

「……月夜……? なんだよ、これ……何が起きてるんだ……」

 黒瀬の視線の先で、朝日奈は満足げに口角を吊り上げた。

「朝日奈……! 貴様、月夜に何をしたぁぁ!!」

「何も。私はただ、この『物』に全てを教えてやっただけだよ。」

 朝日奈はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、背後に展開した転移之渦(ブロードボルテックス)の中へと、嘲笑ちょうしょうを残して消え去った。

 怒号を上げる暇さえ与えられず、現場に残されたのは、ただ闇に包まれ、壊れたように闇を放ち続ける永倉の姿だけだった。

「……っ、」

(今すぐにでも朝日奈を殺したいが…)

「今は月夜を助けるのが先だな、変身」

”WITHバニッシュ”

 ラグナロクは魔剣を片手に持ちながらバニッシュの力でエレボスから放たれる闇の衝撃波を消滅させながら永倉に近づく。途中禍々しい触手も魔剣で捌きながら走る。もう少しで辿り着く、そう思ったそのとき、永倉から黒い鎖が飛び出てくる、ラグナロクはその鎖に両手首両脚に絡みつき拘束されて地面に叩きつかれる。

「ぐっ!?」

(これは、月夜を縛っていたラグナロクの…呪いの鎖か…?)

 闇に包まれた状態で永倉はラグナロクに歩み寄る。

「……月夜、もうやめろ、」

「黙れ偽善者、ずっと僕を利用していたくせに…」

 次の瞬間、永倉は容赦なく右手を振り下ろす。その右手には闇の神力で具現化された鉤爪だった、その爪がラグナロクの背中を斬り裂く、ラグナロクのバニッシュの力でも消滅し切れず諸にダメージを受け、ラグナロクは変身解除してしまう。だが黒瀬は諦めずに声を届ける。

「…ちがう、俺は利用なんて…!」

「じゃあ一度も見たことがないってアルヴィースに誓って言えるのかよ?」

 黒瀬の言葉を永倉は狂気に満ちた声で遮り、問い返す。だが黒瀬は「それは…」と言葉に詰まり何も返せなかった。

「あんたが僕を壊したんだ!あんたの優しさが、僕を人形にしたんだ!」

 永倉は絶叫しながら再び鉤爪を振り落とす。

「があぁっ!!」

 鋭い激痛とともに鮮血が飛び散る、気を失いそうになるところを黒瀬は終焉の力で痛みを軽減させる。そんな黒瀬の状態を永倉は無感情に見下ろす。その顔は涙で濡れ、悲しみと怒りで歪んでいるが、瞳には一切の光がなかった。

「……さよなら、偽善者(マスター)

 永倉は転移之渦(ブロードボルテックス)を展開してどこかに逃げようとする。だがその足を誰かに掴まれる、当然その正体は黒瀬だった。

「……つきよ…おまえはおれの…相ぼ…う…」

 言い終える前に永倉は掴まれた足のほうで黒瀬を蹴り飛ばす。

「……っ!!これ以上そんな甘い言葉を吐くな!!あんたの優しさは、僕を苦しめる鎖にしかならない!……もう、二度と僕の前に姿をみせるな!!」

 その言葉は、黒瀬への拒絶であると同時に、自分自身に刻まれている『ラグナロクを愛する命令プログラム』を強制的に停止させるための、永倉の最後の抵抗だった。永倉は自ら愛を断ち切り、闇の中へと姿を消した。

   ☆ ☆ ☆

 黒瀬は体全体に流れる痛みに耐えながら体を起こす、頭の中では先ほど永倉から放たれた最後の拒絶の言葉が流れていた。それからどれ程の時間が経ったのだろうか、月の見えない新月の夜へと変わりまるでクリスマスの時のように静かに、重く、雨が降り始めていた。

 黒瀬は、生身の右脇腹から斜めに走る、痛々しい鉤爪痕を、右手の指先で左肩の先の傷痕に触れた。それは、愛しい相棒の『拒絶』の証。触れるたびに、黒瀬が大切にしていた『月夜』から放たれたものなのだと痛感する。

 雨に打たれながら、血と雨が右手の中で混ざり合う。

「……月夜…。お前は……」

 傷痕から、黒瀬の心に宿っていた正義が、雨水とともに流れ出していくようだった。絶望と、相棒を壊したことへの責任感、そして自らの愚かさに溺れ、黒瀬の瞳は徐々に、虚無の色を帯びていった。

「…ごめん、月夜…。…ごめん…」

   ☆ ☆ ☆

 それから数日ほど経ち邪神はおろか黒瀬と永倉の動きも何一つ起きず、イザナギは少しばかりの不安を胸に抱えながら今日の新学期、新入生の入学式を終えた。

「お、見ろよ水崎、今年も同じクラスだ!」

「え、うそ!本当だー!やったね!」

 炎堂と水崎は廊下で周りの目もありながらも抱き合う。その光景を涼風と氷室は微笑ましく眺めていた。

「お前ら、ここは公共の場だぞ?」

「いいじゃん涼風、私たちもやる?」

「俺は誰と同じクラスでも“ああ”はならない」

 クラスの壁紙を見るとこの4人、そして黒瀬も一応は同じクラスになっていた。

「黒瀬くんが進級できてるのは、理事長が?」

「ああ、昨日草壁さんが大学にある理事長室に行って直接話をしてきたらしい。黒瀬は必ず私たちが説得するってな」

「あとでお礼を言っとかないとだね、今日の放課後メインホールに来るんだっけ?」

「ああ、そう聞いてる。上層部の件で話しておきたいことがあるらしい」

「………まって、よくよく考えると何で高等部にも理事長室があるの?」

「兼任してるようだからどっちにも作ってあるんだよ」

「贅沢仕様…」

   ☆ ☆ ☆

「殺されていた…?いったい誰に…?」

「分からん、俺たちが扉を開けて中を確認した時には既に全員殺されていた」

「そのあと、部屋を出ようとしたら何者かに気絶させられたのよ。私が目を覚ました時には煌成は居なかったけど、助けに来るの遅いし」

「俺は違う所に移されてたんだよ、よく分からん倉庫にな。おかげで戻るの苦労したんだよ」

 2人が口喧嘩を始めるので涼風が静止させる。

「どの邪神がやったかは分かっているんですか?」

天智あまちにも捜索と解析を頼んではおいたが、まだ分からないみたいだな」

「俺たちはその部屋には行けないんですか?」

 炎堂は軽い気持ちで質問をする、それは朝日奈にも見抜かれていたのだろう、だからか朝日奈は少し強めに否定する。

「ダメに決まってるだろ!あの部屋はまだ調査が済んでいないんだ。お前達が入って神力の痕などが壊れたりでもしたら面倒だ」

「まあ煌成はあんた達に無惨な光景を見て欲しくないだけよ」

「「「やっさし〜〜」」」

 涼風を除いた新3年ズの分かりやすいいじりに朝日奈はため息をく。

「美土里、そう言うのは分かっていても言うもんじゃないだろ…」

「わざと嫌われ役に徹するのを辞めれば私も言わないわよ。まぁ傀儡の件で既に嫌われてるとは思うけど」

「お前は何かと一言多いんだよ」

 OBOGの絡みを見て新3年ズの間に笑顔が戻る。

「なんだか、この絡みを見ると落ち着きますよ」

「だな、よし、気合い入れ直しておくか」

「切り替えれたのなら何よりだ、とりあえず俺と美土里は大学に戻って理事長と今後の上層部に誰を置くかなどの話し合いがあるから、ゾロアスターと黒瀬君のことは頼んだぞ」

「「「「りょーかい」」」」

   ☆ ☆ ☆

 メインホールから出て大学への道のりを歩いている朝日奈と草壁、2人は氷室から伝えられていたことについて話していた。

「氷室からの情報のファフニールが張ったと思われる結界、美土里、お前はどう思う?」

「ファフニールの狙いは黒瀬か永倉にあった、って考えるのが普通でしょうね」

「だよな、その上で気になるのがここ数日間、黒瀬君たちの動きが無いということだ。姿はおろか神力すら捉えられていない」

「そういう作戦か、何か遭ったと考えるべきか」

「どちらにしろまずは組織を組み直さなきゃいけないな、少し急ぐか」

 2人は転移之渦(ブロードボルテックス)で大学近くの裏路地に一気に移動する。そこから数分歩きキャンパス内に入る。大学でも朝日奈や草壁のことはかなり名が売れているようで、2人がキャンパス内に姿を見せた瞬間、周囲の人間は歓喜の声や驚きの声が上がり出した。

「俺、この声やっぱり慣れねえよ」

「それは同感…。ん…?」

「どうした?」

「なんか、嫌な予感がする」

 草壁は辺りを見渡す、そして最後に空を見上げる。草壁は目を凝らし何かの影を見つける、隣で朝日奈も「なんだ?なにか見えるのか?」と訊きながら空を見上げる。太陽の光が眩しく最初は何なのか分からなかったが、2人はその影が地上に落ちてきていることが分かった。

「……っ、避けろ!!」

 朝日奈たちの素早い判断で自分たちの目の前に居た数人に向かって叫ぶ、影が地上に落ちた衝撃で土煙が巻き起こる、2人は既にドライバーを装着していた、この時点で邪神か何かなのは察しが付いていたからだ。だんだんと煙が晴れてゆき、影の正体が見えてくる。それは多少姿は違えど、見覚えのある姿だった。

「ラグナロク…?」

 朝日奈はラグナロクなのかと質問の意も込めた言葉が出てくる、だが次の瞬間にはラグナロクに真正面から首を掴まれ地面に力任せに押さえつけられる、だがそれでは終わらず地面を割る勢いでラグナロクは前進する。草壁が気が付いた時には朝日奈が立っていた箇所から一直線に溝跡が伸びていた。

「煌成!!」

(まったく見えなかったし、反応できなかった…。てか、それだけ速く動いてる筈なのに風が一切起きなかった。それだけ、強くなっているってこと!?)

 草壁はその場から一歩も動けないでいた。

   ーーー

「……カハッ!随分と荒々しい挨拶だな、黒瀬君よ、急に俺を襲うなんて、どういうことかな?」

「黙れ。その理由はお前が一番理解(わか)っているはずだ」

「いや、皆目見当もつかないんだが?あれか、俺が君を殺そうと氷室たちに傀儡の呪法を掛けたからか?」

「……しらばっくれる気か、まあ、どうだっていいがな、俺はお前を殺す。だが、ただ直ぐに殺すのじゃ俺の気が晴れない、さっさと変身しろ」

 朝日奈の首から左手を離して立ち上がり数歩離れる。

「理由は分からないけど、いたぶってから殺そうってことか、今の君にはいつかの俺みたいに話は通じなそうだから、まずはこの戦い、受けてたつよ。変身」

”仮面ライダーアラマズドWITHフォシュターク”

 アラマズドが変身したのを見て草壁はハッとなり自分も変身する。

”WITHフォシュターク”

 アラマズドは光槍トリアイナ、ヨルズは金槌ミョルニルを取り出す。前までのラグナロクはその動きを見て魔剣を取り出す筈だが、何故か今回のラグナロクは魔剣を手に持たなかった。

「俺の目的はアラマズドだけだったが、まあいい、殺されたいなら2人まとめて来い」

 その挑発と同時に2人はラグナロクに斬り、殴り掛かる。だがラグナロクは一切焦りもせずに全ての攻撃を受け止めたり躱したりする。その攻撃数は既に今の時点で相当な数にまで昇っている。反撃の合図としてなのか、ラグナロクはトリアイナの切っ先を右手で受け止める。

「……お前たちの攻撃は…俺には一切通じない…」

 ラグナロクは拳に力を籠めてアラマズドを殴り飛ばす、先刻の目にも見えない程の速さで拳を叩き込む。その一発一発は今まで受けてきたものとは比較にならなかった。何千発と叩き込まれ最後の一発を喰らいアラマズドは両膝から崩れ落ちる。ヨルズは一歩も動けなかった、と言うよりもつけ入る隙が見つからず入ってしまえば確実に反撃に遭うと戦いの中でつちかわれた感覚がヨルズを止めたのだろう。

(はや…すぎる…。それにまた、辺りの葉っぱは一枚たりとも舞ってはいない…)

 アラマズドが殺されれば、次は自分だとヨルズは身体が震える。だがラグナロクはそこで動きを止めた。ラグナロクはヨルズに背中を向けたまま、

「気を失った奴を殺しても意味はない、また次の機会に、その時には必ず殺す。そうコイツが起きたら伝えろ、お前は言伝ことづて役として生かしておいてやる」

 そう言い残すとラグナロクは白銀色の煙を纏ってその場から立ち去る。

「……は!煌成!!」

 ヨルズは変身解除して直ぐにアラマズドに駆け寄りドライバーから宝珠チャームを外して変身解除させる。氷室に連絡をして大学に来てもらい一気に記憶阻害を行ってからメインホールに戻り治癒を施して、朝日奈は事なきを得た。

   ☆ ☆ ☆

 一方その頃アラマズドとの戦闘が終わり、静寂に包まれる路地裏に一人(たたず)むラグナロクはドライバーから宝珠チャームを外し変身解除する。黒の粒子が霧散し、装甲が解ける。

「あ………っ」

 変身解除したコンマ一秒後。黒瀬は突然呻き声を上げる。

ーーーメキッ、ベキィッ!!

 静寂に包まれていた暗い路地裏に、人間の肉体から鳴り響く、聴こえてはならない硬質な破壊音が流れる。それは黒瀬の骨が折れる音だった。戦闘中にノックバックすら消す力に加え高スペックを変身者に与える力だが、その代償は変身解除後に戦闘中に受けたダメージを総量返済するのであった。遅れて届いた死神の手によって、黒瀬の全身の骨を同時に正確に砕いて行く。

「が、はっ………!!」

 肺を圧迫された黒瀬の口から、大量の鮮血がほとばしった。それは単なる喀血かっけつではない。内臓がひしゃげ、あふれ出した生命の欠片だ。膝の皿が割れ、筋肉が断裂し、激しい火花に焼かれたような熱傷が、一度に変色して肌に浮かび上がる。

「ぁ……うぁ……ぁああああっ!!」

 肉体を蹂躙する激痛以上に、黒瀬を狂わせたのは、無理やり「凍結」させていた感情の濁流だくりゅうだった。そう、これがこの宝珠チャームのもう一つの力。それは変身者を戦闘中には心の痛みから解放させることができる、だがそれは解除後には死んだほうがマシとも思える悲しみが待っているということ。

 永倉のあの絶望に満ちた叫び。自分の下したあの時の判断が相棒を壊したという罪悪感。そして今この瞬間も自分を襲っているこの痛みこそが、かつて自分が永倉に与えた苦しみそのものであるという自覚。

 冷徹な『掃滅者』から、ただの『罪人』へと成り果てた黒瀬は、砕けた指先で天を見つめる。

「……あ………う………月夜………たす、けて………」

 もう呼んでも来ない相棒の名を黒瀬は呟いた。実質無敵でいるために支払った代償は大きく、黒瀬はその場で気を失った。その閉じた瞳からは一滴の涙が伝っていた。

 そんな黒瀬のもとに一人の影が歩み寄る。

「やれやれ…」

   ☆ ☆ ☆

「それじゃあ…黒瀬くんは…」

「事情は分からないけど、彼は煌成を殺すと言ってきた。でも彼が今さら煌成に恨みを抱くようには思えない、あんたいったい何をしたの?」

 草壁は傍で仰向けになる朝日奈に訊くと「知らない」とだけ答えた。

「そう…。あと彼は新しい力を手にしていたわ、少ししか戦えてないから能力の殆どは分かってないけど、攻撃、その上にノックバックすらも打ち消す力だというのは分かったわ」

「バニッシュの上位互換ってことですか、戦いを持ちかけられたら逃げるのが最善ですね」

 涼風はそう答えを出した、数瞬ほど間が空くと朝日奈が身体を起こそうとする、草壁は朝日奈の背中に腕を回して介助をする。

「なにか言いたいことでもあるの?」

「ああ、さっきの戦いで俺が直感的に感じた違和感についてな」

 新3年ズ4人は「違和感?」と首をかしげる。

「おかしいと思わないか?今の黒瀬君はあくまでもイザナギに追われている身だ、だから今までも自分から戦いを挑むようなことはしてこなかった。なのに俺と美土里がいる大学に自ら、それも単騎で乗り込んで来た」

 朝日奈はここまで言えば分るよな、とでも言うような視線を氷室に送る。

「そうか、仮に黒瀬くんが玉帝大学に行くだなんて言ったら永倉くんは止めるはず」

「確かに、もし行くことが確定したとしても永倉が付いて行かない筈がない」

 続けて涼風も朝日奈の言いたいことに気が付いた。

「そうだ、この違和感があっているのだとすれば、」

「永倉の身に何かあったか、2人の間で何か不和が生じたって言いたいのね?煌成の予想を信用するなら、私たちのすべきことは黒瀬と永倉の現状の確認。涼風、私は煌成のこと看なきゃいけないから、」

「分かりました、じゃあ黒瀬のほうは氷室と炎堂、永倉のほうは俺と水崎で探すぞ」

「俺と水崎じゃなくてか?」

 炎堂から質問される。

「今の黒瀬は朝日奈さんに余裕で勝利するほどの実力がある、なら今うちのほうで最大級の火力とタフネスさを持つお前が行った方がいいだろう?」

「なるほどな、分かった」

 涼風は3人が自分の指示に納得したのを確認すると「絶対に無理はするなよ」と一言だけ伝える、3人は少しばかり緊張が顔に走るが直ぐに3人はいつものように気を引き締める。

   ☆ ☆ ☆

 氷室と炎堂は、朝日奈たちが襲撃された玉帝大学の近くを天智の使役する無数の天使とともに散策していた。その時、炎堂は黒瀬の神力の残穢ざんえを捕らえる。

「これを追っていけば黒瀬がいるかもな」

「でも、あの黒瀬くんが残穢を残すのは変だよね、やっぱり何かあったのかも」

「かもな、急ごう」

   ☆ ☆ ☆

 静寂が包み込む路地裏。黒瀬は壁に背を預け、震える手で血でまみれた自身の手を拭く。

「……無茶をしすぎだぞ、黒瀬よ。終焉の力で痛みを消そうとしても限度がある。我はお前をそんな風にするために力を継承させたわけではないぞ」

 ヴァルハラが、黒瀬のかたわらに静かにたたずみ、透き通った声で語りかける。

「……分かってる。でも…これを使っている時だけは…」

「痛みが消えるか。だが黒瀬、それは偽りの安寧だ。使い続ければ、お前の心はいつか本当に『から』になってしまうぞ」

 ヴァルハラは、黒瀬の手に握られた透明の宝珠チャームを優しく包み込むように制した。

「お前の優しさは十二分に伝わってるさ…でも、俺がここで止まったら…本当に月夜を…『人形』にしてしまう気がするんだ」

 その時、路地裏の入口に激しい足音が響いた。

「ーー見つけたぜ、黒瀬!!」

 炎堂の叫び。その後ろには、必死の面持ちで走ってきた氷室の姿があった。

ヴァルハラは小さく息を吐き、黒瀬の決断を待つように一歩身を引いて、その姿を消した。

「……お前らか。死にたくなければさっさと帰れ」

 黒瀬は壁を支えに、ゆっくりと立ち上がる。その足元は覚束おぼつかないが、その瞳に宿る意思の強さだけが、かろうじて黒瀬を立たせていた。

「帰れるわけねえだろ!そんなボロボロの体で、また一人で何処かに行こうってのかよ!」

 炎堂が怒鳴る。だが、その怒りの裏にあるのは、黒瀬を放っておけないというき出しの友情だ。

「黒瀬くん、その傷…永倉くんにやられたの…?お願い、一度落ち着いて本当のことを聞かせて!」

 氷室が手を伸ばす。だが、黒瀬はそれを拒むように、震える手でドライバーを腰に装着した。

「……わるいな、炎堂。…氷室」

 黒瀬の声はどこか消えてしまいそうなほど静かだった。

「俺は…月夜が絶望したままでいるのが、耐えられないんだ。……たとえ、俺の心が壊れるのが先だとしても」

 黒瀬は震える手で、その手に持つ絶無之宝珠(ミデンチャーム)を起動し、ドライバーに装填する。

”ミデン、ローディング”

 瞬間、周囲の騒めきが消失した。世界から色が抜け落ち、無機質な静寂が路地裏を支配する。その透明に近い白銀の輝きが、数日前のあの「無月の夜」へと意識を引き戻した。

   ~~~

(月夜、お前がいなくなったら…俺にはもう、何も残っていない…)

 その「消失感」に呼応し、胸元で「完全錬成(クリエティ)」が怪しく、悲しく発動する。涙とともに、てのひらの中にこぼれ落ちる透明な宝珠チャーム——。

   ~~~

 ——何もかも、無に還ればいい。

「……っ、……変身」

“ The accumulated causality returns to nothing, and the truth lights up in his silvery white eyes.(積み上げた因果が絶無へと還り、白銀の瞳に真実が灯る)仮面ライダーラグナロクWITHミデン”

 噴き出した白銀の霧の中から現れたのは、装甲の隙間から冷気と虚無を放つ、ラグナロク。その瞳には、親友を気遣う温度など微塵も残っていない。

「独りで行かせねえ……地獄だろうが何だろうが、俺が引きずり戻してやる! 変身!!」

“仮面ライダーアドラヌス”

 アドラヌスは激昂げきこうと共に、燃え盛る拳を振りかぶる。

「……看取ってあげるなんて、言わせないで。私が貴方にしたいのは、弔いじゃなくて、救いなの!変身!」

”仮面ライダーフレイヤ”

 氷室もまた、ラグナロクを止めるために冰の刃を構える。アドラヌスが炎を纏い、最短距離で突き進む。中学高校と部活動の中で何度も背中を託した親友への、魂を込めた右ストレート。

「おおおおおっ!!」

 だが、ラグナロクは避けなかった。ガードすら上げず、無造作にその拳を左頬で受ける。

ーーードォォォン!!

 激しい衝撃波が路地裏の壁を砕く。本来なら、どんな邪神でも数メートルは吹き飛ばすはずの威力。しかし。

「……なっ!?」

 アドラヌスの拳は、ラグナロクの左頬にめり込んだまま、1ミリも彼を動かさなかった。ノックバックの完全無効。それどころか、アドラヌスの放った熱量さえも、白銀の装甲が吸い込んで消して行く。

「……その程度の火じゃ、俺の罪はおろか、俺自身も焼き落とせないぞ、炎堂」

 ラグナロクは右手を伸ばしてアドラヌスの首を掴んだ。

「ガハッ……!?」

「炎堂くん!!」

 フレイヤは冰剣レーヴァテインで冰の斬撃を放つが、ラグナロクはそちらに目もくれずただ斬撃を受ける。攻撃が通じない以上、ラグナロクはフレイヤに興味すらなかった。

「……月夜は、もっと痛かったはずだ。心が、存在が、バラバラになるような痛みを…俺はずっと、知っていて、見て見ぬふりをして側に置いていた。……だから、俺がこの程度で揺らぐはずがないだろ?」

 ラグナロクは指先に力を籠め、アドラヌスの首を締め上げる。

「……やめろ、黒瀬……!お前、そんな、悲しい……力……っ」

「……悲しい?違うな。これは『楽』なんだ。……何も感じない。何も聞こえない。お前たちの叫びさえも、今は遠くの雑音にしか聞こえないんだから」

 ラグナロクは、アドラヌスの首を掴んだまま、羽虫でも払うかのような無造作な動作で彼を空中に放り投げた。

「がはっ……!?」

 宙を舞うアドラヌスに対し、ラグナロクは冷徹に必殺技を起動する。

葬送ノ刻(フューネラルタイム)絶無ノ滅波(ミデンクライシス)

 瞬間、周囲の「音」が完全に消失した。ラグナロクの脚部に集まったのは、色も温度も無い、ただ空間そのものを削り取るような「白銀の虚無」。

 ラグナロクは重力を無視した速度で地を蹴ると、回避不能のタイミングでアドラヌスの脇腹へ正確無比な回転蹴りを叩き込んだ。

ーー……ッ!!

 爆音さえ鳴らない。ただ、蹴撃が着弾した瞬間にアドラヌスの周囲の空気が内側へ向かって弾け、凄まじい「衝撃」だけがアドラヌスを襲った。

 「絶無」の波動が体内で爆発し、アドラヌスは防戦の暇もなく地面へと叩きつけられた。

「あ、がぁぁぁっ……!!」

 激しい火花とともに、アドラヌスの変身が解除する。地面に伏し、ピクリとも動かなくなった炎堂へ、フレイヤが悲鳴を上げて駆け寄った。

「炎堂くん!! 嘘でしょ、一撃で……!?」

 フレイヤが震える手で治癒の神力を練ろうとする。だが、その背後に、いつの間にかラグナロクが立っていた。

「……ひっ」

 フレイヤは、背筋を凍りつかせるような「無」の気配に、動くことができない。ラグナロクは彼女を殺すことも、武器を向けることもしなかった。ただ、感情の消えた声で告げる。

「……気を失った奴を殺しても意味はない。また次の機会に、その時には必ず殺す。……そうイザナギに、コイツが起きたときに伝えろ」

 ラグナロクは、絶望に目を見開くフレイヤを冷たく見下ろした。

「お前は、俺の言葉を運ぶ『言伝役』として生かしておいてやる」

「……待って……黒瀬くん、どうして……!」

 彼女の問いに、彼は二度と答えなかった。

属性のない、ただの白銀の煙が立ち込め、霧散していく。煙が晴れた時には、そこには誰もいなかった。

   ☆ ☆ ☆

 ラグナロクが移動したのは建設途中で放置された廃ビルの上層階だった。壁のない吹きさらしのフロア。燃えるような朱色の西日が、埃の舞うコンクリートを斜めに切り裂き、ラグナロクの影を長く、いびつに引き延ばしている。

 ラグナロクは、震える手でドライバーから『絶無之宝珠』を引き抜いた。変身が解け、白銀の装甲が砂のように霧散した、その瞬間――。

――メキメキッ、ベキィッ!!

 静寂を切り裂き、人の肉体から鳴り響いてはならない硬質な破壊音が漏れ出した。

「が、はっ……っ、……あ、…………」

 膝から崩れ落ちた黒瀬の口から、鮮血がコンクリートの床へとぶちまけられた。朝日奈との戦いで一度は限界を迎えていた身体。それを無理やりラグナロクの力で『無』にして繋ぎ止めていた代償は、あまりに重い。一度壊れた箇所を、さらなる負荷が、死神の取り立てのように徹底的に破壊していく。

「あ……がぁぁぁ……っ、あぁああああああ!!」

 全身の骨が砂に変わるような感覚。内臓がひっくり返るような激痛。黒瀬は自身の血溜まりの中で、もがき、のたうち回る。吐き出した血は、西日に照らされて毒々しいほど鮮やかに、逃げ場のない床を汚していく。

「……つき、よ……。たす、けて……っ」

 血で濡れた指先が、夕日に染まるコンクリートを力なく掻く。

 だが、いくら爪を立てても、その虚無から救い出してくれる相棒の温もりは、もうどこにもない。

「……ごめん……なさい……月夜…………」

 届くはずのない謝罪を漏らし、黒瀬は自身の血の海に沈むように意識を失った。動かなくなった黒瀬のかたわらに、ヴァルハラが音もなく現れる。

 彼はゆっくりと膝をつくと、血に汚れた少年の前髪を、いたわるように優しくかき上げた。

「……我だけは味方だと言っただろう。これ以上、自分を壊すのはやめろ。……今は、ただ眠れ」

 ヴァルハラは神法を黒瀬にほどこす。

 少年の傍らに転がった『絶無之宝珠(ミデンチャーム)』が、主の命を削った代償のように、沈みゆく夕陽の下で鈍く、そして美しく輝いていた。

ーーーーーーーーーー

【仮面ライダーラグナロクに関する現在公開可能な情報】

絶無之宝珠(ミデンチャーム)

身長208cm 体重96kg パンチ力88t キック力108t ジャンプ力69m(ひとっ飛び) 走力1.8秒(100m)

必殺技 絶無ノ滅波(ミデンクライシス)

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次回予告

 永倉を失った絶望から、かつての仲間を次々と襲撃し始める黒瀬廻。その凶行は単なる復讐か、あるいは隠された別の狙いがあるのか。満身創痍の彼の前に現れたファフニールは、永倉を救うための禁断の対価を提示する。月夜を呼び戻すため、黒瀬は誇りさえも捨て、仇敵きゅうてきゾロアスターと盟約を結ぶ。

「変身能力さえ奪えばいい」――執行人と化したラグナロクが、イザナギを壊滅へと追い詰める。

第30話 深淵の盟約/剥奪の三足烏(ヤタガラス)

 仮面ライダーラグナロク第29話『無月の夜/終焉の墜落』を読んで頂きありがとうございます。柊叶です。今回はとことん黒瀬を痛めつける回となりましたが、どうでしたかね?仮に映像化するんだったら確実に却下されるでしょうね。でも私自身としては、中途半端になるぐらいなら、徹底的に全力で痛めつけるほうが、見る方としては良いんじゃないかな、と重い今回も前回に引き続き描写を細かく書かせて頂きました。

 そして次回はまた不穏な気配がするサブタイトルとなりましたが、ぜひ楽しみにして頂けたらと思っております。次回になれば残りは19話と、まだ思うのは早いですが、割と一瞬だったなと思いますが、こういったことを書くのは最終回のときにしておきましょう。それでは次は30話、楽しみにしていてくれたら嬉しいです。

柊叶

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