第28話 『陰る三日月』
~前回の仮面ライダーラグナロクは~
久々に何事も起きていない穏やかな朝を迎えた黒瀬は永倉の提案で水族館に行くことになった。その出かけた先の帰りに氷室たちに遭遇するが特に何も起きずにその場は解散。その後、突然ファフニールの方から戦いを仕掛けてきた為、休日は終了。だが黒瀬たちはゾロアスターの狙いを掴めぬままその日の戦いは終わることとなった、だが黒瀬は永倉に何かあるとヒントだけは手にしていた…。
朝7時、炎堂は校舎に向かって歩く背中を見て涼風だと分かって、名を呼びながら走って隣に立った。
「なあ涼風、結局あの後、朝日奈さんたちから連絡はあったのか?」
「いや、あれから一切音沙汰がない。万が一を考えておいた方が良いかもしれないが、」
昨日は戦いの後、4人はメインホールで目安箱の整理をしていた。整理が終わるか、2人が帰って来るかを帰宅の合図として設けていたのだが、結局2人が帰って来るよりも先に目安箱に入っていた相談事の整理が終わってしまったのだ。
「一応、今朝にもLINEを送ってはおいたんだが既読さえ付いていない」
「それ、割とマジでヤバくないか?」
「ああ、かなりヤバい。一番最悪な事を考えるだとすれば、これから先の戦いで戦力を2つ削がれたってことになる」
「それも俺たちより強い2人だもんな」
結果として2人は朝からテンションが限界値まで下がることとなった。
☆ ☆ ☆
「どうしたの炎堂、なんか今日はいつもより火力低くない?もう少し温度上げて欲しいんだけど」
「水崎よー、俺は暖房器具じゃないんだぜ?」
4人はいつも通り邪神が来た時に備えてイザナギのメインホールに滞在していた。そして水崎は今日も寒いからと炎堂に火の神法を纏わせて暖房器具の代わりにしていた。そんな光景を他所に氷室と涼風は今後のことについて話をしていた。
「氷室、お前はどう思う?」
「正直、あの2人が負けるとは思えないよ。だって2人は超強化も得てるし」
「だよな、たぶん何処かで何かしているんだろうな」
「きっとそうよ、今はあの2人を信じよう」
☆ ☆ ☆
~ゾロアスター~
「ファフニール、お前は一体何をしようとしているんだ?」
ヴリトラはメインホールに居たファフニールに話しかける。
「お前が知る必要はないさ」
「あァ!!何だそれはァ!!」
「お前は今回の計画には参加するなということだ」
「……ラグナロクの奴は俺が殺す、いいなァ?」
「ああ、ラグナロクの奴は殺さんよ」
☆ ☆ ☆
「月夜、何してるんだ?」
「廻が転ばないようにバリアフリーを置いてるの」
「過保護か、まあ嬉しいけど」
「廻こそ今は何をしてるの?急に永倉家にあった古文書を読み漁るなんてさ」
「ファフニールの過去の記録なんかが無いかなと思ってな、でもこれと言ってそれらしいモノは無かったな」
「そっか…でもそんなに気負わなくても良いんじゃないかな?だって廻はめっちゃ強いしさ」
永倉は最後のバリアフリーを貼り終わり立ち上がりながら言う。
「そんなことはねえよ、実際昨日の戦いだって結構苦戦したからな。俺がゾロアスターを撲滅するって決めたのに未だに幹部の1人も斃せていないしな…」
「……大丈夫だよ!廻と僕の2人なら幹部はおろかゾロアスターぐらい瞬殺だって!」
黒瀬が落ち込んでいるのを察した永倉はすぐに駆け寄る。
「月夜は、なんでそんなにも俺に優しくしてくれるんだ?」
「えーー、前に僕のことちゃんと見るって言ってたのに分かんないの?」
「これだけは分からないな」
「そっかあ、じゃあ教えてあげるよ。僕が廻に優しくしてあげるのは、僕がそうしたいからなんだよ。廻の隣に居たくて、廻の役に立ちたくて、廻のために生きたいからなんだよ」
永倉の自分への激重な想いを聞くが黒瀬は嬉しそうな顔をした。
「ありがとう、月夜。でも自分の意思もちゃんと尊重してくれよな、俺に自分の人生を全て捧げてくれるのは嬉しいけど」
「へへへ、分かってるよ~」
☆ ☆ ☆
ファフニールはいつぞやの疑狼ノ遊戯の時と同じように、ある高層マンションの上からある場所を見下ろしていた。
「さて、そろそろ始めるか。お前も、準備はできているな?」
背中を向けたままファフニールはもう1人の邪神に声を掛ける。邪神が頷いたのを横目に確認する。
「では行くぞ、失敗は許さん。もし失敗すればお前の復活は2度と行われないものだと思え」
「承知しました、ファフニールさま」
2人は屋上から飛び降りるとファフニールは右にもう1人は左に向かって飛んで行った。
☆ ☆ ☆
その頃イザナギでは雑談をしながら目安箱の中身を整理していた。すると炎堂があることを話題にだしてきた。
「あ、そういや俺ずっと気になってた事があるんだけど、涼風と氷室に訊いても良いか?」
「なんだ?」
「どうしたの?」
「2人がいつも戦いの中で必殺技を放つ時にさ…」
”痛いのは風が吹くように一瞬だ・私が、看取ってあげる”
「って、言ってるだろ?俺もああいう決め台詞って考えたほうが良いのかなぁって思ってんだけど、実際その辺ってどうなんだ?」
炎堂からの疑問に2人はまず訂正を始めた。
「炎堂くん、私たちあの台詞はそう言う意味で言ってるんじゃないんだよ」
「え、そうなのか?じゃあ黒瀬と永倉と朝日奈さんと草壁さんの…」
”華々しく散れ・闇に沈め・この世に光を灯すのは、俺だ・全員、土に還りなさい”
「これは?」
「あれもそう言う意味ではないな、そうかお前たち2人には教えられてなかったのか」
涼風は2人に決め台詞の意味について教える。
「俺たちが戦う上で欠かせないものは何だ?」
神力でしょ?と水崎は答える。
「そうだ、じゃあその神力が尽きたらどうなるか、当然俺たちは戦えなくなる。それに必殺技を放つ為の、斃すために必要な神力が残っていなければ当然斃せなくなる」
「その為にも私たちは自分の神力を2つに分けてるの。変身後に戦いに使う神力と必殺技を放つ為に必要な神力」
「へ~そうなのか、でもそれと決め台詞に何の関係があるんだ?」
「決め台詞は所謂、合言葉だ。保管・貯蓄しておいた神力の解放のためのな」
「意識的に開放をすると戦いに集中できなくなるから言葉にすることで実質無意識的に開放ができるようになるんだよね」
決め台詞に関する説明を受けて2人は関心の声を上げる。
「このやり方を考え付いたのは朝日奈さんだ」
「あの人ってやっぱり何気に凄いのね」
「もっと凄いのはこの事について教えてないのに力を受け継いだ当初から無意識的にやってる黒瀬くんなんだけどね…」
才能マンかよ、と3人からツッコミを受ける黒瀬、そして炎堂は急に立ち上がり「俺も決め台詞を考えたい!」と叫ぶ。
「別に構わんが、痛くない程度にしておけよな。俺は正直…今でも後悔しているからな…」
「涼風、決め台詞ってのは恥ずかしいと思えば恥ずかしく感じるんだよ。でもな俺は、今の今まで決め台詞に憧れを持ってんだ。だって決め台詞って格好いいだろ?」
「……そんな風に言われたら余計に恥ずかしいだろうが、」
「ははは、いいじゃねえか。なあ水崎!一緒に考えようぜ~」
ーーー
「あんたの決め台詞、私は結構気に入ってるわよ?」
決め台詞を考える2人を他所に氷室は声を掛ける。
「そりゃどうも、風の神様だからって風を意識しすぎたのが失敗だよ」
「そんなこと言ったら私はもう少し冰をイメージすれば良かったなと思ってるけど」
☆ ☆ ☆
「……! 月夜」
「ファフニールだね、でも今回は1人なのかな?」
「俺が行こう、お前はここにいろ」
黒瀬からの言葉に永倉は「なんで…?」と返す。
「お前の強さも優しさも俺が誰よりも1番理解っている。だけどやっぱりファフニールの狙いが月夜だと分かっている以上、お前を戦いの場に行かせるのは危険だ」
「………廻の気持ちは充分に理解ったよ。それが廻からの命令だって言うのなら僕はそれに従う。でも、僕の力が必要になったときは迷わずに僕を呼んでよね?」
「ああ、直ぐに呼ぶよ。じゃあ行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
☆ ☆ ☆
黒瀬は神力が感じ取れた場所に転移之渦で移動する。
「ファフニール、こんな所でいったい何をしているんだ?」
「知りたいか?ならこの私を斃してみせろ!」
次の瞬間、ファフニールは短剣を手に持ち黒瀬に飛び掛かる。黒瀬は右に回り攻撃を躱す、だがファフニールは直ぐに体の向きを変えて二撃目を喰らわそうとする。黒瀬は短剣を躱しながらドライバーを装着し変身する。
”仮面ライダーラグナロク”
直ぐに魔剣ダーインスレイヴを取り出して反撃に移る。
「お前が月夜に狙いを定めているのは分かってる、だが何故月夜なんだ!」
「その理由はお前が1番分かっているだろう、ラグナロク」
☆ ☆ ☆
~イザナギの大部屋~
「…っ、な、なにこれ!?」
長く気を失っていた草壁は焦りながらも今自分が置かれている状態を冷静に判断する。昨日の昼頃、朝日奈と草壁は索敵の仕事を担っている天使の家系である天智と協力してイザナギ上層部の撲滅に取り掛かろうとした、そして変身してから大部屋に入った。だが次の瞬間、朝日奈と草壁は目の前の状態に驚愕した。
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「なっ、なんだこれは!?」
「ぜんいん…死んでる…?」
重厚な扉を押し開け、中に入った瞬間2人の鼻腔を突いたのは鉄錆に似た、あまりにも濃密な死の臭気だった。そこから1歩足を進めると足裏に何かが付いた感触がした、足を上げるとそこには赤色の水たまりがあった。顔を上げて奥に目をやると、そこには嘗てこの組織の頂点で踏ん反り返っていたはずの男たちの無惨な成れの果てだけが残っていた。
壁から天井に至るまで、筆でまき散らしたかのように鮮血が走り、嘗ての豪奢な大広間は見る影もなかった。
「いったい誰が…」
「見て、煌成。出血箇所に邪神の神力があるわ」
ヨルズが指差した箇所を見ると、ヨルズの言う通り神力の跡があった。
「邪神がここに来たって言うのか?」
「事実、神力の跡がそれを証明しているじゃない。問題は邪神の正体、そして光花から現状に関する情報が伝えられていないということ」
「そうだな、にしても神力の残り香が凄いな…」
「本当ね、早くここから出ましょう」
2人は部屋を出ようと死体たちに背を向ける、本来なら神力を感知してまだ犯人が現場に残っていたことに気が付けただろう、だがこの邪神は自身の神力を辺りに流すことで自身の目くらましに利用したのだ。
~~~
(そうだ、たぶんあのとき、魔法でも喰らって気絶して…)
「チッ、ご丁寧に拘束までしていくとはね、」
(あれ?そういえば煌成はどこに?)
草壁は辺りを見渡すが朝日奈の姿が見当たらなかった。一瞬は自分を置いて先に状況を後輩に伝えに行ったのかと考えたが、朝日奈が仲間を置いて独断行動をするとは思えないと考えを改める。
「助けが来るのを待つしかないか、」
☆ ☆ ☆
黒瀬がファフニールと戦い始め、草壁が目を覚ましたその頃、イザナギの4人はラグナロクの神力を感知して現場に向かっていた。
「なんだか、まーたファフニールって感じね」
「おそらくアフリマンは幹部を使って戦力確保の時間を稼いでいるんだろう」
「そう考えたほうがこれまでの戦いに理由が付くわね」
「まあとにかく早く行って加勢しようぜ…って、まあ幹部1人なんてことはねえわな」
4人の前に姿を見せたのは格闘家のビアー、そしてご丁寧に2体の邪神を引き連れて来ていた。
「ガルグイユにハスターか~、ビアーの相手は炎堂くんとシズクにお願いしていい?」
「希愛からのお願いならなんだって聞くよ、任せな」
氷室からのお願いに水崎は今まで以上に気合いが入った。
「相性的には氷室はハスターだな、俺はガルグイユの相手をしよう」
4人はドライバーを装着して宝珠を起動する。
「「「「変身」」」」
”仮面ライダールドラ・フレイヤ・アドラヌス・ナーイアス”
ビアーと再び拳による激しい攻防戦を繰り返すアドラヌス。
「さっさと超強化の状態に変身しなさい、アドラヌスよ」
「あァ?まったく、しょうがねえなァ!変身!!」
”仮面ライダーアドラヌスWITHフォシュターク”
「……あのバカ、神力の残量のこと考えてるのかしら」
ナーイアスは呆れながらもサポートに回りつつビアーが召喚したアスラの相手をする。
ーーー
「お前、冰かよ」
「あれ?もしかして前に戦ったの忘れちゃった?それなら思い出させてあげる」
”WITHウル”
フレイヤは吹雪之宝珠を使い、自身の吹雪の力を増強する。
ーーー
(口から火球を放ち、攻撃を喰らわせても身体を液体状にすることで実質無効化、データ通りだな)
「そっちがデータよりも高火力な火球を放つって言うのなら、こっちだって火力を上げてやるよ」
”WITHフォシュターク”
ルドラは超強化を行い自身の風の神法で竜巻を起こす。竜巻でガルグイユを拘束することで、仮に火球を放たれたとしてもその行為は自分自身を自分の火で焼き殺す結果となる。これによりルドラはガルグイユの遠中距離の攻撃手段を封じることに成功する。
「小癪なあァ!!」
☆ ☆ ☆
「廻、大丈夫かな…」
黒瀬から待機命令を受けた永倉はラグナロクの神力を感じる方向に目を向けていた。
「僕の身の安全を優先してくれるのは嬉しいけど、僕の役目は廻を護ることなのに…」
少々不貞腐れながらも永倉は黒瀬からの命令に従っていた。
「僕も一緒に戦えば直ぐに片が付くって言うのに、あーあ、僕も戦いたいなぁ~」
永倉は木製の椅子に寄りかかりながらグラグラと揺らし天井を眺める。早く戦いに行きたい、黒瀬の役に立ちたい、彼の隣に居たい、そんな想いに溢れていた永倉を突き動かすかのように近くに、ラグナロクが戦っている方向とは真逆の方向に邪神の神力が突然現れた。
「これは…」
神力が感じる方に数歩近づき動きを捕らえる。
「この気配、向かってるのは廻の所?」
(今、廻はファフニールと戦ってる。このまま気配の邪神を放置すれば廻は1対2の状態に陥る。僕がとるべき行動はこの気配の邪神を止めに行くこと、でも…)
「待機命令が出ている以上…」
あくまでも黒瀬からの命令を優先しようとする永倉、だがそのとき永倉の心にあるエレボスが声を上げる。
”すべては…ラグナロクのために…”
その声が聴こえると同時に永倉の眼が闇色に鈍く輝く。まるで生気を失った人形かのように永倉はフラフラと揺れながら家を出て先ほど神力を感じた方向に歩いて行く。
☆ ☆ ☆
「……はっ!?こ、ここは!?」
気を取り戻した永倉は目の前の状況に一瞬焦るものの直ぐに状況を把握する。
(そうか、これはあの時と、廻に初めて会ったときと同じだ…)
永倉は修学旅行の日を思い出す。
(なんでこうなるんだ…?僕はいったい…)
頭を抱えながら自分が何者なのかと疑問を抱く。すると前方から聴いたことのある声がする。
「よう永倉」
「おまえは…アラマズド…!?なんでお前が此処に!?」
「お前を消しにきた、それだけだ。…変身」
”仮面ライダーアラマズド”
「意味が分からないけど、そっちがその気ならやってやるよ」
(廻も相手が仮面ライダーなら怒らないと思うし)
「変身」
”仮面ライダーエレボス”
いつぞや振りの光と闇の対決。互いの攻撃がぶつかり合うと同時に光と闇の神力が混ざり合い、金と黒の刃が交差し、幾千もの斬撃痕が飛び交うことで巨大な渦が巻き起こる。当然その威力・神力の濃度は凄まじく遠くで戦うラグナロクもその気配は感じ取っていた。
☆ ☆ ☆
(!この神力は月夜のか!?なんで戦っているんだ!?)
「余所見厳禁だぞラグナロク」
一瞬目を逸らしたラグナロクの首元を目掛けて、ファフニールは短剣の切先から入り込む。残り数センチの所で気が付きラグナロクは魔剣の鏡面部で防御する。
「くっ、」
(ファフニールの奴いったい何を企んでいるんだ、神力から察するに向こうにも邪神が出たようだがそんなに強い気配じゃないのは分かる)
「……問題はないか…?」
ラグナロクは数メートル距離を取り、ファフニール対して魔剣の切先を向ける。
「まずはお前を斃す」
「やってみろ、幹部の本当の強さをみせてやる」
☆ ☆ ☆
「はぁはぁはぁ…」
(アラマズドのやつ、前より強くなってる…?)
エレボスとアラマズドの対決は五分五分といったところで、なかなか決着が付かなかった。
「永倉おまえ、焦ってるな?今すぐにでもラグナロクの所に行きたくてしょうがないんだろ?」
「うるさいな、お前には関係ないだろ?」
「まあな、だからこそお前をこの場に留めているのが堪らなく心地いいよ」
「キッモ…ああもう、疲れるからあまり使いたくなかったけど、」
“フォシュターク、ローディング。WITHフォシュターク”
エレボスは超強化を使用する。その光景を見た瞬間、アラマズドは「ははっ」と小さく笑い声を溢した。
☆ ☆ ☆
そのころイザナギたちの内、ルドラとフレイヤはトドメに差し掛かろうとしていた。2人は横に並び真正面に居るガルグイユとハスターに向かって必殺技の準備に入る。
“ヒュドラ・フレイヤ、導軌ノ刻。加護ノ刻”
2人は各々宝珠を起動して武器に装填し、同時にドライバーにある宝珠も起動する。
「痛いのは風が吹くように一瞬だ」
「私が、看取ってあげる」
“猛毒・冰麗}ノ聖刃”
ルドラは毒の弾丸を、フレイヤは冰の斬撃を放つと同時に高く飛び上がりキックを放つ。
“突風・吹雪}ノ洗礼”
毒に苦しむガルグイユは身体を液体状に変えることも出来ず、ハスターは弱点属性の冰の斬撃により動きを封じられ両者とも完全になす術なく必殺技を喰らい爆散する。
「よし、次はビアーだが氷室は黒瀬のもとに向かえ。一度断られたぐらいで諦めんなよな」
フレイヤは疑狼ノ遊戯の時のことを思い出す。
「バレてたんだ、」
「何年幼馴染だと思ってんだよ、まぁ俺は今でも反省してるぞ?俺が亀裂を入れちゃったしな」
「ふふ、ありがとう涼風。行ってくる」
「ああ、頼んだぞ」
2人は互いに背を向けて自分が行くべき所に走り出す。
☆ ☆ ☆
「お?そっちは片付いたのかよ?」
「でなきゃコッチに加勢するわけないだろ」
ルドラが加わったことで互角の勝負に少しイザナギが優勢になる波が流れ出した。その先駆けとなったのはナーイアスだった。
“フォシュターク、ローディング。WITHフォシュターク”
ナーイアスは自身の水の神法で何ができるかをずっと考えてアドラヌスのサポートに回ってきた。今まではシャランガを使った弓矢による攻撃でのサポートだった、だが水は攻撃にも護りにも特化しているとナーイアスは気が付いた。
(炎堂の使う火の神法は自分の火力を上げて上げて兎に角攻めまくる事に特化してる、でもその分相手の攻撃も受けやすい。涼風が加勢してくれたお陰で私にも余裕ができた)
ナーイアスはビアーの動きに集中する。今はアドラヌスからの攻撃を捌いたり避けたりと防御に徹している。
(まだ、まだまだ…)
次の瞬間、ビアーの拳が動いた。
(今だ!)
ナーイアスは水の神法を使いビアーの足元を水に変える。ビアーの片足が沈み態勢が崩れて放たれた拳はアドラヌスに当たらない。
(できた!)
「ナイス!水崎!」
その一瞬の隙を見逃さずアドラヌスは必殺技を起動する。
“加護ノ刻”
「俺の更なる成長の為の糧となれ」
“焔火ノ洗礼”
文字通り途轍もない程の火力を纏った熱拳をビアーはもろに喰らう。拳と防御に全振りした両腕を境目に熱波が生じる。アドラヌスをはじめ3人とも変身解除しながら後ろに転がる。
「いててててて、」
「助かったぞ水崎、判断が早かったな」
熱波が生じると同時にナーイアスは水を上から滝を落として壁を作った。それにより変身解除した生身が喰らえば体が溶けるような温度から適温に下がり3人は助かった。
「超強化のお陰よ、前の状態じゃここまでの細かな神法の操作はできなかったよ」
熱波により起きた水蒸気の煙が晴れてくる。
「炎堂、手応えの程は?」
「いちおう、準備しといたほうがいいかもな、」
炎堂の予想通り、かなりのダメージは与えたがビアーは身体を修復しながら煙から姿を現した。
「強くなりましたね、アドラヌス。ナーイアスのサポートがあったとはいえなかなかな成長振りです」
「そりゃあどうも、でも斃せてねえから満足はしねえなあ」
炎堂は立ち上がり宝珠を構える。だがその行動をビアーは静止する。
「お互いに疲弊していますし、今回はここまでにしましょう」
確かに炎堂はかなり疲弊している、だが涼風は逃すかとばかりに前に出ようとするとその肩を炎堂に掴まれる。
「待ってくれ涼風、こんなこと言うのは仮面ライダーとして間違ってるかもしれねえけど、コイツとの決着は俺に着けさせてくれねえか?」
息を整えながら炎堂は涼風に頭を下げる。
「仮面ライダーは人と世界を護るために居るのは分かってる。でもビアーとは何度も戦って俺は気が付いたんだ、コイツは邪神としての戦いよりも格闘家としての戦いを求めてる。実際コイツは建物は壊しても一般人まで殺すようなことはしていなかった」
涼風はこの前の戦いでのデータを思い返す。
「俺はビアーとは真剣勝負で決着を付けたい。頼む」
「……正直、俺もかなりの神力を消費した。互いに戦略的撤退だ」
「ではまた会いましょう、アドラヌス」
薔薇の花弁が飛び舞いビアーは姿を消す。炎堂はその場に仰向けに横になる。涼風は見下ろして一言「必ず斃せよ」と伝える、炎堂は「おう!」と返す。水崎はどこか嬉しそうに2人を眺めた。
☆ ☆ ☆
そのころフレイヤはラグナロクのもとに向かっていた、だがその途中、見えない壁にぶつかる。
「イタッ!?これって…結界…?」
☆ ☆ ☆
「しつこいぞファフニール、さっさと俺に斃されろ」
ラグナロクは何度も必殺技を放つがファフニールは避けるか受け流すかを続けていた。
「私の計画を達成するまでは斃されるわけにはいかないんだよ…」
「いったい何が目的なんだ!今すぐこの場で俺に斃されたくないのなら答えろ!」
「……まぁそろそろ教えてやっても良いだろう、流石のお前でも止められないだろうしな」
ファフニールは笑いの感情を載せながら計画について話す。
「私の狙いはエレボスだ、そして先ほど私の脳内に心通信で連絡があった。あの事についてエレボスに話したとな」
「あのこと?いったいなにを…」
最初は分からなかったラグナロクも、その後すぐに察しが付き「まさか…」と声を震わせる。
「やはりお前も知っていた、いや、お前の場合は“見た”と言うほうが正しいか。そう、アイツに教えたのだよ」
☆ ☆ ☆
アラマズドは無造作に歩み寄り、エレボスに向かって光槍トリアイナの先端を突きつける。
「永倉、お前が感じているその『忠義』の正体を教えてやるよ。それは心じゃない、ただの『保存された命令』だ。お前がラグナロクのために命を懸けようとするたび、奴は心の中では冷めた笑いが起きていたはずだ。『計算通り、便利な人形がまた踊っている』とな。」
「なに急に…。いい加減なこと言わないでよ、アラマズド。廻が……そんなこと思うはずがないだろ。僕が廻を守りたいと思うのは、僕自身のこの胸の痛みや……温かさがあるからだ。プログラムなんて、あんたの陳腐な空想でしょ。さっさと死んで」
急に自身のことについて暴露してきたアラマズドにエレボスは驚きよりも、ただ黒瀬の名を汚されたことへの、絶対的な拒絶だけを感じていた。
☆ ☆ ☆
今までに無い以上にファフニールは楽しそうに喋った。
「エレボスはラグナロクの力から創られた存在だと教えたのだよ」
ラグナロクは身体を震わせる。だがファフニールはまだまだ自分たちが何をしたか話し続ける。
「そして奴の異常な程のラグナロクへの忠誠心、気が付いたらラグナロクの危機に駆けつけている理由、あと今日の事についても教えてやったなぁ」
「今日のことって…いったい何を話した…」
「クラゲだよ」
クラゲ?とラグナロクは怒りの声で問いかける。
「クラゲはよくその泳ぐ姿から「自由」というイメージが人間の間では持たれるそうじゃないか。自身はラグナロクの呪いに縛られていると言うのに、でも奴は水槽にいる魚は可哀想とかほざいていたな、自分のが籠に囚われているというの…に…」
ファフニールの首を狙ってラグナロクは斬りかかった。だがファフニールは簡単に避ける。
「怒りで動きが単純だぞラグナロクよ」
「黙れ…この塵芥が…」
ラグナロクの煽り文句も今のファフニールにはただの褒め言葉でしかなかった。自分の計画が順調に進んでいたからだ、だがラグナロクはそれに気がつくほど今の自分に余裕はなかった。
☆ ☆ ☆
「温かさァ?笑わせるなよ、それは宝珠に刻まれた『所有者への帰巣本能』に過ぎない。ああ、そういえば水族館で魚が可哀想だとか言っていたな? だが、あの魚たちの方がまだマシだ。あいつらには少なくとも、逃げたいという本能がある。……だがお前はどうだ? お前の進む『自らの道』は、永倉家が誕生した1000年前の、平安時代に初代が引いた『線路』の上だ。お前は自由に進む海月ではなく、ただ瓶の中で揺らされているだけの“死骸”なんだよ。」
エレボスの肩がピクリと跳ねる。アラマズドの言葉が、昨日水族館で抱いた漠然とした「可哀想」という感情の正体を、残酷なまでに暴いていく。エレボスは自身の両腕を強く抱きしめるが、その指先はわずかに震え始めていた。どこかでラグナロクへの不信感を感じ始めていたのだ。
頭が回らなくなり無意識にエレボスは変身が解除してしまう。
「……線路……? 自分が死骸……? 嘘だよ。お前さっきから何を……。僕が、廻に撫でてもらった時のあの喜びも、一緒に笑った時間も……全部、誰かが決めて創られたものだって言うのか? 」
アラマズドは変身解除して感情の読めない冷徹な笑みを浮かべて見せた。永倉の瞳を覗き込む。その視線は、生きている人間を愛でるものではなく、精密機械の不具合を観察する技師のそれであった。
「ああそうさ、何より滑稽なのは、ラグナロクがお前のその『不自由さ』を特等席で眺めていたことだ。随分前にお前の家にあった宝珠を試しに使ったことがあっただろ?あれはアルヴィース、全てを知る者だ。ラグナロクはアルヴィースの力で、お前がラグナロクの宝珠から創られた存在だと知ってもなお何も言わなかった。何故だか分かるか? 真実を教えてお前が壊れたら、『便利な盾』を失うからだ。あいつにとって、お前は隣を歩む相棒などではない。せいぜい、自分を傷つけないための『緩衝材』か、使い捨ての玩具にすぎなかったんだよ」
「緩衝材」という言葉が、永倉の脳内で昨日黒瀬を守るために身を投げ出した自分の行動と重なり合う。守っていたのではなく、単に「仕様通りに作動した」だけなのか。支えを失った永倉の膝が、コンクリートを叩いた。
「廻は……知ってたのか……? 知っていて、何も言わずに僕を……。……嘘だ……そんなの、酷すぎるよ……。僕は、一人の人間として廻の隣にいるつもりだったのに。……最初から、使い捨ての玩具として見てたっていうの……?」
永倉は力なく項垂れ、指を地面に立てる。瞳から、今まで彼を突き動かしていた輝きが急速に失われ、濁った闇が澱み始める。朝日奈は勝利を確信したように腕を組んだ。
「お前がラグナロクを守護する家だと誇りに思っていたその家系も、ラグナロクの為に積み上げてきた努力も、すべてはその心酔するラグナロクを補完するための『贅肉』だ。お前に人生の決定権があると思ったか? 勘違いするな。お前は、黒瀬廻という掃滅者を際立たせるためだけに背景として配置された、無価値な虚無なんだよ。」
永倉の喉から、掠れた嗚咽が漏れる。しかし、それは悲鳴ではない。自身の存在すべてが「無」であったことを突きつけられた者の、壊れた笑いだった。永倉の周囲に、黒い神力の霧が、意思を持たぬ影のように蠢き出す。
「…………。……そうか。……僕は、最初から……いなかったんだ。廻が見ていたのは、僕じゃなくて……ただの、道具……」
☆ ☆ ☆
「おいおい、いつまでも私に構っていていいのか?」
ファフニールの言葉にラグナロクは漸く冷静さを取り戻して永倉のいる方向に振り向く。
「月夜…今行くから待ってろ」
ラグナロクは急いで永倉のもとまで走る。
「くっくっくっ、もう遅いがな」
☆ ☆ ☆
肩で息を切り、変身を維持するのがやっとの状態でありながら、ラグナロクは強引に現場へと踏み込んだ。視線の先、立ち尽くす相棒の背中を見つけ、その名を叫ぶ。
「月夜……! 無事か、月夜!!」
「……めぐ…る…?」
駆け寄るラグナロクの声に、永倉の肩が微かに跳ねた。ゆっくりと振り返るその顔は、涙でぐしゃぐしゃに濡れている。永倉の瞳に、一瞬だけ安堵の色が浮かぶ。だが朝日奈が永倉の肩を抱き寄せ、耳元で希望を壊す死神のように囁いた。
「……ほら、来たぞ。お前を使い倒すための『主人』が。よかったな、人形♪」
その一言が、永倉の胸の奥で辛うじて繋がっていた最後の糸を、無慈悲に断ち切った。
パキン、と――心の中で何かが致命的に千切れる音が響く。
瞬間、永倉の慟哭すら飲み込むほどの漆黒の衝撃波が、彼を中心に爆発した。
「うあぁぁぁ!!」
凄まじい闇の圧力に、満身創痍のラグナロクは後退を余儀なくされる。魔剣を地面に突き立て、なんとか踏みとどまったが変身が解除される。黒瀬は顔を上げると、そこにはもう、相棒の面影はなかった。
溢れ出す暗黒神エレボスの力が、夜よりも深い闇を空に広げていく。その光景を前に、ラグナロクは啞然と立ち尽くすしかなかった。
「……月夜……? なんだよ、これ……何が起きてるんだ……」
黒瀬の視線の先で、朝日奈は満足げに口角を吊り上げた。
「朝日奈……! 貴様、月夜に何をしたぁぁ!!」
「何も。私はただ、この『物』に全てを教えてやっただけだよ。」
朝日奈はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、背後に展開した転移之渦の中へと、嘲笑を残して消え去った。
怒号を上げる暇さえ与えられず、現場に残されたのは、ただ闇に包まれ、壊れたように闇を放ち続ける永倉の姿だけだった。
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【仮面ライダーヨルズに関する現在公開可能な情報】
『覚醒之聖堂』
身長205cm体重103kg パンチ力80t キック力100t ジャンプ力70m(ひとっ飛び)走力2.1秒(100m)
【仮面ライダーアラマズドに関する現在公開可能な情報】
『覚醒之聖堂』
身長211cm 体重109kg パンチ力87t キック力111t ジャンプ力87m(ひとっ飛び)走力1.8秒(100m)
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次回予告
ファフニールの策に嵌まり朝日奈の口から告げられた自身の真実に暴走したエレボスにラグナロクは完全に孤立してしまう、この件についてはファフニールの張った結界によりイザナギは何も知らなかった、果たしてラグナロクはどうなってしまうのか!?そして何故ゾロアスターはエレボスを暴走させたのか!!
第29話 無月の夜/終焉の墜落
仮面ライダーラグナロク第28話『陰る三日月』を読んで頂きありがとうございます。柊叶です。今回はなんと主人公、黒瀬廻に17話から登場してずっと唯一の味方として寄り添い癒しとして傍に居続けた永倉月夜が自身の家の真実を知り、暴走してしまう回となりました。
実のことを言うと今回が作者のなかで一番書きたいと思っていた回でした。なので今現在アドレナリンがとんでもない程に溢れ出ています、深夜0時16分です。
永倉家がラグナロクの宝珠から創られたとのことですが伏線はいくつか敷いていましたが気が付いている方も何人かは居たんじゃないですか?ファフニールも言ってはいましたが、黒瀬への異常な忠誠心だったりもそうですが、第5話で氷室がフレイヤを受け継ぐ際に第123代目なのに対して第21話では永倉は第41代目と極端に数字が低かったり、25話での永倉月夜の神力の回復とか、あと一番決定的なのはエレボスは宿命之帯だったりジェノサイドが使えたりと分かりやすいのは置いておきましたね。こう言うのを映像化された時は回想シーン的なので流せたらいいなと思っています。
そして次回は『無月の夜/終焉の墜落』と分かりやすく更に不穏ですが、楽しみにしていてくれたら嬉しいです。
柊叶




