第22話 『光の狙いとその行く先』
〜前回の仮面ライダーラグナロク〜
先代エレボスこと永倉月輪から覚醒之聖堂の作成書を受け取り、見事に構築に成功した黒瀬と永倉。だがそれとほぼ同時刻にイザナギでは朝日奈による独裁政治が行われていた。危うく朝日奈に覚醒之聖堂を奪い取られそうになるが、その危機を回避したことでエレボスは超強化に成功する。
イザナギのとある一室で草壁は朝日奈に重力強制を強いていた。
「美土里、これはどういうことかな?」
「記憶はないけど、今のあんたには十二分に警戒をする必要があるってことは、感覚的に理解できるのよ」
「まったく、信頼がないねー。俺が何をしたって言うのか…なっ!」
朝日奈は光の神法を使い微弱な光弾を放ち、自分に翳されている草壁の右手を弾く。その一瞬の隙を突き朝日奈は傀儡之宝珠を起動して草壁を洗脳する。
「しまっ…!」
朝日奈による洗脳に耐えようとするが、その抵抗も虚しく草壁はまた目から光を失う。
「お前がもう少し聞き分けが良ければ、もっと楽にことが運ぶのにな」
☆ ☆ ☆
「廻、大変だよ」
「どうした?」
「またアラマズドの奴がヘラの力を使ってイザナギを洗脳したみたいだよ」
「黒龍を送っておいたのか?」
「うん、どうする廻。もしかしたらコッチに来るかもよ?」
黒瀬は八咫烏を手乗りサイズで召喚して玉帝学園の方角に向かわせる。
「今は様子を見よう。あくまでも俺たちの目的はゾロアスターの撲滅だ。向こうがその気なら迎え討つまでだ」
「オッケー、じゃあ僕は準備運動でもしてるね」
☆ ☆ ☆
「クククククク…。いい眺めだね~」
円卓の椅子ではなく机の上に直接、朝日奈は座って足を組んでいた。
「それじゃあ…行こうか、ラグナロクを殺しに…」
☆ ☆ ☆
「! 月夜、準備しておけ」
「もうできてるよ。それにしてもアラマズドの奴、昨日の今日で懲りないね」
「地味に強い上にしぶとい奴は一番面倒くさい。今回で完全に叩き潰すぞ」
「うん!」
☆ ☆ ☆
黒瀬たちは周辺に被害が及んではまずいと考え転移之渦で山奥に移動し、そこで朝日奈たちが来るのを待つ。
「わざわざここまで来るのかな?」
「来るだろ、あいつは俺を心の底から殺したいみたいだしな」
「そんなことは僕が絶対にさせないけどね」
そして数分後、空の向こうから白龍が飛んでくるのが見えた。その上には朝日奈を始めイザナギ全員が乗っていた。
「ここを貴様の墓場に選んだというわけか、随分と殺風景だが良いのか?」
「逆にお前の死に場所になるかもしれないけどな」
二人は互いに挑発し合いながらドライバーを装着する。
”ラグナロク・アラマズド。ローディング”
「「変身」」
”仮面ライダーラグナロク・アラマズド”
「月夜、イザナギの奴らは可能な限りお前に任せる。可能な限りで良いからな!無理は絶対にするなよ!」
「う、うん!?そこまで心配する?」
永倉はラグナロクから念入りに忠告を受けてから変身をする。
”エレボス、フォシュターク、ローディング。仮面ライダーエレボスWITHフォシュターク”
「それじゃあ、生きてまた逢おうな」
「うん!」
そういった会話が薄っすらと小さく聴こえたアラマズドはボソリと「本当にデキてんじゃねえだろうな…」と呟いた。
「まあそんなことを考えている暇はないな。よし、お前らも変身しろ」
五人はコクリと小さく頷き、何も言わずに変身する
”仮面ライダーフレイヤ・ルドラ・アドラヌス・ナーイアス・ヨルズ”
「お前たちはエレボスを潰せ。俺はラグナロクを…殺す」
四人は小さく頷くが、フレイヤは頷いたようには見えなかった。だが、アラマズドはそんなことには気にせずにラグナロクに戦いを挑みに走り出す。
ラグナロクは魔剣ダーインスレイヴを、アラマズドは聖槍トリアイナを取り出し武器による攻防を繰り返す。アラマズドは昔から先代や指南役により鍛え上げられた模範的な戦法を取るが、ラグナロクは実践により培ってきた叩き上げの戦闘スタイル。その結果や行く末は火を見るよりも明らかだ。アラマズドは徐々に押され始める。
「くっ、なかなかやるな、」
”導軌ノ刻、光輝ノ聖刃”
「避けるまでもない」
ラグナロクは魔剣を一振りするだけで、アラマズドの光斬を真っ二つに斬る。
「なっ…何故だ!?何故そんな、ただの魔剣の一振りで、」
「……神力に乱れがあるんだよ。だから本来の必殺技の威力を誇っていない、」
「なにを…なにをふざけたことを!!」
☆ ☆ ☆
「無言で殴りかかって来るとか、地味に怖いんだけど、」
エレボスは一人で五人を相手取る。フレイヤの聖剣、ルドラの聖杖、アドラヌスの聖拳、ナーイアスの聖弓、ヨルズの聖槌、五つの武器をエレボスは黒鎌でそれらを全て躱したり、受け流したりと、隙を見つけるか作らない限り永遠と五人と戦い続ける状況だった。
(まずは…まだ仮面ライダーとしても、イザナギとしても日の浅いアドラヌスとナーイアスから潰す)
「傀儡なだけあって現状のお前らには感情も無く恐怖心も無い。だから問答無用で僕に襲い掛かって来るのは確かに恐ろしいけど、一つ弱点があったね。攻撃の仕方がワンパターンなんだよ」
エレボスは転移之渦でアドラヌスとナーイアスを少し離れたところに移動させる。
”祓魔ノ刻、暗黒ノ一閃”
闇色の神力を纏った黒鎌から放たれた一閃にアドラヌスとナーイアスは変身解除に追い込まれ、そのまま気を失ってしまう。
「覚醒之聖堂にあるラグナロクの神力の影響で洗脳が解けたのか、さすが廻だ。それじゃあ、あと三人も」
☆ ☆ ☆
「神力の操作さえ上手くできない現状のあんたに俺に勝てる見込みは無いんだよ」
”葬送ノ刻、終焉ノ滅波”
魔剣を左に投げ捨てると同時に宝珠を一度押して必殺技を起動する。ラグナロクは高々と跳び、アラマズドに向かって白銀色のキックを喰らわす。アラマズドは吹っ飛ばされ、土壁にぶつかり変身が解ける。しばらくは動けないであろうことを目視で確認したラグナロクはエレボスの下へと向かう。
☆ ☆ ☆
「さすが廻、もう終わったんだ」
「ああ、あとはこいつらを止めれば問題ないな。行くぞ」
“祓魔ノ刻、終焉・漆黒}ノ一閃”
ラグナロクとエレボスから放たれる一閃がフレイヤ、ルドラ、ヨルズに直撃する。すると三人は先ほどの二人と同様に洗脳が解けると同時に気を失う。
「よし!廻、手伝ってくれてありがと…って、廻どこに行くの?」
ラグナロクは変身を解除しながら朝日奈が倒れているところに向かって歩いていく。永倉はその跡を追って行く。黒瀬はうつ伏せに倒れ込む朝日奈の目の前に片膝立ちで見下ろす。
「グ…ググ…」
「朝日奈煌成、あんたの負けだ。これ以上、あいつらを利用するのは辞めろ。次、あいつらを利用したらお前の命は無いと思え」
「………厄災風情が…おれに命令するきか…?」
「命令じゃない、お願いしてんだよ」
「おねがい、だと…?」
「そうだ。あんたは以前、イザナギのルールに従って俺を殺しに来たと言った。真っすぐな人だなと思ったよ、俺にはとても眩しく見えた」
朝日奈はなんとか身体を起こし黒瀬のように片膝を付いた態勢になる。
「だが戦っていくなかで、あんたの本音が段々と見えてくるようになった。あんたが俺を殺しに来る本当の理由は…」
その場の二人は息を飲んだ。
「責任感だ」
その言葉が黒瀬の口から発せられた瞬間、朝日奈は目を開き分かりやすいぐらいに驚いていた。
「自分がその場に居れば鳴上先輩は死ななかったかもしれない、と訃報を耳にしたときからずっと思っていたんでしょう?」
「………そうだ、その通りだよ。だが、俺の本音を、雷牙を殺した張本人から言われるとはね、もしかして、雷牙を殺したことについてはもう、なんとも思っていないのかな?」
「いえ、今でも、これからも俺はこの罪を背負い続けますよ。でも、ただ背負い続けるだけで終わるつもりはありません」
黒瀬はそう言い残し、転移之渦を開き永倉と共に帰って行く。その場に残された朝日奈は負けた悔しさからなのか歯を食いしばりながら右手で地面の土を抉る。
☆ ☆ ☆
「ねえ、廻、なんであんなアラマズドをわざと焚きつけるようなことを言ったの?それにさっきの終わるつもりはないってどういうこと?」
「特に理由は無えよ」
「本当に?廻のことだからてっきりインドラのことを蘇らせる気なのかなと思ったけど、」
「いくら俺でも死んだ人を蘇らせることなんて出来ないよ」
「じゃあなんであんなことを…?」
「………なんとなくだ」
「ふーん…」
永倉は黒瀬に対して少し疑いの目を向けていた。
☆ ☆ ☆
「それで、ここは一体どこなんですかね?」
炎堂は辺りを見渡しながら四人に訊く。
「それについてはあそこで不貞腐れてる煌成に訊けば直ぐに分かるでしょう」
「やっぱり会長が俺らになんかしたってことですかね、昨日の抜けた数時間の記憶の件も会長が関係してるんですかね?」
「そうでしょうね」
草壁はゆっくりと膝に手を置きながら立ち上がり、朝日奈のもとに歩いて行く。
「ねえ希愛、これ私たちはあっちには行かないほうが良いかな?」
「うーん、まあ確かに行かないほうが良いかもね。とりあえず今はイザナギに戻ろうか」
氷室は転移之渦を開く。涼風を始め三人は氷室の後を付いて行く。
☆ ☆ ☆
「何故かは分からないけど、氷室たちは気を遣って先に帰ったようね。これなら包み隠せず本当のことを言えるわよね?」
「………なにが訊きたいんだよ」
「そこまでして黒瀬を斃したい理由よ。黒瀬には言って、いや見抜かれたりしたんでしょ?」
「なんでそこまで分かるんだよ、」
「………あんたの幼馴染で、」
草壁は頬を軽く染めながら小さく「か、かのじょ、だし」と呟いた。
「!? お、お前!?こ、こんな時ばかり何だよ!!」
「ううう、うるさい!!言う気がないなら私はもう帰るから!!」
焦りながら転移之渦を開こうとする草壁の左手首を朝日奈は慌てて掴む。その手を草壁は引きはがそうとするが、やはり男子には力では敵わないようで草壁はそのまま朝日奈の腕の中に引きずり込まれる。
「わっ!?」
朝日奈は力強く草壁を抱きしめる。
「ちょっと!苦しい!離して!!」
「ごめん、本当にごめん、全部ちゃんと正直に話すから帰らないでくれ!!」
「…わかったから、まずはイザナギに戻ろう。あ、傀儡之宝珠は預かるわよ」
「そんなの喜んで渡すよ…」
☆ ☆ ☆
「廻、この後はどうするの?」
「なにをするかな、ほんと、どうするかな」
黒瀬は特に今後の予定がない様子だった。それが分かった永倉は嬉しそうに、
「じゃあ、廻!どこかに遊びに行かない?」
「遊び?どこにだ?」
「うーん、遊びって言っといてあれだけど、廻、読書するの好きなんだよね?図書館とか行くのはどう?」
「図書館か、確かに最近、本を読んでなかったから良いかもな。行くか」
☆ ☆ ☆
「みんな、本当にすまなかった」
イザナギに着いてすぐ、草壁は二年ズを集合させて朝日奈に謝罪をさせた。
「俺は、氷室の言う通り私情を優先するために、君たち全員を俺の傀儡として、道具として使った。人権を無視した人として恥ずべき行動だ、本当にすまなかった」
朝日奈の心からの謝罪を二年ズは受けとる。
「まー、もうあんたらは煌成の本性を知ってるからこの謝罪をなかなか信用できないかもしれないけど、今回ばかりは信じてくれないかしら?」
草壁も一緒に頭を下げる。こういう時、いかに重い空気であろうと問答無用に断ち切ってくれるのは炎堂だった。
「俺は信じますよ!そもそも人を疑うのは性に合わないですし」
「私は、まあ、美土里さんの言葉なら信じられます…」
水崎は「私ってこんな疑い深い性格だったんだ、」と自分の中にあるもう一つの性格に驚いている様子だった。
「まあこんなところで内部争いなんてしている暇なんてないですし、信用とまではいかないですが、信じますよ、会長」
「三人がそこまで言うなら、私も、信じはします」
二年ズの懐の大きさに二人は感謝の意を述べる。
「これからは、君たちからの信頼を取り戻せるように尽力するよ」
☆ ☆ ☆
そのころ黒瀬と永倉は都内にある、あきる野市中央図書館に来ていた。
「廻、なにを読んでるの?」
「北欧神話だ、この際だからもう一度、神々について復習しておこうと思ってな」
「気分転換に来たのに、結局戦いに関することじゃん。まあ廻らしいけど」
永倉はまだ読みたい本が決まっておらず、そこらの本棚をうろついていた。黒瀬はパラパラとページを捲り短時間で神々に関する情報を頭に入れていく。
(オーディン…トール…フレイヤ…)
「………そうか、こいつも北欧神話にいたんだったな」
そこのページに記載されていたのは、ゾロアスターの幹部が一人、ファフニールだった。
(ファフニール、もともと性格の悪い奴だと昔、読んだときに思ったが、黄金に目がくらんで殺人をしたりと、今読み直してもそう感じることをしているなこいつは)
黒瀬は敵幹部のページは念入りに読み込んでいた。そして読み終わりページを捲ろうとしたその時、目の前のほうから聞き覚えのない声で黒瀬のことをラグナロクの名で呼ぶ者が居た。
「貴様がラグナロクか、」
「そういうお前は、誰だ…?神力からして邪神なのは分かるが、なんで人間の姿をしているんだ?」
「この様な場でいきなり本当の姿で来れば騒ぎが起こりイザナギの者たちが駆けつけるかもしれないからな。だからわざわざこうして人間に化けて来たのだよ」
「なるほど。で、俺になにか用でもあるのか?」
黒瀬は本を閉じて隣に置く。
「我らが主君アフリマン様からとある伝言を受けてそれを伝えに来たのだ」
「伝言?敵のラスボスが俺になにを伝えることがあるんだよ。宣戦布告とかか?」
敵の幹部を前にしても、黒瀬は無表情を崩さずに、隙を見せないように徹していた。だが、この次にファフニールが発したアフリマンからの伝言とやらを聞いて、黒瀬は思わず隙を作ってしまう。
「アフリマン様は貴様との共闘、つまり手を組みたいと考えているようだ」
「は?なにをいって…」
黒瀬はこの動揺した一瞬を突かれた。ファフニールは専用武器である短剣を袖から出し、黒瀬の首に向かって刺突を喰らわす。黒瀬は反応が遅れ避けることも魔剣での防御も間に合わなかった。だが今の黒瀬には誰よりも頼もしい護衛が存在している。
「僕が存在しているかぎり、廻には手出しさせないよ、ファフニール」
永倉は黒鎌アダマスでファフニールの短剣を止めていた。その永倉の一切の隙の無さと、黒瀬に対する異常な忠誠心を見てファフニールは短剣を収める。
「なるほど、確かに貴様が居るあいだはラグナロクを仕留めることは出来なさそうだ」
「アフリマンのその伝言は嘘か?」
「いいや、共闘の意思があることは本当だ。現状のラグナロクたちはイザナギとは敵対関係にあるようだから、味方に引きずり込もうというのがアフリマン様の考えなのではと私は考えている」
「そういうことか、だったらアフリマンに伝えろ。俺はどの組織とも組むつもりは無いと、それと、」
黒瀬は席から立ちあがりファフニールにその隙のない眼を合わせる。
「俺の狙いはアフリマン、お前だってな。そのうち、その命を貰うと言っておけ」
黒瀬は永倉に「帰るぞ」と言ってその場を後にする。ファフニールはその背中を見たまま何もせずにほんの少し怪しげな笑みを浮かべていた。
二人は図書館の外に出たあと、石で出来たステージなどがある広場に移動していた。
「ありがとうな、月夜。俺完全にさっきのは油断してた」
「そんな気にしなくていいよ。それよりもさっきファフニールに対してあんなこと言ってたけど、早速明日にでもアフリマンが攻めて来たらどうするの?」
「それは無いだろうな。そんな直ぐにアフリマンが自ら来れるならとっくに来ているはずだ。おそらく今のあいつには動けない理由があると俺は考えている」
「確かに、それはそうだね。じゃあ帰ったらそれについて調べてみようか」
永倉は目の前に転移之渦を開く。
☆ ☆ ☆
「さてと、煌成に反省を促すことも出来たし、今後の方針を考えないといけないわね」
草壁はどこからかホワイトボードを持ってくる。ボード用の黒のマーカーペンを使いなにやら色々と書いていく。その背中を見ながら涼風が深刻そうな顔をしながらメインホールに帰って来た。その顔を見て氷室は心配そうに駆け寄る。
「涼風、なにかあったの?」
「ああいや、肝心なことを忘れていてな」
炎堂は楽観的な口調で「何があったんだ~」と筋トレをしながら耳だけ傾けて訊く。
「三年生の卒業式準備、そして次の生徒会選挙の準備、この二つの存在を忘れていたんだ」
その瞬間、ホールの中に冷たい空気が出来上がる。さっきまで沈んでいた朝日奈も落ち着いた雰囲気でホワイトボードに色々と書き込んでいた草壁も思わずペンを落とす。
「ねえ、水崎、今日って何日?」
「2月9日です。(ガヴ基準)」
「ということは卒業まであと1か月を切っているな。急いで生徒会選挙をしないとだなー」
「会長、急に元気になりましたね」
氷室からの冷静なツッコミを受けると朝日奈は嬉しそうに「漸く仕事詰めの日々から解放されるからな」と返す。
「まあ、生徒会選挙と卒業式に関する準備は俺と炎堂、水崎が請け負うから、黒瀬のことは氷室に任せるぞ」
「涼風…いいの…?シズクたちも…」
「黒瀬と一番仲が良いのはなんやかんや希愛だからね」
「そうだな、俺たちが三年以上掛けて今の距離になれたのに氷室はこの短期間であれだけ仲良くなったんだ、あいつと仲直りするにはお前以上の適任者は居ねえな」
炎堂と水崎は「黒瀬のことを頼んだ」と頭を下げる。
「みんな……」
氷室は直ぐにはイエスとは言えなかった。クリスマス直後のあの日の出来事がまだ自分の中にトラウマとして残っていたからだ。自分に向けられたあの冷たい視線、冷酷にも放たれた斬撃、一切容赦のなかった戦い方、そのことを思い出していたことは三人にも感付かれていた。だがこの役目は氷室にしか任せられないというのは決して充て感というわけではなかった。
「希愛、これは、その、言うかどうかは迷っていたんだが、」
涼風が氷室のことを名前で呼ぶときは真剣なときや嘘ではない時だ。そのことは氷室も知っているし、氷室もよくそうしている。
「なに?いいよ、教えて」
「前に俺たち全員が会長に洗脳された日のことなんだが、」
ホワイトボードに草壁の隣で落書きをしていた朝日奈の背中が罪悪感に震える。
「あのとき会長は黒瀬を困惑させるためにお前を連れて戦いを挑んだらしい。結果は会長の惨敗に終わり会長はお前を置いて逃亡したそうだが、」
朝日奈は胸元を握りしめながらその場に蹲る。草壁は背中を摩りながら慰める。
「天使の報告によれば黒瀬は帰り際にお前にかかった洗脳をわざわざ解呪させた上に俺たちの居る付近に転移させてから何処かに移動したそうだ。これがどういう意味か分かるか?」
氷室は何か言いたげだが、自信が持てないのか中々言い出せずにいた。だが少し声を震わせながら氷室は「期待して、いいのかな?」と涼風に訊く。
「ああ、黒瀬はお前のことを本気で嫌いになったわけじゃない。まあ少なくとも洗脳を解呪するぐらいにはだが」
「あんたそれは言う必要はなくない?」
水崎に右わき腹を小突かれる。確かに今のは余計な一言だったが、氷室は特に気にしている様子は無かった。
「わたし、やるよ。必ず黒瀬くんと仲直りしてみせる」
「助けが必要ならいつでも力になるぜ!」
「あんたは事務作業をサボりたいだけでしょ?」
炎堂の発言に冷静なツッコミを入れる水崎に氷室は笑いながら「ありがとう」と礼を言う。二年ズのこれからの方針が固まったのを確認した三年ズは四人をホワイトボードの所に呼ぶ。
「それじゃあ私たちの今後の方針に付いて話すわよ。何か疑問点があれば直ぐに言ってね」
草壁は黒のマーカーペンを指差し棒代わりに使う。
「まず前提として、ここに書いてあることは黒瀬と和解していない状態だからね。まあ生徒会選挙もしつつ卒業式もしなきゃだから、それなりに忙しくはなるわね。だから私と煌成、そして氷室は黒瀬との件があるから邪神が出てもちょくちょく戦いに参加できなくなるかもしれないから、そこら辺は頼むわよ」
「「「はい」」」
氷室以外の三人が返事をする。次からは草壁に代わり朝日奈が説明を始める。
「それで最初に言った二つの行事が済んだ後のことだが、我々が優先すべきことはゾロアスターの撲滅。その為にも相手の所持している戦力を知ることが必要だ。なのでさっきまとめてみた」
朝日奈はホワイトボードを回転させる、そこには今まで戦ってきた邪神が写真に印刷されて張って合った。それも超強化後の者も張って合った。
「邪神は現状分かっている者で、モルペウス・テュール・イカロス・エリス・ファスティトカロン・グレンデル・ガルグイユ・ウォルトゥムヌス・ディオスクーロイ・ラクタヴィージャ・アレス・クトゥグア・シュド=メル・ハスター・ポダルゲー・ギガース・アテナ・ラドン、そしてフィアナ騎士団」
「この時点で騎士団を除けば奴らの保持する邪神の数は18体ですか、ディオスクーロイは双子ですけど、」
「そのうちグレンデルやギガース、ラドンは巨人だったり竜だったりとデカい奴だったりしますね」
涼風と氷室は冷静に分析したりと古参としての格を見せる。
「こうやって見ると俺らの知らない邪神が結構いるな」
「前半のほうは黒瀬と希愛が斃してきた奴なんだよね?」
「うん、だから最初の三体は私もデータでしか見たことないんだよね」
長台詞で疲れたのか朝日奈から草壁にマーカーペンをバトンタッチする。
「とりあえず今のゾロアスターの戦力はこんな感じ。そして分かっている範囲で超強化を施されているのはテュール、エリス、ファスティトカロン、グレンデル、ウォルトゥムヌスの5体。でももう全員、超強化は施されているでしょうね」
「その可能性はありますね。最後に戦ったフィアナ騎士団を斃してから数日は経っていますし、それ以前の邪神は確実に蘇っていると考えていいでしょう」
涼風は特に深くは考えず経過している日数から草壁の考察に同意した。
「私もそう思います。もしかしたら一度超強化を施された邪神はさらに強くなっているかもしれません」
「そうだとしたらかなり厄介ね、今の私たちの戦力で今後のゾロアスターに勝てるかどうか、」
氷室の考察に草壁は苦虫を噛み潰したような顔をする。すると水崎が当然の疑問を出す。
「そうなると、いったいどうすればいいんですか?」
「………覚醒之聖堂を創るしかないわね」
「「「「アローザル????」」」」
二年ズは首を傾げる。
「分かりやすく言えば、私たち仮面ライダーに超強化を施すことを可能にする神具よ。そして煌成が言うには黒瀬は覚醒之聖堂を見事に完成させ、永倉がそれを使って超強化に成功したそうよ」
「そ、そんなことができるんですね。てか黒瀬のやつ、そんな凄そうなアイテムも創っちゃうんですね」
「どうやって創ったのかは私も詳しくは知らないんだけど、煌成、あんた何か分からなかったの?」
「俺が現場に着いたときには既に5割ほどまで完成していたからどうやって作り始めたのかはよく知らないが、地面には見たことない魔法陣が敷かれていたな」
朝日奈は覚醒之聖堂に関する情報が足りない代わりに黒瀬に起きた変化を伝える。
「だが黒瀬の奴は相当な量の神力を消費したであろう直後すぐにゾロアスター幹部のヴリトラと交戦、結果は引き分け。そこから察するにあいつは保有する神力の量が増加したと俺は考えてる」
「分かっているのはそれだけですか、ま、仕方ないですね。今日は色々ありましたし、ここまでにしておきましょう」
☆ ☆ ☆
~ゾロアスター 本部~
「アフリマン様のご要望にお応えできず申し訳ありません」
「断られたか、まあそうであろうな」
「今後はどのように致しますか?」
「それはまた考えよう。しばらくはファフニール、お前に任せる」
アフリマンはそう言い残して奥のほうに消える。それを目視で確認したファフニールは策略家の名に恥じぬような奇妙な笑顔を浮かべていた。
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【仮面ライダールドラに関する現在公開可能な情報】
『猛毒之宝珠』
身長200cm 体重101kg パンチ力30t キック力50t ジャンプ力70m(ひとっ飛び)走力2.5秒(100m)
必殺技 猛毒ノ洗礼、猛毒ノ聖刃
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次回予告
策略家の異名を持つファフニールはゾロアスターの長であるアフリマンから一時的な指示役を任される。策略家でもあり異常者な一面も持つファフニールは特に意味もなしに一般の人間を巻き込んだとある遊戯を行う。
第23話:策略家ノ遊戯
仮面ライダーラグナロク第22話『光の狙いとその行く先』を読んで頂きありがとうございます。柊叶です。
今回だけにかぎった話ではないですし今後もあると考えられますが正直サブタイトルを考えるのにかなり苦戦しました。この話ではなにを一番に伝えたいんだろう、なにをメインにしたいんだろう、と考えに考え、行きついた答えがアラマズドのやりたかったこととその後の全員の行く先、2つとも入れてしまおうという答えに辿り着きました。もう一つ詳しいことを言ってしまえば朝日奈の狙いだけだと前半で終わってしまいサブタイトルとしては弱くなってしまうからです。(m´・ω・`)m ゴメン…
だから「その行く先」と追加しました。
そして次回はこれまでとはまた打って変わって当て字でのサブタイトルとなりました。はい、今回は苦戦せずにサブタイトルを考えられました。なので楽しみにして頂けたら嬉しいです。それではまた『策略家ノ遊戯』でお会いしましょう。
柊叶




