第十三話 『新たな力、それは破壊』
〜前回の仮面ライダーラグナロク〜
修学旅行にて神の力を受け継ぎ仮面ライダーへの変身を遂げた炎堂と水崎。黒瀬は最初は受け継がせないようにと必死に自分たちの正体を隠していたが、結局最後は二人に全てを任せた。そして四人の力を合わせて分身という厄介な能力を持つ邪神の撃破に至る。
「颯。そんなに無理をしたら体に毒だ。いい加減寝たら?」
夜遅く望月は涼風邸の庭に来ていた。
「望月さんこそ早く寝たらどうですか?」
涼風は縁側に置いてあるタオルを手に取り汗を拭く。
「颯が寝たら寝るよ」
「……はあ、分かりました寝ますよ」
「うんうん。一緒に寝てあげようか?」
「結構です。サッサと帰ってください」
☆ ☆ ☆
「颯が冷たい。いつもと言えばいつもなんだけど、いつも以上に冷たい」
今はイザナギに黒瀬たち四人、そして望月が居る。今日は土曜日で珍しく部活がなく望月が「せっかくだから二人にもイザナギを案内しておこう」と言うので氷室は黒瀬を家から連れ出して来て炎堂と水崎の二人を連れて来たのだ。
「炎堂と姐さんを連れて来て案内とかこつけて自分の相談に乗って欲しいんですか?」
「さすが黒瀬くん、そうなんだよ」
炎堂と水崎はそこらに置いてある資料などに目を通しながら氷室からイザナギとゾロアスターについて講義を受けていた。
「いやなんか、ここ最近颯は毎日夜遅くまで修行しているんだよね」
「そりゃあ自分よりも先についこの間まで一才関係の無かった二人がいきなり仮面ライダーになったらそうなるでしょうね」
「まあ、それは俺も思ったけど、でもあそこまではなるかなあ…」
☆ ☆ ☆
「てな訳で私たちは今こうやって仮面ライダーとなって闘っているの」
「なるほど…。でえこのレ、レガ、」
水崎に操力之指輪と教えられる。
「そう、それそれ。このレガリアリングを使えばその神力ってやつを扱えるんだな?」
「まあ無くても使えはするんだけど、あったほうが扱いはラクになるね」
二人は元々頭は悪くないのでかなり早いスピードで教え込むが然程問題は無い様子。
☆ ☆ ☆
「ねえ黒瀬くん。俺は一体どうしたら良いのかな?」
「俺にそんな事を聞かされても困りますよ。と言うか」
黒瀬は茶を一口飲み、
「涼風は力を受け継ぐのに何故こんなに時間が掛かるんですか?」
「あーそれはね。颯の受け継ぐ力はルドラと言って風の神様何だけど、」
望月は少し悩ましげな顔をしながら答える。
「颯はもう既に受け継げるだけの実力はあるはずなんだ。でも、どうやら今の当主が認めてくれないようなんだ」
黒瀬は「あーなるほど」と何かを察した様子。
「なんか氷室の時より面倒な感じですか?」
「まあ、そうかな。そうなのかも」
望月は少し考えるような素振りを取ってから話を続ける。
「……黒瀬くん。この事は言うか言わないか俺自身かなり悩んだ。でも、これから先一緒に闘っていくためにも、言っておかなきゃいけないことだと思う」
次に望月から発せられた事実に黒瀬は言葉を失った。
「…颯は、涼風家の人間ではないんだ」
「…それはつまり、炎堂や水崎とおなじ…」
「そう。颯は幼いときに涼風家の養子縁組を受けたんだ」
「それは、無理やりに?」
「俺の父さんから聞いた話なんだけどね」
望月曰く涼風の旧姓は風晴。三歳のときに実母の美琴とは疎遠になったのだと言う。
「だから余計に焦っているんですね」
「黒瀬くんは本当に察しがいいね。そう、颯はずっと自分の本当の母親に会いたいんだ。当主となれば家の出入りはおろか、全ては自分の意思で決めることが出来る」
「あいつが俺に戦う意志を訊いて来た理由が漸く分かりましたよ」
(本当ならイザナギとは一切関係なく生きていたはずなのに、ルドラの力を継げる存在だと分かっただけで命懸けの戦いに身を投じることになった)
「なんつーか、ただの嫌味ばかり言う奴だと思っていましたけど、相当苦労してたんですね。悪いことしたな」
「なにかあったのかい?」
「前に涼風からお前が戦う意味はなんだって訊かれたことがあるんですけど、俺はあのとき答えられなかったんです。俺はなんで戦っているのか、」
少々重々しい空気のなかに割って入る者が居た。
「お主が戦う理由を言えなかったのは、そもそも大した理由ではなかったからであろうよ」
「…どっから湧いてきた、ヴァルハラ」
「お主が居る所なら何処にでも行けるのだよ。場所も分かる」
「プライバシーの欠片も無えな」
黒瀬とヴァルハラのゴチャゴチャに望月は気にせず話し掛ける。
「ヴァルハラさんまだ人間態のままなんだ」
「ん?あーおそらくなんだがもう戻ることはないであろうな」
飛べはするぞ。などと冗談混じりなことも言う。
「あれ?木花先生なんで居るの?」
水崎が振り向くと早速ヴァルハラが目に入ったらしい。
「ヴァルハラ、お前から説明しろよな」
「は?いやいや黒瀬、お主が説明すべきであろう」
二人が揉め出すと氷室が代わりに説明を始める。
「木花先生の正体はヴァルハラって言う所謂式神みたいな存在なの。黒瀬くんにラグナロクの力を渡したのもヴァルハラさん。で、何故か分からないけど人間態になっちゃったから今は学園に教師として勤めて貰うことで授業中の出入りをやりやすくして貰ってるの」
「そんなことしてたのか」
「確かに時々二人が授業中に出ていくのを見たけどそう言うことだったんだ」
二人は納得している様子。そんな中、黒瀬と望月は話を再開する。
「涼風には今後どう関わっていけば良いんですか?」
「いつも通りでいい。変に気を遣うよりかは、その方が颯も落ち着くと思うし」
「確かにそうですね、分かりました」
☆ ☆ ☆
「やっぱり此処に居たんだ。黒瀬くん、少し良いかな?」
午後、黒瀬はイザナギのメインホールで本を読んでいるとドアが開き氷室が入って来た。
「ああ。構わないが。どうした?」
黒瀬は本を閉じて目の前に置く。氷室は隣に座る。
「二人は訓練中か?」
「うん。今は望月先輩が教えてる。私は少し休憩」
氷室は伸びをしてから用について話し始める。
「昼間は、涼風について話してたの?」
「…ああ、氷室は知ってたのか?」
「まあ一応。修学旅行のときにも言ったけど、颯とは幼稚園からの幼馴染である日私を迎えに来た氷室家の一人が颯を見かけたときに、」
「風の幻影が見えたわけか」
氷室は俯きながら続ける。
「そのことは直ぐに涼風家に伝わった。颯とは、そのときから知り合いになったの」
「氷室が涼風を時々名前呼びするのは、と言うより今は苗字呼びするのは、本人から頼まれたのか?」
「うん…。自分が涼風家の人間であることを自覚したいからって、小3の時に頼まれたの」
「先輩は名前呼びなのにな」
「あの人は、まあ自由人だし。颯本人も諦めた感じかな?」
氷室の顔に少し笑顔が戻る。
「氷室が高校生になってからフレイヤの修行に明け暮れたのは、涼風が理由なんだな」
「黒瀬くん、聞き飽きたと思うけど、本当に察しが良すぎない?」
「まあ、観察力は長けてるからな。自分を迎えに来た従者が涼風を見かけなければって、ずっと罪悪感を背負って来た、ってところか?」
「せーかい、さすが。でも、今の私は力不足。今のままじゃ、アフリマンはおろか、幹部の一人も斃せないよ」
氷室は机の下で拳を握りしめる。それを横目で見た黒瀬は左手を氷室の頭に乗せる。
「黒瀬くん?」
「俺が言えたことじゃないかもだが、あんまり一人で背負いこむなよな。俺も、先輩も、そして炎堂に姐さんも加わった。戦ってんのは、お前一人じゃない。心配せずにもっと頼ってくれ」
「……ありがとう、黒瀬くん」
氷室は黒瀬の胸に凭れる。そんな良い感じの空気にニヤケが止まらない男が一人、ドア越しに居た。…望月だ。
「青春だね〜〜」
☆ ☆ ☆
時刻は16時。仮面ライダーが増えたことで望月はある提案をした。
「氷室から聞いたと思うんだけど、ゾロアスターの狙いは黒瀬くんの所持するラグナロクの力だ。だから外に出るときは三人の内せめて一人は黒瀬くんと常に同行して欲しい」
「先輩、過保護すぎます。俺はそんなに弱くないですよ」
黒瀬は嫌そうな顔をする。
「それにヴァルハラも居ます。最悪のときはコイツを囮にしますよ」
隣に居るヴァルハラに「おい!」とツッコまれる。
「うーんそうだけどさあ」
望月が悩んでいると氷室がある提案をする。
「先輩。守るより、攻めたほうがいいんじゃないですか?」
「…と言うと?」
数瞬、沈黙が流れる。痺れを切らした黒瀬が割って入る。
「俺が囮になってゾロアスターから邪神を呼び出す。それを五人で斃せば良い。氷室が言いたいのはそう言うことだろ?」
「う、うん。や、やっぱりダメだよね。黒瀬くんを危険に晒すことに…」
「ダメなわけねえだろ。さっき言ったばかりだろ。頼れって」
黒瀬は続ける。
「そもそも俺がこの力を受け継いだのが始まりだ。とことん利用して貰っても文句はねえよ。先輩、良いですか?」
「うーーん、いい……よ!分かった。氷室の意見も尤もだ。守るより、攻めよう。今から邪神が居るかどうかの捜索を始めよう、と思ったけど二人は二輪の免許持ってる?」
炎堂も水崎も首を横に振る。
「ヨシッ。じゃあ二人乗りだ。確か黒瀬くんも氷室も二輪免許持って一年以上経ってるよね?」
二人は縦に頷く。
「じゃあ問題なし。はい捜索開始」
☆ ☆ ☆
炎堂は黒瀬の不落ノ八咫烏に水崎は氷室の冰上ノ獣牙に乗る。
「じゃあ俺たちは西に回る。氷室たちは東を頼む」
「うん。任せて」
黒瀬がバイクを走らせているの炎堂が後ろから声を掛ける。
「なあ黒瀬。お前なんか変わったよな」
「なにがだ?」
「前はあんな思い切って無言の空気を切り裂くように自分から発言なんかしなかっただろ?」
「……お前らの前でだけだ。日頃はしない」
「はは、そっか。それはそれで嬉しいぞ」
しばらくバイクを走らせる。すると黒瀬は何かを察知し、バイクを停める。
「うおっ!?どうした黒瀬!?」
「いる。近くに」
黒瀬がダーインスレイヴを取り出すと炎堂もヤールングローヴィを取り出し着ける。
「………炎堂!伏せろ!」
「うぇ?危なっ!!」
炎堂は黒瀬から放たれる剣先をなんとか下に避ける。
「ぐあっ!」
剣先で突を喰らった邪神は数歩後ろに下がる。
「黒瀬、今の殺す気で来た?」
「邪神に殺されるのと俺に殺されるのどっちがマシだ?」
「……水崎で」
「そうか。…あれは、アレスか?」
アレスと呼ばれた邪神は右手に剣、左手に盾を持っていた。
「なんの神様だ?」
「戦争の神だ。手強いだろうな」
黒瀬がドライバーを装着したのを見て炎堂も装着する。
“ラグナロク、ローディング。アドラヌス、ローディング”
「「変身」」
“仮面ライダーラグナロク・アドラヌス”
「炎堂、持久戦になる可能性が高いから体力考えて動けよ」
「おう!任せとけ!」
ラグナロクの振るう剣をアレスは同じ剣で受け止め、アドラヌスの籠手を盾で受け止める。そう言った攻防戦がラグナロクの予想通り長く続く。
☆ ☆ ☆
「ねえ希愛。希愛は黒瀬のこと好きなの?」
「うぇ!?なななななに急に!?」
氷室は思わずバイクを急停止する。
「黒瀬とホールで二人きりのときにハグしてたでしょ?」
氷室はあの時のことを思い出す。
「はははハグじゃないよ!ただ、その、あれは違うから!!」
「ふーん。まあ良いけどさ。でも、私のことも頼ってよね?心友なんだから」
「もしかして、嫉妬してるの?」
水崎は少し頬を赤く染めながら顔を逸らす。
「そりゃあ、まあ、」
「ありがとう、嬉しいよ。でもシズク。私が黒瀬くんに抱いてる感情は尊敬であって好意じゃないからね。シズク最近そればっかりだよ?」
「だって気になっちゃうからさぁ」
たわいもない話をしている最中、氷室はラグナロクの神力を感じ取る。
「シズク、しっかり捕まっててね」
「う、うん。もしかして、」
「黒瀬くんたちはもう戦ってる。急ぐよ!」
氷室はブロードで一気に学園まで飛び、そこから現場に向かう。
☆ ☆ ☆
「な、なあ黒瀬」
「あ?なんだ?」
「こいつ、強すぎない?」
アドラヌスはラグナロクの隣で仰向けに倒れていた。
「まあ、確かに軍神のテュールのがマシなぐらいには強いな」
「やっぱりか。デビューして二戦目の相手でこれってキツくない?」
「なんだ炎堂。弱音か?」
ラグナロクの煽りにアドラヌスはイナバウアーの体勢から跳ね起きる。
「弱音?冗談言うなよ。盾を突破出来ねえなら、ぶち壊すか盾を無視して身体に拳をぶつける以外に選択肢なんて無いんだよ」
(単純で助かるなあ)
「なら俺はお前を援護しよう。お前は盾だけ見ておけ。剣は俺が止める」
「おう!」
アドラヌスがアレスに飛び掛かるのを見てからラグナロクは脚に神力を集中させて高速移動とともに剣を受け止めた勢いに乗り地面に押し付ける。
「むっ!」
「力比べってやつだ…」
アドラヌスはアレスがラグナロクに意識を向けた数瞬間を見逃さず拳を腹部にぶつける。
「おりゃあああ!」
アレスは十数メートル軽く吹っ飛ぶ。
「ぃぃぃ〜〜痛えええ〜〜!!硬ってえ〜〜。籠手越しなのに痛い!!」
「だろうな。俺もさっきから剣越しに痺れが走る」
(テュール越えの鋼鉄さ。おそらく盾よりも硬い肉体。ヘルメースの光速移動による一箇所集中の攻撃も無意味に等しいな)
「くそ、どうすれば、」
ラグナロクは悩みに悩む。だがそれを相手が待つはずもなく襲いかかって来る。
「くっ!」
突かれる剣先を受け止める。腕に走る痺れに耐えながらラグナロクは防戦に挑む。
(考えても無駄だ。とりあえず今は炎堂と一緒に氷室と姐さんが来るのを待つ)
横からアドラヌスが割って入る。
「俺も忘れんなよなあ!」
二人が奮闘していると、後ろから氷室たちの声が聞こえる。
「来たか、」
氷室がバイクを停めると水崎は飛び降りてラグナロクとアドラヌスに駆け寄る。
「二人とも大丈夫!」
「なんとかな。気を付けろよ水崎、相手は、。黒瀬何だっけ?」
「アレス。戦の神だ。氷室は当然分かるよな?」
「うん。もしかして、かなり硬い?」
「アドラヌスの籠手でも破壊出来なかった。まあ経験の少なさもあるだろうがな」
あらかたの説明をラグナロクから受けた二人はドライバーを装着する。
“フレイヤ、ローディング。ナーイアス、ローディング”
「「変身」」
“仮面ライダーフレイヤ・ナーイアス”
「私とシズクで相手取るから二人は援護をお願い」
二人は立ち上がる。
「「りょーかい」」
「炎堂、さっきと同じように隙を見つけたら直ぐに拳を打ち込め」
「あい分かった」
フレイヤとナーイアスはアレスとの距離を縮めて近接格闘に挑む。その姿を見たアドラヌスは奮起し、ラグナロクの指示通りアレスの攻撃を躱したり捌いたりしながら隙を探す。
ナーイアスは弓状武器のシャランガで中距離からの射撃や、鋭利な弓幹の部分による剣撃を行う。フレイヤは変わらず剣、レーヴァテインによる近接剣撃を行う。ナーイアスとアドラヌスによる協力プレイは完璧だ。ナーイアスの作り出すアレスの隙をアドラヌスは
決して見逃さない。少しずつではあるが着実にアレスにダメージを与えている。
「はあはあはあ…」
ナーイアスはシャランガを片手に膝を着く。アドラヌスは籠手が右手が外れるほどに身体から力が抜けてその場に倒れていた。フレイヤもラグナロクもお互いなんとか剣を杖がわりにして体勢を維持している状態だった。
「なんだ、こんなものか」
アレスは剣を盾に納刀する。
「もう誰一人動けないようだな」
アレスはそのままラグナロクに歩み寄って行く。やがてラグナロクの前で片膝を着き、空いている右手でラグナロクの頭を掴み上げる。
「お前の力はこんなものか?」
「…っ」
ラグナロクは剣を振るうが左手にある盾で簡単に防がれる。
「そこまで抗うか。実に醜い」
アレスは右拳を振るいラグナロクを十数メートル先に吹っ飛ばす。
「ぐあっ!」
「「「黒瀬!」」」
アレスは他三人に目を向けずラグナロクのもとに近づきまた殴り飛ばす。
ラグナロクは飛ばされた先で仰向けになり、天を仰ぐ。神力の制御や攻撃手段への各方面へ思考回路を回したこともあり、身体に力を入れる気力も無かった。
「くろせ、くん、」
フレイヤはアポロンフォームに変身し、弓:アルテミスで氷の矢を放つ。だがアレスは足の動きを止めない。全員がラグナロク自身も諦めたその時、突然アレスの動きが止まる。いや止められた。それを見てラグナロクは呟く。
「遅いですよ。先輩」
「すまないね。少々生徒会の仕事が立て込んでいて、」
望月はインドラの姿で現場に到着した。
「あいつは、えっと、あれだよね、うん、おっけー」
「アレス、戦の神です。これもう何回目だ、」
文句を垂れながらもラグナロクは立ち上がる。
「お、一緒に戦ってくれるのかい?」
「スピード属性は決定打に欠けるでしょう?」
「痛いところ突いてくるね。でもその通りだ、頼むよ」
インドラは辺りを駆け回りラグナロクは悠然と歩きアレスに近づいて行く。さすがのアレスもその速さを眼では確認出来なかったのか、インドラは見事にアレスの左手から盾を弾き飛ばした。ラグナロクは今だと言わんばかりに剣に神力を込め、振り下ろす。誰もが一太刀入ったと思っただろう。だがアレスは焦る様子を見せない。そう、ラグナロクは自分で言ったことを忘れていた。
(テュール越えの鋼鉄さ。おそらく盾よりも硬い肉体。ヘルメースの光速移動による一箇所集中の攻撃も無意味に等しいな)
「盾さえ突破出来ない貴様らの攻撃が、我に通ると思ったか?」
「誤算…」
アレスの重い右拳を喰らい壁に打ち付けられラグナロクは変身が解ける。
「黒瀬くん!」
フレイヤは立つのもやっとな身体に鞭を打ち黒瀬に駆け寄る。アドラヌスとナーイアスは黒瀬の現状を見て奮起する。
「行くよ、二人とも」
「「はい」」
インドラの指示に二人は武器を構え直しアレスに再び立ち向かう。その間にフレイヤは黒瀬の治療を行う。黒瀬の身体に手を翳し冰の粒を降らし治療を行う。少しすると黒瀬の意識が戻る。
「黒瀬くん大丈夫!?」
「なんとか、」
黒瀬は立ち上がり再度変身しようとする。
「ダメだよ!そんな意識がハッキリしてないのに!」
フレイヤの静止を無視し黒瀬は変身を強行するが、神力の操作が上手く出来ずパソコンがショートしたかのように電気が流れドライバーも地面に落ち、黒瀬もその場に足から崩れる。
「クソッ…」
「黒瀬くんは此処で休んでて」
フレイヤはアルテミスを構えて三人のもとに向かう。それを黒瀬は唇を噛み、見て分かるほどに悔しがっていた。
「俺に…もっと力があれば…」
(俺が使えるのはこのラグナロクのみ、かと言って氷室や先輩のチャームを借りたとしても勝てる相手じゃ…)
そのとき黒瀬はある事を思い出した。それは前に氷室を氷室邸に送り届けた日のことだった。そう、あの日の帰り際に氷室家前当主、氷室千鶴から手渡された未完成の宝珠の存在を思い出した。
黒瀬はそのチャームを転移之渦を通して自分の部屋の机から取り出す。
「使えるのか?俺に…」
あの日の千鶴の言葉が脳裏をよぎる。
《私は貴方と会って本能で感じ取りました。貴方なら、このチャームを使えるはずだと》
「…せっかくだ、やってやる。変身」
“仮面ライダーラグナロク”
黒瀬は変身し、未完成の宝珠をドライバーに装填する。当然ながら反応は何もない。だがそんな事には目もくれず苦戦する四人の間を駆け抜けてアレスに殴りかかる。四人は感情的になる黒瀬を初めて見た。
「そんな遮二無二な攻撃が通じるとでも思っているのか?」
ラグナロクは何も答えずただただ殴るのみ。
(壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す…)
彼は、ラグナロクの頭にはその事しかなかった。アレスの装甲の如く強硬な身体を突破し、斃すことしか考えていなかった。
「無駄だ。お前の力では我の肉体にダメージを与えるなど…」
ラグナロクの右拳にあった白銀色の神力が水色に変わりアレスの左頬に直撃した瞬間ヒビが入る。四人のみならずアレス本人も言葉を失っていた。
「なに…?」
「はあはあはあ…」
右拳にのみ集中していた水色の神力が全身を包み込むと、そのままドライバーに装填していた未完成の宝珠に流れ込むと神力が弾け飛び宝珠が完成すると変身が解ける。黒瀬はそれを取り外す。
「これが、俺の新しい力…」
新たに手にした破壊之宝珠を起動して装填する。
“デストロイ、ローディング”
「…変…身」
“Is a bright future ahead of this destruction...or...?(破壊の先に広がるのは明るい未来か…それとも…)
“仮面ライダーラグナロク WITH Destroy”
フレイヤの声色は輝いていた。
「黒瀬くん…すごい…」
アレスは一旦は驚き言葉を失ったものの次に発せられた言葉には喜びが含まれていた。
「その力、ぜひ味わせて貰おう」
アレスはどこか楽しそうにラグナロクに歩み寄って行く。右手からは神力の光弾を放つ。ラグナロクは避けることもせず悠然と歩く。光弾は当たるがそれに怯むこともなく進む。
「やはり、その力は、」
アレスは一気に距離を詰めて斬り掛かる。ラグナロクは左手で受け止めアレスをその場に留め何度も右拳で殴る。そのパワーとディフェンス力は圧倒的で振るった剣がラグナロクの肩に当たった瞬間に折れた。
「なに!?」
一瞬目を逸らしたアレスの腹部に拳を叩き込み吹っ飛ばす。腹部にはヒビが入る。
「これで終わりだ」
チャームを一回起動する。
“葬送ノ刻”
チャームを回す。
“破壊ノ滅波”
高速で距離を詰め、水色の神力を集中させた右拳を放つ。アレスは左手に持つ盾で防ぐ、が結果は必然。ラグナロクの拳は盾をも粉砕し、アレスの身体を貫く。
「テメェの身体の装甲をも壊すこの拳を、そんな盾如きで防げると思ったのか?」
その言葉は先ほどラグナロクが剣を振るった時の仕返しとでも言わんばかりだった。
「ふっ…ふはははは…」
アレスは爆散する。その後ラグナロクは変身を解除すると同時に後ろから倒れそうになる。それをいち早く氷室が駆けつけて支える。炎堂、水崎、望月も直ぐに駆けつける。
「すごかったなあ黒瀬。すげえパワーだったぞ!」
「そんな事言ってる時じゃないけど本当にすごかった!」
炎堂と水崎はいち早くに黒瀬を褒めちぎる。氷室は治療を最優先に望月はブロードを展開しながらiPadにデータを纏めている。
「もう、寝る…」
黒瀬は気を失う。四人は一気に焦り出し、急いで黒瀬をイザナギに運ぶ。
☆ ☆ ☆
「……ん、ここは?」
「目、覚めたのか?」
ひょいと上から炎堂が覗く。黒瀬は驚き顔面を殴る。
「痛えええええ!」
炎堂は床で転げ回る。水崎はソレを素通りし黒瀬に水を持ってくる。
「飲ませてあげようか?」
「なんか怖いから自分で飲む」
黒瀬はコップを受け取り一口水を飲む。
「あの後は、てか氷室は?」
「希愛はなんかお母さんに会ってくるって黒瀬を此処に運んだら出て行ったけど?」
「そうか、」
(何もなければ良いが…)
☆ ☆ ☆
「お母さん!あれは一体何なんですか!」
氷室は自分の家に帰ると直ぐに千鶴の居る座敷に向かった。
「何ですか急に騒々しい。話があるのなら一旦落ち着いて順当に話しなさい」
千鶴は上座を氷室に譲る。氷室は譲られた座布団に正座し、起きた出来事を話す。
「黒瀬くんが持っていたあの未完成のチャームは、お母さんが渡したんですよね?」
「何故そう思うのですか?」
千鶴は特に焦ったりする様子は見せず茶を啜る。
「あのブランク体のチャーム、私昔見たことがあります」
「…覚えていましたか」
半分ほど残った湯呑みを置き、氷室と顔を合わせる。
「なぜ私ではなく黒瀬くんに渡したのですか?」
「貴女には使えない、そして彼になら扱えると判断したからです。事実、彼には扱えたのでしょう?」
「…それは、そうですけど。あの力は本当に安全なモノなんですか?顕現したのは神様の力ではありませんでした」
「それは私にも分かりません。ですが、彼は我々の味方、それだけは変わらないでしょう」
「……っ。そう、ですか」
氷室はまだ何か言いたげな表情をしながら座敷を出る。
「……」
(まさか本当に新たな力を自ら手に入れるとは、この先、いったいどうなることか…)
千鶴は左に見える庭園を見つめながら残りの茶を飲み干す。
☆ ☆ ☆
氷室は転移之渦でイザナギに戻る。
「お、希愛おかえり〜」
水崎は氷室に真正面から抱き着く。氷室は一瞬驚き動きが止まるが直ぐに抱きしめ返す。
「ただいま〜。黒瀬くん、目覚めたの?」
氷室はヒョコっと顔を水崎の背中から覗かせる。
「ああ、心配かけたな。もう大丈夫だ」
黒瀬は簡易ベッドから降りて氷室のもとへ今回誕生したデストロイチャームを持ちながら近づく。
「千鶴さんに会いに行ってたのか?」
「う、うん。やっぱりそれ、お母さんから貰ったんだ」
「ああ、あの人のおかげで勝てた。あとでお礼を言っといて貰えるか?」
「…うん。わかった」
☆ ☆ ☆
四人は帰る用意をし、校門前まで来た。
「ああーー今日はマジで疲れたな」
「仮面ライダーになってまだ二回目だけどね…。二人はこんな戦いをもう何度もしてるんでしょ?」
「まあ、でも今回だけじゃないけど私は本当に黒瀬くんに助けられてばかりだよ」
「そう自分を卑下するな。なにも俺一人の力だけで勝ててる訳じゃない」
黒瀬は三人から少し顔を逸らし小声で、
「…お前らがいるから、」
黒瀬は途中で正気になり、横目で三人のほうをチラリと見る。すると三人がキラキラとした目で黒瀬のほうを見ている。
「黒瀬、その続きは何だ?」
「さっさと吐いて楽になりなよ、くーろーせ?」
「黒瀬くん…?」
嬉しそうな炎堂、吐かせてでも聞きたい指をポキポキする水崎、拝みながら強請る氷室。
「……ぜってー言わねー」
走って家に帰る黒瀬。
「あ、待てー炎堂逃すな」
「おう!」
炎堂は本気で走り黒瀬を追いかける。
「あれ?希愛は追いかけないの…って、」
氷室はバイクを転移之渦から取り出していた。
「マジで追いかける気じゃん」
「そりゃあ珍しい黒瀬くんのデレだもん。聞き逃さない訳にはいかないよ」
「それはそう!」
水崎は後ろに乗り、氷室はバイクを走らせる。
結果、爆速の炎堂に追いかけられ氷室と水崎の乗るバイクにまでも追いかけれられる混沌な絵面が完成した。
ーーーーーーーーーー
次回予告
新たな戦力を手にしたイザナギ。そんな中イザナギはフレイヤ、アドラヌス、ナーイアス、インドラの戦力増強に挑む。その力の名は
ウル:弓矢を持つ冬の神様 トール:アース神族の中で最も力強い神。雷や嵐を司り、巨人族との戦いを司る戦士の守護神 アグニ:人間と神の媒介者で、太陽・稲妻などになって、暗黒と邪悪を滅ぼす トリトン:海を司る神として、嵐を鎮めたり、海をコントロールしたりする力を持つ
第十四話:凍てつく吹雪,降る雷光,燃え盛る獄炎,荒れ狂う波浪
仮面ライダーラグナロク第十三話『新たな力、それは破壊』を読んで頂きありがとうございます。柊叶です。長い話数を掛けて遂に主人公である黒瀬廻こと仮面ライダーラグナロクに専用フォーム(もはや中間フォーム)を与えることができました。(感無量)
そして次回はサブタイトルからも察せられると思いますが、2号ライダーたちも各々さらに強化されていくかもしれません。楽しみにしていただけたら嬉しいです。それではまた次回第十四話『凍てつく吹雪,降る雷光,燃え盛る獄炎,荒れ狂う波浪』でお会いしましょう。
柊叶