表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第十話 『強行突破で万事解決』

〜前回の仮面ライダーラグナロクは〜

 生徒会役員として月に一度の目安箱の開封作業をしていた黒瀬たち。するとその中に同級生である長澤美咲からの依頼があった。その内容は一人の男を巡った女性陣による醜い争いだった。

「え、黒瀬も手伝ってくれるの!?」

 教室一帯に水崎の驚きの声が響き渡る。

「あくまでも補助でな。桜沢と直接的に関わることがあるのなら、そこは姐さんに任せる」

 見届けるつもりが、昨夜の氷室との交換条件で本格的に関わることになった黒瀬。

「私が交換条件を持ち込んだら引き受けてくれたんだ」

「へえーー、どんな条件なの?」

 急に眼光が鋭くなる水崎。さながら愛娘が彼氏を連れて来たが如く。

「……今度、亀十のどら焼きをご馳走するって言われた」

「買収されてんじゃん。そんな美味いの?亀十のどら焼きは」

「どら焼きの御三家の内の一つだ。俺はまだ、御三家の一つにも手を出していない」

 日頃は神社の仕事で忙しいこともあり、なかなか出掛けない黒瀬。

「なるほど。そりゃあ買収もされるわ。ま、いいけど。人手が増えるのはありがたいし」

「で、姐さんや炎堂は何か思いついたのか?」

「うーん、それがさ、何にも思いつかないの」

「そもそも桜沢由香が本当に雄一のことが好きなのかも分からないな」

 水崎も炎堂もお手上げと言った感じだった。

「ねえ黒瀬、どうしたら良いかな?」

「……まず、前提として何を調べる必要があると思う?」

 水崎は考える素振りを取り、

「桜沢さんが久保田雄一のことが本当に好きなのか、もし好きなら、久保田雄一と長澤美咲の間には何も無いことを証明してあげる必要が…」

 水崎が言い終える前に黒瀬が遮る。

「そこが問題だ」

 三人とも黒瀬に視線を送る。

「「「どう言うこと(だ)?」

「姐さんのなかにある今回の件の解決に必要なピース、それは長澤美咲が久保田雄一のことを何とも思っていないと言うこと」

「長澤が、実は雄一のことを好きだって言うのか?」

 炎堂は問う。

「俺の直感だけどな」

 黒瀬は話を続ける。

「仮に長澤美咲が久保田雄一のことを好きだった場合、この件はそう簡単には解決出来なくなる」

「なるほど。確かにそれは盲点だった」

 水崎は悔しがる様子を見せたが、直ぐに仕切り直す。

「黒瀬の言うとおりだった場合、解決に必要なのは、」

 頭を抱える水崎に炎堂が一つ提案する。

「もう雄一に決めさせれば良いんじゃないか?」

 三人が黙り込む。

「え?ダメか?」

「それはダメだな。まず今俺が言ったことは、あくまでも想像にすぎない。まずは長澤美咲本人に本当に久保田雄一のことを何とも想っていないことを確認してする必要がある。姐さん…。頼めるか?」

「ええ、任せて」

   ☆ ☆ ☆

〜昼休み 廊下〜

 水崎は炎堂を連れて黒瀬がよく使う空き教室に向かった。そして、黒瀬と氷室は廊下で話をしていた。

「黒瀬くん、ありがとうね」

「? 何がだ?」

「黒瀬くんがさっきのことを指摘してくれなかったら、私たちは長澤さんのことを悲しませてた」

 黒瀬は廊下の窓を開けて両腕を縁に乗せて顔を出す。

「別に。まだ、あくまでも俺の想像だ」

 氷室は黒瀬の隣に立ち壁にもたれる。

「だとしてもだよ。私たちは黒瀬くんに支えられてる」

 氷室は床を見つめながら言う。黒瀬はその言葉に氷室のほうに振り向く。

「そんなこと言ったら、俺だってそうだ」

「え?」

 氷室は顔を上げ黒瀬の顔を見る。黒瀬もまた氷室の顔を見る。

「俺はこうやって、お前たちのサポートしかしてやれない。そもそも助けようと表立って出れないんだ。その点は、お前らに支えられてる。お前たちが居るから、助けることが出きるんだ」

「黒瀬くんは陰の立役者ってことか」

「って言うよりかは、俺が脚本家で、お前らがその物語を演じる俳優って感じかな?」

「ははは、黒瀬くんの表現って的確だよねえ。シズクと炎堂くん、大丈夫かな?」

「平気だろ。あの二人は、名俳優だからな」

〜空き教室〜

「長澤さん、素直に答えて欲しいの。あなたは、久保田雄一のことは本当に何とも想っていないの?」

「…っ、一体、誰がそんな事を?」

 長澤は顔が曇る、と言うより少しばかり諦めた顔をした。

「黒瀬よ。あいつ観察力が強いから、多分見抜いたんだと思うの」

「……私、好きなんです、雄一のことが。小学生の頃、必死にアプローチしてたのに。幼馴染って、こういう時、足枷になるんですよね」

 長澤は涙ぐみながら話を続ける。

「私の必死なアプローチ、ぜんぶ、伝わんなかったんです、」

 水崎は席を立ち、長澤の左隣に立ち右肩に手を回す。

「中学では、離ればなれになっちゃうし、玉帝で再会出来たと思ったら、雄一すごい人気者になってるし。彼女にはなれなくても良いって決めたんです。だからせめて、雄一が彼女を作るまでで良いから隣に居たかった」

「そう思っていたら、今回の件が起きたってことか」

「わたしがいけないんです…。こんなにも彼のことを引きずらずに、中学のときに、諦めていれば…」

 空き教室の中で、長澤の嘆き悲しむ声が静かに響く。その様子を黒瀬と氷室はドア越しに感じ取っていた。

「黒瀬くん。どうしたらいいのかな、」

 黒瀬は氷室が彼女のことを本気で助けたいという気持ちを感じ取る。黒瀬は少し考える素振りを取り、自分の考えを言う。

「時代がいくら変わろうとも、男女という区別は無くならない」

 右手の親指を、黒瀬は自分の胸に指差す。

「女性の中の芯にある性根は、いくら時代が進もうともそう簡単には変わらない。いつか相手を恨むようになり、相手女性を呪う。そうなってしまうぐらいなら潔く散った方が良いだろうな」

「……つまり、久保田くんに告白して来いってこと?」

「まあそう言うことだ。未練を断ち切るには、自分から終わらせに行かなきゃなんだよ」

「なるほど、それは確かにそうだね」

 氷室はノックをしてから教室の中に入る。

「……少しばかり、時代錯誤な考えだったかな」

「そうじゃろうなあ」

「どっから湧き出たヴァルハラ」

   ☆ ☆ ☆

 氷室が入ってきたことに三人は少し驚いていた。

「希愛?どうしたの?」

 氷室は先ほどまで水崎が座っていた、長澤の前の席に座る。

「長澤さん。長澤さんは、一度でも久保田くんに告白をしたことはある?」

「え?」

 長澤は驚き顔を上げる。

「ない、です」

「そっか。あ、二人とも私と長澤さんだけにしてくれるかな?」

 氷室は両手を合わせて「お願い」と言った視線を二人に送る。

「分かった」

「ああ」

 二人は教室を出ると直ぐそこにいた黒瀬を見つける。

「黒瀬、希愛に何を吹き込んだの?」

「さすがの俺でも氷室の発言にはビビったぞ!?」

 二人から一気に詰め寄られる。だがそれは黒瀬も予想はしていた。

「落ち着けよ二人とも。なにも言って来いと強制した訳じゃない。氷室は自分の意思で行ったんだよ。それに二人も分かるだろ?氷室は他人を悲しませたりする奴じゃないって」

 黒瀬の言葉に二人は引き下がる。

「それは、そうだけど。でもやっぱ希愛だけじゃ心配よ」

「俺もだ。氷室に二人っきりにしてくれと頼まれたから出てきたが、」

 黒瀬は違うだろ?とでも言うように右手の人差し指を左右に振る。

「氷室には言っていないが、二人にはして欲しいことがあるんだよ」

「「???」」

   ☆ ☆ ☆

「ねえ、長澤さん。簡単には答えられない事だとは、私もよく分かってる。私と長澤さんはそもそも付き合いなんて無いし、シズクや炎堂くんと違って信頼なんてものは感じないと思う」

 申し訳なさそうに氷室は言う。

「…わたし、雄一に、告白したことは無いんです」

 氷室は頷くか、「うん」などの合いの手のみを挟み話を聞く。

「付き合いたいとか、ずっと一緒に居たいとか思っていながら、もし振られて、彼との今の関係が続けられなくなったらと思うと、怖かった、」

「そうだよね。分かるよ。私も最近、そう思うことがあったから」

「え?」

「私、此処に転入して来てからずっと黒瀬くんに助けられてるんだよね。学校生活も、部活動でも、なんだったら休日とかも。彼が居なければ私は、炎堂くんやシズクとも友達にはなれていなかったと思う」

 長澤の手を取る。

「今こうして長澤さんの本音を聞いて、力になることも出来なかったと思う。だから怖いんだ、私は黒瀬くんに何も返せていないから」

 長澤は氷室の手から温かみを感じ、涙を流す。

「長澤さん。貴女は本当は、どうしたいの?伝えたいと思っていることは、思ったときに言わなきゃいつか必ず後悔するよ」

「……わたし、雄一の隣に居たいです」

「うん。分かった。私たちに任せてね」

 氷室は「此処で待っててね」と言い残し教室を出ると、黒瀬はスマホを片手に待っていた。

「本心を聞き出すためとはいえ、あんな恥ずかしい冗談を言う必要はあったのか?」

 黒瀬はドア越しに聴いていて少し恥ずかしかった様子。

「え?冗談じゃないけど?」

 氷室は黒瀬に近づき右手を黒瀬の胸元に添える。

「全部本心だよ。いつもありがとうね、黒瀬くん」

「……はあ、余計に恥ずかしいよ」

「あー、黒瀬くんの赤面。レアだー。写真撮るから手、退けてよ」

「誰が撮らせるか。ほら行くぞ」

「え?何処に何処に?」

「体育館。もう解決はしてるだろうしな」

   ☆ ☆ ☆

「黒瀬くん。なんで体育館に?」

「まあとりあえず覗いてみろ」

 黒瀬に言われた通り窓越しに中を覗く。

「えっと、シズクと、だれ?」

「あれが桜沢由香だ」

「なんでシズクが桜沢さんと一緒に?」

「俺が頼んだんだよ。正直言って今回の件は穏便には片付かない。だから強行策に出たんだ」

「黒瀬くんが言うととんでもない気がするのは何故?」

   ☆ ☆ ☆

「私に用ってなに?」

「ごめんね急に。実は訊きたいことがあってさー」

 水崎は両手を合わせながら謝る。

(本当にこんなので良いの、黒瀬〜)

 〜5分ほど前。氷室と長澤の相手をバトンタッチした時〜

「氷室には言っていないが、二人にはして欲しいことがあるんだよ」

「「???」」

「二人にはそれぞれ桜沢由香と久保田雄一のもとに行って欲しい。そして姐さんには、もし長澤が久保田のことを好きで付き合いたいと思っていた場合には、桜沢に対して自分は久保田雄一のことが好きだから諦めて欲しいと頼んでくれ」

「……は?はあアアァァァ⁉︎」

 水崎を無視して炎堂に視線を移す。

「そして炎堂。お前には久保田の所に行って長澤のことをどう思っているのか訊き出せ。そして万が一にでも気があるようなら、」

「あるなら?」

「お前が実は長澤のことを好きだと挑発しろ」

「……は?はあアアァァァ⁉︎」

 水崎に続き炎堂も混乱。

「二人の言いたいことも文句も全て理解出来る。でももうコレしかない。だから、頼む」

 黒瀬が頭を下げると二人は覚悟を決めたような顔つきに変わる。

「……アンタに頭を下げられる日が来るとはねえ。分かったわ。少しばかり前の奢りレモンパイと菫さん手作りレモンパイのお礼に一肌脱ぐわよ」

「昨日の古文授業のお礼に俺もやってやんよ」

   ☆ ☆ ☆

(とかなんとか意気込んじゃったけど〜。性根が素直な私にはキツイ〜‼︎)

「で、なんなの?出来れば手早く済ませて欲しいんだけど?」

 しかしそれでも水崎は一度約束すれば必ずやり抜く。

(水の低きに就くごとし。意味:状況に合わせて柔軟に対応していくことを意味し、物事を柔軟に対応していくように促す言葉)

「分かった。じゃあ単刀直入に訊くね。桜沢さんって、久保田雄一のことが、好きだったりする?」

「…もしかして、アンタもなの?」

「まあ、そうなんだよね、」

 桜沢はため息を吐きながら縦横斜めにと回り歩きながら文句を項垂うなだれる。

「そんなんだー、意外だった。そうだって知ってたら早々に諦めてたのに」

 桜沢は「じゃ、頑張ってねー」とだけ言い残し体育館を出て行く。

「……はあーーー緊っ張したっ‼︎」

 黒瀬と氷室はタイミングを見て体育館に入る。

「姐さんお疲れ様。じゃあ次は炎堂の所に行くぞ。今はベンチ席に居るみたいだ」

「私が成功したのは良いけど、本当に炎堂で平気なの?黒瀬のが良かったんじゃない?」

「まあ、そこはしょうがない。俺は久保田とは面識がない。炎堂しかいないんだ」

(今は各々が出来ることをやるしかない。)

「各々が、出来ることを…」

 黒瀬はそう独り言を呟きながら急に止まるので並んで後をついて行っていた氷室と水崎は黒瀬の背中にぶつかる。

「「いたっ⁉︎」」

「ちょっと黒瀬急に止まんないでよ…」

「黒瀬くん?」

 氷室は黒瀬の顔を覗くと、黒瀬は何やら閃いたような顔をしていた。そして氷室たちに見られていることに気づく。

「ん?ああ急ごう」

   ☆ ☆ ☆

 三人は野球場のベンチ席が見える所に隠れる。

「ちょうど炎堂が久保田を呼んだ感じか?」

 炎堂は日避けの屋根などがある、野球部員達のベンチ席に座っていた。

「そのタイミングになるように連絡しといたからな」

 黒瀬は自分たちが着くタイミングを考えて時間の指定までしていた。

「黒瀬、あんた私が長引いてたらどうする気だったの?」

「炎堂にはずっとそこらに居て貰うつもりだったよ」

 水崎が黒瀬に説教をしようとすると、氷室が、

「見て。始まりそうだよ」

   ☆ ☆ ☆

「武尊!わるい、待ったか?」

 野球のユニホームを着た好青年が炎堂の座るベンチに走って来た。

「いや、待ってねえよ。むしろわるいなぁ練習中に」

「気にすんなよ。ちょうど休憩時間になったところだから問題ねえよ」

「そっか、良かった」

 二人の間には穏やかな空気が溢れていた。

「それで、さっきは後輩から俺に話があるって言われたんだけど、どうしたんだ?」

「ああ、実はな。お前に訊きたいことと、言っておきたいことがあってな」

 黒瀬たちは固唾かたずを飲んで見守る。

「雄一は、長澤さんとどう言う関係なんだ?」

   ☆ ☆ ☆

「「「よし!」」」

 三人は陰でガッツポーズを取る。

「まずは第一関門クリアね」

「ちゃんと噛まずに言えた。それだけでもデカいぞ」

「二人はどう言う立場なの?授業参観?」

 氷室のツッコミは届かない

   ☆ ☆ ☆

「長澤?美咲のことか?」

 炎堂は相槌を取りながら頷く。

「美咲は、小学校の頃からの幼馴染だけど、」

「幼馴染?じゃあ、付き合っているとか、そう言う訳じゃないのか?」

「まあ、そうだけど。…もしかして武尊、美咲のことが…」

 久保田は少し落ち着きのない様子。

「ああ、まあそう言う訳だ」

 久保田は「マジでか、」と薄っすら呟く。

「でも良かったよ。雄一が長澤さんと付き合っている訳じゃなくて。俺お前との関係が壊れるんじゃないかってヒヤヒヤしてたからさ」

「……あ、いや、」

   ☆ ☆ ☆

「黒瀬、あれは、あんたの台本?」

「当たり前だ。炎堂があんな相手の心を抉るような言葉を言えると思うか?」

「思わない」

「シズク、そんな食い気味に…」

   ☆ ☆ ☆

「…雄一、なんか顔色が悪いぞ?もしかして、熱中症か?いやそれは無いか。季節外れにも程がある…」

 炎堂は一間おいて、口を開き黒瀬から託されたトドメの言葉を放つ。

「お前、長澤さんのこと好きなんだな」

 久保田は下がっていた目線を上げる。

「それは、その、」

「お前ほどの選手になると、スキャンダルとか面倒くさいもんな。だから告白したくても出来ない。そうだろ?」

「ああ、」

   ☆ ☆ ☆

「え、そうなの?」

 水崎は黒瀬の方に顔を向ける。

「久保田雄一は去年の大会帰りに野球部のマネージャーを家に送って行ったことがあった。その時に当時スポーツの記事を担当していた記者にマネージャーといたところを撮られたわけだが、その記事は玉帝の理事長によって週刊誌には掲載はされず、大事には至らなかった。だがまあ、釘は刺されるよな」

「そんな、久保田のやつ、そんな辛いことを背負っていたなんて、」

   ☆ ☆ ☆

「理事長には何て釘を刺されたんだ?」

「校内や集団で帰るならまだしも、二人きりになるのは辞めておきなさい。って言われたよ」

「なるほどな」

 炎堂は頭を掻き毟りながら言う。

「武尊、お前は美咲のことは別に好きな訳じゃないだろ?」

「うぇっ⁉︎」

「バレバレだよ。美咲に何か頼まれたのか?」

 炎堂があまりにもテンパっているので、三人は炎堂のもとに出ていく。

「お、お前ら、」

「君たちは、確か生徒会の、」

 三人は順番に水崎、氷室、黒瀬と名を述べる。四人を代表して水崎が今回の件について説明する。

「なるほど。俺のせいで美咲がそんな目に、」

 久保田は悲しそうな眼とともに俯く。

「全部が全部お前が悪い訳じゃあないさ」

 炎堂は久保田を慰める。

「久保田くんは、長澤さんとどうありたいの?」

 その氷室の一言に久保田は自分の中で何かが動く気がした。

「氷室さんは、痛いところを突きますね」

 久保田は黙りこくってしまった。四人は円を組む。

「ど、どうする?雄一黙りこんじゃったぞ?」

「希愛の一言が効いちゃったかな〜」

「うそお〜、どうしよう、黒瀬くん」

「俺に聞くなよ…」

 三人にウルウルな視線を喰らう。

「うっ、まったく、」

 黒瀬は日頃世話になっているぶん断れなかった。仕方なしにと久保田の前まで歩み寄る。

「長澤さんはあんたのことが今でも好きでいる。それはこれから先も変わらないと思う。もしあんたに長澤さんと向き合う気持ちがあるのなら、今すぐにでも長澤さんのもとに行くべきなんじゃないか?」

 黒瀬の言葉が刺さる。でもそれは痛いところを突かれるのとは違い、また何か心に来るものだった。

「…そうだな。ありがとう、黒瀬君、みんな」

 久保田は校舎に向かって走り出した。炎堂がその背中に向かって、「図書室の隣の空き教室だぞ〜」と叫ぶ。氷室と水崎も「頑張ってね〜」と応援の言葉を投げかける。

「いや〜黒瀬の言葉、効くね〜」

「さすがは文系!って感じだな」

「なんかの言葉を引用でもしたの?」

 水崎、炎堂、氷室と3連続で言葉を喰らう。

「別に…。ただ思ったことを言っただけだ」

 黒瀬は顔を背ける。

「そう。じゃあ依頼は無事解決したようだし、帰ろうか」

 水崎の提案にみんなが賛同しようとするタイミングで、氷室のもとに着信が来る。

「望月先輩だ…。はい、氷室です」

 氷室の顔付きが変わり、黒瀬も察する。

「ごめんシズク。今回の件のこと、副会長の望月先輩に伝えとかなきゃなんだけど、」

「そうなの?じゃあシャルモンで待ってるよ。黒瀬、希愛のことちゃんと連れて来てね」

「ああ、また後でな」

 各々玄関で鞄を拾い、水崎と炎堂はシャルモンに向かい、黒瀬と氷室は真逆の方向の校門で涼風と集合する。

「望月さんは?」

「すでに現場に向かっている。バイクで行けないからご自分の足で走らなきゃだからな」

「そうか。急ぐぞ、氷室」

「うん!」

 二人はバイクに跨がり現場に向かう。涼風はその背中を見送る。

「…頑張れよ」

   ☆ ☆ ☆

「ははは、一人じゃあ何にも出来ないね〜」

「このまま先に一人片付けちゃおうか〜」

「くっ、」

 望月はすでにインドラに変身して闘っていた。

(インドラのスピードにまだ身体が慣れないか。このままじゃジリ貧負けだ)

「なんか突破口を考えてるようだけど無駄だよ」

「もうキミは殺すからさ」

 双子の攻撃をなんとか躱す。しかしインドラはその場で肩膝をつく。

「限界か…」

 双子はまた襲いかかって来る。インドラはまた光速移動で躱そうとするが足が動かない。もうダメかとインドラはヴァジュラを構え防御態勢に入る。

「「死んじゃえぇ〜」」

 双子とインドラの距離がほぼ0となった。しかし双子の持つ短剣はインドラには当たってはいない。理由は簡単。黒瀬と氷室がお互いの剣で防いでいたからだ。

「お待たせしました、先輩」

 黒瀬は剣を上に振り双子の両剣を弾く。

宿命フェイト之帯ドライバー運命ディスティニー之帯ドライバー” “ラグナロク・フレイヤ”ローディング”

「「変身」」

“仮面ライダーラグナロク・フレイヤ”

「先輩、動けますよね?」

「ちょっとキツイかな」

「そうですか。氷室、頼めるか?」

「了解」

 フレイヤはインドラの身体に触れ、神力による神術を発動する。

「そっか、フレイヤには治癒の力もあったんだっけ?」

 インドラはゆっくりと立ち上がる。

「助かったよ氷室。ありがとね」

「いえ、これぐらいお願いして頂ければ何時いつでも」

「どうですか?走れます?」

「まあイケるかな?てか黒瀬くん、俺に遠慮とかはないのかい?」

「ありません。この作戦には先輩の力が必須なので」

 身体の辛さよりもインドラには先輩として頼ってくれていることのが嬉しかった。

「後輩にそんなこと言われたら、頑張らないなんて選択肢はないよね」

 ラグナロクはインドラとフレイヤに作戦を伝える。

「なるほど。確かに俺の力が必須だね。了解。頑張るから二人とも頼んだよ」

「頑張ります。黒瀬くん行くよ」

「おう」

 ラグナロクとフレイヤは真正面から双子に向かって飛び掛かる。

「「何か企んでるねえ」」

 ラグナロクは兄を、フレイヤは弟を相手取る。

「インドラの奴はどうしたんだい?」

「さあな。気になるなら自分でそこらを探してこいよ」

 ラグナロク&フレイヤ対ディオスクーロイの交戦はしばらく続く。

「はあはあ、兄さん、俺もう疲れた」

「俺もだ、ここはもう、退散!」

 双子が地面に大穴を開けようとする。するとラグナロクが叫ぶ。

「先輩!」

「了解!」

“ヘルメース、ローディング“仮面ライダーインドラWITHヘルメース”

 常時迅速移動が出来るインドラがヘルメースの力を纏う。その速さは最早言葉では表せないものだった。

「「うわっ⁉︎」」

 双子は吹っ飛ばされる。

「速い…」

「さすがは本家。俺が使っていたときよりも、圧倒的に速い…」

 インドラは双子を吹っ飛ばすとその場に足から崩れ落ちる。

「二人とも、今だ!」

「氷室!」

「うん!」

 二人はチャームを起動し、回す。

葬送フューネラルタイム加護ディヴァインタイム終焉ラグナロク滅波クライシス冰麗フレイヤ洗礼ハピネス

 白銀と純白の光が空を舞い双子を目掛けて降って来る。双子はインドラによる神速の牙突を喰らった影響かその場から動く余裕も無くなっておりなす術なく、キックを喰らう。

「「うあああああーー‼︎‼︎‼︎」」

 双子は…散った。

二人は変身を解除し、それを見た望月も変身を解く。

「ふー、望月先輩、身体は平気ですか?」

 黒瀬は直ぐに望月のもとに駆け寄る。

「ああ、まあなんとかね。氷室、頼めるかい?」

「もちろんです」

 氷室はまた手を望月に添えて神術をかける。

「…ん、ありがと氷室。もう動けるよ」

 望月は膝に手をかけながら立ち上がる。

「それにしても、黒瀬くんもなかなかな作戦を考えたね」

〜戦闘前の会話〜

「作戦はこうです。全員が全員でやれることをやる。以上」

「ん?どう言うことだい?」

「先輩はそこらの柱に隠れていてください。別に居場所がバレていても問題はないです。俺と氷室で双子を此処に足止め。そして奴らが逃げそうにしたら先輩はヘルメースの力でさらにスピードを上げて双子を穴から突き放してください」

「なるほど。私と黒瀬くんは近接特化だものね」

「俺がギリギリまで隠れているのは何故だい?」

「インドラの迅速スピードでアレなら、ヘルメースによる更なるスピード上昇は身体への負荷が大きいでしょう?」

「そうだね。助かるよ。よし、その作戦で行こう」

〜〜〜

「お互いが出来ることを全力でやる。だなんて、そうそう思いつけることじゃないよ。ありがとうね黒瀬くん」

 望月は感謝を述べる。

「別に、たまたまですよ」

「そう?じゃ、俺はイザナギに戻って報告書まとめるから、二人は帰って良いからね」

「え、先輩それはわるいですよ。私も手伝います」

 氷室が前に出ると望月が二人の鞄を差し出す。

「「え、どっから?」」

「俺が颯に持って来るように連絡しといたの。ありがとう颯♪」

 後ろを見ると涼風が居た。

「人使いが荒いですよ。まったく」

「ほら、炎堂くんに水崎さんが待ってるんでしょ?早く行ってあげなきゃ」

 二人は渋々鞄を受け取る。

「「ありがとうございます…」」

「うん!素直でよろしい。じゃあ颯、帰ろうか!」

 望月は涼風の文句を聞きながら帰って行く。二人はその背中を見送る。

「…行くか、シャルモンに」

「うん。なんか今日は凄く糖分が欲しい気分なんだ」

「じゃあブロードで飛んでくか。ここまでの道のりは覚えたし」

「うん!展開よろしくう〜」

   ☆ ☆ ☆

「あ、希愛〜。待ってたよ〜」

 二人はすでに注文していたのかスイーツを食べていた。黒瀬と氷室も2、3点頼み二人の座る席に着く。そして今日の件についてその後の話を聞いた。

「実はあの後、雄一から連絡が来たんだ」

 炎堂がスマホを机に置き黒瀬が受け取り氷室と一緒に見る。

“武尊、今日はありがとな。他のみんなにもお礼を言っといてくれるか?あの後俺、美咲の所に行ったんだけど、そこで美咲と話をしたよ。お互い言えなかったことを全部話したら、つい最近までの感じじゃなくて、なんだか本当に仲の良い幼馴染に戻れたよ。本当にありがとうな。”

「……仲の良い幼馴染、か」

「長澤さんはそれで良かったのかな?」

 氷室から問われる。

「ま、当人たちが良いなら良いんじゃないか?まあどうせこのタイプは気づいたら付き合ってるよ」

「確かに。それはあり得る」

 水崎は笑う。その後も何気ない会話をしていると炎堂が突然、

「てかお前ら、ちゃんと準備はしてるか?」

「「「???」」」

「ん?もしかしてしてないのか?来週は修学旅行だぞ?」

「「「・・・」」」

 三人は顔を合わせると、一斉に炎堂に振り向く。

「「「ハアアアァァァ⁉︎⁉︎⁉︎」」」

ーーーーーーーーーー

次回予告

 これまでの日々が忙しくて修学旅行の存在を忘れていた三人。そして来たぜ京都お!神話好きな黒瀬と氷室には最っ高な場所。ウェイウェイと旅行を楽しむ四人。しかし神様が多いぶん面倒ごとも多い。て、邪神なんか強くない⁉︎黒瀬と氷室、二人にバレずに闘える

のか?

第十一話:神様巡り、ご加護貰いに

 仮面ライダーラグナロク第十話『強行突破で万事解決』を読んで頂きありがとうございます。柊叶です。今回は前回の生徒会としての活動の続きを描かせて貰いましたが、如何でしたか?あまり人付き合いは好きではない黒瀬が仲のいい3人のために頑張る姿はまさに主人公であり、なんやかんや困っている人は見捨てられないヒーローとしての姿が印象に残っていれば嬉しいです。

 そして今回も前回に引き続き必殺技は漢字で表現させて頂きましたが、今後ともそれは続けていこうと思っていますので、これから新しく登場していく仮面ライダーたちの必殺技の当て字を楽しみにして頂けたら幸いです。今度は第十一話『神様巡り、ご加護貰いに』でお会いしましょう。

柊叶

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ