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第三夜(Ⅰ)


「陛下ー!大変でございます!」


翌朝。身支度をしていたところに、衛兵が慌てて入室してきた。侵入者が出たときの緊張感や、何かしらの爆弾が仕掛けられた時のような慌て方ではない。

ひどく恐れ、取り乱した様子である。


「何だ、一体どうしたというのだ」

「それが――」


衛兵が告げたことに、トバイアスたちは束の間絶句した。


「ユリアーナの遺体が消えた、だと……?」


それは、ユリアーナの遺体が消失した、という信じ難い報告であった。

トバイアスたちは霊安室に急行した。報告だけで済ませていいことではないと判断したのだ。

王宮の一角。先代王妃が『陰気なところだ』と言って以来、人気がなくなった場所。その一角の一番小さな部屋に、氷に囲まれたユリアーナの遺体があるはずだった。


「馬鹿な……」


ユージンが呻くように言った。そう、ユリアーナが横たわっていたはずの場所には、今現在何もなかったのである。


「状況は」

「は……は! いた、じゃなくてご遺体の状況を確認するため、夜勤の者と交代する時はかっ、必ず……その、部屋を開けるのですが、さ、先程、おれ、じゃなくて私が扉を開けた時には、既に、ご遺体が消え失せていたのです」


トバイアスが直々に選んだ実直で口の堅い者とはいえど、遺体が消失するという珍現象と、国王に向かって話すという状況に、話をする衛兵は動転しているようだった。


「夜勤の者は」


トバイアスが衛兵たちに視線を投げると、数人が手を上げた。顔を見合わせてから、ひとりが進み出る。


「私が、ご説明致します。わ、私も、昼の担当と交代する時には、必ず扉を開けて、中を確認します。でも、その時にはあって……勤務の間は用を足しに行ったりしましたけど、必ず二人はここに残るようにしていました。ですから、扉が開けられるなんてことはないはずです。訪問者もいませんでした。ほ、本当なんです! 私もこんなことになって、すごい、びっくりしていて」


夜勤の衛兵はどんどん早口になった。顔は青褪めているし、実際彼らがユリアーナの遺体の行方を知っているとも思えなかった。


「――ここの警備を続けよ。もしかするとまた突然現れるやもしれぬ、厳重に見張れ。決して口外せぬように。分かっているな?」

「「「「「「は、はい!」」」」」」


部屋を出て、秘密裏に事の次第を調べるように侍従に言い付けると、トバイアスたちは踵を返し、執務室に戻った。


「どうします、兄上」

「どうもこうも、空の棺で葬儀をする他なかろう」


何と間の悪い――トバイアスは眉間に皺を寄せた。

御前会議で国葬の触れを出し、明日には国葬をするというこの状況下で、遺体が消失するとは。

昨日ならばまだ貴族たちに伝える時間もあっただろうが、今となってはそれも不可能だ。


「ユージン、あの部屋には隠し通路はなかったよな」


国王直属の暗部を掌握するユージンは諜報に長けており、先の第一国王から直々に隠し通路などを教えられている。この城の誰よりも城内を知り尽くしていると言っても過言ではない。

ユージンは一瞬考え込んだ後、短く言った。


「私の知る限りありません」

「それなら他の誰も知るはずはないな」

「ったく、何をどうしたら遺体が消えるんだよ。ゾンビになって歩き出したとでもいうのか?」

「非現実的だな」

「分かってるよ!」


ジェレミーが声を荒げたので、トバイアスは手を上げてそれを制した。


「声を荒げるな、ジェレミー。外に聞こえたらどうする」

「っ、ごめん、兄さん」

「念の為通路を見てきます。昔使われていた廃通路があるかもしれない」

「あぁ、頼んだ、ユージン」


執務室の隅の棚を動かし、ユージンは秘密通路に入っていった。


「現実的に考えて、運び出された可能性が一番高いだろう」

「遺体を何に使うってんだよ?」

「そこまでは分からん。だが、兵士が黙認していたのなら、金で黙らされていた可能性が高いだろう。ユージンに後で調べさせよう」

「じゃあ、俺は検問に大きな荷物を持った人物が通っていないか、宿屋に大きな荷物を持った人が泊まっていないか確認する」

「頼んだぞ」


早く解決するといい――そのトバイアスの願いが叶うことはなかった。

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