王配の恋は叶わない(Ⅱ)
ユージンと姫の会合は、今は使われていない、王宮の庭園のひとつで行われた。
こちらでは稀有な射干玉の髪と紫水晶の瞳を持つ、美しい姫であった。少ない供を連れた姫は、ユージンと目が合うと微笑んだ。
「はじめまして。ユリアーナ・ウィステリア・クレスウェルともうします」
彼女の礼は美しかったが、言葉には独特の抑揚があり、異国で育ったことを感じさせた。
「ユージン・ラトクリフと申します。姫殿下にお目通り叶い、光栄でございます」
「私は、あまり、こちらの言葉を知りません。どうか、かんたんな言葉を、使って」
「失礼を」
席に座り、茶菓子が供される。礼儀作法にも、問題がないようだった。
「こたびは、スペンサー公が、あなたと話すことを望みました。何を、聞きたいのでしょう」
「......姫殿下は、私を国王にされるおつもりだと伺いました」
「はい。こちらでは、兄弟がみな、ひとりの女の夫になる、と聞きました」
「お聞き及び――聞いたかもしれませんが、私の父は平民です。私を夫にすれば、姫殿下にも良くない噂が立つかもしれません」
「なぜ?」
「この国では、貴族は平民を軽視――同じ人間と思っていません」
「それは、聞きました」
「え」
では、何故。
「あなたは、あなたの父ではありません」
「はあ」
「私は、あなたがとてもかしこいと聞きました。大切なのは、あなたがかしこいことで、あなたの父が平民ということではないです」
「しかし、悪評が」
「うわさは、止められません。私は、父のことを言いません。だから、あなたが夫でも、そうでなくても、うわさになります」
「――ですが」
「あなたは、国王になるの、いやですか? それなら、やめていいです」
「違います!」
思ったより大きな声が出た。青ざめるが、姫の顔色は変わらない。
「――私は、今まで人として扱われたことがありません。国王になるなど、考えもしなかったのです」
「それは、おかしですね」
「......おかしい、でしょうか」
「そう。だって、あなたは私と同じ、人です。生きていて、今、ここにいる。しかも、とてもかしこい。やれることは、たくさんあります」
ユージンは目を瞠る。
「私は、こちらを、よく知りません。だから、たすけ、必要です。かしこくて、秘密、守れるひと。だから、私はあなたが夫になってくれたら、うれしい」
「そんなことは......」
「スペンサー公に、聞きました。あなたは、よく勉強し、剣を練習し、じぜんじぎょう、もしていると」
「はい」
「私も同じ。私は、国でいろいろを学びました。毎日の勉強や練習が、どれほど大変か、すこし、わかる。だからこそ、あなたをすごいと思う」
ひたひたと、彼女の言葉が胸にしみた。
「......当たり前だと、思われないのですか?」
「当たり前、かもしれない。貴族だから。でも、それをやるのは、むずかしい。それができるあなたは、とてもすごい。誇るべき」
ユージンは俯いた。
母や弟は愚か、唯一認めてくれた義父も、ユージンを褒めたことはなかった。息子として認めた対価として、当たり前のように思っていた節さえある。
けれどこの姫は、ユージンに寄り添い、誇るべきだと言ってくれた。
――ただそれだけのことが、涙が出るほどの喜びだった。
「――ユージン、どの?」
唇を噛みしめて涙を堪えたユージンは、顔を上げて姫を見た。
その澄んだ、王家の証たる紫を。
「......姫殿下。どうか、私を国王の末席に加えていただきたい」




