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王妃が死んだ日  作者: 伊沙羽 璃衣
番外編

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33/46

王配の恋は叶わない(Ⅰ)

ユージン・ラトクリフはスペンサー公爵夫人の第二子として生を受けた。通常、父親の身分が低くても、第三子までは何かしらの地位を与えられるものだが、ユージンには何も与えられなかった。

理由はユージンの父親にあった。

平民でありながら公爵夫人の寵愛を受けた異国の男は、数か月邸宅に留まった後、姿を眩ませた。男を気に入っていた公爵夫人は烈火のごとく怒り、自分を捨てた男によく似た息子を、呆気なく捨てた。スペンサー公爵に救われなければ、赤子のうちに死んでいただろう。実際、成人を迎えるまでユージンの戸籍はラトクリフ家に置かれず、婚約者選びの時も、ユージンだけ参加出来なかった。成人してようやく、ユージンの戸籍は認められたが、母たる公爵夫人が、ユージンを息子として認めていない。名前を呼ばないのがその証左だ。

そんなわけで、ユージンは影のように息を潜めて生きていた。幸いにも公爵は、実の息子と変わりない教育を与えてくれた。どうやら長男である公爵の実子よりも出来がよかったようで、いたく褒められたことを覚えている。

けれど、ずっとずっと怖かった。勉強が、武術が出来るから、自分には存在価値がある。


では、出来なくなったら?


その仮定が頭にこびりついて離れなかった。長男より出来が良かったのは道理だろう。父親に確たる身分がある彼は、少しの失敗は許される。けれど、ユージンに後はない。死に物狂いで取り組んだ分だけ差が広がっていった。

勿論、常に長男を立てることを忘れなかったし、弟の三男にも敬意を以て接した。

だって彼らは、庇護してくれる父親がいるのだから。

弟に混ざり者と嘲笑われようと、実の母に息子として認められなかろうと、それでもユージンは密かに、だが確かな地位を義父の下で築いていた。


ユージンが19を迎える年の春である。


「――御用でしょうか、義父上」

「あぁ、ユージン。座りなさい」


義父であるスペンサー公爵は、ユージンに茶を勧めた。見慣れぬ色の茶だが、口に含むと、なんとも言えぬ芳香と味わいが広がり、好ましかった。


「最近、トバイアスとジェレミーはグリーンハルシュ嬢に熱を上げているようだが、そなたはそうでもないように見える。なぜか聞いても?」

「......グリーンハルシュ嬢は、確かに我ら男を差別しません。ですが、彼女自身が何をしているのかと言われると疑問が残ります。私は、彼女が勉強したことがあるとは思えません。華胥の貿易を勧められたのは彼女のおかげ、と言っている者もいるようですが、彼女は望んだだけでしょう」

「男を差別しないだけでもいいとは思わないのか」

「義父上もご存じのように、私の行動は家の手柄として扱われます。目に見えた功績がないからと私に無能の烙印を押し、生まれのせいだから仕方ないと慰められることは、屈辱でしかありません」

「あぁ......かの令嬢はそういう側面もあったな」


ふう、と義父は溜息を吐く。


「グリーンハルシュ嬢を次期王妃に推す者が多いが、そなたはそうは思わぬか?」

「思いません。寧ろ、王妃に溺れる男が多くなれば、国政に関わります。血統から言っても、オリヴィア姫の方が良いかと」

「なるほど」

「どうされたのです? まさか、グリーンハルシュ侯爵に何か動きでもございましたか」

「いや。王妃殿下に娘がいるのだ」


ユージンの頭に過ぎったのは、銀の髪に紫の瞳を持つ、異国生まれたという少女だった。


「左様ですか」

「驚かんな......私も詳しくは聞かされていないのだが、父親の元、東大陸の華胥(カショ)で育ったという。年は13。デビュタントに合わせ、この国へいらしたそうだ」


5年だけ、ということらしい。王妃と彼女の父親で、そうした取り決めが交わされているという。彼女の跡は、オリヴィア姫が継ぐということだ。

なぜ5年なのかと問うと、華胥の都合らしい。更にこれもまた華胥の都合で、父親の身分は公にされないそうだ。


「それは......反発を免れません」

「私もそう進言したのだが。元来、姫君の一族は天人(てんにん)と称され、人前で姿を現さないそうだ。まかりならぬ、と」

「左様ですか.......父上に話が回ってきたということは、ラトクリフ家との縁談をお望みでしょうか」

「あぁ」

「兄上とジェレミーには?」

「まだ伝えておらん。そなたの意見をまず聞きたくてな」

「よろしいのではないでしょうか。子を成すことはできずとも、国王という地位には価値がございます」

「そうか......」


ここで義父は暫し沈黙した。


「ユージン。そなたの戸籍はラトクリフ家にある。そなたが望めば国王に名を連ねることもできよう。如何する」

「平民を父に持つ私を、国王に据えようとは思われないでしょう」

「姫君は、構わないと仰せだ」

「は?」


知らず、ユージンは目を見開いた。


「姫殿下は理解されておられないのでしょうか。この国で、如何に貴族が平民を軽んじているかを」

「――姫君と一度、話してみると良い。そなたが望めば、どちらでも許されるだろう」

「......承知いたしました」

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