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王妃が死んだ日  作者: 伊沙羽 璃衣
番外編

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31/46

元第一国王が悔やむこと

どうしてこうなったんだろう。私はどこで間違えたんだろう。

何度も繰り返す問いに、答えはない。或いは答えはとうにあって、気づかないふりをしているのかもしれなかった。




***




王妃暗殺を計画して処分を言い渡された弟ジェレミー、ユリアーナに協力し、王配としての立場を得たユージンと異なり、ただ離縁された以外で他に処罰を与えられなかったトバイアスは、何もすることがなかった。

実家の公爵位を継ぐのは妹アビゲイルだし、王家に背いた者に爵位はやらん、と父に言われ、従属爵位すらも得られなかった。爵位を持たぬまま、今更官職につくことも考えにくかった。かつての部下を上司と仰ぎ、女王に叛いた者、と謗られる未来しか見えなかったからだ。

友との交流、といっても、大半の友人はマーガレット擁立に動いていたために、多かれ少なかれ処分を言い渡されており、気軽に会うことも出来ない。

王都に戻ってきたアビゲイルがユリアーナとオリヴィアとの話を盛んにするため、家にいることも気まずかった。


これらの要因から、トバイアスが領地に戻ったのは必然とも言えよう。


スペンサー公爵領は陸上交通の要所で、領都は多くの人が行き交う街だ。邸宅内で使用人から腫物扱いを受けることに耐えられなくなり、トバイアスは殆ど毎日のように街へ繰り出すようになった。

自由になるお金もあまり多くないので、本当にただ歩くだけだった。表通りから裏通りまで、色々な道を歩いていたある日、トバイアスは愛想笑いを浮かべた男に捕まった。あれよあれよという間に連れていかれたのは、カジノである。ユリアーナの代になってから、賭博に関して規制が厳しくなったのだが、ごく稀に監査の目をすり抜けていたり、有力な貴族の後ろ盾で、違法カジノが合法カジノを装っている場合もある。

連れていかれたカジノは、明らかに違法カジノだった。麻薬をやっているとしか思えない覚束無い足取りの男、乱闘まがいの騒ぎ。


「国に訴えられたらどうするんだ?」

「どうにもならんさ。俺らにはでーっかい後ろ盾があるんだからな。どうする、今ならまだ引き返せるぜ?」


ニンマリ笑った男を探ろう、と思って我に返る。処分を言い渡された自分は、もはや国政のことを考える必要はないのだ。

ーだが、万が一。

万が一、このカジノから法律違反者を大量に検挙することが出来れば、ユリアーナも自分を許してくれるのではないだろうか。

ふと思いついた甘い考えを拭うことが、トバイアスにはどうしても出来なかった。


「ーいや、参加しよう」

「そう来なくちゃな! 俺はジョン。お前は?」

「わ、俺は。ユージン。ユージンだ」

「そうか、ユージン、よろしくな。賭博の経験は?」

「いや、ない」

「じゃ、ルーレットなんてどうだ? 簡単だぜ」

「やってみよう」


初めてやったルーレットで大勝し、ポーカーでも勝った。積み上がっていく金の山にも、動じなかった。公爵家や王家で扱っていたお金は、それ以上のものだったからだ。


「面白くなさそうだな」

「この程度の端金で心は動かなくてな」

「この金が端金か、いいねいいね! やり甲斐があるよ。どうだい、金じゃなく、物を賭けてみないか?」

「物?」

「あぁ。このカジノでは他国の貴重な品やら貴族が使うような品を扱っているんだ。どうだ、興味はないか」

「金より面白そうだ。見せてもらえるか?」

「勿論だとも」


見せられた品は、王宮に献上されるような高級品ばかりだった。東大陸の品もあり、いつかユリアーナの髪を飾っていたような簪に気付くと、自然目が吸い寄せられた。

ひょい、とジョンは簪をつまみ上げる。


「こいつが気になるかい? 東から密輸した、カンザシってぇんだ」

「ほう。ではこれを頂こうか」

「おっとユージン、賭ってぇのは双方が品を賭けて初めて成立するんだぜ?」


トバイアスは眉根を寄せる。普段、金や高級品は持ち歩かない。


「ではこれを」


髪留めの宝石を外すと、ジョンはニヤッと笑った。


「いいだろう、交渉成立だ」


負ける気はなかった。謀略の王宮にいたのだ、ポーカーフェイスだってお手の物だ。

勝って簪を手に入れて、奏上する。そうしたらきっと、もう一度やり直せる。


トバイアスはそう信じて疑わなかった。


気づくと負けが重なっていた。稼いだはずの金は消え、髪留めを取られた。髪留めを取り返すために躍起になったが、借金は増えていくばかりだった。もはやどうしようもなくなった時、トバイアスは実家の宝石を持ち出した。

賭博場の主の後ろに大貴族がいること。スペンサー公爵家に関わっている可能性があること。


それしか分からないままカジノに通いつめていたある日、憲兵がカジノを取り押さえた。


「お前、俺を騙したのか!」

「そうだ。私は密輸ルートと商人を押さえるためにお前たちを利用した。緘口令を敷いたのに、随分と大貴族の後ろ盾があると触れ回ったのだから、この程度の罰を受けても仕方ないだろう?」


よく働いてくれた、と微笑みながらジョンに声をかけたのは、弟のユージンだった。


「ユージン!」

「あぁ、あなたの話も聞いているよ。金食い虫としての才能はあったようだね。しかし、家の物に手を付けたのはいただけない。あなたも処罰の対象となる」

「なんだって!? だがあれは私の持ち物で」

「あなたの持ち物? そんな物はないよ。離縁に際し、あなたの私有財産は全て没収されているから」

「だが、ラトクリフ家の私の物は」

「あれは嫡男に与えられたもの。爵位を継がぬ金食い虫のものではない」

「そんな! 私はただ、このカジノについて調査して、ユリアーナに奏上しようと」

「ユリアーナに奏上? 馬鹿も休み休み言ってほしいものだね。爵位を持たぬあなたが女王陛下に謁見するなど不可能なこと。身の程を弁えよ」


借用書の山と窃盗罪の書類を見て、ようやくトバイアスは取り返しのつかない段階に来ていたことを悟った。




ーどうして、こんなことに。

ガタゴト揺れる馬車の中、繰り返しトバイアスは考える。

トバイアスは正式にラトクリフ家より除籍、これにより平民へと転落。借金返済が不可能であったため、借金返済まで無給で鉱山労働を課せられることになった。

ー私はただ、やり直したかっただけなのに……




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