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金曜日

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星翔冒険科高校では週初めの月曜から四日間は一般教養と基礎トレーニングの授業を行い、五日目の金曜日になると実地訓練として聖翔ダンジョンへのダンジョンアタック実習が行われる。

今日は金曜日。一日かけてのダンジョンアタック実習の日だった。

入学式からもはや一か月が立とうとしている。

ダンジョンアタック実習も今回で四度目となっていて、早々に実習を終えて教室に戻ったクラスメイト達は自発的に反省会をしたり、使った道具の手入れをしていた。

皆もう慣れたものだ。アタック後のため疲労の色こそ見えるが、表情は一様に明るかった。

少し遅れて戻ったショウイチは、そんなクラスメイトたちへ教室に入るなり頭を下げた。

「お疲れ。みんな、いつもすまん。助かってる」

クラス中から礼は無用の声が上がる。

ショウイチが礼を言ったのは、皆、ダンジョン内でショウイチと出会えば、笑顔で魔晶石を融通してくれているからだ。

ダンジョンアタックに慣れたとはいえまだまだ余裕なんてないだろうに、ショウイチのことを考えて力を貸してくれている。その気持ちがありがたくて、ショウイチはいつか何か恩返しなければならないと考えていた。

ショウイチは自分の席に戻らず、ふらりと教壇に前に立った。

神妙な顔つきとなって改めて皆に口を開く。

「皆が我に魔晶石を与えしことにより、我は新たなる二つの力に目覚めたり……」

ショウイチは肩を張り、両腕を大きく広げた。

ノリのいいクラスメイトの何人かが声を上げる。

「おおっ!?」

「新しい力だってっ!?」

「ククク! 新たなる二つの力、その名はっ!」

ショウイチは勢いよく拳を天井に突き上げた。

「チラシ作成ィッ! 特価セールゥ!!」

それを聞いたクラスメイトたちは一瞬の静寂ののち大きく笑い声をあげた。

「お前のジョブはどうなってんだよ!?」

ミカドが腹を抱えながら言う。

「ほんとにな!? マジで俺のジョブはどうなってんだよって最近ずっと思ってるわ!」

ショウイチはがっくりと言い返す。

覚醒後、教師に助けられて解放された最初のスキルは愛想笑い。そして今日までダンジョンアタック実習のたびにクラスの皆に助けられて解放されたのがこの二つ。

ショウイチは現場で働いてそうな猫の顔になって、どうして、どうしてと心の中で心の汗をかきながら呟く。

桜町がショウイチの肩を叩いた。

「あっは! あんたのジョブほんとゴミ、マジ笑える。ねえ、望みをかけてた解放スキルが馬鹿みたいに使えなかったときってどんな気持ち? 私にはわかんないからちょっと興味あるんだけどー?」

あの日から桜町にやけに絡まれるようになったショウイチ。

今日もわざわざチビでガキ体型の桜町がショウイチの場所にきて煽ってくる。

ただ体型はそうであっても桜町には実力でもジョブでも勝てないことを重々称していたショウイチはただ我慢するしかなかった。

「くっそお! 今日はイチゴ柄の小学生パンツのくせに!!」

「はぁっ!? なんで知ってるの!? うそでしょ!? あんたなんなの!? いつみたのよ!?」

「くくく! 語るに落ちたな小学生イチゴパンげふぅ!??」

腹パンされた。

「お前、古武術道場師範代だろ!? もっと腹パン大事にしろよ! お前の腹パン、一週間たっても痛みひかねえんだぞ!?」

「知るか変態、エロ猿! ヴぁーか!」

本気で引いた顔をして友人たちのところへ戻っていく桜町。

ショウイチは言うだけ言って殴るだけ殴って逃げていく桜町に怒り心頭だ。

「お、おまっ……!」

とっさに追いかけようとしたが、痛打された脇腹が痛すぎてまともにたつこともできていない。

ミカドがそんなショウイチに助け舟を出した。

「おい、大丈夫か、ほら吹き野郎。動けるか? お前懲りなさすぎだろ」

苦笑するミカド。

「いや、だって、あそこまで言われたら、つい……。どうにもあいつとは相性が悪いわ」

「相性が悪いねえ……」

ショウイチは桜町を追いかけることは諦めて、ミカドに自分の席まで連れて行ってもらう。

「すまん殿下助かった、うぐぐ、いってえ。はぁぁー……」

ショウイチの視界に偶然、遠くで友人と合流した桜町が入った。

桜町もたまたまこちらを見ていたらしく、小さく舌を出してくる。

グラビアアイドルがやるならまだしも、今日日小学生でもやらないような馬鹿な真似をする桜町を見て冷静になるショウイチ。

たしかにあのクソガキは腹が立つ。

腹は立つが、クソガキの俺への評価自体は間違っているわけじゃないのはちゃんと理解していた。

今でこそクラスメイトは自分に魔晶石の融通してくれるが、それは俺への同情半分、面白半分だろう。不遇ジョブであってもレアジョブ。解放されるスキルに興味があると思っている。あと付け加えるなら、魔晶石をどれだけ入手しても全部学校に納めなければならないことも、プラスに働いているだろう。

だが、ここで魔晶石に何らかの意味や使い方が出てくると、今までのように皆が魔晶石を無償で譲渡してくれるということはなくなるはずだ。

そもそもの話。一流のエクスプローラーを目指し、まずはエクスプローラーとして独り立ちしようとしているのに、誰かに助けられないとまともにジョブを成長させることすらできないなんて情けなさすぎる。

あの青年エクスプローラーとはまるで真逆のあり方だ。

なにか現状を変える一手はないだろうか。

解放されたスキルの中に想定外の使い方をして大きな成果が出るようなものはないか。

愛想笑い、チラシ作成、特価セール。

「……」

次こそ、次こそ、なにかまともなスキルが解放されるはずだ。

「ねーよ!」

これ今後も絶対まともなスキルなんてでねえだろ!? 絶対無理だって、こんなのぉ! どうして、どうしてこうなったの、んもおおおおおおお!!!!


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