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次の授業、のおまけ 5

1


ジョブの覚醒が終わった一年A組の次の授業は短時間の実戦実習が待っていた。

ジョブ・レベリング1実習。

ジョブを覚醒させた次は安全な状態でジョブを成長させることを学ばせるわけである。


ジョブは使い続けるとジョブに関連したスキルを解放する性質がある。

このスキル開放の感覚は一度経験してしまえばなんてことないのだが、初めてのダンジョンアタック、初めての実戦、初めての窟獣撃破の直後に起こることが多く、過去数度、複数の窟獣との戦いのさなかに初のスキル開放が起こったエクスプローラー見習いが死亡事故を引き起こしていた。

その前例があったため、ギルドでは先輩エクスプローラーが、冒険科がある学校では最初に一つだけは教師の引率付きでジョブを成長させてスキル開放を経験させていたのだ。


ジョブ・レベリング1実習が行われる場所は学校近郊にある”星翔ダンジョン”だった。

国から星翔冒険専科高校に貸し出されている小規模ダンジョンである。

ダンジョンは浅ければ浅いほど広く、深ければ深いほど魔力が濃く、魔力が濃ければ濃いほど強力な窟獣がおり、凡そ窟獣の分布、階層ごとの広さ、魔力濃度の推移を調べれば最下層まで行かずともそのダンジョンの大きさを推し量ることができるらしい。

ゆえに星翔ダンジョンのほとんどほぼほぼマッピングがすんでおり、窟獣の分布も把握され、研究機関と組んで窟獣の生態の解明や星翔冒険専科高校在校生占有のダンジョンアタック実習に利用されている。


ダンジョン一階の最も大きい広間、通称「コボルトの間」で隣のクラスの男性教師が一人でコボルトたちを撃破するのをショウイチは眺めていた。

ショウイチの担任は今、一年A組の教室でダンジョンの基本的な知識についての授業中だ。

黒い砂となって消えていくコボルトの体があった場所にかがみこんだ男性教師はそこに残されていた小さな石を拾い上げた。

魔晶石だ。

魔晶石とは窟獣を倒したときに残る謎の物質だ。

このアイテムだけダンジョンの外に持ち出しても蒸発しない。理由はやはり現代科学ではわからないらしい。小説やゲームにならって、未知のエネルギーとかクリーンエネルギーが作り出せるかもしれない、と全世界で研究されているためギルドや市場で売買されているが、近年まで大した研究成果が出ていないことを考えるといつ値段が急落してもおかしくはないものだった。

「うん。これで五個分かな。これで一度売買してみましょうか」

「了解です。安土先生ありがとうございまっす!」

「ははは、元気がいいね。それじゃお願いしますね」

「了解で、いや、そうじゃないですよね……お買い上げありがとうござまーすっ!」

安土先生は苦笑しながらダンジョンショップの中に入るとカウンターの上の青いトレイ――カルトンにこれまで取った魔晶石を乗せた。

駅にある売店のような、どこか雑多なイミテーションアイテムで飾られたダンジョンショップの中にすっぽりとはまり込むようにして店員として立っていたショウイチは、魔晶石と引き換えにショップアイテムを取り出した。魔晶石がカルトンから消えると薪が五個。カウンターに現れる。


ショウイチが一年A組の教室で授業を受けず、隣のクラスの教師とダンジョンに潜っているのはなぜなのか。

それは学年でただ一人の覚醒ジョブレベリング1実習の補習中だからである。


一時間ほどかけてダンジョンショップで売買を続けた結果新たなスキルを開放させたショウイチに安土先生が補習の終了が告げた。

「大変だった……ありがとうございました安土先生」

「気にしなくていいですよ。これが先生のお仕事ですから。でも、大変ですね、君のジョブ。これはダンジョン演習も君なりのやり方を考えなくちゃダメかな」

「そうですね……パーティーで移動できませんし、戦えませんし、困ってます」

「ランダムテレポート、ダンジョン迷子か……ユニークというかジョブが冗談を理解するとは思いたくないですね」

考え込む安土先生にショウイチもなにか思いつかないかと思考の中に沈む。だが、なにも浮かばない。

安土先生が溜息を吐いた。

「今はなに一つ思い浮かびませんね。大洞君は、まだジョブを使い始めて間もないですが、なにかありますか?」

「いえ、俺もなにも浮かびませんでした」

思考の海から戻ったショウイチは安土先生に答える。

難問を前にしてちょっと考えただけで簡単に答えが出たら誰も苦労はしないというやつなのだろう。

ショウイチは安土先生に礼をいって一人教室へと戻る。

三階の階段上がってすぐの教室の扉を開ける。

授業を受けていたクラスメイトが教室のドアを開けたショウイチに一斉に視線を向けた。

「ミキト先生、補習終わりました。ちゃんとスキル開放できました」

ショウイチは一斉に集まったクラスメイトたちの視線にちょっと驚きつつ角刈り担任ミキトへと報告した。

「おお、そうか。お前のジョブは通常のカリキュラムと合わんから早めになにか考えないといけないな」

角刈り担任ミキトは無事に戻ったことをねぎらいの言葉をかけてくる。

「安土先生も同じことをおっしゃられてましたね……」

「そりゃな。今回は自分の生徒じゃなかったがいつそうなってもおかしくない。そのときになって慌てたくないしな」

頷く担任。

後ろの方の席に座っていた風連ミカドがショウイチに声をかけた。

「ショウイチ、覚えた?」

「おう!」

「すんごいやつ覚えた?」

「すんごいやつ覚えたぞ!」

「マジかよ! 糞ジョブ、いや、外れジョブ、いや、レアジョブなんだからきっとすっげえスキルだろうな!?」

「おい殿下、てめえ言っていいことと悪いことがあるぞ! めちゃ本音が漏れてるじゃねえか!?」

「はっはっは! 気にすんなよオオボラ野郎! ……で、マジでどんなスキルだった? めっちゃ気になるっつーの。隠さないで教えてくれよ」

ミカドに対して最初からそう言えよと苦笑しつつ、ショウイチは俗にいう糞ジョブだった俺に変わらず話しかけてくれる友人に感謝する。

「仕方ないなあ。あ、ミキト先生、いいですか?」

「くくくく。大洞、自分の席に座れ! と言いたいところだが、どうせ大洞はこの先苦労するのが目に見えてるからな。今回だけは特別に許してやろう」

それから角刈り担任ミキトはクラス全体を見回すと、

「せっかくだ。お前らも大洞に聞きたいことがあったらこの際聞いておけ」

クラスメイトはショウイチとミカドの会話に口を挟まなかったが、皆、ショウイチの覚えたスキルに興味津々のようで、担任の言葉に、話がわっかるぅー等の少なくない歓声が上がった

そんな皆の反応にショウイチは苦笑する。

「一回しかしないからよく見とけよ」

ショウイチは軽く肩を回すと少し抑えめに叫んだ。

「我がダンジョンショップファースト解放スキル!」

暗いイメージを払拭するようなさわやかで明るい笑みを浮かべた。


「愛想笑い」


教室中が大爆笑。

一瞬首をかしげたクラスメイトの腹筋を見事にぶち抜いたショウイチは満足に頷いた。

もちろんショウイチの心の中では「いやほんとにマジでダンジョンショップには怒っても許されると思うんだよね、俺」とは思っていたが。

将来聖女ジョブが待つプリーストの猫石ひなたという小柄な女子生徒から質問が飛んだ。

「ねえ、大洞君! ショップで買えるポーションってどうなの? お店のリストだと傷が治るとかしか書かれてないから効果がどんなものかわかんないんだよね。錬金術や魔道具作成で作れる怪我や毒、病の治療薬よりもちょっと弱いぐらい? ダンジョンでしか使えないんでしょ?」

「なんと、どのアイテムも錬金術やアイテムアイテム師の作るポーションよりも圧倒的に性能が低い。メーカー製とくらべられると泣いちゃいます」

oh……という顔をするひなた。

少し目を彷徨わせると、

「あ、でもダンジョンアタックの途中で補給できるのはいいかもね」

と言った。

俺は追い打ちした。

「お支払いは魔晶石となります」

「え、うそでしょ。お金じゃないの?」

「お金じゃダメ。これマジ。魔晶石にこもってる魔力量が通貨になってるみたい」

ダンジョンショップの売買は店のレジ前にあるお金の乗せるトレイ――青いプラスチック製みたいなカルトンに魔晶石を置くとレジ打ち機っぽい箱のモニターに魔晶石の内包魔力量を表す読めない文字(ただし書いてある意味は理解できる。

この場合はその魔晶石の魔力量がどれぐらいであとどれぐらい足りないか)が表示され、アイテムの対価と釣り合うとアイテムがカウンターの上に出現する仕組みになっていた。

魔晶石で販売できるショップアイテムは性能の低い各種ポーションや小道具、ただの木製の武器と革の防具だ。そのすべてのアイテムにおいて現代科学に敗北している。唯一の利点は持ち込んだアイテムを使う必要がないということだけ。ただそれだってタダではない。ショップから買うにはほどほどの量の魔晶石が必要となる。

それを聞いた少し冷たそうにみえるクラスメイトが気の毒そうな顔をした。

石田遥政という武将みたいな名前のやつだ。

男から見てもかっこよくていいやつとかずるくない?と思ったが言っても仕方ないことなのであきらめる。

ショウイチへどんどん質問が飛んでくる。

「武具とかはどう?」

「これもやっぱり企業製に比べて見劣りするわ。というかオーダーメイドの武具と比べられたらショップアイテムが泣いちゃう」

こんな学校に来るのだから成績のいいクラスメイトは武道の心得があるやつが多い。だから自分の使う獲物の質にもかなりこだわる。

企業製は無駄に高いし、自前の武器を使わなくて済む場所があればあるだけいいのだろうけど、事前に持っていけるならともかく運がよければ手はいる質の悪い武器なんて勘定にいれてられない。

ふいに、やけにかんに障る声が教室に響いた。

「ざっこ、ゴミじゃん」

その一言に教室が静まり返る。

声の主は組打ち専の古武術を教える家の出らしい桜町立花という魔剣士ジョブに覚醒したキツそうな顔をしたガキみたいなクラスメイトなガキだ。

教室の空気が、一気に桜町への非難と俺への同情へと変わった。

俺はいらっとするが全くその通りだったのでなにも言い返せない

「あぁ、いきなりなんだヒモ黒パンがよお、高校一年になったばっかのガキが色気ずくんじゃねえよ」

わけがない。

桜町はショウイチの言葉に驚いて立ち上がった。

「はぁ!? あんたなんでそれを!?」

クラス中に、え、マジで、みたいな微妙な空気が流れる。

この空気は、ヒモ黒パンをはいている事実に驚いたのか、ショウイチがそのことを知っていたことに驚いたのか、どちらかなのは判断が難しかった。

ショウイチはマジで履いていた事実に驚いていたケース。

ショウイチはすぐに我に返る。

この一瞬の機会を逃すまいと思ったのだ。

ジョブでは勝てないのだからこういうときに全力で煽っておかないと次にこんな機会がいつ来るか。

「語るに落ちるとはこのことよ、くっくっく! そんなガキみたいな体型して盛ってんじゃねえぞエロガキが!!」

何事もやりすぎはよくないといういい見本だったとのちにミカドは言った。

顔を真っ赤にした桜町が高速歩法でショウイチへと近づくと、ショウイチに古武術師範代も拍手するほどの腹パンをぶち込んだ。

説明がどこかでかぶってる予感……。見つけて直す予定。

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