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最初の授業 3

3


ショウイチに覚醒の順番が回ってきた。


(……俺はちゃんとタンクジョブを得られるのかな。レア職じゃなくていいんだよ、ただのタンクでいいのよ、マジで。……いや待った。仮にタンクになれたとしても、大した才能のない俺なんかが大手の金澤探索やシラヤマ・ヴィジョンに所属するタンクみたいになれる気がしないや、あっはっはっは……はぁ……無理ゲーか、もしかして……。いやいや、やる前からそう考えるのはよくない……)


ショウイチの前にジョブ覚醒したクラスメイトは宗円院夕。

柳の下でゆらゆらしていそうな外見の細長い女子だった。

覚醒したジョブはアコライト。サポーターの中でも窟獣の中でも精霊型のものに効果的なスキルを中心に覚える職だ。

宗円院は地元ではお寺という。らしい職と言えばらしい職だ。宗円院もまんざらでもない顔をしていて、彼女を呼ぶ似た雰囲気の教師の元へと向かっていく。

担任がショウイチを呼んだ。

ショウイチは慌てて担任に返事を返す。担任へと歩き出そうとして、足が動かないことに気づいた。


(お、落ち着け、落ち着け俺。今日は縁起がいいんだから。大丈夫だ、大丈夫。大丈夫……)


今朝のことだ。

星翔寮の食堂で朝食をとっていたショウイチは、突然、肩を強く叩かれた。


「おう、大洞!」


ショウイチが星翔冒険専科高校の寮である星翔寮で朝食をとっているのは星翔寮に入寮しているからだ。

星翔冒険専科高校はショウイチの家がある町から県庁のある県都を挟んで真逆にあり、あまりに家から遠いので星翔寮の男子棟に入ることになっていたのである。

中学校の卒業式は学生寮から逆に電車を乗り継いで登校したぐらいで、今では寮生活にもかなり慣れつつあった。


ショウイチが痛みに耐えながら振り向く。

目に飛び込んだのは大柄な男子だ。

鍛え抜かれた体躯の上には厳つい顔が乗っていて一目見ただけだと人になったゴリラのようだった。だがゴリラではなくれっきとした人間で、ショウイチと同じく遠方出身の最上級生だった。

性格も見た目通り大雑把で単純ながら、妙に面倒見がよく、寮の皆のことを親身になって考えてくれるため男子棟のボスゴリラとして男子寮で生活する誰からも頼れられていた。


「お、おはようございます、先輩」

「お前らは今日覚醒か。がんばれよ! 困ったらいつでも相談に来てもいいからな!」


ボスゴリラ寮長が笑顔で再び肩を叩いてくる。

めちゃ痛いが、我慢するショウイチ。


星翔寮は星翔冒険専科高校の敷地内の端にある。

男子棟、女子棟に分かれた二対の学校施設で、最新の建築技法をふんだんに使った築数年の建物はまだまだ真新しい外見を保っている。内部も外見そのままの雰囲気で、デザイン性にも優れ、まるでホテルのようだった。

実家通いの生徒の中にはそんな寮生活をうらやましいという者もいるぐらいだ。

そしてもう一つ、実家通いの生徒が寮生をうらやましいという理由があった。

それがこの寮長の存在だ。

ボスゴリラ寮長の本名は太田坊大吉という。


大吉なのである。


エクスプローラーという職業は窟獣と戦うという仕事柄、他職と比べれば死の危険度が相当高い。ちょっとした事故で生き死にの境界線を簡単に踏み越えてしまうため、エクスプローラーは意外とオカルトテック(迷信)に傾倒する者が多いのだ。

占い、お守り、験担ぎ。

ボスゴリラ寮長は星翔高校の在校生から一種の縁起物のような扱いをされているらしい。


――「うっひょう、来る前に大吉とすれ違ったぜ。今日は結構いけるかもしれん」


なんてのもボスゴリラ寮長はよく聞く言葉だとか。

悪い風聞ではないため仕方なく受け入れているらしい。


「おーい、大洞。早くこっちにこい。あとがつかえてんだからな」

担任がショウイチを呼ぶ。


(そう、今日は運がいい。普段は会わない寮長と朝から会えたからな……)


「はい、すみませんっ」


ショウイチも悪いとは思ったが、今回ばかりは大吉ボスゴリラ寮長のそれに頼ろうと思った。


(俺はこの覚醒でタンクを得て、一流エクスプローラーとなって有名となる。美人の彼女を作る。きつい性格じゃない優しい彼女を作る。できる。できるはず。……できるっかなあ……? マジでできると思う……?)


そんなことを考えながらも足を前に踏み出せば、今度はちゃんと足が動いた。

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