最初の授業 1
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「えっと……一般的な一次職カテゴリーとしては近接職、遠距離職、支援職の三つに大別されています」
前髪で半ば目が隠れた、中背痩躯の少年がやや高めの通る声で答えている。
「まず、ソード、ランス、スカウト、ツインダガー、ストライク、シールドなど接近して窟獣と戦う近接職、俗にいうタンクがあります。
デストロイヤーと呼ばれる遠距離職は、マジック、エレメント、ボウなどの離れた場所から魔物を攻撃することが得意な職になります。
支援を中心とした役割には、アコライト、シャーマン、エンチャント、アルケミーなどがあり、サポーターと呼ばれています。
あとはいわゆるレア職と言われる特殊な職もあります。
狂戦士、魔剣士、精霊剣士、格闘剣士、ビーストマスター、ガード、マギ、エクソシア、マジッククラフトなどを言い、二つないし複数のジョブの特徴を足して割ったような力を持ち、非常に限定的な条件下において強力なスキルを持っています。
自分は思うのですが、これまで判明したレアジョブにはゲームでは定番の場をコントロールする指揮官的なジョブがありません。
大将軍や大明神とか、そういった場や運をコントロールできそうなジョブがまだ未発見なのでは、と思っています。
僕は一般的なタンク職ながらテレビで特番が組まれるほどの一流プロエクスプローラーを目指したいと思っています」
「お、おう、十分だ、大洞。よく予習してきてるな。一次職の説明をそこまでちゃんと言える新じ、新入生はなかなかいないぞ」
角刈りの男性は困った顔をしていた。
一年A組の担任、角刈り筋肉だるまの来栖ミキト。
少年の担任である。
少年は角刈り担任ミキトのその様子から、満足に答えられないのがわかってて質問したことを察していた。
なにを狙ってそんなことをしたのかはわからないが、狙いが外れたからといって困るのはひどくない? と少年――ショウイチは毒づいた。
大洞ショウイチは星翔冒険専科高校に入りたてほやほやの新一年生だ。
星翔冒険専科高校入学式後のHRで、翌日の授業を体育館で行うから朝直接集合を伝えられて、朝から一年A組に割り振られた20名のクラスメイトたちと一緒に担任が来るのを待っていた。
星翔冒険専科高校は数年前に県下初のエクスプローラー育成専門の学校として新設されたばかりの高校であるため、体育館はまだまだ真新しい。
ニスや化学薬品の硬い匂いが漂う中、授業開始時間ギリギリに所在なさげに待っていた俺たち一年A組の前に現れたのは担任だけでなく、他クラスの教師たちだったのだ。
皆が混乱する中、他クラスの教師たちの説明もなく授業が始まったのだ。
「おう、おはよう。見たところだいたいそろってるな。さっさとはじめちまうか。まずは昨日自己紹介したが改めて名乗るぞ。俺の名前は来栖幹人、お前らの担任を請け負うことになった。舐めた口きいたらぶっ飛ばすからそのつもりでな」
後ろで非難するような短い咳が聞こえたが、角刈り担任ミキトは見事にスルーして見せる。
これはまた厄介な人間の担任になったなとショウイチは思う。
「それで、だ。お前たちはエクスプローラーを養成するこの学校を選んだぐらいだから、ある程度はジョブのこととか予習してきてると思う。簡単でいいから一次職にはどんなジョブがあるか言ってみろ。えーと、そうだな。出席番号10番、大洞ショウイチいるか?」
「あ、はい。ここです」
いきなり自分の名前が呼ばれたことに少し驚きながら、俺は返事した。
クラスメイトの間から手を上げ、前に出る。
「お、そこか。それじゃあ、大洞、答えてみろ。わからなかったらわからないでいいからな」
と、そんなことがあったのだ。
「まあそんだけわかってるやつがいるなら細かい説明はいいな。よし、じゃあとっとと覚醒はじめちまうか」
一応、これから始まる最初の授業はジョブの覚醒だとは知っていた。
おそらくクラスメイトのほとんどもそれは知っているのではないだろうか。というのもどの学校でも冒険科の最初の授業はジョブ覚醒なのはカリキュラムとして決まっているらしいからだ。
ジョブ覚醒とは、ダンジョン内に巣くう強大な魔物――窟獣と戦うために人の秘めている力を開放させることである。
先ほどあったソード、ランス、スカウト、マジック、エレメントなどなど。
解放される力が空想物語の職業を彷彿とさせる名前と能力なのか、そのあたりの理由や原因は未だ解明されていない。
だが、覚醒して得られる力を使わなければ人より圧倒的に能力の高い窟獣とまともに戦うことができないため、今後エクスプローラーとしてダンジョンに入るためにはジョブ覚醒が必須なのだ。
世界にダンジョンが現れて十数年。今や人類が発見したジョブの数は相当な数となっている。それらのジョブの知識や経験の集積は一次職だけでなく二次職や最終クラスと呼ばれている三次職もなされていて世界で共有されている。
体育館に担任だけでなく他の教師もでばってきたのは、覚醒で手が離せない担任の代わりに覚醒が終わった生徒にそれらジョブに対する知識的な指導と今後も含めた進路指導のための面談を行うためであるらしい。
担任は笑いながら口を開いた。
「おー、お前ら固いなあ。緊張なんかすることないぞ。ジョブの能力差こそあれ、誰だって絶対覚醒は起こるんだからな。今までただの一人も職を得なかったものはいないし、なんといってもぱっと終わっちまう。楽なもんだぞ」
ジョブは覚醒する側が意図的に選べるものではない。
超攻撃的な気質をした人間がサポーターを得たり、臆病な性格をしている虚弱体質の人間がタンクを得たという話はこれまでも枚挙にいとまがない。
ショウイチの希望はタンクだ。
テレビで見たタンクのエクスプローラーにあこがれ、自分を目指したのだ。
ただ、先ほど言ったようにこればかりは何になるかは神のみぞ知る。
しかもジョブのクラスアップは存在するが、転職すたという話は世界でも聞いたことがない。
つまるところ、これから行うジョブ覚醒で、その後のダンジョン人生が確定するといてもいいのだ。緊張もしようというもの。
なんなのこの担任……。
ここである意味エクスプローラーとしての人生決まっちゃうんだけど。
胸毛は過ごそうだけど、心臓にも鉄の毛生えてるんじゃないの。
訂正、修正。