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園部 七海④

「記憶を消す?」


「うん、それが次のお願い」


 菫荘のダイニングチェアに座りながら、虚空さんが顎に手を当てて何か考えている。いくら神様でもそんな事は出来ないのかも知れない。でも、菫荘のみんなが苦しむような記憶は無くしたほうがいい、絶対に。


「そんなこと出来ないか……」


「アホぬかすな! 誰や思うとんねん。虚空蔵菩薩やで、智恵と福徳を司る神やで。記憶の操作なんてむしろ得意分野や。八百屋できゅうり買うようなもんや!」


「へー」


「ただ……」


「ただ?」


「完全に記憶を消失させる事は出来ん。人間の記憶ってやつは複雑でな。正確に言えば勉強したことや体験した記憶っちゅうのは頭の中にある抽出しに必ず入っとる。ただ古い記憶なんかはその抽出しがどんどん奥に追いやられる。それが忘れる言うことや」


「つまり?」


「園部七海に関する記憶を脳の一番奥に移動させる、産まれる前、胎児の頃よりも奥や。普通ならこれで思い出す事はないやろ」


 確かに胎児の頃の記憶なんて一切ない。

「ただ……」


 この神様はただが多い。


「あくまでも奥に引っ込めるだけや、何かのきっかけで思い出してまう可能性はあんねん」


「うん、まあその時はその時で」 

 

 私と虚空さんが菫荘に入ると、珍しくみんな笑顔で何やら話し合っていた。おっ、これはやっと立ち直ってくれたかなと耳を澄まして会話を聞いていると全身が震えた。もう肉体はない意識だけのそんざいなのに寒気で震え上がるような感覚が全身を覆っている。

 

 菫荘のみんなは集団自殺のやり方を談義していた――。


「嘘でしょ……」


「あかん、完全に集団自殺モード入っとる」 


「ちょっとヤメさせて、すぐに」


「何をやねん?」


「こんなバカは真似をよ!」


「それが願いだとしても抽象的すぎて無理やな、具体的に何をすればええねん」 


「それは……」 


 綾子とママが自殺を図った時には命が助かるようにお願いした、すでに三つの願いを叶えてもらったからあと四つ、でもこれじゃあキリがない。みんなは何度でも自殺する。私のことを覚えている限りは。


「今すぐに私の記憶を消して」


 そうすれば集団自殺なんて考えは起きない。みんなはとっくに立ち直ってるんだから。私がいなくてもちゃんと生きていける、ううん、生きてほしい。


「ええんかホンマに、自分はこの世にいなかった事になるんやで、記憶からなくなる言う事はそーゆう事やで」


 人の記憶は自分が生きていた証。それが無くなった時に私は本当の意味で死ぬのかも知れない。

 でも、でもそれでみんなが生きていけるなら。


「うん、大丈夫」


 お願い、みんな生きて。生きて幸せなって。


「はー。まったくお人好しな姉ちゃんやなぁ、よっしゃ、やるからには完璧にやるで、起きとる時にいきなり記憶を操作したら混乱するやろ。寝たタイミングで自分、園部七海の記憶を一番奥深くに押し込んだる」


 ちょうど良く、ちょうど良いと言うのは不謹慎だけど自殺の方法に睡眠薬を飲んでからの練炭自殺。私の記憶を消すのはそのタイミングに決まった。


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