クエストが100回までコンテニューできる保険
『次の期末試験、すべての教科で70点以上を取れ』
あ、とうとう僕にも『クエスト』が来たか……。
この世界ではおよそ100年ほど前から、高校生ぐらいになると頭の中でクエストが浮かぶ現象が発生している。原因は不明だけど、一つ確かなのは、このクエストを達成し続けていると必ず世界の有名人になれるということだ。
「期末試験の結果を返すぞー」
「う、物理が68点か」
クエスト失敗だ。でも次の瞬間、スマホの画面が光り輝き、僕の意識は光に包まれる。そして気がつくと、僕は三日前の自宅に戻っていた。
「これが再挑戦保険……」
クエストの再挑戦保険。もちろん原理なんてわからないけど、その保険に入っていると、失敗したら適当な所まで時間が巻き戻されるのだ。
僕の両親は普通の人だけど、僕の前途を祈って、クエストが100回まで再挑戦できる保険に入れてくれた。
「よーし、今度こそ70点以上とるぞ!」
それ以降、僕は着実にクエストを攻略していった。それに伴い、僕の人生も面白いぐらいに好転していく、学校内ではすでに有名人だ。
そして何よりも、彼女ができたということが大きかった。名前は美咲。才色兼備で相性も僕にピッタリという、まさに理想の彼女だ。
「今日のデートも楽しかったね、京介」
「うん、映画も面白かった」
「それじゃ、また学校で会おうね!」
「ああ、また!」
いつものように、美咲と学校での再会を約束した――その時だった。
『彼女を殺せ』
……え?
意味の分からないクエストだった。僕は呆然として、遠くなっていく美咲の背中を見送っていた。
すると、スマホから強烈な光が。
「また学校で会おうね!」
戻っていた。まさか、本当にクエストなのか。眼前には、無防備な美咲の背中がある。
『彼女を殺せ』
ふざけるなよ。いくらなんでも、そんな。
「学校で会おうね!」
『殺せ』
うるさい。
「会おうね!」
『殺せ』
消えろ。
「会おうね!」
――――。
「あの、ちょっといいですか」
「はい?」
「私は恋人を作っては殺害している凶悪犯を捜査しているんですけど、何か知っていることは」
「いや、知りませんね。では、僕は人を待っているので」
あの日以来、僕の人生は普通に戻ってしまった。もうクエストは浮かんでこない。僕はもはや、この世界のモブキャラに過ぎないのだ。
「京介、お待たせ!」
「待ってたよ、美咲」
でも、僕は後悔していない。
「それじゃ、結婚式場の下見に行こ!」
美咲が僕に幸せなクエストをくれるから。
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