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第4話 初めての街と冒険者登録

 ドライグをひたすら走らせること1時間あまり。さすがにちょっと飽きてきたオレがいた。

 だって走れど走れど森ばっかで、街どころか対向車すら通らないってどうなのよ? まあ、信号すらないので停車することもなくひたすら走り続けられたのは楽しかったが。

 けどやっぱり、そろそろ飽きてきた。というか、こんだけ走ってるのに街どころか村すら見かけないなんて、どんだけ田舎なんだ……と思っていた矢先、小高い丘の上に差し掛かった時、10kmほど先に街らしきものが見えた。


 いったんドライグを停めて街を観察する。


 スキル<竜眼>を使用。シン専用の特殊スキルで、<鑑定>、<看破>、<暗視>、<千里眼>、<精霊視>、<死霊視>等のスキル効果を合わせ持つ複合スキルだ。


 使用した途端、まるで望遠鏡の様に視界がズームアップされ、街の風景が詳細まで見えるようになった。

 

 異世界の街と聞くと中世ヨーロッパ風の古風な街をイメージするだろうが、眼下に見えるそれは明らかにそれよりも遥かに進んだ、現代の地球と遜色ない建築技術で造られているように見える。


 大きな河の畔に築かれたその街は、河に面している部分以外の3方を森に覆われていた。そして街と森の境目には高さ5メートルほどの塀が築かれており、それが街の外周をぐるっと囲っている。たぶん魔物避けだろう。オレがいまいる道路はこのまま進むと河沿いに出て、そのまま街へと繋がっているらしい。街の入り口には開閉式の門扉が取り付けられていて、警備兵と思われる制服を着た男たちが見張りをしているが、特に通行料などを徴収している様子はない。オレ以外の人間も出入りしているが、基本的にフリーパスみたいだ。


 街を構成している建物は、どれもコンクリートと思われる材質で建築されているように見える。中心部には5階建て程の高さのビルもいくつか見受けられるが、街自体の規模はさほど大きくはなく、人口にしたらせいぜい2万人くらいの小都市くらいだ。しかも街中を通っている道もしっかり舗装されており、車やバイクらしきものが走り回っているのが見えた。


 やはりこの世界はテンプレな中世ヨーロッパレベルの世界ではなく、『シン・ジークフリート』の世界と同じく、地球レベルの科学技術と文明が存在していることがハッキリした。

 正直、そっちの方が助かる。テンプレ通りのファンタジー世界に憧れはあるが、実際に住むのは勘弁だと思っていた。毎日テレビやネットを見て、風呂に入って、様式の水洗トイレで用を足し、冷暖房完備の家で暮らしている現代人が、いきなり機械や文明の利器が全く無い中世レベルの暮らしを受け入れられるかと言えば、まず無理だろう。特にオレはパソコンが友達のプログラマーにしてゲームクリエイターだからなおさらだ。


 さて、記念すべき最初の街な訳だけど、まずやらなければならないのは、金を稼ぐ手段を見つけることだ。これがテンプレなら冒険者ってとこだが、果たしてこの世界にも存在しているかどうか……ああいうのは中世レベルの治安組織の脆弱な時代であるからこそ活きる職業であって、地球レベルに文明の発達してる世界ならないかもしれない。普通に魔物を狩る軍隊みたいなのが存在して、民間にはお鉢が回って来ないって可能性も充分考えられる。


 とはいえ、考えていても始まらない。実際にこの目と耳で確かめてみないとな。そう思い直してオレはドライグを走らせた。

 街に近づくと、警備兵たちがこちらに視線を向けてきた。全員が同じ紺色の制服を着ており、鎧や剣といった金属の類は一切身に付けていない。その代わり全員が銃、ないしライフルを携えていた。

 正直、全身鎧で身を固めて槍を持った中世ファンタジーの兵士よりもずっと怖い。


 大丈夫だよな? いきなり「フリーズ!」とか言って銃を向けられたりしないよな?


 試しに<竜眼>でステータスをチェックしてみると、全員がレベル20前後であることが判った。この世界での兵士の平均レベルがどれくらいかは知らないが、少なくともオレよりはずっと低い。<銃弾耐性>もあるし戦っても負けないだろうが、いきなりお尋ね者になるのは勘弁だ。見たところ彼らからは悪意も敵意も感じないし、少なくとも悪い感じはしない。


 よし、試しに話しかけてみるか!


 と、考えたところで、今更ながらある重大な問題に気づいた。


 人に話しかけるってどうすれば良いんだ!?

 

 そもそもオレは1人暮らし&人間嫌いで、他人とのかかわりをほとんど持たなかった。あったとしても依頼されたプログラムを仕事先に送付したり、ゲームをアップするだけで、そのほとんどはメールで済んでいた。

 思い起こしてみれば、10年近くの間ほとんど他人と会話したことがない!


 それなのに、異世界の人間に自分から話しかけるとかハードル高すぎる!


 いや待て、落ち着け。こういうシチュエーションなら前にラノベで読んだことがある。

 異世界転移してしまった引きこもりな魔王や、骸骨の騎士になってしまった人の話。彼らは自分が演じるキャラクターになりきることで他者とのコミュニケーションという試練をクリアしたという! ここは先達に習うんだ。


 シン・スカイウォーカーになりきるんだ。

 なにせシンはオレがキャラデザインからグラフィック、セリフまでを全て自力で考案したオレのオリジナルキャラ。もう1人のオレだ。

 もし生まれ変わったらこうありたい、という願いを込めて創ったキャラクターだ。演じて見せるさ。


 オレが設定したシン・スカイウォーカーの性格は「正義感、優しさ、誠実、控え目、真面目を足して5で割ったもの」だ。さらにシン・スカイウォーカーの性格を設定するに当たり、オレは「シン道大原則」なる鉄則を前もって設定し、それに沿ってシンというキャラクターを構築した。


 シン道大原則ひとつ――目上、年上の人と話すときは控え目な敬語で話すこと。


「すいません」


 街の入り口付近でいったんドライグのスピードを落とした後、近くにいた兵士に声を掛けた。たった一言、人に声をかけるだけで、全身全霊の勇気を込めなければならなかったのが情けない限りだが、シン・スカイウォーカーになりきっていたお陰か、意外とスムーズに声が出てきた。


「どうした、坊主? 道に迷ったのか?」


 40代くらいの男性警備兵の口から、流暢な日本語が紡がれたことに軽い驚きを覚えた。

 今更だけど地球と言語が違うかも、という可能性を失念していた自分の迂闊さに眩暈すら覚える。


「どうした?」

「あ、いえ。この街で、手短にお金を稼げる仕事ってありますか?」

「金? そんなピカピカなトライクに乗ってるのに、金に困ってるのか?」

「ええ……実はここへ来る途中で魔物に襲われたんです。その時に荷物ごと財布を落としてしまって……いま無一文なんです」


 シン・スカイウォーカーになりきるという作戦は大成功だったみたいだ。自分でもビックリするくらいすらすらと言葉が出てくる。オレってこんなにお喋りだったっけ?

 ただ、嘘を付いたことに若干の罪悪感は感じるが、無一文であることは本当だし、異世界から転生したなんて言えるはずもないし、この際仕方がないと割り切った。


「魔物にねぇ……そりゃ災難だったな。しかし、このエンディムですぐに金を稼げる仕事となると、冒険者くらいしかないぞ?」


 エンディム。それがこの街の名前らしい。いや、それよりもこの人、いま気になること言ったな。


「冒険者……ですか?」

「なんだ、知らないのか? 魔物を狩ったり、要人や貴重品を護衛したりと、戦闘関連の仕事を専門にしてる何でも屋みたいな職業だ」


 おお! つまりテンプレなそのものじゃないか! やっぱりあったんだな!


「それって、オレみたいな子供でもなれるんですか?」

「15歳以上で犯罪歴が無ければ、冒険者ギルドで登録すれば誰でもなれる。登録したその日から依頼を受けることも出来るが、最初の内は大した依頼は受けられないけどな」


 ならオッケーだな。ちょうど15歳だし、犯罪歴も無いから問題無いはずだ。


「ただし、いま言った通り戦闘関連の業種な訳だから当然危険だ。例え死んだり一生モノの怪我を負っても自己責任だ。実際、冒険者に登録した人間の内、1割は1年以内に死ぬか再起不能になるらしい。世界一儲かるが、世界一危険な職業でもある」

「なるほど……」


 そりゃまあ、魔物とかと戦うんだから危険なのは当然だろう。

 ただ気になるのは、オレはこの世界においてどの程度の強さなのか、ということだ。レベル389っていうのは当然、高いはずだ。これまで遭遇した魔物はゴブリンにしろワイバーンにしろ、オレの相手にはならなかったし、実際にいま話してる警備兵のおっちゃんたちよりも遥かに強い。ただ油断は禁物だ。ひょっとしたらいまのオレでも単独では敵わないような敵がいるかもしれない。

 とは言っても、いまのオレには金がない。金が無いということは命が無いのと同じ。金が無ければ宿にも泊まれないし、なにより食べていけないからな。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。背に腹は代えられない。


「その冒険者ギルドって、どこにあるんですか?」

「街の中心部、この通りを進んでいけば看板があるからすぐに判るが……ホントになるつもりか? 英雄になれるかもしれないなんてくだらない理由なら、悪いことは言わん。やめた方が良いぞ?」

「危険なのは承知の上です。それに、さっき言った通りいまのオレは無一文状態で、今日の宿代すら無いんです。あと、こう見えて結構腕には自信があります。魔物と戦って仕留めたこともありますから」


 嘘は言ってない。実際に戦ったのは最初のゴブリンとワイバーンの2回だけだけど。


「そうか。なら止めはしないが、無理だけはするんじゃないぞ? あと、冒険者の中にもガラの悪い奴がいるから、そっちにも充分注意するんだぞ?」

「了解です。ご忠告、感謝します」


 親切に忠告までしてくれた警備兵のおっちゃんに礼を述べて、オレは街中へとドライグを走らせた。


 初めて見る異世界の街は、やはりテンプレと違ってかなり近代的だった。レンガや漆喰で作られた中世の建物とは違い、鉄筋を通した頑丈なコンクリートっぽい資材で作られた頑丈な建物であることが判る。民家っぽい建物は木で出来たものも多くみられるが、それでいて建築様式は日本のそれとはまったく違い、どことなくアメリカやヨーロッパを思わせる西洋風の建築様式のようだ。

 あと普通に車も走っているが、やはりデザインが地球のそれとはまったく違う。一応、車体をタイヤで支えながら走行しているという部分は同じだが、中には4輪ではなく6輪で走っている車もあるし、多くは曲線主体の未来的なフォルムをしている。あと普通に右ハンドルで、車道も左走行だった。この辺は日本と同じか。


 街を歩く人々はオレと同じく人間型の種族が多が、それに混じってケモミミを生やしている者や、中には完全に二足歩行の獣っぽい種族もちらちら見受けられる。


 なんと言うか、近代的なデザインの街中を獣人が歩いたり、車に乗ったりしている光景はひどくミスマッチに思えてくるが、逆にそれが新鮮で良い。景色を楽しむあまり、脇見運転をしそうになるくらいに。


 街のあちこちには標識や看板も見られるが、そこに掛かれている文字はオレが知っているそれとはまったく違う。なのに不思議なことに何故か意味が判ってしまうのだ。さすが異世界転移。親切設設定だな。

 なので目的の『冒険者ギルド』の建物がどこにあるかもすぐに判った。警備兵のおっちゃんの言う通り、街の中心部――メインストリートの一角にでかでかと看板が掲げられていた。

『冒険者ギルド』という文字の上には、ドラゴンの顔を模した文様が施された盾の後ろに、剣と槍が交差した絵が描かれている。エンブレムかなにかだろうか?


 ちょっとした小学校くらいの大きさの3階建ての建物だ。なんか城みたいな建物をイメージしてたんだけどそんな飾りっけはまったく無く、古風なデザインでこそあるものの、それ以外はごく普通の役所といった感じの建物だ。

 正面入り口から中に入ると、結構広いホールになっていて受付台がたくさんあり、その全てに同じ制服を着た係員がいた。男もいれば女もいるし、オッサンもいれば美人さんもいる。人間もいれば獣人もいる。まさにファンタジーって感じだ。


 そして広いホールを行き交っているのは、いかにも冒険者って感じの物々しい装備を身に纏った人たち。剣や槍、中には銃器を持っている者までいる。それらの武器を見て見るとファンタジーによくあるような金属を加工しただけの単純なものではなく、なんらかのギミックが組み込まれたメカメカしいデザインのものが多い。あと、全員が比較的軽装だった。身体の一部に金属を身に付けている人はいるが、西洋の全身鎧みたいなものを着こんでいる人間はいない。


 それにしても、現代の市役所みたいな感じの建物の中を、銃を持った人間が普通に歩いているのは物凄く違和感を感じるな。

 あとラノベなんかではギルドに酒場が併設されていて冒険者たちが四六時中、飲んだり騒いだりしているという話を良く読んだけど、そんなものは当然無かった。


 まあ、昼間から酒飲んで騒ぐ奴なんか、普通にダメ人間だと思うけどな。


 あと冒険者ギルドに持ち込まれた依頼はクエストボードとかに張り出されていて、それを巡って冒険者同士が諍いを起こすというのもよくある話だけど、そんな光景も見当たらない。話し声こそ聞こえるが喧騒といったものは無く、気味が悪いくらい静かだ。


 おっとそれよりも登録だ。

 正面玄関からまっすぐ行った場所にある「登録受付」と書いてあるカウンターへと向かった。座っているのは長い栗色の髪を結わえた若い美人さんだ。

 普通なら「美人受付嬢」というテンプレに遭遇してテンションが上がるとこなんだろうけど、前世では碌に女の人と話したことが無いオレにとっては「自分から女の人に話しかける」というのはハードルが高い。


 まさか冒険者になる前にこんな試練が待ち構えているとは! 異世界恐るべし!?

 とはいえ、冒険者になるには避けては通れないんだ。勇気を出してやるしかない!


 覚悟を決めてカウンターへ向かうと――


「ようこそ冒険者ギルドへ。登録ですか?」


 なんと向こうから話しかけてきてくれた! 助かった!


「えっと……はい。登録をお願いします」


 少しどもってしまったが、どうにか返事をする。

 ちなみに彼女のネームプレートには「エリー・ハウゼン」と書かれている。


「かしこまりました。ではこの書類に必要事項の記入をお願いします」


 そう言って受付嬢――エリーさんが差し出してきたのは羊皮紙などではなく、普通の紙だった。

 書類の内容は――


  1.名前(必須) 

  2.年齢(必須)

  3.種族(必須)

  4.天職の有無(任意)

  5.天職名(任意。4で有りと答えた方のみ)

  6.魔法スキルの有無(必須)

  7.レベル(任意)

  8.スキル(任意)

  9.出身地(任意)

 10.戦闘技能(任意)

 

 ――みたいな感じだ。


「この「任意」とされている部分は、書かなくて良いんですか?」

「はい。個人情報保護の観点からも強制はされていません。冒険者と言う戦闘関連の職業である以上、レベルやスキルと言った自身の能力を秘匿したいのは当然ですから、ギルドとしても強要は出来ません。出身地に関しても、訳有りで冒険者にならざるを得ないという方も大勢いらっしゃいますから」

「なるほど……」


 まさにいまのオレみたいな状況な訳だ。やっぱこういうヤバい職業に就く人間って訳ありが多いんだな。


「なお、冒険者ギルドは犯罪歴のある方の登録は一切お断りしております。あなたに犯罪歴は有りませんね?」

「ありません」

「判りました。それと、万が一虚偽の情報を記入して後に発覚した場合、理由の有無に関係なく罰則の対象となり、場合によっては資格取り消し処分となって、以降、二度と冒険者になることは出来なくなりますので注意してください」

「りょ、了解です」


 嘘を記入したら問答無用で罰則。最悪は資格剥奪&再習得不可能か。まあ、こういう職業って信用第一だからそれくらい当然かな。


「では結構です。書類の記入をお願いします」


 取り合えず言われた通りに書き込んでみる。


  1.名前       シン・スカイウォーカー 

  2.年齢       15歳

  3.種族       人族

  4.天職の有無    有

  5.天職名    

  6.魔法スキルの有無 有

  7.レベル

  8.スキル

  9.出身地

 10.戦闘技能     攻撃魔法と剣による戦闘


 こんな感じだ。

 名前、種族、年齢、天職と魔法の有無に関しては正直に書いた。ただし天職の詳細は書かなかった。『ジークフリート』とか絶対に怪しまれるし、最悪信じてもらえない可能性もある。任意なので一応、黙っていることにしよう。レベルも同じ理由で書かなかった。いまこの場にいる冒険者たちを<竜眼>で見てみたのだが、一番高い奴でも30程度しかない。これが一般的な冒険者のレベルだとしたら、389なんて書ける訳がない。スキルに関してはそもそも書き切れないし。出身地に関しては論外だ。


「確認しました。シン・スカイウォーカーさん、15歳ですね。名前と年齢に間違いはありませんか?」

「はい」


 しかしエリーさんは特に怪しむことなくさっと書類に目を通すと、ややあって徐に口を開く。


「ちなみに、冒険者を志望した動機はどのようなものですか?」

「……訳あって1人で旅をしているんですが、路銀稼ぎの為に、ですかね」


 端的に言えば金目当て、だ。我ながら身も蓋もない動機だな、と呆れてしまう。


「その年齢で、お一人で旅を……失礼ですが、ご家族は?」

「両親が居ましたが、2人ともロクでもない人間だったので、家を飛び出してきたんです」

「そうでしたか。失礼しました」

「いえ……」


 申し訳なさそうに謝るエリーさんだったが、この人、なかなか侮れない人物だ。

 実は話しかける前に<竜眼>でステータスをチェックしたところ、<虚実看破>のスキルを持っていた。つまり嘘を見破ることが出来るという訳だ。

 だからさっき犯罪歴の有無を尋ねた時、すんなり信用したって訳だ。他にも<看破>、<鑑定>、<観察眼>といったスキルを持っていた。


 よく見れば、他の受付係も男女問わず感知系のスキルを持っている。

 さっきの話が確かなら、冒険者になろうとする人間はオレみたいな訳ありが多いそうだ。禄でもない人間が冒険者になるのを防ぐ為、ここで選定が行われるという訳か。彼女たちの探知スキルなら、大抵の嘘やステータスは見破られてしまうだろう。けど、オレは大丈夫のはずだ。<看破>は相手のステータス、スキル構成を見破ることが出来るが、オレには<看破妨害>がある。<看破妨害>はその名の通り<看破>によるステータス閲覧を妨害するスキルだ。しかもオレの<看破妨害>のレベルはMAX(100)。少なくともこの人にオレのステータスを見ることは出来ない。


 そんなオレの思考を他所に、受付嬢は机の引き出しからカードのようなものを取り出して、手元にあった機械に挿入し、慣れた様子でキーボードを手早く打ち込んでいく。ややあってピーという電子音と共に機械からカードが出てきた。


「では、これが冒険者資格証明書(ライセンスカード)となります」


 もう出来たの?

 受け取ると、カードの表にはギルドの前で見かけたのと同じエンブレムが描かれ、裏面には――


 シン・スカイウォーカー

 10級冒険者

 冒険者ギルド・エンディム支部


 ――と書かれている。


 こんなに簡単になれるんだ、冒険者って。ちょっとびっくりだよ。テンプレ通りではあるんだが、この世界は文明レベルが進んでるっぽいから、もっといろいろな手続きとかが必要かも、とちょっと不安になってたんだが、いらぬ心配だったか。

 そこでふと気になってステータス画面を開いてみると、称号の欄に『10級冒険者』というものが表示されていた。

 なるほど、称号ってのはこんな感じでゲットするんだな。


「では、冒険者について簡単にご説明申し上げます」


 エリーさんから聞いた説明を要約すると――


 冒険者はランクが存在しており、上から順に1級~10級まである。登録直後は全員が10級からスタートする。


 10級は「見習い」。

 9級、8級は「新米」。

 7~5級は「中堅」。

 4~2級は「ベテラン」。

 1級に至っては「英雄」と呼ばれるレベルである。


 冒険者にはギルドを通して個人から企業、国家に至るまで様々な依頼が寄せられるが、それらもまた難易度によってランク分けされており、基本的に自身と同じかそれ以下のランクの依頼しか受けられない。例えば7級冒険者が受けられる依頼は7級、8級、9級、10級まで。


 戦闘に関する依頼を熟すのが冒険者の使命であるが、見習いである10級は戦闘に関する依頼を受けることは出来ない。


 ただし稀に依頼者、もしくはギルドが受注する冒険者、もしくはパーティを指名するパターンが存在する。この「指名依頼」の場合だけは上のランクの依頼を受けることは可能だが、依頼の難易度と指名された冒険者の実力がかけ離れていて実行不可能とギルドが判断した場合は却下される。無論、例え指名依頼であったとしても10級冒険者に戦闘関連の依頼を任せることは認められない。


 依頼の受注はギルド内のPCでのみ可能。


 冒険者が受け取る報酬は、依頼主から振り込まれた金額に手数料と税金を差し引いたものが支払われる。


 依頼は複数受注することも出来るが、同時に受注できる依頼はランクに関わらず3つまで。依頼を熟す際、他の冒険者と協力することは自由。


 発行される依頼には期日が設定されているものもあれば、無期限のものもある。前者の場合、期限内に依頼を達成できなければ失敗扱いになり、場合によっては違約金等の罰則が発生する場合もある。


 三ヶ月間、一度も依頼を受注、達成しない場合は登録抹消処分となる。ただし病気や怪我等のやむを得ない事情がある場合は除く。


 冒険者のランクアップは「社会への貢献度」、「依頼の達成率」、「本人の力量、人格」等を考慮した上で試験や面接を行った上でギルドが判断する。


 冒険者には国、もしくは領や街から出される強制依頼に従う義務がある。

 強制依頼と言うのは魔物の連鎖暴走(スタンピード)や災害、もしくは他国の侵略といった甚大な数の人命が害されると予想される非常事態に対し、冒険者たちに事態打開の為の協力を要請する非常招集のこと。ランクに関わらず全ての冒険者はこれに従う義務があり、拒否した場合は重い処分が科せられ、最悪の場合は資格剝奪も有り得る。ただし病気や怪我等のやむを得ない事情がある場合は除く。


 冒険者は複数人でパーティを組むことが許されている。ただし人数は10人まで。


 パーティを結成するギルドに申請すること。冒険者個人にはランクが存在するが、パーティに対するランク付けは行われない。


 パーティは必ず冒険者資格者のみで構成すること。非資格者のパーティ加入、冒険者活動の従事は理由の如何を問わず認められない。


 パーティに名前を付けることも可能。付けない場合はリーダーの名前を取ってパーティ名とする(〇〇パーティ)。


 ――エトセトラ。


 説明が長い長い。聞いてるうちに眠たくなってきたよ。

 ラノベの冒険者みたいに気軽に依頼を熟して報酬ゲットみたいな甘いこと考えてたけど、大間違いだった。しかもいまエリーさんが話している内容は基本中の基本のみなのだそうだ。


「詳しい規則に関してはこちらをお読みください」


 そう言ってエリーさんから手渡された紙には、冒険者に関する規則や決まりなどがずらっと書かれていた。多いよ!


 どうしよう……早くも冒険者になったことを後悔し始めている自分がいる。


「以上となります。なにかご質問はありますか?」


 と輝くような笑顔で微笑むエリーさんに、取り合えずいま一番気になっていることを尋ねてみる。


「10級は戦闘関連の依頼は受けられないって話ですけど、戦闘以外の依頼ってどんなのがあるんですか?」

「例えば工事、解体作業の作業員。飲食店での接客。荷運びや人体実験の被験者などですね」


 ほぼほぼバイトじゃん。ってか、いま人体実験とか言わなかったかこの人!?


 つまりいまのオレは戦闘関連の依頼は受けられないということか……困ったな。まだ他人と関わることには勇気がいるんだ。出来れば1人で受けられる依頼があれば良かったんだけど……


 ん? ちょっと待てよ?


「じゃあ、10級の人はどうやって昇格するんですか?」


 これまでの説明が確かなら、10級は戦闘関連の依頼は受けられないけど、それ以外のランクは受けられる。ランクを上げるには社会への貢献度とか依頼の達成率、本人の力量とかを考慮してギルドが判断する。


 非戦闘関連の依頼しか受けられない人間が、なにをどうすれば魔物と戦っても大丈夫ですよってなるんだ?


「10級冒険者に関しては、ギルドが主催するテストに合格すればランクアップ出来るんです」

「テストですか?」

「はい。冒険者の最大の敵は魔物です。なので魔物と戦う力があるかどうかを見極める為のテストをギルドで行っており、それに合格すれば昇格できます」


 なるほどね。確かに戦う力もない人間がいきなり魔物と戦うなんて、無謀と言うより自殺行為だからな。だから最初の内は戦闘に参加するのを禁止し、実力を示した人間にしか魔物と戦うのを認めないという訳だ。これなら冒険者になった直後にゴブリンの巣で全滅、なんて悲惨な目に遭う可能性が随分と少なくなる。なかなか親切設定だな。


「そのテストって、いつ行われるんですか?」

「月に一度、このギルドで行われています。今月の開催日はちょうど今日で、あと一時間ほどで始まりますが、受けられますか?」


 なんとタイミングの良い。

 物は試しだ。オレはさっそくそのテストとやらに参加してみることにした。

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